高橋優 永遠のリアルタイムシンガーソングライターは、2022年という時代に何を思うのか?

2022.10.7
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高橋優 撮影=菊池貴裕

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デビュー10周年記念ライブを終えた高橋優が、次のディケイドに向けて力強く踏み出す第一歩。通算8枚目のオリジナルアルバム『ReLOVE&RePEACE』は、かつての「こどものうた」を彷彿とさせる激烈なメッセージソング「あいのうた」で幕を開け、シングル曲「HIGH FIVE」をはじめ、リリックやサウンド面で様々な実験を重ねた曲あり、原点回帰のアコースティックあり、ストリングスを贅沢に使った壮大な曲ありと、これまで以上にバラエティに富む作品に仕上がった。永遠のリアルタイムシンガーソングライターが、2022年という時代に何を思うのか? その本音を探ってみよう。

――今年2月の10周年記念公演、武道館2DAYSが未だに記憶に新しいんですけど、あの頃にはもうアルバムの楽曲だったり、方向性だったり、ある程度決まったものはあったんですか。

全然なかったです。アルバムの方向性というのは、今年の2月の段階で、世の中の動きに対しての自分の疑問とか、怒りとか、肯定したい気持ちとかがあったので、それがそのまま制作の方向性になっていきましたね。

――ということは、前作がこうだったから次はこういこうとか、そういうことではなく。

今回、プリプロの段階でこだわっていたことが一個あって。たとえばイントロのメロディラインだったり、なんとなくのドラムのパターンだったり、ここでこういう音が鳴っててほしいなという、“叩き”みたいなものは自分で作るようにしたんですよね。

――おお。そうなんですね。

前は弾き語りのデモを渡して、編曲の方に編曲していただいて、そこに対して僕がわがままを言うという作り方がメインだったんですけど、去年ぐらいから、自分の音像というものを、自分のパソコンで少しずつ作っていくということがあって、そこは前回までと変わったところですね。だから曲への愛着の種類が少し変わったというか、編曲の方に渡す時に、前よりも細部まで描かれた地図があるから、“ここはもっとこうなんですよ”と言うことが増えるということで、制作という意味ではより難航したと思います。僕の中で見えているものがあって、前はそれを(編曲者に)表現してもらってから考える感じだったけど、今は僕の中に聴こえている音があるから、返って来たものに“いや、これじゃなくて”と言うことが増えちゃったんですよ。

――ああー。なるほど。

最初からどんぴしゃのものが返って来たら、すぐに進められるけど、そうじゃないものは結構時間がかかって、“もっと違うものを”って何回もやりとりして、そこが変わりましたね。

曲作りに適したメンタルだと思います、最近は。必ずしもポジティブな気持ちばかりじゃないんですけど、そういう時は曲になってきやすいんですよね。

――叩きを自分で作ろうと思うようになったのは、何かきっかけがあったんですか。

特にないですけど……“音楽が楽しい”と思ってるぐらいですかね、単純に。もっと楽しもうと思ったら、そうなっていったという感じです。今は、どんどん沼にハマっていってる感じはしますね。

――たとえば1曲目「あいのうた」のように、ヘッドアレンジで作ったんじゃないかと思うような、ライブ感あるバンドサウンドの曲も、最初のデモの段階では音作りの方向性まで作ってみたと。

いや、「あいのうた」は違うんですよ。即興みたいなもので、だから1曲目にしたかったんです。この曲は自分がずーっとやってきたことと地続きで、最近は計画的に曲を書くことが増えた中で、かなり衝動的に言葉が出てきた曲だったので、こういうものは大事にしたいと思ったのが「あいのうた」だったので。だから1曲目にさせていただきました。ただ2曲目の「STAND BY ME!!!!」とかは、それこそイントロのメロディのリフも、“たとえばこういう感じで”と僕が言って、作ってもらったりしてます。「STAND BY ME!!!!」は、わりと計画性があってできている曲ですね。

――今回、曲順がすごく絶妙だと思ったんですね。「あいのうた」でガツンと激しく始まって、3、4曲目でスローな曲を聴かせて、真ん中の6、7、8曲目あたりが個人的にすごく面白いなと思ってるんですけど、シュールな言葉使いとか、実験的なサウンドの冒険とかがあって。9、10曲目がアコースティック、そしてラストは壮大に前向きに終わってゆく。流れがすごくいいです。

そう言ってもらえて良かったです。

――曲作りに関しては、スムーズに進みましたか。制作中のメンタルはどんな感じでした?

メンタル的に言うと、曲作りに適したメンタルだと思います、最近は。みんなとご飯に行ったりもなかなかできないから、人と話す機会も減ったし、思いふける時間というものが以前より増えたし、それは必ずしもポジティブな気持ちばかりじゃないんですけど、そういう時は曲になってきやすいんですよね。ただその、実験的だなとおっしゃっていただいたところで言うと、曲を作ること自体が楽しいし、音楽を奏でること自体が喜びだということを、楽曲にも反映させたいなという思いはありました。「氷の世界」とかは……。

――そう、まさにそこらへん、アルバム中盤の「forever girl」「沈黙の合図」「氷の世界」とか、今までにない新しい側面が見える曲が非常に印象的だなと思ったんですね。

うれしいです。そのへんの曲は、自分の中で見ているものがありつつも、どう受け取ってもらってもいいというか。情景描写を緻密にして、同じ景色を浮かべて聴いてほしいというよりは、それぞれの想像力に身を任せて聴いてもらえたらうれしいなと思ってます。

「沈黙の合図」は、マッチングアプリでたまたま知り合った二人がご飯を食べてるのを僕が目撃したところから始まりました。

――面白かったですね。特に「forever girl」は、言葉がシュールすぎて、何の歌なのか全然わからない(笑)。

想像を膨らませていただければと思います。

――これまで、あんまりそういう書き方はしなかったですよね。ここまで抽象的というか、イマジネイティブな書き方はなかった気がする。

そうですね。やっぱり意味とか、文章にしてもちゃんと読んでもらえるようなものじゃなきゃ駄目だと思ってたんですよ、どこかで。でも曲を作ること自体がもっともっと楽しくなってきて、実験的なこともしたくなってきて、というところに、前回のアルバムぐらいからなってきて。その中で言うと、言葉の前後関係がまったく見つけられないようなものでも、メロディに乗っかるとそこにストーリーが生まれることもあるじゃないですか。そういうのも楽しいなと思ったんですけど、「forever girl」とかは、僕も書いてて楽しかったし、ライブするところを想像しながら書いたし、みんなで口ずさんだら面白いなと思ったし、そんなことを思いながら書きました。

――確かに、発語の快感がありますね。foreverがある、forever girl、って。

あと「沈黙の合図」は、恋愛の曲というか。今回のアルバムの中で、表立って恋愛に特化した楽曲はあんまりなくて、あるにはあるんですけど…。

――少ないですよね。

そうなんです。でも「沈黙の合図」は、マッチングアプリで知り合った人たちの歌ですね。マッチングアプリでたまたま知り合った二人がご飯を食べてるのを、僕が目撃したところからこの曲は始まりました。だから絵は浮かんでるんですけど、メロディラインをあえてミステリアスな感じにしてるんで、自由に受け取って聴いてもらえたらうれしいなと思ってます。

――ちょっと俳優のセリフみたいですよね。あの曲の歌い方。

歌詞カードを見てもらうと、男の子マークと女の子マークがあって、歌い方もちょっとだけニュアンスを変えてます。実は僕、歌詞の中にカギカッコを入れることは、インディーズからやってたんですよ。「こどものうた」の二番には、お母さんの言葉と息子の言葉があって、カギカッコにしてるんですよ。その時から、曲の中に登場人物がいることは、よくやってはいるんですよね。

――そうですね。でもここまできちんと歌い分けたことはなかったかもしれない。

自分の中ではやってたつもりなんですけどね。でも最近で言うと、歌詞カードを見ないで曲を聴く人が増えてるじゃないですか。だから、前よりも意識してるかもしれないです。この言葉はこの人が言ってる感じで、というのは、歌声で聴き分けられたらいいなという気持ちは、前よりはわかりやすくする心がけぐらいはしてるかもしれない。

>>次のページは、アルバムの裏テーマの一つでもある“再会”について掘り下げていきます。

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