坂本昌行、長野里美、鈴木杏が栗山民也の演出のもと難しい作品に挑む 人間の痛みを描いたドキュメンタリー、舞台『凍える』会見&フォトコールレポート

レポート
舞台
2022.10.2
【あらすじ】
10歳の少女ローナが行方不明になってから20年後のある日、連続児童殺人犯が逮捕された。犯人であるラルフ(坂本昌行)、ローナの母ナンシー(長野里美)、精神科医のアニータ(鈴木杏)がそれぞれ対峙する。三人の内面に宿る氷の世界……。拭いきれない絶望感、消えることのない悲しみ、やり場のない憎悪、そして――。それぞれの止まったままの時間が、不意に動き始める。善悪の羅針盤を持てなかった男を裁くのは誰か。


フォトコールで披露されたのは、ラルフの犯した罪が明るみになっていき、アニータが発表した論文「連続殺人犯の赦免可能性」の実験対象として紹介されるまでの流れ。

舞台上には十字の通路が設置され、区切られた各スペースに庭を思わせるセットやリビングのような椅子、簡素な机と椅子のセットなどが置かれている。絶妙なバランスで区切られた舞台上が照明と役者人の芝居によってナンシーの家や講演会場、警察署や牢屋へと次々に景色を変えていく演出が面白い。音楽やSEも相まって、ピンとはりつめた空気感が生まれていた。

痛みに耐えながら身体のあちこちに入れたタトゥーの説明をするラルフのただならぬ雰囲気を、坂本は見事に表現。デザインを自慢したかと思うと彫り師の腕が悪いことへの不満を漏らす。とりとめもなく話しているように見えるが目は爛々と輝いており、ラルフという人間の不気味さや歪さが伝わってくる。また、警察の取り調べやアニータによる実験のシーンでは彼が抱える問題を覗かせ、ラルフが単なる悪ではないことを感じさせる。

長野はラルフによって誘拐・殺害された少女の母親の苦しみを率直に見せる。声のトーンや表情、一つひとつから未だ癒えない傷の深さが見え、悲しみがひしひしと伝わってきた。事件のことを説明する警察官、話を聞こうとするマスコミなど、被害者遺族を取り巻く出来事を説明する場面は静かな口ぶりでありながら様々な思いを感じさせる深みがある。

アニータ役の鈴木は聞くものを惹きつける堂々とした話ぶりで研究成果を発表し、医師らしい自信と探究心を表現。研究対象となったラルフをリラックスさせるために気さくに接しつつ、医師として冷静に観察する様子から彼女の優秀さが窺える。彼女が抱える問題とはなんなのか、続きを観たいと思わせてくれる。

短い時間のフォトコールであったが、三人全員が彼・彼女についてもっと知りたい、この物語を見届けたいと感じさせる魅力を放っており、非常に引き込まれた。本作は10月2日(日)にPARCO劇場にて開幕し、12月には福島、兵庫、豊橋、松本、北九州、沖縄と日本各地を巡演する。

取材・文・撮影=吉田沙奈

公演情報

パルコ・プロデュース2022『凍える』
 
作:ブライオニー・レイヴァリー 
翻訳:平川大作 
演出:栗山民也 
出演:坂本昌行 長野里美 / 鈴木 杏

公式サイト:https://stage.parco.jp/program/kogoeru  
ハッシュタグ:#舞台凍える
 
▼公演日程
<東京>2022年10月2日(日)~24日(月)PARCO劇場
<福島>2022年10月30日(日) いわき市芸術文化交流会館アリオス中劇場
<兵庫>2022年11月3日(木)~6日(日)兵庫県立芸術文化センター阪急 中ホール
<豊橋>2022年11月10日(木)~13日(日)穂の国とよはし芸術劇場 PLAT 主ホール
<松本>2022年11月16日(水)~17日(木)まつもと市民芸術館 主ホール
<新潟>2022年11月26日(土)~27日(日)りゅーとぴあ・劇場
<北九州>2022年12月3日(土)~4 日(日)北九州芸術劇場 中劇場
<沖縄>2022年12月10日(土)~11日(日)那覇文化芸術劇場 なはーと
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