市川團十郎が古典歌舞伎に新しい構成で挑む~初春歌舞伎公演『SANEMORI』 Snow Man宮舘涼太は壮絶な立廻りを披露

レポート
舞台
2023.1.6
『SANEMORI』公開舞台稽古より  斎藤実盛を演じる市川團十郎

『SANEMORI』公開舞台稽古より  斎藤実盛を演じる市川團十郎

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2023年1月6日(金)から、新橋演舞場で「初春歌舞伎公演 市川團十郎襲名記念プログラム『SANEMORI』」が上演される。出演は市川團十郎市川右團次中村児太郎ほか歌舞伎俳優たちと、Snow Manの宮舘涼太

『SANEMORI』は、古典歌舞伎『源平布引滝』全五段の、三段目『実盛物語』を中心に、二段目『義賢最期』のエッセンスと独自の演出で、通し狂言として構成したもの。2019年11月初演の作品を、ブラッシュアップしての再演となる。タイトルロールの斎藤実盛に、團十郎。宮舘は『義賢最期』で壮絶な戦いをみせる木曽先生義賢と、『実盛物語』で誕生する義賢の息子・源義仲の2役をつとめる。

昨年11月と12月、團十郎は襲名披露興行として、成田屋の家の芸「歌舞伎十八番」の演目に取り組んだ。襲名から3か月目となるこの公演で、歌舞伎の枠を越えたキャストと再び『SANEMORI』に挑む。その姿勢に、古典と新作双方への意欲をうかがわせる。5日に行われた公開舞台稽古の模様をレポートする。
 

※古典歌舞伎についてはネタバレを含みます。前情報なくご覧になりたい方はお気をつけください。
 

■宮舘が挑む、義賢最期

プロローグは、源氏と平家の戦いの場から。源氏方の義仲(宮舘)は敵をやっつけると、亡き父・義賢(宮舘)に思いを馳せる。宮舘は、オープニングから若々しくエネルギッシュな立廻りで盛り上げた。あえて歌舞伎に寄せない台詞回しが、とても分かりやすい。同時に、義仲という人物の、清新でまっすぐな気質を表すようにも感じられた。

場面はかわり、父・義賢の最期の日まで遡る。義賢の屋敷に、百姓の娘の小まん(中村児太郎)が、父・九郎助(片岡市蔵)と息子・太郎吉を連れて来訪している。そこへ太鼓が鳴り、平家方の軍勢がせめこんでくる。

『SANEMORI』公開舞台稽古より 義賢を演じる宮舘涼太

『SANEMORI』公開舞台稽古より 義賢を演じる宮舘涼太

義賢は、我が子を身ごもる葵御前(大谷廣松)を先に逃がし、力自慢の小まんに、源氏のシンボルの白旗を託す。敵兵が広間を埋めつくしたころで、襖を蹴り倒して手負いの義賢が登場した。立廻りや大梯子の上で見得など、体温が上がるような迫力だ。歌舞伎音楽の演奏が緩急をつけて盛り上げ、附けが響き、記者席ではシャッター音が絶え間なく続いた。戸板倒し(3枚の戸板を立体に組み上げて、上に立つ)で、宮舘が着地する瞬間は、場内が一瞬静まり返るほどの緊張感だった。ふと音楽がやんだとき、満身創痍の義賢の乱れた息、刀の鍔の音が聞こえた。宮舘は、義仲役ではみせなかった、義賢だからこその色気を放っていた。奮闘する姿に客席で拍手がおき、記者席には涙をおさえる人の姿もあった。

■月夜の琵琶湖に浮かぶ平家の船

序幕第二場では、小まんが白旗を守ろうと、命がけで湖に逃げる姿が描かれる。第三場は、月の明るい夜の琵琶湖。巨大な船が現れる。船上には実盛がいる。平宗盛(大谷友右衛門)や平維盛(廣松)ものる船が、湖から小まんを引きあげる。小まんは、助けられたのも束の間、命もろとも白旗を奪われそうに。すると実盛は刀を抜き、白旗をもつ小まんの腕を斬り落とす。白旗は、腕ごと夜の湖へ……。

『SANEMORI』公開舞台稽古より 歌舞伎の本興行で、あまりみられない「湖水御座船の場」も上演される

『SANEMORI』公開舞台稽古より 歌舞伎の本興行で、あまりみられない「湖水御座船の場」も上演される

実は実盛は、平家にいながら、心の中で源氏を応援している。腕を切ったのは、平家方に白旗を渡さないための、苦肉の策だった。船は、思わずのけぞり見上げる大きさで、平家の勢いを体感させた。團十郎は、月のような美しさと気品をまとう。それでいて刀を抜けば鮮やかで、台詞ではマスコミに向けたアドリブを混ぜて楽しませた。

■團十郎による、実盛物語

物語は二幕目、義仲の誕生の逸話を描く『実盛物語』へ。九郎助と孫の太郎吉が、湖で白いものを握った腕を拾ってきたところから始まる。ふたりは、それが娘であり母である、小まんの腕だとはまだ知らない。

義賢の館から逃げた葵御前は、九郎助と小よし(中村梅花)夫婦の家にかくまわれている。出産は間近だ。そこへ平家方の実盛と瀬尾十郎(市川右團次)がやってきて、赤ん坊が男子なら、源氏の跡継ぎになるので殺すという。やはり内心源氏を助けたい実盛は、「葵御前は腕を産んだ」と爽やか&強引に言いとおし、いきり立つ瀬尾を納得させる。瀬尾が報告のために家をあとにする(と見せかけて、茂みに身を隠す)と、実盛は、九郎助と太郎吉に事情を明かす。そして船での出来事を、身ぶり手ぶりで聞かせるのだった……。

ドラマティックな義太夫にのり、扇を使い、実盛が船上の様子を雄弁に立ち上げる。『義賢最期』と『実盛物語』を繋ぐ場面が加わったことで、見慣れたはずのお芝居に新たな景色が見えた。はじめて観る方にも、伝わりやすいにちがいない。右團次の瀬尾は、時代物としての輪郭と味わいを濃厚にし、さらなる展開で涙を誘った。児太郎は古風な美しさと、たおやかな強さで、小まんの白旗を繋ぎ、後半は巴御前として義仲を支えた。

■SANEMORIが繋ぐもの

ついに誕生した男児が、プロローグに登場した義仲だ。大詰めは、ふたたび成長した義仲の時代へ。ある武将の首を前にしたときの義仲は、白旗そのもの以上に、それを巡り繋がった、人々の思いが何より大切なのだと感じさせた。

『SANEMORI』公開舞台稽古より

『SANEMORI』公開舞台稽古より

豪奢な舞台美術やフラッグパフォーマンスで盛り上がりつづけ、『SANEMORI』は幕となった。義仲を見届ける実盛の、あるいは歌舞伎俳優 市川團十郎の、存在感と眼差しも印象的だった。思えば劇中で大胆な発想と器の大きさをみせた実盛は、古典歌舞伎に新たなアプローチを試みる團十郎と重なる部分がある。この作品が、劇場いっぱいのお客さんを前に、千穐楽までにどのような進化をとげるのか期待が高まる。

以下に、オフィシャルコメントを掲載する。

■市川團十郎コメント

新年おめでとうございます。

昨年11月、12月、歌舞伎座で十三代目市川團十郎白猿を襲名披露させていただきました。新橋演舞場の初春公演には平成20年より出演しておりますが、本年は團十郎として初めての正月の舞台でもありますので、いつも以上に身の引き締まる思いです。

團十郎の名跡を継ぐことは同時に、古典を継承し発展させていく責務を背負うことでもあると感じております。初代團十郎から続く、古典を守りながら新たな歌舞伎の創造へ挑戦していく姿勢を、私も十三代目としてしっかりと受け継いでいく所存です。

今回の『SANEMORI』は2019年以来の再演となりますが、宮舘涼太さんが木曽先生義賢と源義仲の父子二役を勤めるなど、脚本や演出なども練り直しての上演です。より磨き上げた舞台にするべく、皆で稽古を重ねてきました。歌舞伎を観るのが初めてのお客様にも存分に楽しんでいただける作品ができたと信じております。本作を通して『源平布引滝』の魅力を再発見していただけたら幸甚です。

■宮舘涼太(Snow Man)

この度は『SANEMORI』に参加させていただける事を大変うれしく思います。
お話をいただいてから初日を迎えるにあたり、たくさんの方々から愛の溢れるご指導をいただきました。
Snow Manとして毎年新橋演舞場に立たせていただいておりますが、今回は宮舘涼太として舞台に立ち、皆さまに生き様、幸せ、歌舞伎の魅力、表現できる喜びを感じながら演じていきたいと思います。

『SANEMORI』公開舞台稽古より

『SANEMORI』公開舞台稽古より

初春歌舞伎公演 市川團十郎白猿襲名記念プログラム『SANEMORI』は、新橋演舞場で2023年1月6日(金)から27日(金)までの上演。

取材・文・撮影=塚田史香

公演情報

初春歌舞伎公演 
市川團十郎白猿襲名記念プログラム

『SANEMORI』
 
■日程:2023年1月6日(金)~27日(金)【休演】13日(金)、20日(金)
■会場:新橋演舞場
 
昼の部 12時~
夜の部 16時30分~
 
並木千柳 作『源平布引滝』より
三好松洛 作『源平布引滝』より
石川耕士 脚本

SANEMORI
 
■出演・配役
斎藤実盛:市川團十郎
源義仲/木曽先生義賢:宮舘涼太(Snow Man)
瀬尾十郎/権頭中原兼任:市川右團次
小まん/巴御前:中村児太郎
葵御前/平維盛:大谷廣松
小よし:中村梅花 ※
進野次郎宗政/根井主膳行親:市川九團次
九郎助:片岡市蔵
平知度:市村家橘
平宗盛:大谷友右衛門
 

※市川齊入休演につき、配役変更にて上演
 
歌舞伎公式総合サイト「歌舞伎美人」: https://www.kabuki-bito.jp/theaters/shinbashi/play/799
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