中村勘九郎「やっと昔の中村座が帰ってくる」~『平成中村座 姫路城公演』製作発表会見レポート

2023.1.30
レポート
舞台

中村勘九郎(右)、中村七之助

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世界遺産登録30周年を記念して、「平成中村座」が国宝・姫路城で開催されることになった。
 
江戸時代の芝居小屋を現代に復活させ、多くの方々に歌舞伎を楽しんでいただきたい——。十八世中村勘三郎(当時・勘九郎)が長年抱いていた想いは「平成中村座」として2000年に東京・浅草にて実現。江戸時代の雰囲気に満ち、舞台と客席が密接な一体感を持つ「平成中村座」の空間は、日本国内はもちろん、ニューヨークやベルリンなど海外の観客までも魅了してきた。
 
その想いを受け継いだ中村勘九郎中村七之助。2023年1月30日に会見が都内で行われ、出演する勘九郎、七之助、松竹株式会社の山根成之・演劇本部長が登壇した。会見の様子を写真とともにレポートする。

「魅力と魔力を持つ」姫路城での公演、「とてもワクワク」

中村勘九郎(右)、中村七之助

ーーまずはご挨拶をよろしくお願いします。

中村勘九郎(以下、勘九郎):今回姫路城世界遺産登録30周年という記念すべき年に、この中村座を選んでいただけたこと、感謝しておりますし、嬉しく思っております。昨年の10月、11月、コロナになりましてから久しぶりに中村座を浅草の地でやらせていただいて。私たちもその公演を待っていたんですけど、その倍、お客様の方から「待っていました」という感じが伝わってきて、やっていた月日はとても幸せに思いました。

今回はまさしくご当地の姫路城の演目を昼夜ともにかけさせていただきます。というのも「姫路城で中村座ができるかもしれないよ」という話をいただいた後に、全国巡業で姫路城にうかがったんですね。天守に上れば、富姫様をお祀りしてあることも存じておりましたし、帰りの道にはお菊の井戸が城内にありまして。これは必ず『播州皿屋敷(ばんしゅうさらやしき)』と『天守物語(てんしゅものがたり)』はやらなくてはいけないなと思って、画策しておりました。それが叶ったこと嬉しく思います。

また『鰯賣戀曳網(いわしうりこいのひきあみ)』は私たち中村屋にとりましても、祖父、父ともに大事にしてきた役ですし、演目でございます。三島(由紀夫)先生がお書きになった作品の中でも、ユーモアがあってハッピーエンドの気持ちになれる作品は少ないと思います。これも趣向を凝らしまして、姫路城特別バージョンのような演出ができればいいなと思っております。

夜の部『棒しばり』。これも私は何度も勤めさせていただいていますけども、とても分かりやすいというか、楽しい踊りでございます。本当に心が軽くなれるような踊りでございますし、父も大切にしてきたものを、(中村)橋之助とともに踊れることを本当に嬉しく思います。
 
『天守物語』については後で七之助から詳しくお話があると思いますけれども、今回この4演目は、中村座が2000年に父が立ち上げて、去年は新作もかかったんですけど、4演目とも中村座でかけるのが初めての演目でございます。何回も何回も歌舞伎座、他の劇場で演目を見ている方も新鮮な気持ちで見られると思います。やっている方も新鮮な気持ちでできると思いますので、今からとても楽しみでございます。

皆様のお力をお借りしまして、大入り満員。5月8日には(新型コロナウイルスの感染法上の位置づけが)「5類」になるということなので、大向こうを中村座で解禁できたらいいなと思いますし、魅力のひとつである、江戸時代にタイムスリップした芝居小屋で、ご飯を食べて、お酒を飲んで、楽しくやって欲しいなという気持ちがあります。それも叶うんじゃないかな、やっと昔の中村座が正式に帰ってくるんじゃないかなと思います。どうぞよろしくお願いします。

中村勘九郎

中村七之助(以下、七之助):今、ほとんど兄が言ってくれました(笑)。まだ中村座が行ったことのない土地なので、中村座の歴史の1ページが加えられるなということを嬉しく思います。『天守物語』は、ご当地のものだから『天守物語』をやろうよと、口では簡単にいうんですけどね、いざやると決まってから見るとですね、とんでもないものを選んでしまったなという気持ちでいっぱいです。

けれども、(坂東)玉三郎のおじさまが手取り足取り演出にも入ってくださって心強いので、よく聞いて、素敵な『天守物語』をみんなで作っていけたらなと思っております。どうぞよろしくお願いします。

ーー姫路城は国宝でもあり、世界遺産でもありますが、その姫路城を背景に公演をされることについて改めての想いを教えてください。

勘九郎:そりゃもう本当に光栄です。姫路城での公演が決まる前に、姫路城に行かせていただいたとき……まさに中村座が立つ芝生のところを見て、「ここで中村座ができないかな」とずっと思っていたんでね。とても嬉しい気持ちでございます。世界遺産ということもありますし、白鷺城という名を持つ通り、魅力的。一方で、お菊の井戸だったり、富姫様が祀ってあるというあたりが、異世界のものも住んでいるような魔力も持っている。魅力と魔力を持つお城なので、とてもワクワクいたしますね。

七之助:こんな素晴らしいお城の前でやらせていただけるなんて。私は恥ずかしながら、去年の巡業の折に、初めて姫路城に入らせていただきまして……でもすごく混んでいて。そのときには、実は姫路で中村座をやることは決まっていたんですけども、まだ『天守物語』とは正式には決まっておらず、やれたらいいねというような感じで上ったんですが、昼夜の間で、あまりに混みすぎて、実は天守に上がってないんですよ。
 
だから今回、次に行く時が初めて、富姫の私が天守に上がるということで。ドキドキしながら神聖な気持ちで勤められるんじゃないかなと思いますね。

コロナとの闘いも「5類」へ……勘九郎も「やっと」

中村七之助

ーー七之助さんは公演中に40歳のお誕生日を迎えることになります。節目を迎えるお気持ちは?

七之助:あまり富姫に年を聞かないでください(笑)。でも、節目の年でございますし、初めて中村座にいく土地でもありますから、新たなスタートという気持ちで。中村座とともに私の歌舞伎役者の人生も切り替えていい第一歩になるのではないかなと思います。

ーー『播州皿屋敷』と『天守物語』というご当地ものをかけるのは格別な思いもあるでしょうが、見どころを教えてください。

勘九郎:ご当地もご当地、姫路のというか、姫路城にまつわるお話2本でございます。それをわざわざ新作としてつくるのではなく、昔からある作品を見られるというのは、なかなかないものだと思うので、楽しみにしていただきたいと思います。

『播州皿屋敷』を最初に私が生で拝見したのが、納涼でした。おじの(中村)芝翫と、(中村)扇雀さんがおやりになっていた。楽しい話ではないですけどれも、面白いなと思った作品です。これは歌舞伎独特ですけれども、私が最初に見た芝翫のおじと、扇雀のおおおじの息子2人が勤めますので、そういうところも楽しんでいただけたらなと思いますね。

中村勘九郎(右)、中村七之助

七之助:傑作ですので、やはり改めて台本を見て、言葉の美しさだったり、表現の美しさ……それはすごいものがあるなと。それを歌舞伎座などいろんなところにかけられている演目なんですけども、実際の城がそこにあるというだけで、お客様が親近感と言ったらいいのかな、美術品を見るように見られると思うんですよね。すごくディープな愛情だったり、情愛が深く綺麗な言葉で描かれている作品ですし、自ら天守を覗き見ているようにぞくっとさせるような感覚でできるんじゃないかなと思うんですよね。

まだどうなるか分かりませんけど、後ろを開けて姫路城を見せるのか……見終わってふっと振り返ったら、本物の姫路城がある。これはなかなか味わえないですよ。ライトアップもしているらしいので、どんな気持ちで天守を凝視するのか。お客様一人ひとりがどう思いながらその『天守物語』を見てくださるか。きっとお客様が“続き”を持ち帰ってくださると思うんです。これは土地の力ですよね。

浅草もそうですよね。浅草で中村座をやらせていただいたときは、ぽっと外に出たら、浅草寺があって、仲見世があって。「あれ、まだ歌舞伎の中の世界かな」と。それをまさに体現してくださるお城。力を借りてやりたいなと思いますね。

勘九郎:あとは何よりも玉三郎のおじさまに感謝です。富姫を生きている役者でなさっているのは、玉三郎のおじさまだけですからね。それを七之助がやらせてもらえるというのは本当にありがたいことですし、演出として入ってくださる。本当にこれは泉鏡花の『天守物語』という作品を知り尽くしているおじさまにしかできないことなので、快く受けてくださったことに私たちも驚いていましたし、感謝しておりますね。

中村勘九郎

中村七之助

ーー5類になるという話をされていましたが、それに伴い何か演出面では変わりますか?

勘九郎:今はやはり歌舞伎の醍醐味のひとつである、大向こうも歌舞伎座でしかできないですし、ブースを設けて、距離を置いて、マスクをして……という形でなかなかできないんですけど、これができるかどうかはその時期になってみなければ分かりませんが、徐々に日常を取り戻せるんじゃないかなと思います。
 
中村座の演出のひとつとして客席と舞台が近いので、席の間隔だったり、客席おりの芝居がどれだけできるかというのも変わってくると思いますね。

ーー舞台に立つ立場として、5類になることについてはどう思いますか?

勘九郎:ありがたいですよ。本当に。(コロナ禍が始まった)最初は客席も半分、時間も短くて。それでも来てくださるお客様は、声援の代わりに、ものすごい拍手をしてくださる。舞台から分かるんですけども、手が真っ赤になるぐらい拍手をしてくださる。そんなお客様の姿を見て、本当にありがたいなと思っていました。これが日常に戻ってきて……素直に、楽しめる空間になれるのはありがたいですし、やっとだなと思いますね。


なお、『平成中村座 姫路城公演』は2023年5月3日(水・祝)~27日(土)姫路城三の丸広場にて上演される。

取材・文・撮影=五月女菜穂

公演情報

『姫路城世界遺産登録30周年記念 平成中村座姫路城公演』
(関西テレビ放送開局65周年記念事業)


日程:2023年5月3日(水・祝)〜27日(土)
会場:姫路城三の丸広場内 特設劇場

第一部【12:00開演】

一. 浅田一鳥 原作『播州皿屋敷(ばんしゅうさらやしき)』一幕
〈配役〉
浅山鉄山 中村橋之助
腰元お菊 中村虎之介
岩渕忠太 片岡亀蔵

二. 三島由紀夫 作、二世藤間勘祖 演出・振付『鰯賣戀曳網(いわしうりこいのひきあみ)』一幕二場

 
〈配役〉
鰯賣猿源氏 中村勘九郎
傾城蛍火 中村七之助
博労六郎左衛門 中村橋之助
傾城薄雲 中村鶴松
亭主 片岡亀蔵
海老名なあみだぶつ 中村扇雀

第二部【16:00開演】

一. 岡村柿紅 作『棒しばり』長唄囃子連中

 
〈配役〉
次郎冠者 中村勘九郎
太郎冠者 中村橋之助
曽根松兵衛 中村扇雀

二. 泉鏡花 作、坂東玉三郎 演出『天守物語』一幕

 
〈配役〉
天守夫人富姫 中村七之助
姫川図書之助 中村虎之介
朱の盤坊 中村橋之助
亀姫 中村鶴松
小田原修理 片岡亀蔵
舌長姥/近江之丞桃六 中村勘九郎
薄 中村扇雀
 
■主 催:姫路市 関西テレビ放送
■企画協力:ファーンウッド ファーンウッド21
■製 作:松竹株式会社
■特別協賛:奥村組
■協 賛:日本たばこ産業/但陽信用金庫 姫路酒造組合 姫路信用金庫/
西兵庫信用金庫 播州信用金庫 兵庫信用金庫 まねき食品/ジーピーエム
■後 援:山陰中央テレビジョン放送 岡山放送 テレビ新広島 テレビ愛媛 高知さんさんテレビ テレビ西日本
播磨リビング新聞社 Kiss FM KOBE

一般発売日:2023年3月4日(土) 10:00~

【御観劇料(全席指定・税込)】
松席(1階前方 桟敷席)・・・・・・・・・・15,500円
竹席(1階・2階 いす席)・・・・・・・・・・15,500円
梅席(2階 いす席)・・・・・・・・・・・・・・13,500円
桜席(2階 いす席)・・・・・・・・・・・・・・11,000円
お大尽席(2階正面 いす席 お土産付き)・・・・・・・・・・36,000円
※3歳以下膝上無料、ただしお席が必要な場合は有料
※車椅子でご来場予定のお客様はキョードーインフォメーションへ予めご連絡ください

■お問合せ:キョードーインフォメーション 0570-200-888(11:00~18:00 日・祝日は休み)
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