王者・早川起生が『X Games』連覇に挑む!「インパクトのある技を見てほしい」

2023.4.12
インタビュー
スポーツ

(C)齊藤 僚子

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X Games Chiba 2023』が5月12日(金)から3日間にわたり、千葉県のZOZOマリンスタジアムで行われる。

昨年、日本では初開催となったこのアクションスポーツの国際競技会では、BMXフラットランドが19年ぶりに『X Games』の競技として復活。記念すべき大会を制したのは、当時20歳の俊英・早川起生だった。しかも、当初はリザーブとして招集されるも、欠場選手が出て急遽繰上りでの出場が決定。そんな怒涛の展開からの見事な栄冠獲得となった。

王者として迎える今年の大会を前に、『X Games Chiba 2023』への意気込みとBMXフラットランドの魅力を聞いた。

『X Games Chiba 2023』で見てもらいたい技がある

――『X Games Chiba 2023』の開催が迫ってきました。現在の心境はいかがですか?

早川起生:楽しみですね。もちろん緊張感も高まってはきているんですけど、『X Games Chiba 2023』で見てもらいたい技があるんです。この大会に新しい技を持っていくつもりなんで、『X Games』の大舞台で成功させたいなと、ワクワクしています。

――『X Games Chiba 2023』に向けて、新しい必殺技を開発したんですね。

早川起生:そうです……そんな、必殺技というような大そうなものではないですけど(笑)。

――昨年の『X Games Chiba 2022』では、リザーブからの優勝を遂げるというとてもドラマチックな展開で、世界の頂点に立ちました。改めてどんなお気持ちでしたか?

早川起生:今だから笑って話せますけど、緊張もしましたし、いろいろ大変でした(苦笑)。

――リザーブだったということは、出場するかどうかギリギリまでわからないということですよね。コンディション作りや集中力の高め方など、難しいことも多かったのではないですか?

早川起生:『X Games』が日本で開催されると知ったときは、自分が出る出ないの前に、1つの夢が生まれた気がしたんです。BMXフラットランドは、それまで『X Games』の競技からは外れていて、それが19年ぶりに復活することになったんですよ。僕はBMXを始めてから、『X Games』にはフラットランドはないものだと思っていたので、まず復活したことがすごく嬉しくて。

――『X Games』に出場することが、早川選手の目標の1つになったんですね。

早川起生:そうなんです。そうしたら連絡がきたんですけど、そんな気持ちだったので、最初は勘違いしてしまって(苦笑)。あの『X Games』に出られるんだと思って舞い上がってしまいました。でも実際はリザーブとしてだったので、正直、気持ちはちょっと落ちました。

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「欠場したライダーの分まで」その思いが優勝につながった

――実際に出場が決まったのは、どのくらいのタイミングだったのですか?

早川起生:大会の2~3日前だったと思います。僕もリザーブとして、会場近くのホテルに宿泊していたんです。そうしたら、夜、急にメールが入って。欠場する選手が出たので、君が代わりに出場してくれと。正直、何とも言えない気持ちになりました。

――出場できることになって、素直に嬉しいとはならなかったんですか?

早川起生:欠場した選手は、僕が小さい頃から見てきたライダーで、大好きな選手だったんです。関わりの深い人だったので、彼が日本に来てくれて、しかも生で見られるのを楽しみにしていたんですよね。リザーブということは、会場に入れるじゃないですか。だから近くで見られるなとワクワクしていたんです(笑)。リザーブになって最初はちょっと落ち込む気持ちもあったんですが、すぐにそんなふうに気持ちを切り替えて、競技を近くで見られるし、いろいろな人と触れ合えるんだから楽しもうと思うようにしたんです。そんなふうに思っていたら、出場できることになったんですけど、欠場するのは尊敬する選手だったので、複雑な心境でした。

――尊敬するライダーであれば、一緒に出場したかったですよね。

早川起生:そうですね。彼が欠場してしまうというのは、自分も悲しかったですし、しかもすでに来日していたので、きっと本人はものすごく残念な思いをしているだろうなと思って。出場できることを素直に喜んでいいものではないような気がしました。

――優勝インタビューでは、彼の分も頑張ったとおっしゃっていましたが、そういう気持ちで出場されたんですね?

早川起生:彼の分もという気持ちは強かったです。実は、出場が決定したというメールをもらった後に、彼から直接メッセージをもらったんです。「僕は出られなくなったから、代わりに出てほしい」と書いてありました。それで、もやもやした気持ちが晴れたような気がしました。彼の分も頑張ろうと、練習に集中することができましたね。

――ライダー同士は、ライバルであると同時に仲間であるというような気持ちがあるんですか?

早川起生:そうですね。特に僕にとって、一緒に出場するライダーたちは、ライバルというよりも昔から尊敬しているスターなんです。BMXを始めた頃からトップを走っている選手ばかりなので、ライバルって言っていいのかと思うくらいです。それは、競技をする上ではよくないことかもしれないですけど。

――昨年の『X Games』では、そんな憧れのライダーたちの上に立ったわけですね。

早川起生:嬉しかったです(笑顔)。優勝はもちろんですけど、欠場した選手に良い報告が出来ることも嬉しくて。

――急遽出場が決まった中で、優勝できた要因は、ご自身ではどう捉えていますか?

早川起生:ずっと練習はしていたので、急とはいえ、準備はできていました。リザーブって、出場しない可能性の方が高いですよね。みんな大会に合わせてケガのないように調整するだろうし、コロナに感染しないように注意もしているだろうし。だから出る可能性は低いなと思いつつも練習していてよかったです。実は、「自分はめっちゃ練習しています!」って言うのは、あんまり好きではないんです(笑)。でも去年の大会のときは、本当に練習していて良かったなと心から思いました。

――そういえば、練習は苦にならないとおっしゃっていましたよね?

早川起生:周りからは「なんでそんなに練習するの? 辛くないの?」なんて言われますけどね(笑)。僕は、出会ったときからBMXが好きで、練習することも好きなんです。嫌だと思ったこともありません。練習することで技の完成度や成功率が上がっていくのを感じるのが楽しいんです。ちょっときれいごとになりますけど、僕はそれだけBMXが好きですし、良いものに出会ったなと思っています。

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始めた頃から常に「見ている人を驚かせたい」

――そもそも早川選手がフラットランドを始めたきっかけはどのようなものだったんですか?

早川起生:中学1年生の頃に自転車を買い替えようと思っていたときに、父親が「こんなことができる自転車もあるよ」と軽い気持ちで、YouTubeで動画を見せてくれたのがBMXだったんです。BMXのことは全然知らなかったんですけど、すごく衝撃を受けて、すぐにやりたいと思いました。

――単純に新しい自転車を探していたことがきっかけなんですか!?

早川起生:家族からは「あのとき、普通の自転車を買っていれば、こんなにお金がかかることはなかった」って言われます(笑)。そんなふうに家族ぐるみで協力してもらっているので、自分も頑張れている気がします。

――優勝後のインタビューでご家族への感謝を述べられていましたね?

早川起生:すごく喜んでくれました。当日は見に来てくれていましたし、模擬練習に協力してくれたり、『X Games』の前は、かなりサポートもしてくれました。家族の存在はかなり大きいです。

――BMXの競技はいろいろありますけど、フラットランドを選んだ理由は?

早川起生:最初はジャンプをやっていたんです。動画を見ながら家の前で練習していたんですけど、やっぱりパークがないとどうにもならなくて。BMXを買ってもらいましたけど、普通の自転車と同じように移動でしか使っていない時期がちょっとありました。そんなときに、BMXを買ったショップの息子さん2人がフラットランドをやっていたんです。このときも本当に衝撃でした。僕は何もなくてできないって悩んでいたのに、フラットランドは何もないところでできるんです。自分が求めているものはこれだと思って、そこから没頭しました。

――とはいえ、すぐにできるものだとは思えないのですが…。

早川起生:僕も才能があるわけでも、スポーツをやっていたわけでもないんですよ。BMXショップの息子さんたちに教えてもらったりしながら、徐々に覚えていったという感じです。ただ、当時から周囲をびっくりさせたいという気持ちはあって、“こそ練”っていうんですけど、1人でこっそり練習しては、みんなで集まったときに急に披露して驚かせていました。へんな話、それが快感になってしまって(笑)。こんなふうに驚いてもらえて、喜んでもらえるのって、こんなに楽しいんだと。その気持ちは今でもあって、今も大会に出ると、見ている人を驚かせたいと常に思っています。

(C)齊藤 僚子

「足が地面につかなければ何でもあり」自由に表現できるのがフラットランド

――『X Games』で優勝して、周囲の見る目も変わりましたか?

早川起生:“『X Games』で勝った”というのは、常についてまわるようになった気がします。それが良い意味でモチベーションになることも、余計なプレッシャーになることもありますね。

――大きな注目を集める中で、今年の大会が始まりますが、今年はどんなところに目標を置いていますか?

早川起生:“ディフェンディング・チャンピオン”と言われることが多いんですけど、前回はリザーバーだったので、今回初めて正式に招待されたんですよ。去年のことをまったく考えないとは言いませんけど、あまり意識せず、初めて選んでもらったことに感謝して、モチベーションを高めつつ、いつも通り自分が見せたい技を披露できればなと思っています。

――こんなところに注目すると、競技がより楽しめるというポイントがあれば、アドバイスしていただけますか?

早川起生:フラットランドはライダー1人ひとりにすごく個性があるんです。自転車も選手ごとにまったく違いますし。タイヤの形は一緒ですけど、ハンドルの大きさが違ったり、乗っているところが違ったり、人の数だけスタイルがあるんです。それぞれのライダーの個性を比べながら見ると、さらに楽しめるのではないかと思います。

――では早川選手の個性はどこだと思われますか? 自分のここを見てほしいといったポイントは?

早川起生:僕はオリジナルにこだわっているんです。人とは違う動きをしたいと常に考えています。なので、他のライダーとは違って見えてほしいと思っていて、けっこうインパクト重視なんです(笑)。いわゆるパワー技というか、力任せな部分もあるんで、そういったドカンとインパクトのある技に注目してもらえれば嬉しいです。

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――改めて『X Games』は早川選手にとってどんな大会ですか?

早川起生:先ほども話したように“夢”ですよね。19年フラットランドは開催されていなかったからこそ、いつかは『X Games』でやってみたいという夢を持っていましたし、復活したことで出場することが夢になりました。それくらい大きなものなんです。しかも、19年前に優勝した選手は、僕が憧れていたライダーだったんです。そういうこともあって、去年はどうしても出場したいし、獲りたいと思っていました。もちろん、今年も気合いを入れて臨みたいと思っています。

――他の大会とはやはり違うものですか?

早川起生:違いましたね。『X Games』は他のジャンルの競技も行われるので、世界中のさまざまな競技のトップ選手と同じ空間にいるというのが、すごく刺激的でした。優勝する、しないの前に、そういう舞台に立てたというのは、すごく自信にもなりました。

――フラットランドの一番の魅力はどこでしょうか?

早川起生:やっぱり人の数だけスタイルがあることでしょうね。フリースタイルという名前がついているように、足が地面につかなければ何をやってもいいんです。自分で自由に表現ができる。バランスをとってもいいし、回ってもいい。誰かの技を真似してみてもいいし、自分で新しい技を考えてもいい。僕はそんな自由なところに惹かれてずっとフラットランドを続けてきました。最近は、トップクラスのライダーと一緒になること増えましたが、みんな自分のスタイルに誇りを持っているんですよ。自分もそうありたいと思いますね。

(C)齊藤 僚子

イベント情報

『X Games Chiba 2023』

 日時:5月12日(金)予選日
    5月13日(土)開場 11:00/閉場 21:00 ※予定
    5月14日(日)開場 10:00/閉場 17:00 ※予定
 場所:ZOZO マリンスタジアム(千葉県)