エレファントカシマシ バンドの最新形と歴史を描き出した至福の3時間
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エレファントカシマシ
エレファントカシマシ『新春ライブ2016』 2016.1.5 東京国際フォーラム ホールA
聴いているうちに背筋がすっと伸びていく気がした。エレファントカシマシの『新春ライブ2016』、東京公演2日目の2016年1月5日、東京国際フォーラムホールA。恒例の新春ライブということで、代表曲からレア曲まで、多彩な楽曲を豪華なメンバーで演奏していく“音楽の福袋”的な要素がありつつも、昨年11月から12月にかけて行われた『RAINBOW TOUR 2015』の完成形、発展形的な要素を兼ね備えたWで充実したステージとなった。年末のツアーは宮本浩次(Vo&G)、石森敏行(G)、高緑成治(B)、冨永義之(Dr)というメンバー4人に加えて、ヒラマミキオ(G)、キーボードに村山☆潤(11月及び新春ライブ)/ SUNNY(12月)、という6人編成で行われたのだが、この日は新春ライブということで、さらに金原千恵子ストリングスの6人が加わっている。過去の新春公演以上に弦楽器が参加した意味合いは大きいと言えそうだ。それは最新アルバム『RAINBOW』がストリングスをたっぷりフィーチャーした作品だったから。この顔ぶれが揃うことで、最新作収録曲の新たな表情も見えてきそうだ。
その金原千恵子ストリングスによる「チゴイネルワイゼン」でライブはスタートした。まるで墨流しのように「3210」のフレーズが混ざり合っていく混沌とした幕開けから期待感が一気に高まっていく。宮本のギターソロから始まったオープニング・ナンバーは「脱コミュニケーション」だった。終わりと始まりとがモチーフとなったこの歌は2015年が去り、2016年が始まったこの時期のステージのオープニングにふさわしい。気迫あふれる宮本の歌声と、ストリングスもバンド・サウンドの一部と言いたくなるような重厚なサウンドは迫力満点だ。
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「2016年のスタートだぜ! エブリバディ! 始まるぜ!」という宮本のMCに続いて、「今はここが真ん中さ!」へ。宮本がハンドマイクで歌いながら、こぶしをあげると、観客も一緒にこぶしを振り上げている。これがエレファントカシマシ流の新年の挨拶。ストリングスがステージから下がって、6人編成で「悲しみの果て」と「デーデ」を演奏。宮本が石森の肩に手をかけて歌い出したり、冨永の方を向きながら歌ったり、バンドならではの動きも楽しい。歌も演奏も実にいい感じだ。パワフルでありつつもニュアンス豊かな冨永のドラムが気持ちよく響いてくる。再びストリングスが登場しての「彼女は買い物の帰り道」では、人間味あふれるバンドの演奏と、たおやかさと凛とした強さが共存するストリングスとが見事にマッチしていた。
「もともとホールでコンサートやるのは好きだったんですが、俺たち、ホールが似合いますね」と宮本。確かに歌の世界を丹念に構築していくことと、突き抜けたエネルギーをほとばしらせていくことを両立していける今のエレファントカシマシには、ホールという形態は適している。ストリングスが入った編成での演奏を音響設備と環境が整ったところでじっくり堪能できるのもありがたい。
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6曲目の「あなたへ」から17曲目の「RAINBOW」まで、13曲目の「曙光」を除いて、最新アルバム『RAINBOW』収録曲が続く構成となっていたのだが、この第1部後半の流れは圧巻だった。バンドとストリングスとが一丸となって、人間のパワーと想念とを結集して、歌の世界を作り上げていた。ボーカルだけでなく、すべての楽器がともに歌っているかのようだった「あなたへ」、鬱屈した心情や無常観が描かれながらも、ネガティヴな感情が美しくてかけがえのない生命反応なのだということまでもが伝わってくるような、極限の演奏による「なからん」などなど、個々の歌の持っているポテンシャルが全面的に発揮されているという印象を受けた。キレ味抜群のリズムが気持ち良かったのは、野獣の雄叫びのような声で始まった「シナリオどおり」だ。ストリングスのソリッドな演奏にもしびれた。ストリングスが気品と野性とを併せもった奥深い楽器だということを実感する瞬間が多々あった。
「雨の日も風の日もこれからも歩いて行こうぜ、エブリバディ!」という言葉に続いての「愛すべき今日」では、会場内に明るくて伸びやかなエネルギーが充満していった。宮本のギターで始まっていった「曙光」は血のたぎりと太陽の光とが混ざり合っていくようなダイナミックな歌と演奏に圧倒された。渾身の演奏に続いては、アンビエント風味のあるピアノの調べに乗って、「お正月、でも平日、エブリバディー、たくさんありがとう~」と、宮本がMCと歌の中間のような感じで歌い出して始まっていった「Under the sky」は、この日のこの瞬間にしかない生きた歌だった。ドラムの冨永とベースの高緑とが中心となって生み出していく深みのあるグルーヴも素晴らしかった。ストリングスも含めて、強靱なグルーヴを生み出していた「雨の日も風の日も」、生のストリングスも混じって演奏された大迫力の「3210」、とてつもないテンションが渦巻いて、疾走しながら、突破していく力を備えた「RAINBOW」などなど、最新のエレファントカシマシの全貌が見えてくる圧巻のステージだった。
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これまでの歴史の中で生まれてきた名曲の数々が主役となったのが第2部だった。開放感あふれる「I am happy」からのスタート。さらにバンドサウンド全開の「ドビッシャー男」、高緑と冨永の生み出す疾走感が気持ちいい「めんどくせい」へ。
「古い曲もいっぱいあって。そういう曲をいまだにみんなの前で堂々と今の歌として歌えるのが本当にうれしいです」というMCに続いて、宮本が椅子に座って、アコギを弾きながら歌い始めたのは「偶成」だった。宮本の歌声、歌詞が深く入ってくるのは彼の声のトーンそのものがまるで詩のようなみずみずしさと味わいとを備えているからだろう。1曲やるごとに彼の歌声が胸の中に何層にもなって、降り積もっていくような確かな余韻を刻んでいく。金原千恵子(バイオリン)と笠原あやの(チェロ)が加わった「リッスントゥザミュージック」から「ズレてる方がいい」まで6曲連続でストリングスが参加してのステージ。「笑顔の未来へ」を始めとして、観客を未来へと誘ってくれるような明るいパワーのあふれるナンバーが続く構成は新年にぴったりだった。第2部のラストは石森のワイルドなギターで始まっていく「ファイティングマン」。この曲での会場内の熱狂は「エブリバディ ファイティングマン」という宮本の最後のひと言に集約されていた。
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アンコールで歌われた「俺たちの明日」「友達がいるのさ」「風に吹かれて」などはこの日のメンバーの気持ちを代弁する歌でもあるのではないだろうか。「友達がいるのさ」では歌詞の最後の部分を<歩くのもいいぜ 駆け出すのもいいぜ 立ち止まったってなおいいぜ 振り返ったっていいぜ なんだってかまわないぜ>と歌っていたのが印象的だった。これはまさに休止した期間を経た上での2016年の今の歌だろう。さらに「風に吹かれて」、「花男」を演奏して、新春ライブは終了した。
ステージ上からほとばしるファイティング・スピリッツと温かなエモーションとを浴び続けた至福の3時間。眼福ならぬ、耳福なコンサートだった。いや、メンバー全員が正装してネクタイを締めて熱演したり、宮本が天衣無縫にステージ上を動き回りながら歌う姿を目撃することが出来たという意味では眼福でもあったのだが。また、最後の最後に宮本が「また会おうぜ! よいお年を。また来年」と言いながら去っていったのが可笑しかった。「この時点でまだ2016年は360日残っているんですけど」とツッコミを入れたくなったのだが、考えてみると、この日のライブが与えてくれたものは、これから1年間を生きていく上での糧となったり、支えとなったりするのに必要十分な量だったのは間違いないだろう。一過性ではなくて、持続していく感動と熱と闘志とが刻まれた新春となった。そしてここまでやり切ったことによって、バンドは次なる未来への扉を開けていくことになるのだろう。
撮影=岡田貴之 文=長谷川誠
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