梅玉と松緑の引窓、花形の七福神、愛之助と菊之助の夏祭 歌舞伎座『四月大歌舞伎』昼の部観劇レポート

レポート
舞台
2024.4.10
昼の部『夏祭浪花鑑』(左より)団七九郎兵衛=片岡愛之助、一寸徳兵衛=尾上菊之助 /(C)松竹

昼の部『夏祭浪花鑑』(左より)団七九郎兵衛=片岡愛之助、一寸徳兵衛=尾上菊之助 /(C)松竹

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2024年4月2日(火)、歌舞伎座にて『四月大歌舞伎』が開幕した。11時開演の昼の部にて上演された『双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき) 引窓(ひきまど)』、『七福神(しちふくじん)』、そして『夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)』をレポートする。

一、双蝶々曲輪日記 引窓

『双蝶々曲輪日記』の八段目にあたる「引窓」は、はからずも人を殺め、おたずね者となってしまった力士・濡髪長五郎が、生みの母お幸(中村東蔵)に一目会うため、忍んでやってくるところから始まる。その家では、お幸の義理の息子の南与兵衛(中村梅玉)とその女房のお早(中村扇雀)が暮している。

昼の部『双蝶々曲輪日記 引窓』(左より)南与兵衛後に南方十次兵衛=中村梅玉、女房お早=中村扇雀 /(C)松竹

昼の部『双蝶々曲輪日記 引窓』(左より)南与兵衛後に南方十次兵衛=中村梅玉、女房お早=中村扇雀 /(C)松竹

尾上松緑の濡髪の深い陰、そして中村梅玉の南方十次兵衛の爽やかさが、ドラマを深く描き出していた。

この日、お幸はそわそわしていた。南与兵衛が郷代官に取り立てられることとなり、その帰りを楽しみに待っているのだ。お早もうきうきを隠せない。東蔵のお幸の素直な喜怒哀楽が作品全体の空気を作っていた。そして深い情愛が、血のつながりの有無を超えた、ひとつの家族の物語に紡ぎあげていた。扇雀のお早は、元遊女らしい華。気働きも自然体でありつつ、見せ場では鮮やかにスポットライトを集める。時に芝居の彩りとなり、時に脇を固める頼もしさだった。

昼の部『双蝶々曲輪日記 引窓』(左より)女房お早=中村扇雀、濡髪長五郎=尾上松緑、母お幸=中村東蔵 /(C)松竹

昼の部『双蝶々曲輪日記 引窓』(左より)女房お早=中村扇雀、濡髪長五郎=尾上松緑、母お幸=中村東蔵 /(C)松竹

そこへ頬かむりの濡髪が花道に現れる。力士として違和感のない質感の脚に立派な体つき。白塗りの整った顔は、ここに浮世絵師がいたらそのまま大首絵にしたであろう美しさ。憂いからは罪悪感を。精悍さからは覚悟を想像させた。

揚幕より登場した与兵衛は、平岡丹平(中村松江)と三原伝造(坂東亀蔵)を伴って、時折ふり返りながら本舞台へ向かう。その足どりは新人郷代官。隠しきれない町人っぽさ、ともすれば仔犬のようにはしゃぎだしそうな愛らしさだった。そんな与兵衛が手水鉢の水鏡で長五郎に気づいた時、鮮やかなギャップで観るものをハッとさせる。羽織をぬぎ、刀に手をかけ、義太夫、お早がしめた窓の音さえも味方に、梅玉の格好良さが極まる。それでいて、幕切れには再び町人の心でしなやかな温情を長五郎に向ける。

昼の部『双蝶々曲輪日記 引窓』(左より)濡髪長五郎=尾上松緑、南与兵衛後に南方十次兵衛=中村梅玉 /(C)松竹

昼の部『双蝶々曲輪日記 引窓』(左より)濡髪長五郎=尾上松緑、南与兵衛後に南方十次兵衛=中村梅玉 /(C)松竹

意志の強そうな長五郎だった。与兵衛があれほどにしなやかで軽やかでなかったなら、お幸の愛があと少しでも足りなかったら、長五郎は皆からの愛と情けを受け取ってくれなかったかもしれない。客席のそこかしこで涙をおさえる人の姿はありながら、湿っぽくならず、熱い拍手で幕となった。

二、七福神

人間味溢れすぎる七福神たちの舞踊。

昼の部『七福神』(左より)福禄寿=中村虎之介、大黒天=尾上右近、毘沙門=中村隼人、弁財天=坂東新悟、恵比寿=中村歌昇、布袋=中村鷹之資、寿老人=中村萬太郎 /(C)松竹

昼の部『七福神』(左より)福禄寿=中村虎之介、大黒天=尾上右近、毘沙門=中村隼人、弁財天=坂東新悟、恵比寿=中村歌昇、布袋=中村鷹之資、寿老人=中村萬太郎 /(C)松竹

舞台上手の長唄の演奏で幕が開くと、飛沫をあげて岩にうちつける荒々しい波が現れる。そこへ舞台下手より鳴物が加わり高揚感の高まりとともに宝船が登場。中村歌昇の恵比寿、中村萬太郎の寿老人、坂東新悟の弁財天、尾上右近の大黒天、中村隼人の毘沙門、中村虎之介の福禄寿、中村鷹之資の布袋。勢いのある花形世代による七福神である。

昼の部『七福神』(左より)大黒天=尾上右近、福禄寿=中村虎之介、布袋=中村鷹之資、毘沙門=中村隼人、恵比寿=中村歌昇、弁財天=坂東新悟、寿老人=中村萬太郎 /(C)松竹

昼の部『七福神』(左より)大黒天=尾上右近、福禄寿=中村虎之介、布袋=中村鷹之資、毘沙門=中村隼人、恵比寿=中村歌昇、弁財天=坂東新悟、寿老人=中村萬太郎 /(C)松竹

まずは弁財天と毘沙門が舞いはじめる。神々しいふたりの姿に、他の5名も見入っている……かと思えば、びっくりするほど見ていない。実に生き生きと、大黒天や布袋は周りに酒をすすめ、宴を楽しんでいる様子。それでもどんちゃん騒ぎにはならない品があり、踊りで自分のターンがくると、個性豊かに演奏にのる。恵比寿が三の線を邁進したかと思えば、廓の恋模様で寿老人が一瞬で若い男に。自由行動のようで、まとまりがあり、賑やかなだけでなく居心地がよかった。お酒が進むにつれて福禄寿は手踊りでノリノリに。寿老人は目を細めて見守っていたが、気づけばうたた寝をはじめている。

昼の部『七福神』(手前左より)布袋=中村鷹之資、大黒天=尾上右近、(中左より)福禄寿=中村虎之介、恵比寿=中村歌昇、寿老人=中村萬太郎、(奥左より)毘沙門=中村隼人、弁財天=坂東新悟 /(C)松竹

昼の部『七福神』(手前左より)布袋=中村鷹之資、大黒天=尾上右近、(中左より)福禄寿=中村虎之介、恵比寿=中村歌昇、寿老人=中村萬太郎、(奥左より)毘沙門=中村隼人、弁財天=坂東新悟 /(C)松竹

観客はもちろん、出演者たちも楽しんでいるにちがいない。平和や幸福はこういう場から生まれるのかもしれない。そのようなことを思わせてくれる、祝祭感と希望に満ちたおめでたい一幕だった。幕切れのダイナミックな演出に大きな拍手が送られた。

三、夏祭浪花鑑

片岡愛之助の団七九郎兵衛が、とてもリアルだった。それは愛之助が大阪生まれだから、というだけの話ではない。正義感と義侠心に溢れた明るい男前で、侠客の一歩手前。決してヒーローではない親しみやすさと温かさに、生身の人間としての親近感を感じた。だからこそ「長町裏の場」で一線を越えた時は、あんないい人が、という悲しみが大きかった。

昼の部『夏祭浪花鑑』(左より)団七九郎兵衛=片岡愛之助、伜市松=中村秀乃介、団七女房お梶=中村米吉、一寸徳兵衛=尾上菊之助_ /(C)松竹

昼の部『夏祭浪花鑑』(左より)団七九郎兵衛=片岡愛之助、伜市松=中村秀乃介、団七女房お梶=中村米吉、一寸徳兵衛=尾上菊之助_ /(C)松竹

愛之助のもう一役は、徳兵衛女房のお辰。三婦から、色気がありすぎると指摘されるのも頷ける、すっきりしつつ味わいのある艶やかさ。徳兵衛の女房にふさわしい芯をみせた。男が立つとか立たないとか、女が立つとか立たないとか。愛之助の二役はどちらも「顔を立てる」を巡り、顔に傷を負う。お辰と団七で、結果にこれほど落差がつくとは、なんて皮肉なことだろう。

義兄弟の契りをかわす一寸徳兵衛に、毛抜きを扱う様もスマートな尾上菊之助。爽やかに闊達に、団七とは異なる色気を見せた。そんな二人の喧嘩を留めるのが、中村米吉の団七女房お梶。花道に出た時から夏の暑さを感じさせ、幼い子どもへの眼差しから人妻感を発揮。いぶし銀の存在感で色気を放つ三婦には、中村歌六。この人が一番悪かったのでは……と思わせ痛快な活躍をみせる。三婦が数珠を切った時の女房おつぎ(中村歌女之丞)も印象的。客席全員の嬉しさを代弁するような喜びぶり。おつぎも客席も笑顔になった。あまりにも町に溶け込む下剃三吉で、巳之助だと気づいた瞬間二度見を誘う下剃三吉に坂東巳之助。追われる身でありながらピクニックデートのようなテンションが終始愛らしい傾城琴浦に中村莟玉。玉島磯之丞(中村種之助)や三河屋義平次(嵐橘三郎)に対しては、思い起こすだけでうんざりとした気持ちになってもおかしくない。にもかかわらず、琴浦に手をとられた時や、三十両をねだった時など、不思議と憎めない顔が思い出される。

昼の部『夏祭浪花鑑』(左より)団七九郎兵衛=片岡愛之助、おつぎ=中村歌女之丞、釣船三婦=中村歌六、一寸徳兵衛=尾上菊之助 /(C)松竹

昼の部『夏祭浪花鑑』(左より)団七九郎兵衛=片岡愛之助、おつぎ=中村歌女之丞、釣船三婦=中村歌六、一寸徳兵衛=尾上菊之助 /(C)松竹

男が、女が、立つとか立たないとか。この先の時代には伝わりづらくなる価値観かもしれない。義侠心もすでに昔の言葉。それらが団七、徳兵衛、お辰や三婦たちの言葉、生きざまに息づいているようだった。

大詰でも、愛之助の団七は真に迫る凄みをみせる。顔を傷つけられた直後の花道の見得は、顔や身体の形はもちろん、瞬間の怒り、熱量、そこに至る勢いまで閉じ込めたよう。再び時間が動き出した時、眼球が軌道をブラすことなく動き出した。ゾッとした。血の通った様式美で客席を圧倒。最後には髪を捌き、刺青も露わにずぶ濡れで、祭りの喧騒と客席の喝采に飲み込まれるように消えた。

昼の部『夏祭浪花鑑』団七九郎兵衛=片岡愛之助 /(C)松竹

昼の部『夏祭浪花鑑』団七九郎兵衛=片岡愛之助 /(C)松竹

昼夜を通し充実の『四月大歌舞伎』は、歌舞伎座にて4月26日(金)までの上演。片岡仁左衛門、坂東玉三郎が大いに盛り上げ、舞踊『四季』で打ち出しとなる「夜の部」は別の記事にてレポートしている。

取材・文=塚田史香

公演情報

『四月大歌舞伎』
日程:2024年4月2日(火)~26日(金)
会場:歌舞伎座
【休演】10日(水)、18日(木)
 
<昼の部>午前11時~

一、双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)
引窓
 
南与兵衛後に南方十次兵衛:中村梅玉
女房お早:中村扇雀
平岡丹平:中村松江
三原伝造:坂東亀蔵
濡髪長五郎:尾上松緑
母お幸:中村東蔵
 

今井豊茂 改訂
二、七福神(しちふくじん)
 
恵比寿:中村歌昇
弁財天:坂東新悟
毘沙門:中村隼人
布袋:中村鷹之資
福禄寿:中村虎之介
大黒天:尾上右近
寿老人:中村萬太郎
 

並木千柳 作
三好松洛 作

三、夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)
序幕 住吉鳥居前の場
二幕目 難波三婦内の場
大詰 長町裏の場

 
団七九郎兵衛/徳兵衛女房お辰:片岡愛之助
一寸徳兵衛:尾上菊之助
団七女房お梶:中村米吉
下剃三吉:坂東巳之助
傾城琴浦:中村莟玉
伜市松:中村秀乃介
おつぎ:中村歌女之丞
大鳥佐賀右衛門:片岡松之助
三河屋義平次:嵐橘三郎
堤藤内:大谷桂三
玉島磯之丞:中村種之助

釣船三婦:中村歌六
 
<夜の部>午後4時30分~

四世鶴屋南北 作
渥美清太郎 改訂

一、於染久松色読販(おそめひさまつうきなのよみうり)
土手のお六
鬼門の喜兵衛

土手のお六:坂東玉三郎
山家屋清兵衛:中村錦之助
髪結亀吉:中村福之助
庵崎久作:市村橘太郎

油屋太郎七:坂東彦三郎
鬼門の喜兵衛:片岡仁左衛門

二、神田祭(かんだまつり)
 
鳶頭:片岡仁左衛門
芸者:坂東玉三郎

九條武子 作
三、四季(しき)
春 紙雛
夏 魂まつり
秋 砧
冬 木枯

〈春 紙雛〉
女雛:尾上菊之助
男雛:片岡愛之助
五人囃子:中村萬太郎
同 :中村種之助
同 :尾上菊市郎
同 :尾上菊史郎
同 :上村吉太朗

〈夏 魂まつり〉
亭主:中村芝翫
若衆:中村橋之助
太鼓持:中村歌之助
仲居:中村梅花
舞妓:中村児太郎
 
〈秋 砧〉
若き妻:片岡孝太郎
 
〈冬 木枯〉
みみずく:尾上松緑
みみずく:坂東亀蔵
木の葉 男:大谷廣松
    同:中村福之助
    同:中村鷹之資
    同:坂東亀三郎
    同:尾上眞秀
木の葉 女:市川男寅
    同:中村莟玉
    同:中村玉太郎
    同:尾上左近
 
 
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