【本邦初公開】ミュージカル『ビリー ・エリオット』稽古場に潜入~その姿はまさにリアル”ビリー・エリオット”! 四者四様のビリー誕生に注目

2024.4.22
レポート
舞台

レッスン中の様子(別日撮影)

画像を全て表示(9件)


ミュージカル『ビリー ・エリオット~リトル・ダンサー』が、2024年7月27日(土)から8月1日(木)のオープニング公演を皮切りに、8月2日(金)から10月26日(土)まで東京・東京建物Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)、11月9日(土)から24日(日)まで大阪・SkyシアターMBSにて公演をおこなう。今回、日本版としては初となる稽古場レポートをお届けする。

本作は、1980年代のイギリス北部の炭鉱の町を舞台に、バレエダンサーを目指すひとりの少年と彼を取り巻く大人たちの姿を描く、2000年公開の映画『BILLY ELLIOT』(邦題『リトル・ダンサー』)をミュージカル化した作品。脚本・歌詞をリー・ホール、演出を映画同様スティーヴン・ダルドリー、音楽をエルトン・ジョンが手がけ、2005年に英国で初演、2006年に英国ローレンス・オリヴィエ賞4部門、2009年にトニー賞で10部門を獲得した。

日本では、2017年に日本人キャストで初演。2020年の公演を経て、今回が3度目の上演となる。今回のビリー・エリオット役は、約1年に渡るオーディションを経て選ばれた浅田良舞石黒瑛土井上宇一郎春山嘉夢一が務める。

左から)ビリー・エリオット 役(クワトロキャスト):浅田良舞/石黒瑛土/井上宇一郎/春山嘉夢一(オフィシャル提供)

 
浅田良舞(あさだ・りょうま)
2012年5月生まれ。バレエダンサーである両親のもとで2歳からバレエを始める。2023年に英国ロイヤルバレエスクールサマースクールにスカラシップにて参加。バレエ教室の先輩が初演・再演とビリー役に選ばれたのを見て、「次は自分がビリーになりたい」とオーディションに応募。
 
石黒瑛土(いしぐろ・えいと)
2012年9月生まれ。3歳でバレエを始める。2023年にはフランスのモナコプリンセスグレースダンスアカデミーへの留学を果たした。初演・再演を見て「自分もやってみたい!」とオーディションに応募。
 
井上宇一郎(いのうえ・ういちろう)
2010年7月生まれ。バレエダンサーである両親からバレエを学び、3歳で初舞台を踏む。エネルギー溢れる踊りを見せ、海外への短期留学も経験した。『ビリー・エリオット』の映像を観て応募を決意。
 
春山嘉夢一(はるやま・かむい)
2011年1月生まれ。バレエの他にも器械体操や二重跳びなど抜群の運動神経を見せる。ビリー役への人一倍強い思いで努力し、役を掴む。


■個性が生まれつつある4人のビリー

稽古場に入ると、広い空間の一角でビリー役の浅田石黒井上春山がギュッと集まり、歌のレッスンを受けていた。今日は歌、バレエ、タップダンスのレッスンが行われるという。通常、稽古場というと常にあちこちでスタッフが作業をしているものだが、彼らが集中しやすいようにスタッフは別場所で作業するなど環境が整えてある。

この取材が実施されたのは、4人の芝居レッスンが始まったばかりというタイミング。ダンスはそれぞれキャリアがあるが、芝居や歌に関しては4人ともこれが初めての挑戦となる。だからこそだろう。芝居のために「ビリーの感情について考える」という新体験があらゆる面に波及し、一人一人の表現に「少しずつ個性が出てきた」時期なのだそう。

制作発表でのパフォーマンスの様子(撮影=五月女菜穂)

歌のレッスンでは、音楽監督補の鎮守めぐみ氏の話を4人は並んで座って話を聞いていた。この日の練習曲はエネルギッシュなナンバー「Expressing Yourself」で、4人は先生のお手本を聴き、初めて歌う部分は先生の後に続いて歌ってみたり、歌ったことのある部分はより良く歌うためのアドバイスがなされたりする。先生のアドバイスの言葉は、音やリズム、技術の部分はもちろん、そこに含まれる感情についても話す時間があるためわかりやすく、4人の歌がどんどん変化していくのが、聞いていてわかるほど。

教わっている間、石黒浅田はよくメモを取っていて、井上は時々周りと目を合わせニコッと笑いかけ、春山は静かにまっすぐ話を聞いていた。途中、「踊りながら歌ってみよう」とステージに移動して歌うことになった時には移動しながら楽しそうに歌うなど、和やかな雰囲気だ。

レッスン中の様子(別日撮影)

1時間ほどのレッスンの最後には、「いつものをやりましょう」と、一人ずつ「Electricity」を一部歌うことに。「ねえビリー、ダンスをしているときはどんな気持ちになるんですか?」という問いかけに対してビリーが「♪うまく言えません。言葉にできない、押さえきれない気持ち~」と想いを歌う、この作品のテーマ曲ともいえる楽曲だ。(みんなで歌う時には元気なのだが)一人になるとまだちょっと心細そうな彼らを慮ってか、先生からは「他の人が歌っている時は見ずに、自分もやってる気持ちでいてください」と、一人でも歌いやすい状態をつくられる。

「最初の気持ち、“ムカついている”ということを表現してほしい。やさしくならなくていい。反抗的でいいから」というアドバイスを受け、まず歌うのは春山。歌声がきれいで、後半にいくにつれビリーの想いがぐっと胸に届く。井上は事前に「宇一郎はやさしいから、怒っていってみてください」と伝えられ「はい」と一生懸命に格闘していた。石黒は「♪うまく言えません」のあとの間(ま)などに想いが感じられ、「お芝居をこういうふうにやりたいっていう気持ちがとってもいい」と評価。浅田の歌は、進むにつれて少しずつビリーの気持ちが形になっていく感じが伝わってきた。

制作発表でのパフォーマンスの様子(撮影=五月女菜穂)

 

ここで歌のレッスンは終了。少し休んだらすぐにバレエのレッスンだ。

レッスンは、バレエ指導の坂本登喜彦氏がが行う。この時点ではまだ劇中の踊りの練習ではなく、あくまでバレエのレッスン。4人がバレエシューズを履いて、柔軟体操、バーレッスンと、並んで指導を受けながら柔らかく身体を動かす姿はとても美しい。この光景はもはやリアル“ビリー・エリオット”だ。

レッスン中の様子(別日撮影)

今年のビリー4人は皆、海外留学経験者やコンクール受賞経験者とそのバレエの実力は折り紙付きだ。

両親がバレエダンサーの浅田はユースグランプリ2024日本予選プリコンペティティブ部門第1位の実力の持ち主で、2023年には英国ロイヤルバレエスクールサマースクールにスカラシップで参加している。石黒、井上も同じく海外留学の経験者。石黒は2023年NBA全国バレエコンクール/YBCバレエコンクールでの第1位を受賞、浅田と同じく両親がバレエダンサーの井上は、2022年ヴィクトワールバレエコンペティション第2位/パシフィックインターナショナルバレエコンペティション3位をそれぞれ受賞している。人一倍強い思いで努力しビリー役を掴んだ春山は、2023年NBA全国バレエコンクール(小学5・6年の部)第2位/2022年バレエコンクールin横浜(ジュニア3部門)第3位と、錚々たる顔ぶれだ。

2月に開催された制作発表にて披露されたパフォーマンスでも、その一端を垣間見ることができるだろう。

Daiwa House presentsミュージカル『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』製作発表「♪エレクトリシティ」パフォーマンス

制作発表でのパフォーマンスの様子(撮影=五月女菜穂)

一通り身体を動かすと、次は踊ってみることに。レッスン中は、4人一緒に踊ったり一人ずつ踊ったりするのだが、別の人が踊っている最中もそれぞれが自由に踊っていて元気だ。ソロで踊る姿は、4人で踊っている時とはまた印象が変わる。

春山は踊ることが嬉しそうで楽しそうで、舞台でビリーの踊りを観たときの感覚の思いだす。浅田は身軽。一秒前まで床に座っていたのに、軽々とジャンプしたり回転したりする姿に驚いてしまう。レッスンの最中に「これやっていいですか」と質問をしたり、「これをやってみたいです」とアイデアを出したりするのは石黒井上はひとつひとつきちっと踊っていく印象で、見ていてとても気持ちいい。日本初演から携わる振付補のトム・ホッジソン氏も見ており、彼らに「すばらしかった」と声をかけた。既に四者四様のビリーがいる。

制作発表でのパフォーマンスの様子(撮影=五月女菜穂)

バレエの後は、そのトムによるタップダンスのレッスン。休憩中もバク転などをして遊ぶ4人に、トムは「もう準備ができてるってことかな?(笑)OK、タップシューズをはいて!」と声をかける。レッスンは、既に本番を意識しているようで、練習で踊る位置もどこでもいいわけではなく、「センターの一番前のこの線の上で踊ってほしい」「実際の舞台ではここに板目があるから、それを目印にしてほしい」など、彼らがステージに立っていることをイメージできる言葉をどんどん投げかけていく。

タップでの振付でも「頭は必ずシャープにパッと上げて」「フィニッシュした時、この角に向かって右足のつま先が向いている感じ」「腕は、水が肩に乗っていたらタラッと腕に垂れるくらいの角度」と細かく、「手はこの角度で」と手の甲にペンを乗せてあげたりもしていた。素人目だとこんなに決められて踊れるものだろうかと思ったりもするのだが、4人とも“食らいつく”というよりは、これはあくまでイメージだが、そのルールの上でぴょんぴょん飛んだり跳ねたりしているように見える。トムの声に真剣に頷きながら踊るダンスやタップも生き生きとしていて楽しそうで、いつまでも見ていたくなる。トム自身が見本として披露する踊りを見ていると、美しいダンスは細かな積み重ねなのだと納得した。

制作発表の様子。後列左から濱田めぐみ/安蘭けい(Wキャスト・ウィルキンソン先生)益岡 徹/鶴見辰吾 (Wキャスト・お父さん)(撮影=五月女菜穂)

タップのレッスンでこの日の取材は終了。ハッキリと「4人それぞれのビリーが絶対観たい」と思うような、本番への期待が高まる取材となった。これから大人キャストも加わり、7月には2024年版のミュージカル『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー』が誕生する。初めて観る人も、観たことがある人も、ぜひ開幕を楽しみに待っていてほしい!

取材・文=中川實穗

公演情報

Daiwa House presents
ミュージカル『ビリー・エリオット ~リトル・ダンサー~』
 
<スタッフ>
脚本・歌詞:リー・ホール
演出:スティーヴン・ダルドリー
音楽:エルトン・ジョン
振付:ピーター・ダーリング
美術:イアン・マックニール
演出補:ジュリアン・ウェバー
衣裳:ニッキー・ジリブランド
照明:リック・フィッシャー
音響:ポール・アルディッティ
オーケストレーション:マーティン・コック
 
翻訳:常田景子
訳詞:高橋亜子
振付補:前田清実、藤山すみれ(ドラスティックダンス"O")
音楽監督補:鎭守めぐみ
照明補:大島祐夫、渡邉雄太
音響補:山本浩ー
衣裳補:阿部朱美
ヘアメイク補:柴崎尚子
擬闘:栗原直樹
演出助手:伴眞里子、坪井彰宏、加藤由紀子
舞台監督:松下城支
技術監督:清水重光
プロダクション・マネージャー:金井勇一郎
 
バレエ指導:坂本登喜彦
タップ指導:Higuchi Dance Studio
体操指導:キッズ体操教室でき⇄タノ、こむっしゅ体操教室
ボーカル指導:宇都宮直高
 
Billy Elliot the musical worldwide is produced by UNIVERSAL THEATRICAL GROUP, WORKING TITLE FILMS, GREENE LIGHT STAGE
 
主催:TBS/ホリプロ/梅田芸術劇場/WOWOW
特別協賛:大和ハウス工業
協賛:イープラス
協力:キョードーファクトリー

<キャスト>
ビリー・エリオット(クワトロキャスト):浅田良舞/石黒瑛土/井上宇一郎/春山嘉夢一
お父さん(ダブルキャスト):益岡 徹/鶴見辰吾 
ウィルキンソン先生(ダブルキャスト)安蘭けい/濱田めぐみ
おばあちゃん(ダブルキャスト)根岸季衣/阿知波悟美
トニー(兄)(ダブルキャスト)西川大貴/吉田広大
ジョージ:芋洗坂係長
オールダー・ビリー(トリプルキャスト)永野亮比己/厚地康雄/山科諒馬
 
森山大輔/近藤貴郁(ダブルキャスト)、大月さゆ、大竹 尚、加賀谷真聡、黒沼 亮*、後藤裕磨、齋藤桐人、聖司朗、辰巳智秋、照井裕隆、春口凌芽*、丸山泰右、森内翔大、小島亜莉沙、咲良、竹内晶美、森田万貴*、石田優月、白木彩可、新里藍那
*スウィング
 
髙橋維束、豊本燦汰、西山遥都、渡邉隼人、上原日茉莉、佐源太惟乃哩、内藤菫子、猪股怜生、髙橋翔大、張浩一、多胡奏汰、藤元萬瑠、石澤桜來、岩本佳子、木村美桜、清水 優、鈴木結里愛、住徳瑠香、長尾侑南、松本望海、南 夢依、宮野陽光
 
<東京公演>
期間:
オープニング公演:2024年7月27日(土)~8月1日(木)
本公演:2024年8月2日(金)~10月26日(土)
会場:東京建物Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)
 
■キャストスケジュール>>https://bit.ly/48E0qDt
 
料金:
S席:平日¥15,000/土日祝¥15,500
A席:平日¥12,000/土日祝¥12,500
B席:平日¥ 9,000/土日祝¥ 9,500
Yシート:¥ 2,000(期間限定販売・20歳以下対象)※ホリプロステージのみ取扱
 
<大阪公演>
期間:2024年11月9日(土)~24日(日)
会場:SkyシアターMBS
 
料金:
S席:平日¥15,000/土日祝¥15,500
U-25:平日¥12,000/土日祝¥12,500
※大阪公演販売スケジュール詳細は追って発表いたします。