東京パリ派が、イヨネスコの問題作『禿の女歌手』をゴールデンウィークに上演

2024.4.28
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東京パリ派『禿の女歌手』(作:ウジェーヌ・イヨネスコ、翻訳:諏訪正、演出:サザナミアンナ)を、2024年5月3日(金祝)~5月6日(月祝)、東京は中板橋の新生館スタジオ~イプセンスタジオ~で上演する。出演は、川端槇二(劇団NLT)、木村有里(劇団NLT)、宇貫貴雄、松本寛子、太田黒武生(プロダクションカナン)、サザナミアンナ、荒海和花奈。

『禿の女歌手』稽古風景

『禿の女歌手』(原題:La Cantatrice Chauve)は、 20世紀後半のフランスにで活躍したルーマニア出身の劇作家ウジェーヌ・イヨネスコ(1909年~1994年)によって1950年に発表された彼の処女戯曲である。イヨネスコ作品の中でも特にナンセンス性・言語遊戯性・実験性が際立つ、まるで赤塚不二夫の「天才バカボン」や「レッツラゴン」の如きクレイジーな問題作といえる。
 

《あらすじ》誇り高き英国人のスミス夫妻は、今日も品よく礼儀正しい。晩餐に遅れてやってきたマーチン夫妻に、火事を求めてやってきた消防署長。英国式おしゃべりは支離滅裂、なんてとっぴな!!



世界初演は1950年5月11日、パリのノクタンブル劇場(演出:ニコラ・バタイユ)。同じイヨネスコの『授業』(1951年世界初演)と共に、1957年以降、パリ・ユシェット座で現在に至るまで上演され続け(2024年5月で67年目!)、両作品は同一劇場でのロングラン作品として世界記録を保持している。パリの観光名所のひとつとして、これまでのべ300万人以上の観客を動員しているという。

イヨネスコは、本作や『授業』、『椅子』(1952年)、『犀』(1960年)等の戯曲執筆によって、『ゴドーを待ちながら』(1952年)のサミュエル・ベケット(アイルランド出身)と並ぶフランス不条理演劇の旗手として、その名を世界演劇史に刻む劇作家となった。彼らの、論理性やリアリズム等、伝統的な演劇を成立させるうえで不可欠だった諸要素を悉く無視して破壊した作風は、「反演劇」(アンチテアトル)とも称され、世界の演劇界に大きな衝撃と影響を与えた。それらはまた、同時代の小説におけるロブ=グリエやビュトールらの「反小説」(アンチロマン)と共に、戦後フランスにおける前衛文学の一大潮流を形成するものでもあった。

注目なのが、『禿の女歌手』の戯曲は最初、1950年9月4日にコレージュ・ド・パタフィジックから出版されたことだ。「パタフィジック」とは、『ユビュ王』という怪戯曲で世間を騒がせたアルフレッド・ジャリ(1873年~1907年)による造語で、形而上学のパロディともいうべき似非学問のこと。第二次大戦後、ジャリの信奉者であるノエル・アルノーを中心に、レーモン・クノー、ボリス・ヴィアン、ジャン・ジュネ、そしてイヨネスコらの活動拠点がコレージュ・ド・パタフィジックという集まりだった(パタフィジシャンの系譜は後々セルジュ・ゲンズブールやロバート・ワイアットにまで続く)。そこから出版されたのが『禿の女歌手』だっただけに、それが如何にジャリ譲りのバカバカしさの炸裂した作品であったかは明白だ。なお、イヨネスコは他にも、マルクス兄弟や、ブールバール劇を代表する喜劇作家ジョルジュ・フェドー(1862年~1921年)の影響も強く受けていた。

今回演出を手掛けるサザナミアンナは、過去に「不条理劇を、明るく楽しく、華やかに上演する」ことをモットーとする劇団東京フランセーズを主宰し(当時の主宰者名は久保山真衣)、実はその旗揚げ公演でも『禿の女歌手』を取り上げるほど、本作への愛着には並々ならぬものがあった。現在は正統派コメディ上演の老舗として名高い劇団NLTに所属し、2023年には久保山マイ名義で、ニール・サイモンがナンセンスな筆致で書いた異色戯曲『フールズ』を演出した。その縁もあって、今回のゴールデンウィーク公演に川端槇二、木村有里というNLTの誇るベテラン名優が出演することは大変貴重である。

スミス夫妻(左から木村有里、川端槇二)、マーチン夫妻(左から宇貫貴雄、松本寛子)

サザナミアンナは今回も本作を「明るく楽しく、華やかに」演出することだろう。不条理劇というと、その字面から難解で重苦しいものを想像してしまう向きもあるかもしれないが、必ずしもそういうものばかりではない。たとえば別役実やブルースカイのぶっ飛んだナンセンスコメディが好きな人であれば、『禿の女歌手』の不条理も同一線上のものとして積極的に摂取できるはずである。

公演情報

東京パリ派 第8回公演『禿の女歌手』

■作:ウジェーヌ・イヨネスコ
■翻訳:諏訪正
■演出:サザナミアンナ

 
■出演:川端槇二(劇団NLT)、木村有里(劇団NLT)、宇貫貴雄、松本寛子、太田黒武生(プロダクションカナン)、サザナミアンナ、荒海和花奈
 
■日程:2024年5月3日(金祝)~5月6日(月祝)
■会場:新生館スタジオ~イプセンスタジオ~
■料金:自由席 前売・当日共に4,000円
■公式X:https://twitter.com/tokyopariha (申込み入口有り)

 
■舞台監督:深谷禰宜
■音響:飯塚大周(オフィスマウンテン/Dance Base Yokohama)
■照明:麗乃(あをともして)
■宣伝美術:泉健(Shiitake工房)
■著作権管理:(株)フランス著作権事務所