「絶望系」と「自由」の交わる地平線 ReoNaが見せた可能性――『ReoNa ONE-MAN Live Tour 2025 “SQUAD JAM”』レポート
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ReoNa 撮影:平野タカシ
2025.3.29(Sat)ReoNa ONE-MAN Live Tour 2025 “SQUAD JAM”@KT Zepp Yokohama
この日も冷たい雨がしとしとと降っていた。ReoNaのライブは本当に雨の確率が高い。「絶望系アニソンシンガー」であるからこその天気と考えることもできるが、このツアーのフロアは雨も蒸発するくらいの熱気に包まれていた。
全国6都市を巡るZepp ツアー『ReoNa ONE-MAN Live Tour 2025 “SQUAD JAM”』。「死ぬ気で遊べ、楽しんだもん勝ち」をコンセプトに、オールスタンディングで開催されたこのツアーのファイナル、KT Zepp Yokohamaでの開催は即日ソールド・アウト。翌日に追加公演も実施されたが、ツアーとしての正式なファイナルはこの3月29日。このツアーを通して、遊び尽くしてきたReoNaの現在地を見届けたくて現地に足を運んだ。
会場はペンライトも発声もOK、これまでReoNaのライブでは運営側から着席での観覧を推奨していたが、今回はオールスタンディング、しかも光り物もOKのスタイル。客席はいわゆる「戦闘態勢」のファンも多く見られた。ライブTシャツにマフラータオル、荷物はできる限り軽装。ロックフェスのような空気も感じられる中、静かに舞台は暗転していく。
一曲目はアニメ『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインⅡ』(以下1作目はGGO、2作目はGGOⅡ)オープニングテーマである「GG」。今回のツアーを象徴するようなこの曲からスタートしたライブは一音目からアクセル全開。赤い照明、客席もペンライトで赤く染まる。
「ハローアンハッピー!ReoNaです!」挨拶も短く世界は赤から青へ。「JAMMER」では濛々と炊かれていたスモークの効果でLEDライトの光がまるでスクリーンのように見える。画面の向こうにいるReoNaが叫ぶような演出。強く、長く、スクリームしていくReoNaの声は今までにないものだ。
「今日は楽しもうね」その言葉に嘘はない。「ANIMA」がドロップされると客席からは大きな歓声と前のめりなクラップでそれを受け止める。「あなたは何色ですか?」その言葉に合わせるように照明が七色に瞬く、飛ぶもの、拳を上げるもの、ペンライトを降るもの、外の寒さもすっかり忘れるくらいの熱気の中、続いては「VITA」。最初から遠慮なしだ。
そうだ、これは“SQUAD JAM”だった。『GGO』の作中で開催された生き残りをかけたバトルロイヤル戦の名前を冠したこのツアー。向き合った時、引き金を弾くのを躊躇したものから撃たれるのが『GGO』の世界。今ReoNaと観客はまさに目の前に対峙している。残弾を気にする暇なんてこの空間のどこにもない。撃たなければ撃たれてゲームオーバー、緊張感すら走るスリリングな展開だ。
「死ぬ気で遊ぶ準備はできてる?」と語り「R.I.P.」へ。怒りを内包したオンビートの雰囲気は正邪の行進曲。そしてチェンバロを感じさせる鍵盤の音色と、夜がひび割れていくようなギターのスクラッチ音、ベートーベンの「月光」の調べから奏でられるのは「生命線」。激しさと切なさを感じさせる二曲。生と死。ReoNaは絶望と同じくらいの「命」を歌い続けるアーティストでもあるということに改めて気付かされる。
「貴方とならどこまでも、どこまででも、走っていけるだろうか?」雨の向こうにはきっと青空が待っている。永遠の逃避行のような「Runaway」では白いペンライトが美しく輝く。ReoNaのライブで客席が色に染まるのはやはり新鮮な印象を受ける。
長めの暗転が開けると、ステージからはバンドも退場している。「ステージに独りになりました」そう呟くReoNaがアコースティックギター一本で「By myself」を弾き語りで歌っていく。そのシンプルな一人だけの姿から目が離せない。
ReoNaが自ら綴った歌詞「孤独を歌おう、私を歌おう」という言葉が、会場を埋め尽くす観客一人一人に浸透していく。ReoNaが提唱し続ける「一対一」が歌い紡がれる。初めてその姿を見たときにはこんなにギターが弾けるようになるなんて思っていなかった。詰めかけたファンへの感謝の言葉を述べ、再登場したバンドとのMCでは、バンマス荒幡亮平との「横浜地元愛」トークも軽快に進み、乱戦の間の少しの休息という雰囲気だ。
『GGO』に深く関わりのある今回のツアーにおいて、神崎エルザの存在を無視するわけにはいかない。ReoNaにとってはデビューのきっかけをくれた存在であり、共に歩んできたと言ってもおかしくない神崎エルザとその楽曲たち。「神崎エルザって知ってる?」の一言から「Game of Love」。突き抜けるようなギターサウンドが奏でられる、そして「今日もガールズいるよね?」とMCを入れると女性専用エリアからは大きな歓声が沸き上がる。荒れ狂う現在を生き抜く女性たちへの応援歌「Girls Don’t Cry」も軽やかなポップス。神崎エルザが一流のポップスシンガーであるということを改めて認識させられる。
「Oh UnHappy Day」はReoNa的世界観と神崎エルザの音楽がクロスする「精神的合作」のような一曲。「Oh UnHappy Day」のシンガロングが何度も何度もリフレインされる。まず客席からのシンガロングというのも今までのReoNaのライブではなかったものだ。
ReoNaがデビューしたのは2018年。最初のキャリアハイと言える瞬間である「ANIMA」をリリースした2020年、世界は新型コロナウイルスの影響下にあった。ファンも歓声やシンガロングを響かせたかった時期、世界がそれを許さなかった。今、自身のライブで最大級のシンガロングを呼び込んだのが、ReoNaをこの世界に導いた神崎エルザの楽曲だというのが、『GGO』も追いかけていた身としてはとても痛快に感じる。
神崎エルザの楽曲は非常に分かりやすい。彼女がその時思っていることが楽曲として生み出されている。楽曲とともに『GGO』のストーリーを追っていくとその心の動きも感じられると思っているのだが、この後披露された「Toxic」は彼女の毒を体現した一曲。ギター山口隆志のメランコリックなギターソロから始められる。モーリス・ラヴェルの「ボレロ」をモチーフとする楽曲ではオレンジに染まるフロアで、荒幡亮平が先導するようにタオルを振り回す。タオルを首に巻いていた人たちは、手に持ち替え、それに続く。決してフロアが一体になっているわけではないのが痛快だ。タオルを回す者、ただじっと聴く者、こんな光景も今までのReoNaではなかったものだ。
「今日は“SQUAD JAM”、楽しんだもん勝ち、一緒に歌ったって、踊ったって、静かに見たっていい、みんな自由」とMCが入ると大きな歓声が巻き起こる。「その元気使い果たしてくれますか?」と前置きを置くと、このツアーでの最大火力パートが幕を開ける。「横浜―っ!」と叫ぶReoNa。これまで聞いたことがないほどの大声から導かれるのは「Disorder」。この瞬間を待っていたと言わんばかりに、一気に加速するライブ。間髪入れずドロップされる「Independence」。緑に染まる世界の中、叫び、跳ね、踊る自由な時間が爆音の中で繰り広げられていく。
そのまま「革命」へと続くステージ。「Independence」と同じフレーズを持つこの楽曲は静と動を併せ持つ一曲、溜め込んだ熱量がサビで瞬間的に放出される。昨年末に発売された神崎エルザの2ndアルバム『ELZA2』からの楽曲だが、この曲をライブで聴きたいと思っていたファンも多かったのではないだろうか? 声を上げるReoNa、激しく演奏を続けるバンド。誰一人止まらない、フロアを休ませる気なんてない。言った通り“元気を使い果たさないと”持たない勢い。
「まだまだ足りない! 足りない! 足りないよね? ツアーファイナル死ぬ気で遊べますか!」叫ぶようなMCから「Dancer in the Discord」。ReoNaとバンドと客席の真剣勝負。これもまた「一対一」、これこそが“SQUAD JAM”だ。
余韻冷めやらぬ中、息を整えたReoNaが語る。
「時に、自分が何にも馴染めてないような気持ちになったりとか、孤独を感じたり、一人ぼっちだなって思ったり、でも、誰にも見られてないからこそ、誰にも期待されていないからこそ、きっとそれは、きっとそれは自由。」
孤独だからこその自由、その軽やかな自由への讃歌「ハレルヤ」。先程までの狂乱とはうって変わり、誰もが動きを止め、まっすぐにReoNaを見ている。これも「一対一」。ReoNaが言い続けてきたその言葉があらゆる形で形になっていく。6年間の彼女の歩みは何一つ無駄じゃなかったと音楽が証明してくれているようだ。
「今だからこそ、あの時言えなかった言葉を、今だからこそ言える言葉があります。何度も迷って、彷徨って、出会ってくれてありがとう」ファンに向かって歌いかける曲は「YOU」。光りに包まれる中で歌うReoNaが歌詞の言葉一つ一つを、届けようとする姿は胸を打つ。
「失恋に寄り添う曲はあるのに、絶望に寄り添う曲がなかった、だから歌を歌っていいと言われたとき、私はそういうお歌を歌おうと思った。ReoNaはいつだってここにいるから、また会いに来てください、何度だって、何度だって、逃げて会おうね。改めまして、絶望系アニソンシンガーReoNaです」
このツアー、ReoNaは最後のMCで「改めまして、絶望系アニソンシンガーReoNaです」と再度表明した。自分の立っている場所を確かめるようなその言葉には、“SQUAD JAM”というライブの本質があるような気がしている。
オールスタンディング、ペンライトあり、叫び歌い、MC前の暗転中にはReoNaに対する声援も飛ぶ。激しさもバラードも内包した満足度の高いライブツアー。非難を承知で書くとしたら、それは「とても良く作られた普通のライブ」の可能性を秘めていると思う。ReoNaが示し続けてきた「絶望系」である存在やライブの特異性は“SQUAD JAM”にはなかった。
だからこそファンの中でも賛否が巻き起こって当然だとも思うし、そうあるべきだと思う。いつまでも同じことをし続けるのが正解と言えるほど、ReoNaは円熟したアーティストではない。現在進行系の成長をこのライブの中でも見せつけてくれている。
そのReoNaが「死ぬ気で遊べ、楽しんだもん勝ち」の言葉の通り、思いっきり遊んだのがこのツアーだったのではないだろうか? 可能性を広げるための「本気の遊び」。これまで構成も展開もしっかりと練って作り上げられてきたReoNaのライブ空間だが、“SQUAD JAM”はいい意味でルーズで、自由で、余地に溢れていた。
そうだ、“SQUAD JAM”は「ガンゲイル・オンライン」という“ゲーム”の中で開催されていた戦いだ。この最後の一曲を迎えたライブツアー全てが「ゲーム空間」の中で行われていると思えば、何をしたって自由なことに合点がいく。だが、それをプレイしているのはあくまでも「絶望系アニソンシンガー」であるReoNaだ。ReoNaが今「普通の良いライブ」をやることにこそ、意味がある。
「絶望系」であることを表明したあと、最後の一曲として選ばれたのは「Debris」。
強く響き続けるシンガロング、負けじと激しくストロークしていくReoNaのギター。シルエットの中、確かに歌と音楽と鼓動だけが響いている。叫んでいたファンも、跳ねていたファンも、曲に聴き入り涙していたファンも、誰もが同じように歌い、跳ねている。BPM142に合わせてKT Zepp Yokohamaが揺れる。それはまるで鼓動のように、与えられた自由の最後には、会場が一つの生き物のように脈動する瞬間が待っていた。
自由とは自らを由しとすること。与えられるものではなく、本心に従い、他人に責任を任せないということ。ReoNaは決して背中を押さない。彼女が音楽で寄り添ってくれた先に僕らが選んだのは、共に歌うということだった。
ゴミクズみたいな命を燃やして、それでもたしかにこの日、集まった全員がここで生きていた。終わらないでほしいと思いながらも曲は終わる、万雷の拍手、どこかやりきった笑顔のReoNa。
「“SQUAD JAM”死ぬ気で遊べた?」
この日、本当に死ぬ気で遊べたのは、客席だったのか、ReoNaだったのか、勝敗は不透明なまま僕らとReoNaの関係性は続いていく。7月にはファンクラブ会員限定のアコースティックツアー「ふあんぷらぐど 2025」の開催も発表されたが、ReoNaがこのツアーで何を得て、何を感じて、どうなっていくのか。絶望系のその先は、未だに未知数だ。
取材・文:加東岳史 写真:平野タカシ
セットリスト
2025.3.29(Sat)ReoNa ONE-MAN Live Tour 2025 “SQUAD JAM”@KT Zepp Yokohama
ツアー情報
ふあんくらぶ presents ReoNa Acoustic Concert Tour “ふあんぷらぐど2025”
上映情報
『神崎エルザ starring ReoNa × ReoNa Special Live “AVATAR 2024”』ライヴ・フィルム
+『ReoNa ONE-MAN Concert “Birth 2024”』ライヴ・フィルム(劇場版5.1chマスター)一夜限定全国上映
【2025年/日本/DCP/劇場版5.1ch/16:9/AVATAR109分/Birth135分】
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