オーストラリア・バレエ団 芸術監督デヴィッド・ホールバーグが語る日本公演への想い~カンパニーを代表する自信作『ドン・キホーテ』を上演
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オーストラリア・バレエ団 芸術監督 デヴィッド・ホールバーグ (Photo:Yuji Namba)
名門バレエ団でプリンシパルを務めてきたスターダンサー、デヴィッド・ホールバーグが芸術監督を務めるオーストラリア・バレエ団(以下、TAB)が、2025年5月、15年ぶりの来日を果たす。2023年シーズンには年間の総観客動員数30万人を達成した、話題のカンパニーだ。今回はホールバーグ芸術監督みずから、日本公演で上演する『ドン・キホーテ』の見どころや現在のバレエ団の魅力について語ってくれた。
(Photo:Yuji Namba)
――ホールバーグさんは現役時代、何度も日本で踊っていらっしゃいますが、日本の観客に対して、どのような印象がありますか?
私は主にアメリカで踊っていましたが、実はアメリカの観客と親密につながっていると感じたことはありませんでした。私は彼らが好むようなテクニックを持つダンサーではなかったんですね。でも、日本のお客さまは細かな表現までよく見て、私がダンサーとしてどんな人間かという部分にまで興味を持ってくださいました。いつも敬意を持って舞台を観てくださるので、心のつながりを感じていたのです。
――2021年に、TABの芸術監督に就任した経緯を教えてください。
それまで、自分が芸術監督になるなんて考えたこともありませんでした。最初、前芸術監督のデヴィッド・マッカリスターに打診されたときは、まだ現役で踊っていたのでお断りしたのです。でもその2年後、踊ることが楽しめなくなっていたころに、ふと「今がオファーを受けるときだ」と直感で感じました。
――ダンサーを辞めて芸術監督に専念することに、迷いはなかったのでしょうか?
迷いはなかったですね。怪我の影響もあって、踊ることが怖くなってもいたので「これ(芸術監督を受けること)が出口だ」と感じたのです。オーストラリアに行きたいと心の底から思いました。おかげで今はとても幸せです。母からも「あなたは踊っていたときより、今のほうが幸せね」と言われたくらい、人生を楽しんでいます。ダンサーはある種、自分勝手でないと務まらない仕事ですが、今は自分以外の人たちのことを考え、彼らが成長することが喜びなのです。
(Photo:Yuji Namba)
――今回はルドルフ・ヌレエフ版『ドン・キホーテ』を上演されます。この作品の魅力について教えてください。
ヌレエフ版『ドン・キホーテ』を上演すると決めたのは、この作品が生命力にあふれ、温かさに満ちたオーストラリアらしさを感じていただけるからです。ヌレエフは難しいことに挑戦するのが好きだったので、ダンサーに対する要求度の高いハードな作品ですが、私たちのカンパニーを代表する自信作です。もともとはヌレエフによる映像作品があり、それをもとに2023年に新制作した際にセットも衣裳もすべて新しくしました。ぜひご覧いただき、ほかのバージョンとの違いを楽しんでいただきたいです。
――芸術監督に就任されて4年、ダンサーたちはどのように変わりましたか?
まず、テクニック面が向上しました。それから、ダンサーが舞台上で自信をもって踊り、お客さまを物語に引き込めるようになりましたね。ダンサー自身もまだ気づいていないポテンシャルを私が引き出し、気づいてもらえるようにしています。
――2023年、ヌレエフ版『ドン・キホーテ』を初演した際はシルヴィ・ギエムをゲスト・コーチとして招きましたね。今回の日本公演でもギエムが指導すると聞いていますが、彼女はどのような指導を?
シルヴィはダンサーひとりひとりに向き合い、それぞれの個性をどう引き出すかを考えてくれました。たとえばキトリを踊るダンサーが3人いる場合、異なる3人のキトリが生まれます。彼女はダンサーに対して「私はこうやったから、あなたもこうすべき」というような指導をしないんですよ。彼女のおかげでカンパニーのレベルがさらに上がったと思います。
リハーサルの合間に談笑するシルヴィ・ギエム[左]とデヴィッド・ホールバーグ[右] (Photo:Mariam Medvedeva)
――日本公演では6人のダンサーが主役を踊ります。それぞれの個性を紹介してください。
ジル・オオガイは音楽性が豊かなアーティストで、よく練って役作りをします。マーカス・モレリは素晴らしいテクニックの持ち主ですが、パンクな気質があって、いい意味で粗さがあるのが面白い。山田悠未は活発なダンサーであり、確実で美しいテクニックを持つエネルギッシュな才能の持ち主です。ブレット・シノウェスのパフォーマンスでは、テクニックと表現力に裏打ちされた洗練と揺るぎなさにご注目ください。アコ・コンドウ(近藤亜香)は怖いもの知らずのダンサーで、リスクを取ってでも新しいことにチャレンジできる人です。チェンウ・グオは確かな技術を持っていますが、彼も時々パンクなところがありますね(笑)。
――15年ぶりの来日公演に対して、どのような思いがありますか?
ほとんどのダンサーが日本で踊ったことがないので、とても楽しみにしています。日本のお客さまがバレエをよくご存じなのを知っているので、ダンサーたちは少し緊張もしていますが、緊張の先には大きな喜びが待っているものです。お客さまには、ぜひ今のTABの個性をご覧いただければと思います!
(Photo:Yuji Namba)
公演情報
5月30日(金) 18:30 (近藤亜香×チェンウ・グオ)
5月31日(土) 12:30 (山田悠未×ブレット・シノウェス)
5月31日(土) 18:30 (ジル・オオガイ×マーカス・モレリ)
6月01日(日) 12:00 (近藤亜香×チェンウ・グオ)
■上演時間 約2時間50分(休憩2回含む)
※5月31日(土) 18:30は、 デヴィッド・ホールバーグ × シルヴィ・ギエム スペシャルプレトーク開催。
■演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団