Budo、夏のツアーがフィナーレ! ラフマニノフ挑戦レポートが到着
-
ポスト -
シェア - 送る
2024年サントリーホール完売公演・ビルボード公演を成功のうちに終え、ますます注目が高まるピアニストBudo。2025年に入ってからも、『のだめカンタービレ・ニューイヤーガラ』、REAL TRAUMのオーチャードガラ、菊池亮太やござとの2台ピアノのコンサート、そして平安神宮の『桜音夜』や、清塚信也や角野隼斗も出演する『こども音楽フェス』と確実に活躍の場を広げてきた。そうした多彩なイベントのみならず、「厳選・目で知るクラシック」やソニー音楽財団のこどもクラシックチャンネルの人気コンテンツ=「おやすみまえのクラシックBGM」にも ござ とともに登場するなど、YouTubeチャンネルでの活動にもさらなる広がりが見える。YouTubeチャンネルのフォロワー数も13万人を超える中、6月16日(月)には、「人生最大の挑戦」と本人も位置づけて来た、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番全曲を、パシフィック・フィルハーモニア東京の6月定期演奏会でついに披露した。
名門音楽大学=桐朋のピアノ科を卒業したとはいえ、音楽活動を諦めて、カナダのビジネス・スクールへ留学した彼が、なんとか音楽への情熱を取り戻し、YouTubeチャンネルとストリート・ピアノの活動をきっかけに、コンサート・ピアニストの道を歩み始めることが出来たこと自体がまず奇跡的な話である。それに加えて、在京オーケストラ11団体のうちのひとつから、定期演奏会への出演依頼を請け、世界でもっとも有名で難曲でもある、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番の共演を成し遂げたのである。
当日のサントリーホールは、ふだんのパシフィック・フィルハーモニア東京の定期公演とは異質の熱気に包まれ、ほぼ満席の状態で、ソリストの登場を多くの人が待ち受けていた。
黒のすっきりとしたラインのスーツを身にまとい、散りばめたアクセサリーをキラリと光らせながら、颯爽と長身のBudoがステージに登場する。一瞬一瞬を味わうかのように、いつも以上にゆっくりとピアノに近づき、スタンバイした。
ラフマニノフがロシア正教会の鐘を思いながら書いたという、重々しい和音をひとつひとつクレッシェンドしていく。美しくも重厚感に満ちたその音色に、観客もオーケストラのメンバーすらも一音ごとに惹き込まれていったように感じた。大河の流れのような第1主題がオーケストラのトゥッティでBudoに続くと、そこからはオケとBudoとの悠然たる音楽の対話が始まった。これがオーケストラとの初共演とは思えない、スケールの大きな音楽の流れがそこにはあった。大きくテンポを揺らすこともなく、楽譜に忠実にインテンポで音楽が運ばれていく。
第2楽章は、ゆったりとした音楽の流れに美しい旋律が穏やかに時を刻んでいく。ひとつひとつのピアノの美音とオーケストラのソロ楽器との会話に、夢見心地の気持ちにさせてくれる。そして、いよいよ第3楽章。大変な音数を重ねた和音によるドラマティックな旋律の連続。鍛錬と努力を経た演奏家しか到達できない境地だ。困難と美しい旋律のドラマがせめぎあいながら紡がれる音楽、それはやはり地上でもっとも人気のあるピアノ協奏曲の呼び名に相応しいものだといえよう。長いようであまりにも短い30分強の時間であった。
万雷のスタンディング・オベーションののち、ソリスト・アンコールは、ドビュッシーの「月の光」。熱すぎる音楽の奔流のあとに、一滴の美しい水滴を垂らしたような贅沢な時間。Budoの挑戦は成功の裡に終わったと言えよう。後半のチャイコフスキーの交響曲第5番の演奏も、マエストロ園田とパシフィックフィルハーモニア東京が火花を散らすような熱量の演奏であった。
そして、札幌からスタートし、いよいよ今週金曜日(8月8日)に東京サントリーホールにおいて、千秋楽を迎える『Budo Classic ALL TIME BEST 2025 Japan Tour』。一公演ごと、その土地その土地の空気を感じながら、変更と工夫を重ねてきた。
「月光」第3楽章など、YouTubeチャンネルで人気の楽曲が並んでいるが、『Budo Classic ALL TIME BEST 2025 Japan Tour』と銘うっている以上、Budoのチャンネルでバズっている楽曲群をやるという決意のもとに組まれたプログラム。1600万再生のベートーヴェン「月光」第3楽章やリストの「ラ・カンパネラ」、そして昨年のツアーで初披露されたベートーヴェンの交響曲第5番「運命」第1楽章のリスト編曲もアニマジックへのドイツでの参加の流れでボンに立ち寄ったことがどんな風な化学変化を生むのだろうか。
ドビュッシーの「月の光」やラフマニノフの「パガニーニの主題による狂詩曲」の第18変奏といった、「おやすみまえのクラシックBGM」でも弾いて、評判もよく愛されているチルアウトした選曲。そして大きな挑戦となる、ビゼーの「カルメン変奏曲」、ホロヴィッツ版。ホロヴィッツが、生涯をかけて編曲し続けたこの「カルメン幻想曲」は、彼にとっての「モナ・リザ」とも言える存在で、演奏するたびに手を加え、完璧を求め続けた“究極の一作”。「演奏効果も超一級、それを成立させるための技術も信じられないほど高度。人生最大の挑戦になると思って」と自ら語っていた曲である。驚きとエンタテインメントの気持ちに満ち、フジロックやサマソニのようなクラシック名曲の祭典を楽しんでほしい!
文責=神山薫
公演情報
8/8(金) 19:00~(開場 18:30~)サントリーホール 大ホール (東京都)
ベートーヴェン「月光」第3楽章
リスト「ラ・カンパネラ」
ベートーヴェン/リスト「運命」第1楽章
モーツァルト/クリントヴォルト「怒りの日 (「レクイエム」から)」
ビゼー/ホロヴィッツ「カルメン」
ドビュッシー「月の光」
ラフマニノフ「パガニーニの主題による狂詩曲」第18変奏
サン・サーンス「白鳥」