【インタビュー】橋本じゅん×羽野晶紀×橋本さとし、原点を振り返って~劇団☆新感線45周年『爆烈忠臣蔵~桜吹雪THUNDERSTRUCK』で久々の共演
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(左から)橋本さとし、橋本じゅん、羽野晶紀 [撮影=竹川友絵(松竹株式会社)]
2025年劇団☆新感線45周年興行・秋冬公演 チャンピオンまつり いのうえ歌舞伎『爆烈忠臣蔵~桜吹雪THUNDERSTRUCK』(作:中島かずき 演出:いのうえひでのり)が、2025年9月より、長野・大阪・東京で上演される。この公演はまさに祭り。1994年の秋味『古田新太之丞東海道五十三次地獄旅~ハヤシもあるでョ!』以来、31年ぶりに劇団員と元劇団員が大集合、そこへ準劇団員も加わって芝居合戦を繰り広げる。
この夢の公演のために座付き作家・中島かずきは江戸時代の演劇人の物語を書いた。彼らが歌舞伎の大名作『忠臣蔵』を上演するために全力を注ぐ熱い物語に新感線が上演してきた45年分のセルフパロディ・セルフオマージュの要素も盛り込まれる趣向だ。旧来のファンも新規のファンも見逃せない貴重な公演でイープラス貸切公演もある。
SPICEでは今回、『爆烈忠臣蔵』インタビュー企画第1弾(小池栄子 8/28公開)に続く、第2弾として、6年ぶりの出演となる橋本じゅん、8年ぶりの出演となる羽野晶紀、そして5年ぶりに出演する橋本さとしに、思い出を語り合ってもらった。3名とも大阪芸術大学の学生を中心に旗揚げした新感線の初期メンバーで、劇団が人気劇団に駆け上がっていったときの立役者たちだ。青春期を彩ったメンバーはずいぶん離れていても顔を合わせた途端、すぐに息が合う。話しが飛んだり、戻ったり、関西の言葉でのびのびと、終始笑いが止まらない座談会となった。彼らのこの地頭の良さ、瞬発力、陽気さ、キャラの濃さ、生真面目さが新感線を支えてきたのだ。
■空中で一回止まれ
――製作発表で橋本じゅんさんが「今、劇団員で集っているのは大阪芸大の“一食”と言われているところでしょっちゅう集まって遊んでいた人たちなので、我々のプライベートな遊びをこうやって皆様に見せることは恐縮なんですが、でもそのまま見て楽しんでいただけるかと思っております」とお話しされていました。“一食”とは食堂のことでしょうか。
橋本じゅん(以下じゅん) いくつかあるうちのひとつめの第一食堂です。教室からの帰り道に通る場所にあったから、みんなここに立ち寄っていました。なにかと集まっていて楽しかったですね。
羽野晶紀(以下羽野) 同期入団の女の子が、ここでいつも誰かのご飯をもらっていたの。「おいしそう、ちょっとちょうだい」って。ちょっとって言いながら全部食べちゃったり(笑)。
じゅん そんなことあったなあ(しみじみ)。
――3人が新感線に入った順番はじゅんさん、羽野さん、さとしさんですか。
じゅん そうなんですけど、僕は一回、新感線から脱走しまして。自分で劇団を作ったこともあります。
羽野 私がお手伝いで入ったときは、じゅんさんはいなかったです。さとし先輩はいつからいるんですか?
さとし 僕は『ヒデマロ4〜逆襲のビリィ』(89年)から。晶紀は学年としては後輩だけれど、劇団には先に入っていたんだよね。
――さとしさんは元劇団員ということなのでしょうか。
さとし そうですね。もう20数年前に辞めて。でも辞めてからも劇団☆新感線というものに対して心の中でずっとこだわり続けていて、2018年に『メタルマクベス』disc1で21年ぶりにやっと帰ることができた。21年間ずっとどこかで劇団に帰ることを目標にしていたので感慨無量でしたよ。
羽野 長かったねえ。私は、結婚してしばらく休んでいて、『髑髏城の七人』Season月《下弦の月》(17-18年)で復帰しました。
――3人が最後に共演したのはいつですか。
羽野 秋味(『古田新太之丞東海道五十三次地獄旅~ハヤシもあるでョ!』)じゃない? この間、コング桑田さんが「実家じまいをしていたら『秋味』のパンフレットが出てきたから」ってくれたの。今日、もってくればよかった。じゅんさんと私のページになぜかコングさんが映りこんでいて。たぶん扇町ミュージアムスクエアの裏のガレージで、樋口っちゃん(当時撮影を担当していた樋口裕昭)が撮ったんだよね。
――その頃、どんな役をやっていたか覚えていますか。
羽野 私は新太之丞一座の一員でした。
じゅん 僕は納豆之助、実は水戸黄門。さとしは風車の弥七で、そのとき全公演で歌詞を間違えた記録を作ったんだよね。
さとし 本番中、歌詞を間違えまくって。当時シアターアプルで、たしか全14公演が、1勝13敗でした(※筆者註:橋本さとしはロック好きで見た目はかっこいいがちょっと抜けているキャラとして認識されていた)。
羽野 楽屋で「またやりよった」と言われていて。さとし先輩はいつも適当なことばかりしていたから私にとって日本一尊敬しない先輩だったんですよ。でもこの間、ようやく尊敬に変わったの。
さとし それは?
羽野 NODA・MAP『Q』(19年)で共演したとき、日本一尊敬してない先輩がめっちゃ尊敬できる先輩に変わっていてびっくりしたんです(笑)。
――じゅんさんは尊敬できる先輩ですか。
羽野 そうですね。ずっと全力投球ですよね。毎回、手を変え品を変え全力でやっているのがすごいなと思う。今回も第一幕から出ていて、トップバッターなんだけど、稽古であんなに最初から全力でやられたら困っちゃう(笑)。
じゅん いやあ(照)。というか、体を使う他に術を知らないから。もっと頭が良かったら……と思います(※筆者註:橋本じゅんは体を圧倒的に酷使した熱い芝居に定評がある)。
さとし でかい壁があっても、それを乗り越えるというよりも、それをぶち壊して前に進む。
じゅん そういうニーズだからやっているだけで。もういい加減にしてほしいですけどね(笑)。ちゃんとやらなくていいと言われたら俺は全然ちゃんとやらないよ。
羽野 え?
じゅん やらないやらない(笑)。いのうえさんが、え?と思うようなことを言うからやっているだけ。例えば、昨日の稽古では「ここはもう四つん這いで全力で走る」と言われて。
羽野 めっちゃおもろかった。
じゅん とりあえず膝パッドをしていなかったので、ちょっとはしょって走りましたけど。
羽野 ここまでは四つん這いで、そのあとは猛ダッシュで行けとかっていうオーダーなの。ヤバイよね。
さとし 四つん這いから立つだけで結構しんどいですよね。
じゅん いやまあ、でもいつものことでしょう。やれば飛べると思われているんじゃないかな。
さとし・羽野 ははは(笑)。
さとし 「空中で一回止まれ」というのは普通でしたもんね。
じゅん 昨日の夜中というか今日の明け方、両足がつって、金縛りみたいになって。どんな体勢していても痛いから立っていました、暗闇の中で(笑)。9月19日の初日を無事に迎えたいですね。
羽野 気をつけてくださいね。
■やらかした先輩たち
――今回、有名なお芝居のオマージュが色々あるそうですが、新感線の過去作のオマージュも出てきますか。
羽野 ありますよね。じゅんさんは「コーー」っていうセリフが。
じゅん 「コーー」って出てきますよね(笑)。あと、被り物も出てきます。いのうえさんって、動物好きなんですよね。稽古場の演出家席のテーブルのかごの中にちっちゃいパンダがいっぱい入っているのを見て、気持ち悪っと思った(笑)。魚市場のサバが折り重なってカゴに入れてあるみたいで。
さとし いのうえさんのテーブルのティッシュケースもパンダですよね。
じゅん いつのまにファンシーな人になったのかな。
羽野 パンダかわいいやん。私も今日はパンダのマニキュアをしてきました。古田さんもパンダが好きなんですよ。
さとし じゅんさんの今日の衣装、パンダみたいじゃないですか(※筆者註:白と黒だった)。
全員 あははははは。
――じゅんさんとさとしさんは昔、兄弟キャラみたいなときもありましたよね。
じゅん じゅんとさとしでコンビのように活動させられていた時期がありました。『髑髏城の七人』(90年)の抜かずの兵庫(じゅん)、抜きの大吉(さとし)の兄弟が代表作ですね。
さとし ダブル橋本と言われていて。
じゅん 今はダブル村木(村木よし子、村木仁)がいるんだけどね。僕らは名前が平仮名なので兄弟のように思われていましたよね。
さとし だからいまだにまちがえられます。例えば「朝ドラに出ていましたよね」と言われて、僕じゃなくてじゅんさんのことだろうと思っても、ここは否定しないで「見てくれましたか!」と答えていました。
――じゅんさんは『ブキウギ』(23年度後期)に出ていて、さとしさんは『なつぞら』(19年度前期)に……。
さとし 『なつぞら』にはじゅんさんも出ていて。
じゅん 映像で初めて一緒になったよね。
――朝ドラでダブル橋本共演と昔からの新感線ファンに話題でした。今回はふたりの絡みはありますか。
じゅん 一緒のシーンに出てはいるけど絡みはないですね。今回、登場人物が多いし劇中劇も多いから、とくに第一幕は顔見せで終わりそうだよね。
さとし メンバー紹介という感じですよね。
羽野 第二幕になったら、キャラがめっちゃいっぱい出てきて、わしゃわしゃになる。1ページにひとつしかセリフがないような状況になってくるんで、これ飛ばさんようにせななって。
じゅん 確かに。
さとし セリフが少ないほうが油断するよね。
じゅん 物語に入り込んで集中していたら、自分のセリフを忘れて、シーンとなることもあるから気をつけないと。そういえば、僕、さとしくんと一緒のとき以外は出とちりしたことがないんですよ。
羽野 一緒のときは出とちるの? 意味わからん。ふたりいるのになんで?
じゅん ふたりいるのにふたりの力が倍にならない。
さとし ふたり一緒に楽屋でモニターを見ていたりして。「ここ俺たち出てる場面だよな」って。
じゅん ふたりで慌ててセリフを言いながら楽屋を飛び出して(笑)。
羽野 うそやろー(笑)。
(ここで、『髑髏城の七人』の初演で出とちり(出遅れ)ならぬ出早(早く出てしまう)をやった話をさとしが身振りを交えて再現しようとして立ち上がるが、衣装のジャケットが椅子にひっかかって立ち上がれずつんのめる。それを羽野は「ちょっと待って壊れる」と諌める。じゅんが「奇跡を起こしそうになっている」と笑う。まるでお芝居のような展開だった)
さとし 『髑髏城の七人』の初演の頃は、舞台の転換も劇団員でやっていたよね。ウエキさん(逆木圭一郎)と一緒に転換するところを僕が忘れて、次の出番のスタンバイをしていた。ふと見たら、ウエキさんがひとりで転換していて。あとでめちゃくちゃ怒られました(笑)。
じゅん そのあと、転換のスタンバイに今度は早めにつきすぎて、出番なのにいなくて。僕とサンボちゃん(河野まさと)がおまえなしで乗り切ったこともあったよ(笑)。
羽野 ひどいよね。だから尊敬していない先輩だった。
じゅん 狙いなのか天然なのか、さとしは入り混じっているよね。そんな反応する?という奇跡的な瞬間が時々あって。
さとし とっさの判断ですね。
じゅん その判断が全部間違ってるんだよ(笑)。
羽野 新感線から離れて帝劇ミュージカルなどに出ているときはどうしているの?
さとし 歌詞が飛んで帝劇のど真ん中でひたすら仁王立ちしたことがある。
じゅん 僕も朝、大河の撮影で、40キロくらいある鎧を着せられてふらふらに疲れて、その夜、『レ・ミゼラブル』に出てソロの歌詞を忘れたことがある(笑)。
羽野 先輩たちはやらかしているんだなあ(笑)。
――羽野さんはそういうやらかしはないんですか。
羽野 私はないです。こう見えてしっかりしているんです。
さとし セリフを噛むこともないしね。
じゅん 晶紀はね、古田もそうなんだけど、最初から芝居が巧かったんですよ。
さとし うん。オーラが違うというか……彼女のほうが後輩ですけど、僕ら、焼き肉をおごってもらっていましたし。
じゅん はっはっは!(笑) ホントにお世話になったよな(笑)。
羽野 新感線は、お客さんがたくさん入ってくださる公演ができるようになってからもしばらくの間、劇団員はノーギャラだったんですよね。そのなかで、私は外でお仕事をさせてもらっていたので、ごちそうしていたんです(※筆者註:羽野は「浪花のキョンキョン」と呼ばれる人気者で外部活動も盛んに行っていた)。
じゅん たくさんごちそうになったね。
さとし 料理も上手だったしね。
羽野 お稽古場におでんを作って持っていったり。
じゅん 唐揚げとかおにぎりとかも差し入れしてくれたよね。
さとし 喋り方がふわ〜としてスローテンポなのに、最も姉(ねえ)さん的だったよね。
羽野 今回は先輩たちにごちそうしてもらおう!
じゅん 先輩といえば、古田が大阪芸大の1年のとき、筧利夫さんや渡辺いっけいさんが4年生で、“一食”で南河内万歳一座の4年生とたばこを吸いながらひそひそ話していて。それを僕らは一番端のアイスクリーム売り場のそばで、「先輩たちかっこええなあ。4年生になったらああいう先輩になろうなあ」って憧れを込めて言っていたんですよ。いざ4年生になったら、晶紀に「あんた〜落研の人?」なんて訊かれるような4年生になってしまった(笑)。そのとき、さとしが3年生で、聖子ちゃん(高田聖子)は2年生。そこに、羽野やインディ高橋、右近健一が衝撃的な1年生として現れた。
さとし 新感線ではないけど福田転球もいましたね。
じゅん みんな大阪芸大のミュージカルコースで。それがいまやこんな由緒正しい場所で製作発表をさせていただいて、ええんかって思いますよね。
■「新感線魂」で突っ走れ
――「新感線魂」という言葉も製作発表会見で出てきましたが、「新感線魂」とはどういうものか。今回の作品でそれを見せつけていただけるのか、お聞かせください。
さとし 「新感線魂」と僕はいろんなところで言っていて。それは自分の原点という意味ですね。原点を持ち続けているからこそ、今につながっているような気がするんで。原点とは何かと言ったら新感線で育ったというプライドとか意地みたいなものやなと思っています。
じゅん ええこと言いましたね。本当にそのとおりで、言い換えると「芸大魂」なんですよね。僕らは芸大で演技を学び、4年間、演技のことしかやってないんです。例えば、生瀬勝久さんや山西惇さんがいた劇団そとばこまちなどは、同志社大学や京都大学の様々な学部で学業に励みながらお芝居もやって、あれだけ上手だった。それに対して、演劇を専門に勉強している俺らが負けてはあかんやろっていう意地が当時はあったんです。それを「芸大魂」と勝手に名前をつけて、そのまま新感線に移植させた感じがします。今や演劇界では「新感線イズム」というほうが伝わりやすくなったのかな。
さとし 確かに。
じゅん 「A棟」(エートー)という恐ろしい稽古場がありましたよね。あそこの経験も大きいよな。
さとし 大きいですね。
じゅん 芸大の中に今は舞台芸術棟という7階建てのエレベーターの付いた立派なビルが建っていますが、昔はプレハブだったんですよ。そこに「A棟」という稽古場があって、「いのうえひでのりは河合奈保子が大好き」といのうえさんの直筆のサインが書いてあった(笑)。そこで、それはそれは恐ろしい稽古をしたことも懐かしい思い出です。
羽野 私もよく「新感線魂」という言葉を使います。それはくだらないことでも全力投球という意味で、これはもう先輩方から教えてもらったことですので、今回も最後まで新感線魂で頑張りたいと思います。
取材・文=木俣冬
写真撮影=竹川友絵(松竹株式会社)
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公演情報
チャンピオンまつり いのうえ歌舞伎
『爆烈忠臣蔵~桜吹雪THUNDERSTRUCK』
■演出:いのうえひでのり
■出演:
古田新太 橋本じゅん 高田聖子 粟根まこと 羽野晶紀 橋本さとし/
小池栄子/早乙女太一/向井 理ほか
■企画・製作:ヴィレッヂ 劇団☆新感線
■公式サイト:https://www.vi-shinkansen.co.jp/bakuretsu45/
■公演期間:2025年9月19日(金)~23日(火祝)
■会場:まつもと市民芸術館
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■問合せ:サンライズプロモーション北陸 025-246-3939(火~金12:00~16:00/土10:00〜15:00)
■公演期間:2025年10月9日(木)~23日(木)
■会場:フェスティバルホール
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■問合せ:キョードーインフォメーション 0570-200-888(12:00~17:00/土日祝休)
■公演日程:2025年11月9日(日)~12月26日(金)
■会場:新橋演舞場
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11月公演:2025年9月21日(日)午前10時
12月公演:2025年10月19日(日)午前10時
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■問合せ:新橋演舞場 03-3541-2600(10:00~18:00)
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<イープラス貸切公演>
・1回目:11/20㈭夜公演
・2回目:12/10㈬昼公演
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