ハッピーでマジカルな華やかさと人間臭さ。大貫勇輔×小野田龍之介×上川一哉が語るミュージカル『メリー・ポピンズ』の魅力とは
-
ポスト -
シェア - 送る
傘を差し、空からバンクス家にやってきた、子守のメリー・ポピンズ。魔法で部屋を片付けたり、カバンから何でも取り出したりしてみせるメリーは、子守をすぐ追い出してしまういたずら好きな幼い姉弟の心を掴み、やがて父親のジョージや母親のウィニフレッドにも大きな影響を与えていく……。1964年にウォルト・ディズニー・カンパニーによって製作された不朽のミュージカル映画『メリー・ポピンズ』を、『オペラ座の怪人』『キャッツ』『レ・ミゼラブル』などを手掛けた名プロデューサー、キャメロン・マッキントッシュが2004年にミュージカル化。日本では2018年と2022年に上演され、その驚きに満ちたマジカルな仕掛けや色鮮やかで美しい世界観で、多くの観客を魅了した。
3度目の上演となる2026年は、メリー役に濱田めぐみ、笹本玲奈、朝夏まなとのトリプルキャスト。そしてメリーの旧くからの知り合いで、バンクス家の子どもたちとも仲良くなる煙突掃除夫のバートは、初演から出演している大貫勇輔と、初演はロバートソン・アイを演じ再演からバートを演じている小野田龍之介、さらに初参加の上川一哉が加わる。大貫、小野田、上川に作品の魅力、バートという役の面白さと大変さを訊いた。
――バート役としては大貫さんは3回目、小野田さんは2回目、上川さんは初参加。大貫さんと小野田さんには再びこの役に挑戦したいと思った理由を、そして上川さんにはバート役のオーディションを受けた理由をお聞きしたいです。
大貫:僕にとってバートは、本当に大きな転機となった役です。この役は死ぬまでずっとはできないと思うけれど、自分がやれる限り、オファーをいただける限りは絶対にやり続けたい。大好きな作品であり、公私ともに、思い入れがありすぎるくらいにあるんです。(初演時に)4年も費やしたオーディションで勝ち取った役ですし、それを経て観た初演の時の景色も忘れられません。再演では、それまでも色々と縁のあった龍ちゃん(小野田)と同じ役を演じたことも思い出深い。自分でも、大貫勇輔を代表する役の一つだと思っています。そもそも、作品として素晴らしいんです。素晴らしいミュージカルはいっぱいあるけれど、こんなにハッピーなミュージカルはほかにない。この作品に関われることに誇りを感じていますし、幸せです。
小野田:僕も同じです。この作品は観た方にしかわからない幸せな感覚があります。同時に、演じた人間にしかわからないマジカルもあって。演出としてマジカルな部分があるというだけではなく、俳優の心にも色々な魔法をかけてくれる作品なんですよ。ワクワクしながら涙が出てくることって普段はなかなかないのですが、『メリー・ポピンズ』をやるたびに、そんな不思議な魔法がこの世界にはあると思っています。僕はどちらかというとバートをやりたいというより、この作品に関わり続けたいという思くて、今回はバートで再びオファーをいただき、出演させて頂きます。
大貫:じゃあ次はジョージだ(笑)。
小野田:僕、本当にジョージをやりたいんですよ。
大貫:ダブルキャストでジョージを目指そうか。
小野田:ほくろをつけて?(笑) (※編註:お二人が『マチルダ』で演じたミス・トランチブル校長のこと)
大貫:いいね、肉襦袢もつける?
小野田:今までの僕たちのダブルキャストの歴史すべて詰め込むジョージができるかもしれない(笑)。でも本当に目標地点がジョージなんですよ。そのためにバートを経験しているところがある。バートって、この作品のすべてが見られるんです。物語の苦しい面も、悲しい面も、ワクワクするところも見届ける。僕も人としてたくさん成長させてもらえますし、演じる俳優の人生が投影できる役でもあります。だからバートに巡り合えたことは非常に幸せなことですが、それ以上に、この作品のひとつのピースになり続けたい気持ちが大きいです。……上川くんは、自分で「やってみたい」と思ったの?
上川:初演を観た時点で、いいなと思いました。なかなか踊り手が真ん中にいることが出来る作品って少ないじゃないですか。その中でもかなりハイレベル、求められる技術も高い。僕は劇団(四季)を辞めたあとも、やっぱり踊りを続けていきたいなと思っていたので、今回『メリー・ポピンズ』のオーディションがあるとお聞きしてぜひ挑戦したいなと思いました。
――上川さん、特に退団以降だと“歌の人”のイメージが強かったかもしれません。
小野田:『20世紀号に乗って』で踊ってたけどね!(※編註:2024年上演。小野田さんと上川さん共演)
上川:そもそも踊る演目自体が……。
大貫:多くないもんねぇ。
上川:だから“踊り畑”から来た人間としては、『メリー・ポピンズ』という作品、バートという役はとても魅力的なんです。
――初演のオーディションは4年かけたというお話がありましたが、今回のオーディションはどんな感じだったのですか?
大貫:何日もあったの?
上川:はい、受けにいっては「落ちたー!」とへこんで、また呼んでいただけて「やるぞ!」と上向きになって……を、繰り返しました。『メリー・ポピンズ』の世界観と、バートの労働者という面から求められるスタイルがあって、さらにタップダンスがあり……やりたい気持ちと、上手く自分がこの世界に染まれるんだろうかという不安とのせめぎ合い。そういう意味ではちょっと大変でした。結果、出演できることになってもちろん嬉しいのですが、まだ不安もあるのが正直なところ。でもやるしかないなという気持ちです。
小野田:オーディションでは何をやったんですか?
上川:あそこのシーン……2ペンスのところ。そこから歌に繋げて。
小野田:ああ、凧あげのところね! 子どもと話すところ。「チム・チム・チェリー」もやったんじゃない?
大貫:タップもやったでしょ? 「ステップ・イン・タイム」で。
上川:そうそう。
小野田:とにかくバートのオーディションは、やることが多かったよね。
――小野田さんは本作ではロバートソン・アイとバートの二役を経験しています。
小野田:僕、実は初演時はバート役でオーディションを受けていたんです。その、4年くらいかけたオーディションで。でもその途中、別の仕事で怪我をしてしまって。ちょっともう踊れないので、バートのオーディションは辞退しますと相談したら却下されまして……。では踊りのない役を受けさせてくださいとお願いし、ロバートソン・アイを受けることになったんです。僕はもともとディズニー大好きなんですが、ロバートソン・アイって映画には出てこないキャラクターなんですよ。だから「それは何だ?」とわからないまま受けました。まさかあんなにてんやわんやな役だとは思わなかった(笑)。でもこの『メリー・ポピンズ』を二つの役、違う視点から見られたのはとても贅沢ですよね。今のところそれは僕しか経験していないので!
――そんなみなさんが演じるバートですが、メリーほど謎ではないにしても、意外とバックボーンが語られていない人物です。どう役と向き合っていらっしゃるんでしょう。
大貫:勝手に自分の中でバートのそれまでの人生を作っていますね。中流階級の中で少し貧しいくらいの育ちで、でもメリーに出会い、自分の好きなことをして生きていくことに目覚めた。家族もきっといない。流れに身を任せ生きている人だなと思って僕は演じています。
小野田:同じ感じです。中流階級の生まれで、ヤンチャ坊主で特に何にも興味を持っていなかった子がメリーと出会い、魔法をかけてもらった。きっと「自分もメリーのような人間でありたい」と思わせてもらったんだろうな。だから本当に色々な職業、顔を持っている。だから一瞬、メリーだけでなくバートも魔法使いのような雰囲気になるのですが、決してそうなってはいけない。あくまでも「最もメリーの世界を楽しめる人間」なんです。
大貫:そうそう。
小野田:メリー・ポピンズと再会できる人って、きっと滅多にいなくて、それだけでバートは選ばれし人。メリーとシンパシーで繋がっている。また、彼はエンターテイナーな部分もたくさんあるのですが、労働者だというところは絶対忘れてはいけない。「貧しいからこそ心が豊か」というのは、心がけているところです。メリーのマジカルな雰囲気を際立たせるためにも、我々は人間らしくいた方がいいですしね。
大貫:でも、僕は魔法を使えるようになったんで、メリー側に寄せて今回は役作りしようかなと……。
小野田:それは違う作品だから!(笑) バートは魔法を使っちゃダメなんだって! (※編註:大貫さんは舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』でハリー・ポッター役を演じている)
大貫:ダメか。
小野田:ダメなの。……上川くんはどう?
上川:まだ現時点でこうだろうと決めずに、ほかのキャラクターとの関係性などから創っていきたいですね。それによってどんな色が出てくるのかも楽しみですし、お二人からも色々とお聞きしなら、自分なりのバートを作っていけたらと思います。
――バートは魅力的な役ですが、すごく大変な役でもあると思います。踊りも多く、アクロバティックな見せ場もある。演じていて大変なところは。
大貫:全部です!
小野田:全部です。
上川:このお二人からはもうずっと、大変さを聞いています(笑)。
小野田:幕開きから幕が降りるまで、一切気が抜けない。幸せな瞬間も楽しい瞬間もたくさんありますが、それと同じ分量の苦しみがある(笑)。体力的にもですが、けっこう、神経がすり経るんですよ。
大貫:うん。
――そうなんですね! 幸せな作品ですし、気持ち的にはハッピーなのかと。
小野田:ハッピーはお客さまが受け取るものであって、そのハッピーを届けるために俳優は苦労するんです。俳優自身がハッピーだったら「浮かれている俳優を見た」で終わってしまう(笑)。しかも『メリー・ポピンズ』って楽しいところがクローズアップされますが、けっこう深い人間ドラマが描かれているんです。ハッピーに行き着くまではシリアスですし、何よりも「メリーの魔法」は非常に神経を使います。
大貫:白鳥みたいだよね。水中では必死に足掻いているけれど、水の上ではその姿は見せない。本当は息が上がっているけれど、それを見せないようにしている。
小野田:実際、絶対に息が上がってはいけない、肩で息をついてはいけない、と言われています。
――メリーは何があっても動じない、息が上がったりしない、というところがあると思っていましたが、バートもなんですね!
小野田:そうなんです。
上川:ビジュアル撮影でバートの衣裳を着させていただいて、すごく感動したのですが……暑かった(笑)。あれ、しかも中にハーネスを仕込んで、その上で踊るんでしょ?(※編註:「ステップ・イン・タイム」のシーン)
小野田:だから大変なの。めちゃくちゃ身体が重い……。あのシーンの最初からハーネスはつけているから。
上川:わー……。撮影でもずっと、ジャンプしていました。それだけで筋肉痛になった(笑)。
――最後に2026年版『メリー・ポピンズ』での期待、楽しみにしていることを教えてください。
上川:物語と音楽は本当に魅力的ですし、舞台装置など、目で見て耳で聴いて感じることがたくさんあるミュージカルですので、僕自身、この世界に入っていけることを楽しみにしていますが、お二人のお話を聞いても、すごく集中力がいる作品なんだなと感じています。メリーの魔法を表現するには、危険を伴うこともあるかと思うので、そういうところにはもちろん気を付けながら、僕も最大限、楽しんで演じていけたらと思います。
大貫:華やかな部分はより華やかに、泥臭い部分はより泥臭く、その両極がもっともっと離れて見えるように、それでいてスッとゼロの地点に戻るような強弱をつけていきたいです。そういう中でジョージや子どもたちと接した時の感情がより色濃くなっていくのかな、と思っています。
小野田:僕も同じです。どうしても何回も演じていると、ナンバーもセリフも自然に身体に入っていますし、スムーズにいく。そうなったがゆえにエンターテイナーの部分が強くなりすぎないように気を付けたい。労働者であること、バートの人間臭さは大事にしていきたいですから。そしてその“人間的部分”というのは、若いうちより、年を重ねた方が滲みやすいだろうなとも思っていて、20代で演じるバートと30代で演じるバートは絶対に匂いや味が変わってくる。それを自然に活かせられたらいいですね。またジョージがお二人とも新キャストになります。ジョージとの関係性が最後の要になりますので、その新しい空気を感じて、自分たちのバートを作っていきたいです。あとはどんな子どもたちと出会えるのかも重要。
大貫:本当だね。この物語、子ども次第のところがあるからね。
小野田:楽しみにしています!
取材・文=平野祥恵 撮影=中田智章
《大貫勇輔》ヘアメイク/松田蓉子 スタイリスト/立山功 衣裳協力/ジャケット¥162,800-、シャツ¥47,300-、パンツ¥99,000-/Yohji Yamamoto POUR HOMME(ヨウジヤマモトプレスルーム tel 03-5463-1500)、ブーツ¥83,600-/Y’s for men(ワイズプレスルーム tel 03-5463-1540)
《小野田龍之介》スタイリスト/津野真吾(impiger) ヘアメイク/池田ユリ(éclat)
《上川一哉》スタイリスト/綾部秀美 ヘアメイク/千葉美智子
公演情報
メリー・ポピンズ:濱田めぐみ/笹本玲奈/朝夏まなと(トリプルキャスト)
バート:大貫勇輔/小野田龍之介/上川一哉 (トリプルキャスト)
ジョージ・バンクス:小西遼生/福士誠治 (Wキャスト)
ウィニフレッド・バンクス:木村花代/知念里奈 (Wキャスト)
バードウーマン/ミス・アンドリュー:島田歌穂/樹里咲穂(Wキャスト)
ブーム提督/頭取:コング桑田/安崎 求 (Wキャスト)
ミセス・ブリル:浦嶋りんこ/久保田磨希 (Wキャスト)
ロバートソン・アイ:石川新太/DION(Wキャスト)
石川 剛、伊藤稚菜、岩下貴史、小形さくら、工藤 彩、熊澤沙穂、小島亜莉沙、小林遼介、今野晶乃、齋藤信吾、咲良、清水 錬、白山博基、高瀬育海、高田実那、高橋慈生、高山裕生、照井裕隆、東間一貴、中原彩月、長澤仙明、西村実莉、廣瀬喜一、福満美帆、MAOTO、水島 渓、吉岡慈夢、吉田玲菜(五十音順)
企画制作:ホリプロ/東宝
主催:ミュージカル『メリー・ポピンズ』製作委員会
【東京公演】
日程:
東京公演:2026年3月28日(土)~5月9日(土)
会場:東急シアターオーブ
東京公演:プリンシパル出演スケジュール>>https://marypoppins2026.jp/castsch_tokyo.html
<平日料金>
SS席:16,500円
S席:15,500円
A席:12,000円
B席:7,000円
S席セット:30,000円(2枚セット)/42,000円(3枚セット)/54,000円(4枚セット)*
Skyヤングシート:8,000円(25歳以下当日引換券)*
<土日祝料金>
SS席:17,500円
S席:16,500円
A席:13,000円
B席:8,000円
S席セット:32,000円(2枚セット)/45,000円(3枚セット)/58,000円(4枚セット)*
Skyヤングシート:9,000円(25歳以下当日引換券) *
Yシート:2,000円(20歳以下当日引換券)*
*=ホリプロステージのみ取扱い
https://horipro-stage.jp/news/mp2026_ticket/
【大阪公演】
日程:2026年5月21日(木)~6月6日(土)
会場:梅田芸術劇場メインホール
<公式X>https://x.com/marypoppinsjp #メリーポピンズ #メリーポピンズ2026