昆夏美&星風まどかが信念を曲げず突き進む科学者を熱演〜ミュージカル『マリー・キュリー』囲み取材&ゲネプロ(星風まどかver.)レポート

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レポート
舞台

ミュージカル『マリー・キュリー』舞台写真

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2025年10月25日(土)、東京・天王洲 銀河劇場にてミュージカル『マリー・キュリー』が開幕した。

本作は科学者マリー・キュリーの人生をFact(歴史的事実)とFiction(虚構)を織り交ぜて描く、ファクション・ミュージカル。2018年に韓国で誕生し、韓国ミュージカルアワードで大賞を受賞するなど高く評価された。2023年の日本初演では鈴木裕美が演出、愛希れいかが主演を務め、初日から口コミが広がっていき熱狂的な支持を集めた。

再演となる本公演ではプリンシパルキャストがWキャストとなり、マリー・キュリー役を昆夏美・星風まどか、ピエール・キュリー役を松下優也・葛山信吾、アンヌ役を鈴木瑛美子・石田ニコル、ルーベン役を水田航生・雷太が務める。

本記事では初日前に行われた囲み取材とのゲネプロの模様をレポートする(Wキャストはマリー・キュリー:星風まどか、ピエール・キュリー:葛山信吾、アンヌ:石田ニコル 、ルーベン:雷太)。

囲み取材レポート

(上段左から)鈴木裕美(演出)水田航生、鈴木瑛美子、石田ニコル、雷太(下段左から)松下優也、昆夏美、星風まどか、葛山信吾        撮影: 田中亜紀

囲み取材には、鈴木裕美(演出)、昆夏美、星風まどか、松下優也、葛山信吾、鈴木瑛美子、石田ニコル、水田航生、雷太ら9名が登壇。最初に、初日を前にした気持ちをひとりずつ述べていった。

昆は緊張していると言いつつも「稽古で必死に自分と向き合ってきたこと、そしてみなさんを信じて、素敵な公演を毎日務められるよう頑張っていきたい」と決意を語る。星風は「作品の中に生きるマリー・キュリーさんの魂、そして作品が持つ心をお客様にお届けできるよう、みなさまを信じて、化学反応に背中を押していただきながら初日に挑みたい」と真摯に述べた。

「髭付きの松下優也です」と挨拶して笑いを誘ったのは、1つ前の出演作がドラァグクイーン役(ミュージカル『キンキーブーツ』のローラ)だった松下。「物理学者の男性の役ということで、間に合うのかなと思っていましたが、カンパニーのみなさんに導いてもらったお陰で間に合いそうです」と笑顔を見せた。葛山は「いろんなプレッシャーがきていまして、余計なことを考えている現状であります」と述べながらも、「最後の最後までどんどん変化を楽しみたい」と、翌日から始まる自身の初日に向けて意気込みを語った。

鈴木瑛美子は稽古期間にカンパニー全体で話し合いを重ねてきたことを振り返り、「毎日の体感で新鮮さを感じながら、日々自分自身も楽しんで心からアンヌとして生きられたら」と目を輝かせる。続けて石田も「ずっとみんなで稽古を頑張ってきたので、最後まで怪我なくやりきっていきたい」と切に語った。

ここ最近で一番緊張していると言うのは水田。「もっと良くなるんじゃないかという探究心があるからこそ、いい意味で固まっていない。その探求を千穐楽まで止めずに、集中して臨んでいきたい」と、幕が開いてからの進化に期待を寄せた。Wキャスト故に客観的に作品を観ることができたという雷太は、「みなさまのパフォーマンスで心震わされる瞬間がたくさん。すべてが素晴らしい作品に仕上がっていると思います」と作品の完成度の高さに自信を見せた。

演出の鈴木は「たいやきで言うと、“尻尾の方にあんこが入っていないぞ”ということはない。どこもパンパンにあんこが入っていると言いますか、どのシーンを見ても完成度が高い良い作品になっているかと思います」と、作品をたいやきに例えてキャスト陣の緊張をほぐしていた。

その後は役毎に質問が及んだ。まず、マリー役がどのような役になりそうかと聞かれた主演の二人。昆は「立ちはだかる壁をどんどん壊して突き進んでいくエネルギーが、とても重要なポイントになってくる役。そこが自分の稽古期間と少しリンクして、勇気をもらえました」、星風は「本当に志高く、芯が強い女性。自分にない感情などを手探りで、引き出しを模索しながらお稽古に励んできました」と、それぞれ稽古場での役作りを振り返った。

ピエール役の二人は、今回新たな挑戦になったことを問われると「このお髭のビジュアルが役者をやっていて初めて」と松下。続けて「ピエールはマリーのよき理解者であり、生涯にわたり寄り添いサポートするような役柄。そういった役割はあまり経験してきていないので、個人的には挑戦」と回答。葛山は、30代半ばのキャストが多い中に50代の自分が加わるのは不安があったそうだが、「53歳で頑張るというのが挑戦でございます」と謙虚に語った。

アンナ役の二人には、それぞれの組み合わせのマリーとアンヌはどのような感じになるのかという質問が。鈴木は昆とのペアを「それぞれ自分を主張し合うことで、わかり合えたり信頼し合えたり、自己主張があってこそのシスターフッド」と分析。石田は星風とのペアについて「私はマリーの背中をグイッと押していけたらいいなと思うので、そのためにずっと(星風)まどかちゃんを見つめています」と、それぞれの違いを述べた。

役の見どころを聞かれたのはルーベン役の二人。水田は「全部ですね」と即答して会場を沸かせた上で、「フィクションを担っている出方をするところは、役として本当に面白い部分」と、ファクション・ミュージカルならではの見どころに触れた。一方の雷太は「ダンスシーンや表現方法が(水田と)違うところもあるのでそこも見どころ」と、Wキャストの醍醐味を語る。

作品を通して伝えたいことを問われた演出の鈴木は「マリーの科学に対する愛、夫婦の愛、友人との愛、様々なタイプの愛が描かれています。そこに非常に強い情熱を持って進んでいく主人公がいるので、ミュージカルファンの方も演劇ファンの方も、何かを愛して突き進んでいくところに共感していただけるのでは」と、作品で描かれる愛について述べた。さらに、各チームの魅力については「昆ちゃんたちは野心的でキラキラした、アンビシャスバージョン。個と個がぶつかり合っていく」「まどかちゃんたちは不器用で誠実な愛バージョン。お互いを思いやる気持ちがより濃い味」と、それぞれの俳優の魅力が感じられる異なるバージョンが出来上がっているという。

撮影: 田中亜紀

囲み取材の最後は、昆、星風、鈴木(演出)からのメッセージで締めくくられた。

昆「これからどんどん、緊張を解いたらまたさらにいろんな発見が出てくると思います。どうぞそれぞれのバージョンを観て、裕美さんがおっしゃったような違いも、お客様自身で体感していただけたら嬉しいなと思います」

星風「このような機会をいただけたことに、心から感謝の気持ちでいっぱいでございます。この感謝の気持ちを役としてお届けできるよう、一回一回心を込めて演じたいと思います」

鈴木「この作品は史実を基にしているけれど、フィクションも取り入れられた『ありえたかもしれない』もう一人のマリー・キュリーの物語。科学オタクであるマリーがいろいろな人との出会いを通して、人間関係が少しずつ上手になっていくお話です。共感していただけるところは多いと思いますので、ぜひ劇場にお越しください」。

ゲネプロレポート

男性科学者しかいない時代に信念を持って茨の道を突き進み、ノーベル賞を二度受賞する快挙を遂げた女性、マリー・キュリー。日本でも“キュリー夫人”の呼び名で知られる彼女の“マリー”としての生涯が、繊細な音楽と濃密な芝居によって浮かび上がっていた。

物語は晩年のマリーのシーンから静かに始まる。ベッドの上でそう遠くない死を悟るマリーに対し、その娘イレーヌが、母がどんな人生を生きてきたのかを知りたいと懇願する。マリーは語り始める、「ある友達に出会ったのが、私の人生にとっての分岐点だった。それが私の人生の始まりだった」と。ここからマリーの回想の形で、20代から晩年に至るまでの彼女を語る上で欠かせない出来事が、ファクトとフィクションを交えて一気に描かれていく。

ミュージカル『マリー・キュリー』舞台写真

ポーランドからパリへ向かう列車での、アンヌとの希望に満ち溢れた出会い。ソルボンヌ大学で“ミス・ポーランド”と揶揄されながらも、負けじと男性に立ち向かっていく日々。科学への情熱を分かち合いながら、献身的に支えてくれる夫ピエールとの出会い。研究に身を捧げる中で抱く、母親としての葛藤。研究結果が日の目を見て、ようやく評価されると思ったノーベル賞授賞式で「キュリー夫人」と紹介される屈辱。徐々に判明する、ラジウムが秘めていた危険性……。

様々な困難にぶつかりながらも、マリーは決して諦めず、地を這うような努力をして前へ突き進んでいく。その溢れんばかりのエネルギーは、彼女の中から生まれる純粋な知的好奇心によるものだけでなく、科学で自分の存在意義を示したいという想いがあったからなのかもしれない。悩み苦しみながらも必死に研究を進めようとするマリーの姿から、そうせざるを得ない社会と時代背景が透けて見えた。

マリー・キュリーを演じたのは、本作が初主演作となる星風まどか。20代から晩年までの演じ分けが見事で、冒頭の低い声色と深い眼差しから、パリへ向かう列車のシーンに切り替わった瞬間の眩しい笑顔と瑞々しい歌声が印象的だ。科学のことになるとキラキラと目を輝かせ、息をつく間もないほど一生懸命に語る姿が愛らしい。一方で、困難にぶつかったときに見せる、確固たる意思を感じさせる挑戦的な表情や力強い歌声にも惹きつけられた。星風はマリーというひとりの女性の人生を通して、己の信念に従って生きることの孤独と希望を体現していた。

マリーをすぐ隣で見守り健気に支え続けた夫ピエール・キュリー役は、葛山信吾。常に穏やかに、そして控えめにマリーの研究をサポートしているが、いざというときに彼女を包む大きな手が実に頼もしい。温もりの込もった歌声も、マリーを優しく包みこんでいるようだった。劇中でマリーとピエールの恋愛模様はほとんど描かれないのだが、二人が出会ったときの思い出話をするシーンの温かい空気からは、彼らが積み上げてきた愛情や信頼関係が凝縮して感じられた。


マリーにとって唯一無二の親友アンヌを、明るくエネルギッシュに演じたのは石田ニコル。パリ行きの列車のシーンにはじまり、要所要所で表情豊かに場面を盛り上げて舞台上に光を注ぎ込む。工場の工員たちへの思いやりに溢れ、マリーに対しても最後まで誠実な態度で臨むなど、非常に人間味があり好感を持てるキャラクターだ。後半のソロナンバーでの魂の叫びのような歌声は圧巻。マリーと美しい友情のハーモニーを奏でるデュエットナンバー「♪あなたは私の星」も見どころだ。

マリーの研究の後援者であり、ラジウム工場のオーナーも務める投資家ルーベン役を演じたのは雷太。ルーベンは物語冒頭から事の成り行きを上から見下ろしており、他の登場人物たちとは違った立場で存在している。スラリとした長身が目を引き、身のこなしも鮮やか。華やかなダンスシーンでの非常になめらかな動きは目を見張るものがある。雷太は、笑顔の下に何を隠しているのかわからないミステリアスな役どころを好演していた。

本作ではプリンシパルキャストのみならず、アンサンブルキャストも一人ひとりが個性的な登場人物を担っている。特にラジウム工場の工員たちは一体感があり、マイクに乗らないような細かい芝居も丁寧に演じられていた。工員たちにはそれぞれ名前もあり、仕事もあり、夢もある。過酷な労働環境でも笑顔で励まし合う彼らの存在が、物語に厚みをもたらしていたように思う。

上演時間は1幕90分、休憩20分、2幕60分の計2時間50分。東京公演は天王洲 銀河劇場にて11月9日(日)まで。その後は、大阪公演が梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて11月30日(日) まで上演される予定だ。

史実に大胆に脚色を加えて誕生した、「ありえたかもしれない」もう一人のマリー・キュリーの物語。本作をひとつの創作された物語として受け止めるも良し。史実を調べて、どのようにフィクションが織り交ぜられているのかを紐解きながら味わうも良し。それぞれの好みで、ファクション・ミュージカルを楽しんでほしい。

取材・文・撮影(ゲネプロ)=松村蘭(らんねえ)

公演情報

ミュージカル『マリー・キュリー』
 
<東京公演>
日程・会場:2025年10月25日(土)~11月9日(日) 天王洲 銀河劇場
料金:S席13,500円 A席9,500円(全席指定・税込)
東京公演に関するお問い合わせ:スペース 03-3234-9999(10:00~15:00※休業日を除く)
東京公演主催:AMUSE CREATIVE STUDIO、AMUSE ENTERTAINMENT INC.
 
<e+貸切公演>アフタートーク付き
日程:2025年11月1日(土)
会場:天王洲 銀河劇場
開演:17:30~

<e+貸切公演>ならでは
・お席は、【独自席種・独自価格】
・アフタートーク付(星風まどか、ほか予定)

【キャスト】
マリー・キュリー:
星風まどか
ピエール・キュリー
葛山信吾 
アンヌ
石田ニコル  
ルーベン
雷太
能條愛未
可知寛子
清水彩花
石川新太
坂元宏旬

藤浦功一
山口将太朗
石井咲
石井亜早実
飯田汐音(Swing)


【手数料0円】座席選択販売
受付期間:2025/6/7
10:00~2025/11/117:30
申し込みは【こちら】から
 
<大阪公演>
日程・会場:2025年11月28日(金)~11月30日(日) 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
料金:全席指定 13,500円(税込)
大阪公演に関するお問い合わせ:キョードーインフォメーション 0570-200-888 (12:00~17:00/土日祝休業)
大阪公演主催:キョードーグループ
 
【キャスト】
マリー・キュリー(Wキャスト): 昆夏美 ・ 星風まどか
ピエール・キュリー(Wキャスト): 松下優也・葛山信吾
アンヌ(Wキャスト): 鈴木瑛美子・石田ニコル
ルーベン(Wキャスト): 水田航生・雷太

 
能條愛未 可知寛子 清水彩花 石川新太
坂元宏旬 藤浦功一 山口将太朗 石井咲 石井亜早実
飯田汐音(Swing)
 
【スタッフ】
脚本:チョン・セウン
作曲:チェ・ジョンユン
演出:鈴木裕美
翻訳・訳詞:高橋亜子

プロデューサー:松本有希子 多田里奈 イ・ギョンビン
エグゼクティブプロデューサー:小見太佳子 清山こずえ
 
オリジナルプロデューサー カン・ビョンウォン
オリジナルプロダクション LIVE corp.

企画・製作:AMUSE CREATIVE STUDIO
 
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