「これで終わってもいい」と思うくらいやりきるーーBRAHMAN結成30周年、MAKOTOがライブを通して伝えたてきたこと
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結成30周年記念、3日間に渡って幕張メッセで開催されるBRAHMANの『尽未来祭 2025』。メンツがエモい、アツい、ていうかカオスすぎる、と大きなどよめきが広がっている現在だが、開催直前企画として、今回は普段スポークスマンとして出てくるTOSHI-LOW以外の声を聞くリレーインタビューをお届けする。
第2弾はベーシストのMAKOTO。ステージでは全身を使って暴れているが、普段は穏やかであまり口数の多くない男でもある。彼が、そしてBRAHMANが、ライブを通して伝えてきたもの。ライブを続けることで築いてきたものとは。生粋のライブバンドを揃えた『尽未来祭』2日目をイメージしながらお読みください。
「ライブが格好いいバンドでありたい」
変わらない意識と、進化させてきたスタイル
一一前回の『尽未来祭』からの10年を振り返って、印象的な出来事ってありますか。
いろんなことしてきましたけど……(ディスコグラフィを見ながら)すごいね、10年でOAUって2枚もアルバム出してるんだ。
一一ベストアルバムまで出てます。
すごい、OAU3枚も出してる。それにひきかえBRAHMANは2枚(笑)。
一一OAUのほうが作品作りが楽しいんでしょうか?
いや? OAUに関してはほぼほぼマーティンが曲作って持ってくるんで。曲を書くペースがマーティンは早いっていう。基本があるからそこからアレンジするにしてもスムーズだし。こないだのアルバムなんかはマーティンがプロデュースして、RECしながらフレーズ考えたりもしていったから。だから作業自体は早いっすね。
一一2つのバンドで、気持ちって全然違うものですか。たとえばライブの日に会場に向かう時の感覚も違うとか。
あぁ……まぁ楽器が違うので。広義でベースだけど、全然違いますね。どっちも難しいけどあっちはもっと難しい。
一一動き方も違うし。
うん。OAUだとあっち行ったりこっち行ったりできないし、必然と、音を聴くことに集中できますし。で、OAUのライブだと、ここ2年くらいイヤモニ使い始めて。前は自分のモニターアンプの音聴いてやってたけど、イヤモニ使うと……ライブやっててもちょっと寂しい(笑)。
一一とはいえ、完成度を上げるためには必要だった?
ですね。アンサンブルの精度はすごく上がったと思う。イヤモニだと今まで聴こえなかった音も聴こえてくるから。ドラムがちゃんと聴こえたり、特にKOHKIのギターがすごく聴きやすくなって。こんなに変わるんだ、と思って。
一一BRAHMANだと、MAKOTOさんはなんであんなに動くんですか?
……なんでですかね? まぁ曲を、全身で表現する。そうするとああいうことになっていくっていう。
一一『フジロック』でも流血、放送事故みたいでした(笑)。
ははは。周りをなんも見てないっていう。楽器だけじゃなく、自分のすべてを使って曲を表現するというか。そうやっていくと、あっち行ったりこっち行ったり、何かにぶつかって血を流す、みたいになっていきますね。
一一演出説もありますが。
違います。不可抗力(笑)。
一一流血も通常運転になってるのが今ですけど、あと10年同じ動きができるのかって、当然考えると思うんです。
やれるうちはやると思いますけど。でも……そんなに、あと10年とかって特に考えてもないですし。あんまり先のこと見るのが苦手。目の前で精一杯だから。でも体が動くうちはやりたいですよね。
一一そのための努力ってしてます? 走るとか。
チャリンコ乗ってるくらいですかね。前は走ってたんですけど、膝やっちゃって。今は走るとすぐ痛くなっちゃうから、チャリだったら平気かなと思って。それで今日も、家からここ来るまで、10キロぐらいか。1日往復20キロ。でも片道1時間かかんないくらいだから、全然。気が向いた時にやってますね。
一一肉体的にライブがキツくなること、今のところはないですか?
肉体的にキツいのは、頭ぶつけて血が出て痛いとか、そういう日で。まぁでも単純に、昔に比べて回復は遅くなってますよね。
一一それでも、全身で表現することはやめられない。
そうですね。スタイル……って言い方もおかしいのかもしれないけど、このやり方しかできないから。
一一BRAHMANの初期は、あそこまで激しく動いてなかったですよね。
だと思う。そこまでは動いてない。だんだん動くようになりましたね。入ったばっかりの頃は、いろんな先輩バンドのベースの動き見て。それこそレンチの松田さんの動きを見て「うわ、めっちゃ格好いいな。ああいうふうに動いてみたい」って真似してみたり。でもあんな格好よくは動けないから、自己消化で変な動きになるっていう。そういうのを繰り返してるうちに今の形になってるのかな? そうね、最初は動くベースが格好いいと思って、スタジオでも動きながら練習したり、意識してやってましたね。だからこういうスタイルになったのってBRAHMAN入ってからですね。
一一BRAHMANは、一応ロンちゃんとTOSHI-LOWくんが母体で。MAKOTOくんは数ヶ月後に加入するんですよね。
はい。だから入る前にライブは見に行ってた。格好いいなと思って見てましたよ。TOSHI-LOWの前のバンドと対バンしてて、それも見てたし、その時から格好いいなと思ってたんで。ボーカルスタイルも好きでしたね。他のバンドとはちょっと毛色が違うっていうか。
一一彼のスタイルに合わせるように、自分の動きを意識するようになっていく?
そう……なのかなぁ? でもライブが格好いいバンドでありたい、っていうのはずっとあったと思う。それは最初から話してたし。ライブハウスで格好いいバンドでありたい。それはずっと、今も思ってます。常に一個一個のライブを全力でやっていく。その瞬間瞬間ってことしか考えてなくて。
一一本当にそれだけで……よく続きましたね。
だから続いたのかもしれないですよね(笑)。先を見てないっていうか、あんまり余計なことは考えてなくて。それは今も変わってないです。その1本のライブを全部やりきる。ほんと、今日のライブが最後、これで終わってもいいや、くらいの気持ちで。
一一とはいえ人間って、どうしたって惰性が出てくるし、こなれてしまうから。毎回「これが最後」って思い続けるのは逆に難しいことでもあって。
うーん。でも今も思うかな、ライブ前に。最後でもいいくらいやりきるって。
一一生粋のライブバンドであることは間違いないと思うんですが、そういうバンドにとって、アルバムってどういうものですか?
アルバム?…………ひとつの作品。でも作品があったうえでのライブってことをまた考えるから。だからライブのためのネタ帳っすね。
過去アルバムで紐解くバンドの物語
最新作『viraha』を経て『尽未来祭』へ
一一ここからは1枚ずつ振り返っていきますね。ファースト『A MAN OF THE WORLD』ってどんなアルバムでした?
どんな……うーん! 全然弾けなくて、レコーディングですごい苦労したのは覚えてますね。
一一それまで普通にライブでやってた曲ばかりなのに?
そう。ライブでやってはいたんだけど、ライブばっかりで、レコーディングをするっていう経験が足りなくて。いざ録ると全然弾けてない。上尾のスタジオで録って、レコーディングスタジオの上に泊まって、合宿みたいな形でやってたんですけど、ベース入れが全然できないから、当時のエンジニアの清野(修)さんに「一晩特訓してこい!」って言われて。それで一晩中練習して翌日また同じ曲を弾くっていう。苦労しましたね。
一一セカンド、『A FORLORN HOPE』はどうでしょう。
これも……できなくて苦労しましたね。『A FORLORN HOPE』の時もすごい嫌で。レコーディング、上手くできないからほんとに好きじゃなかった。ライブは好きなんだけど、毎回レコーディングは嫌で嫌で。
一一いつ頃から慣れてくるんですか。
慣れはしないんだけど、サードの『THE MIDDLE WAY』か、このぐらいの時にみんなでMTRを買って。スタジオでレコーディングのためだけの練習をしたりして。MTRにドラム録って、そこに合わせて弾くとか、自分で録ったものを聴く、みたいな練習の仕方をして。そういうのをやりだしてから、だんだん、まぁ相変わらず上手くはないけど、なんとなくできるようになってきたのかな。
一一BRAHMANの本当のオリジナルって、このあたりから確立されたんじゃないですかね。
うん。『A MAN〜』ってKOHKI入って半年くらいで作った気がするし。ギターのフレーズも前のギターが考えたものだったり。だからKOHKI色がしっかり出てきたのが『THE MIDDLE WAY』くらいだと思いますね。
一一KOHKIくんは、どんなギタリストだと思ってます?
や、いいギタリストですよ。カッティングとかすごくいいし、フレーズも面白いっていうか、個性的だと思いますよ。音の使い方とか。
一一彼が入ってから、バンドの空気って変わりました?
うーん……でもそういうこと意識したこともないから、たぶんスッと入って一緒にやれてたから。最初からいい空気感を持ってきてくれたんだと思いますよ。緊張はしてただろうけど、そこまで変に気を遣うわけでもなく。最初からスッと入ってきてくれた。今思えばね。
一一はい。そして2008年、『ANTINOMY』はどんなアルバムでした?
……『ANTINOMY』は何入ってたっけ?
一一横浜BUNTAIで聴いたら、一番馴染みがない曲が多いアルバムだった。
あぁ、ライブであんまやってないかもしれない。このアルバムの曲。なんでだろう? うーん…………。
一一私の勝手な意見を言っていいですか? この時期ってBRAHMANで「これが最後」って覚悟するライブを続けてきたわりに、長く続くことをイメージしたOAUが始まったり。あとは30代になり、周りの仲間たちがいなくなっていく時期でもあり。まさに二律背反、ぐらぐら揺れている時期だったと思うんですね。それがバッと変わったのが震災以降。だからこのアルバムの曲のトーンが、震災後のテンションには当てはまらなくなったんじゃないか、と。
うん、そのとおりですね。
一一適当に言ってない(笑)?
どうだろ? 迷ってたのかな? でもOAUも始まってるし、突破口を探す、みたいな感覚はあったかもしれないですね。次のステージを探してる。
一一そこに起きた偶然が震災だった。目の醒めるような思いってありました?
それはそうですね。ほんと、1秒後に何があるかわかんないっていうのはあって。毎回「これが最後、毎回のライブをやりきる。いつ終わってもいい」って思ってきたことが、より強く思えるようになったのはありますね。
一一ライブのスタンス、支援活動、いろんなことが変わりました。
震災後、TOSHI-LOWがMCを始めて。それまでMCもなかったですけど、伝えたいことがあるならちゃんと伝えるのはいいことだと思ってた。ただ、MCがあんまり長いと体が冷えて困るんですけど(笑)。
一一イメージが変わってしまう不安はなかったですか? 今でこそ普通だけど、ロックバンドが物資の募集とか支援活動とか、それまで前例がなかったし。
俺らは別に、全然やればいいと思ってた。そこまで変わったとか、自分では思ってなかったですね。もともとパンクロックって愛だと思ってるから、そこで行動できたのはよかったと思いますよ。最初、事務所で「やろう」ってTOSHI-LOWが言い出した時、みんな「ぜひやろう」って感じだった。困ってる方たちがたくさんいたから、ちょっとでも力になろうと思ったし。
一一東北にすぐ行くのも自然なことでした?
そうですね。東北の友達が連絡してきたんですよ。「見に来てくれ」って。宮古の方が。
一一あぁ、宮古にも以前からライブに行っていたから、縁が生まれていた。無関係ではいられなかった。
それもありますね。各地にライブやった縁で仲良くなった方がいたから。
一一結局は、ライブバンドだから、という話になっていく。
そうですね。結局それに尽きると思う。
一一このタイミングで生まれたのが2013年の『超克』。これはどんなアルバムだったと思います?
これはね、タイトルに漢字が多くて、しかも読めない(笑)。セットリストにタイトル並べると漢字の塊がいっぱいで「次の曲は何だ?」って、よく見ないとわからない。でも日本語も増えたし、直接届けたいんだっていうのがすごく出てると思ったかな。
一一コーラスも増えましたよね。全員で一斉に叫ぶような。
……そっか。あんま意識してなかった。でも曲作ってて、歌が後から乗るんですけど、レコーディングの後に「あ、ここにコーラス入るんだ?」って思うことは増えましたね。
一一曲作りの段階でコーラスはない?
そう。その時はまだなくて。曲によっては歌もまだ決まりきってない段階で僕らはレコーディングするから。歌入れて、その後に「ここにコーラス入れるんだ」ってびっくりする。で、録った時はそんなの考えてないから、弾きながらコーラス入れるのがめっちゃ難しい、とかは確かにありましたし。
一一改めて、バンドとして一致団結した印象がありましたよ。
あぁ。意識はしてないけど、でも自然とみんな同じ方向を向いてたんじゃないですかね。ほんと一寸先は闇、じゃないけど、次の瞬間何があるかわかんないって、より強くみんな思っただろうし。そうなった時に「もっとバンドやりたい」ってみんなが思っただろうし。
一一そこでも「バンドをやりたい」って言葉に直結するんだ。改めて聞くと、バンドに必要なものって何だと思いますか。
もちろん好きかどうか、っていう気持ちも大事だけど。バンドってひとりじゃできないんで。やっぱりメンバーですよね。3人なり4人なり、一緒にやっていく仲間っていうか家族っていうか。それですかね。
一一DTMで作る人から聞くのが「全員が自分だったらバンドやってもいいんだけど」っていうことで。要するに違う意見を聞いたり、考え方の違いを調整するのが面倒くさいそうです。
あぁ、ひとりでやってるとそうでしょうね。でも、違う意見があるから、自分でも思ってないことが起こるから、それがバンドの面白さですよ。さっきのコーラスの話じゃないけど、自分にはなかったアイディアが人から出てくるっていうのはすごく面白いことで。
一一アイディアを主に出すのはTOSHI-LOWくんですか。
が、多いですね。
一一MAKOTOくんは、それをスッと受け入れることが多い?
そうですね。バンドなんで。誰かがやりたいって言い出したことは、自分が嫌じゃない限り受け止める。もちろんほんとに嫌だったら言うだろうし。自分で「それは違う、こうしたい」って思うことがあれば言うだろうし。そこはバランス。この4人のバランスが取れてるんだと思います。
一一大喧嘩とか、解散危機とか、過去にないですか。
どうだろう……あー、3枚目のアルバムかな? 曲順決めるのでめっちゃモメた。それでちょっと険悪になったとかはあるけど。でもこれで解散かな、みたいなことはない。考えたこともないし。
一一TOSHI-LOWくんって、MAKOTOくんから見てどんな人ですか。
うーん………すごい人。頼もしくもありますし。BRAHMANの前のバンドを見た時から格好いいなと思ってたから。
一一メンバーをそう言えるって素敵ですよ。照れて言えない人も多い。
あ、ほんと? だってKOHKIもロンちゃんも格好いいじゃないですか。
一一自分も、BRAHMANの中にいる時は格好よくあれていると思います?
わかんないっす。そうあれたらいいですね(笑)。
一一続いては『梵唄』。これは最もバランスのいい作品かなと思います。BRAHMAN完成形、みたいなことも考えたし。
あぁ。そう思ったから『梵唄』ってタイトルつけたんじゃないですかね。今までやってきたこと全部出せてるし、20何年培ってきたこと全部が詰まってる感じだと思いますね。全部ひっくるめた、みたいな。
一一ここから続く物語が『viraha』の音になるって、全然想像できなかった。
ふふふ。『viraha』、パンクっすよね。いいと思います。土着な感じがどんどん出てきて、それはそれでいいかなって。土着のお祭りみたいな曲もあるし。
一一モーターヘッドで阿波踊りになるっていう信じがたい光景もある。
ね、あれは俺もびっくりしました(笑)。でも面白いよね。このアルバムはスローな曲がないから、ライブは体力的に疲れるんですけどね。
一一今度、さらに疲れそうな3日間のお祭りが控えていますが。
いろんな方が出てくれてありがたいですよね。ずっと一緒にやってきたバンドから、初めて一緒にやる人たちもいて。嬉しいですよ、お祝いしてくれる人がいっぱいいるのは。
一一当日も、最後と思ってやりきる、それだけですか。
そうですね。それは変わらないですね、ずっと。
取材・文=石井恵梨子 撮影=大橋祐希
イベント情報
会場:幕張メッセ国際展示場9-11ホール