101歳現役作家・藤城清治の影絵は、現役大学生にどう刺さるのかーー"かわいい"から知る平和への祈りと「生きている喜び」
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藤城清治101歳展 生きている喜びをともに 2025.10.22(WED)~2026.1.4(SUN)
グランフロント大阪 北館 ナレッジキャピタル イベントラボ
日本における影絵作家の第一人者、藤城清治。1924年4月に東京都で生まれ、人形劇番組『木馬座アワー』(日本テレビ)のコーナーに登場したカエルの「ケロヨン」で一世を風靡。2025年4月に101歳を迎えた今もなおメルヘンな世界観を届けている。大阪では藤城の百一賀を祝うべく、2026年1月4日(日)まで『藤城清治101歳展 生きている喜びをともに』が開催中だ。開幕前日の10月21日(火)にはプレス内覧会が行われ、本人が登壇。影絵の魅力や展示説明だけでなく、戦争経験者としての「生きる喜び」が語られた。この内覧会に学生レポーターとして、大学4年生の咲さんと岡部光希さんが参加! その言葉や作品に、現代の学生は何を感じたのだろうか。
●101歳の創作意欲に心打たれる、藤城清治が語る「生きる喜び」
藤城清治
まずは藤城清治美術館の藤城亜季館長が「日本の影絵作家として長い月日、作り続けております。挑戦したいという野望を持っているので、これからも作品を作って長く生きていただきたい」と挨拶。続いて藤城は「大好きな大阪で8年ぶりに、それも101歳の記念として個展を開けることがうれしい。僕にとっても一番素敵な展覧会」と喜びを表した。
藤城は16歳のころから油絵を描いていたが、戦後は材料が入手できずに断念することに。一方で「太陽や月、ろうそくの光があれば影ができる、風が当たると揺れ動く。そういうものがおもしろいんだなと気づいてからは、"光と影"が中心になって影絵作家になった」と振り返る。そこから転じて動く絵画や芝居にも関心を持ち、ケロヨンをはじめとした人形劇も手掛けることとなる。
会場では処女作・油絵「おんぶ」から、『西遊記』や宮沢賢治作品の表紙などの影絵、童話作家の浜田広介と手がけた人形劇『泣いた赤鬼』、最新作「藤城清治101 アビーと共に生きる」までずらりと並ぶ。「若いころの作品を見ていいなと思ったり、40~60代は葉っぱを一千万近くカミソリで切っていたけど、今はもうそれはできないかなと思ったり。でもよくよく見ると今描いたものも負けてないなと思いますね」と自己採点した。
戦争や東日本大震災を題材にした作品
戦争や東日本大震災の惨状を描き起こした作品もあるが、取り組み始めたのは80歳からで、メルヘンな作風とのギャップに葛藤していたという。亜季館長から「父の大好きな友達が特攻隊に選ばれて亡くなった」という衝撃が走る話もなされ、心境の変化も窺える展示となっている。しかし辛い現実に向き合う意味ではなく、藤城は「こういうことが世の中にあったんだよと、100年先でも考えてくれるんじゃないか」と未来を向いて描いているようだ。
100歳以降に制作した作品
さらに「生きている限り描き続けていきたい。今日よりも明日はもっといい絵を描きたい。愛おしいことがあれば自分だけで喜ぶのではなく、みんなに見せたい」という印象的な言葉も。「すべては「生きる喜び」に尽きます。じっくり作品を観ていただき、皆さんに生きることがどんなに楽しいか、喜ばしいかということをぜひ、感じてもらえれば」とメッセージを残した。
持ち前のユーモアで終始和やかな雰囲気だったが、藤城の漲る創作意欲に感激していた学生レポーターのふたり。岡部さんは「101歳を超えてもなお創作活動への強い熱意に、心を打たれました」、咲さんは「これまでの作品に満足せず、常に上を目指していることが、魅力的な作品が描ける理由ではないかと感じました」と目を輝かせていた。
最新作「藤城清治101 アビーと共に生きる」(左)など
ここからは約150点にもおよぶ作品群から、学生レポーターたちのお気に入りを3作品ずつピックアップ! 大学生の彼女たちの目に、101歳の藤城清治の絵はどのように映ったのだろうか。
●好きな宮沢賢治と邂逅! 咲さんに刺さった作品3選
「金閣寺」「銀閣寺」
最初は上しか見ていなくて、「写真に撮ったような綺麗な作品だな」と感じているだけでしたが、下を見てみると水が溜まってあり、作品が反射して映るような置き方がされていました。実際の金閣寺・銀閣寺も池の上に建っているので、再現度が高いと感じました。また「金閣寺」は、光の加減で遠くから見ても輝いていて金色がすごく目立ちました。
「気ままなアビーの靴下えらび」
新作に込めたメッセージの時に「動物や自然・人間が好きだが、その中でも猫が好きで、かわいくてしかたない」と話されていて、他の作品にも沢山の猫が描かれていました。 お話を聞いていた時点ではまだ作品を観ていない状態でしたが、その中でも、家にある靴下のかごを猫が散らかしたというお話が印象的でした。そのあと会場を見学し、この作品が藤城清治さんが仰っていた作品だとすぐにわかりました。 言葉で伝えるのではなく、絵を描いて伝える方が分かりやすいという思いから描かれた作品で、カラフルな色の靴下を集める理由は(服装の色の組み合わせを毎日考えることで)色の感触を忘れないようにしているということでした。
「銀河鉄道の夜 天気輪の木」
個人的に宮沢賢治の小説が好きで「注文の多い料理店」と悩んだのですが、木の上から落ちてくる光の変化の違いや、木の葉っぱ一つひとつの丁寧さに感動し、こちらの作品を選びました。 また、「銀河鉄道の夜」をもとにした絵本は1983年に『ブラチスラバ世界絵本原画展(BIB)』の準グランプリにあたる「金のリンゴ賞」を獲得、影絵劇は1982年に『文化庁芸術祭』の優秀賞を得ているすごい作品を観ることができて良かったです。
●8年前に惹かれた影絵と再会、岡部さんに響いた作品3選
「つり橋は僕のハープ」
2人の小さなキャラクターが描かれたこの作品は、一見寂しげにも見えますが、街灯の温かな光や水面に揺れる反射が優しく場面を包み込みます。静けさの中に音楽が流れているような情景に惹かれました。「日輪」などほかの作品とのつながりを想像すると、藤城さんの世界がさらに広がっていくように感じました。
「青嵐 夕虹」
雨というとマイナスな印象を受けがちですが、この作品からは、雨が降るから花が咲き、美しい虹が出て、水たまりにキラキラと光が反射する、という前向きなイメージが伝わってきます。説明文にあった「雨が傘にパラパラあたる音が楽しく聞こえて……」という一文からも、自然を愛し、どんな瞬間にも喜びを見つける藤城さんの心の豊かさを感じました。
「平和の世界へ」
藤城さんのすべてをかけて平和への祈りを描いたというこの作品に、8年前、すっかり心奪われました。当時のポストカードをずっと飾っていましたが、改めて実物を観ることができ、本当に嬉しいです。戦後80年という節目のいま、藤城さんの平和への祈りがより深く胸に響きます。世界がこの絵の太陽のように、まるく、あたたかく輝く未来であってほしいと願います。
●「光と影」の魅力に気づく展覧会に
100歳以降に制作した作品
今回の学生レポーター募集をキッカケに、藤城清治を知ったという咲さん。展覧会の鑑賞を終えたいま、何を受け取ったのだろう。
咲:最初は藤城清治さんのことは知らなくて、調べてみると101歳という年齢で作品を描き続けた方だと知り、お話を聞いてみたい、作品を実際に観てみたいと思い参加させていただきました。今の時代、101歳の方からお話を聞く機会は貴重であり、戦争を体験したからこそ描ける作品、これまでの経験の技術の蓄積を感じられる作品が多くありとても勉強になりました。
同じような学生に向けて「藤城清治さんのことを知らなくても、絵に興味が無くても、多くの人に観て知ってもらいたいという気持ちになりました」というコメントも残してくれた。
「日本一大阪人パノラマ」
8年前の展覧会にも足を運び、思い出の作品との再会に喜んでいた岡部さん。
岡部:記念すべき101歳の展覧会を、大阪で開催してくださったことは、大阪府民として、誇りに思います。会場入口に展示されている大阪のパノラマについて、「これまでで一番苦労した」と語られていたのが印象的でした。繊細な光と影の表現、にぎやかで温かい色遣いには、藤城さんが大阪を深く観察し、愛情を込めて描かれたことが伝わってきます。どの作品にも、自然のような優しさと儚さが共存しており、光と影の関係を通して「生きることの尊さ」を感じることができました。
101歳の藤城清治の作品は、世代を超えて20代のふたりにも響いた模様。鑑賞後は併設のグッズショップで吟味したり、会場横のコラボカフェでキャラクターのイラストが入ったコラボドリンクを飲んでまったりしたり、心ゆくまで堪能していた。
会場内は車いすも可能とのこと。藤城清治と同世代の方から、ケロヨン世代、そして子どもまで楽しめる『藤城清治101歳展 生きている喜びをともに』は、2026年1月4日(日)までグランフロント大阪 北館 ナレッジキャピタル イベントラボにて開催中。大学生までは学割
学生レポーター:咲、岡部光希 取材・文・撮影=川井美波(SPICE編集部)