五十嵐ハルの音楽性と人間性をしっかりと示した初ライブ、『NO TITLE』渋谷公演レポート

20:00
レポート
音楽

五十嵐ハル

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五十嵐ハル 1st LIVE「NO TITLE」
2025.11.13 渋谷WWW

初めてのライブは永遠に記憶に残る。2025年11月13日、東京・渋谷WWWで『五十嵐ハル 1st LIVE「NO TITLE」』が開催された。2020年の初リリースから5年、新たな扉が開かれる時は来た。共演アクトのGrape Kikiが、およそ30分間の気持ちのこもった激しいパフォーマンスで、緊張気味の観客の心をほぐす。19時40分、客席の灯りが静かに消える。さぁ始まる。

Grape Kiki

五十嵐ハル

1曲目は「AM2:00」。4人編成のバンドを従え、アイコン通りのハットをかぶり、五十嵐ハルがセンターに立つ。スポットライトは顔には当たらない。力強い四つ打ちのダンスロックに乗せて右へ左へ、ステージを歩きながら歌い、大きく手を広げて歓声に応える。2曲目「恋熱」ではエレクトリックギターを手にし、観客のクラップを煽りながらアップテンポでぐんぐん飛ばす。8月にリリースした最新曲「ノーネーム」の、明るいカントリーロック調のリズムが楽しい。完成度の高い音源に比べ、ライブのノリはより人間くさくて生々しい。表情は光の加減でよく見えないが、歌声はのびのびとして楽しそうだ。

五十嵐ハル

「こんばんは、五十嵐ハルです。今日は僕のためにこんなに集まってくれて本当にありがとうございます。まだまだ序盤なので、いっぱい曲をやっていいですか? 最後までよろしく」

「新幹線や飛行機で来てくれた人?」という問いかけに半数以上の手が挙がる。来られなかった多くの人も含め、特別な時間を共有したい人が日本中にこんなにいる。アコースティックギターを弾きながら歌うエモーショナルなミドルバラード「笑う癖」、ピアノが刻むラテン風のフレーズが印象的な「ブラックホール」は、生ドラムと電子ドラムを融合させた精密なリズムが新鮮だ。そして切ないストーリーと、もの悲しいメロディがぐっと胸に迫る「恋花火」へ。物語を読み聴かせるように、言葉を丁寧に伝える歌声がいい。花火の音がエンディングを彩る。映像も凝った演出も何もないからこそ、思いがまっすぐに届く。

五十嵐ハル

「もう11月なのに夏の曲をやってしまいました。冬の曲もやっていいですか?」

「新曲やります」という一言に歓声と拍手が湧き上がった。「結晶」は凛としたピアノの響きが印象的な、切ないスローナンバー。サビで感情が爆発するように高鳴るメロディ、震えるような声で深いエモーションを表現する歌、そして雪の結晶を思わせる美しい照明の演出。夏の「恋花火」と対になる冬の「結晶」は、五十嵐ハルの切ない系ラブソングの代表にきっとなる。さらに続けて「少しだけ」へと、悲しい恋物語が連なり重なり、一つの物語のように聴こえてくる。よく練られたセットリストだ。

五十嵐ハル

「時間が過ぎるのはとても早くて、ここから終盤です。ぶち上げていきたいんですけど、ついて来れますか?」

「聞こえないなー」と笑って、もう一度「ついて来れますか!」と煽ってみせる、一つ一つの仕草がとても初々しい。客席いっぱいの手拍子に支えられて「めんどくさいのうた」を歌い、「懐かしい曲をやります」と言って「スカーレットハート」を歌う。明快ポップなロックチューン「スカーレットハート」は2019年に「ぺむ」名義で発表したボーカロイド曲だが、最初からバンドのライブ用に作られたようにハマってる。エレクトリックギターを弾きながら歌う姿もキマってる。

五十嵐ハル

「僕は警察官をやっていて、それを辞めて音楽活動を頑張ってきて、こんな素敵な場で素敵な人たちといいメンバーに恵まれて、最高の演奏ができています。本当にみなさんのおかげです。ありがとう」

「最後にちょっとだけしゃべっていいですか?」と前置きして、今日に至るまでの思いを言葉にする五十嵐ハル。まずは、支えてくれるすべての人への感謝。そして、音楽活動に否定的だった人たちを見返してやるという反骨心。「もやもやした思いのすべてが、この空間で消化されたと思います」という言葉は本音だろう。「夢を全力で追い続けて、自分を好きになって、好きなことをして、好きな人生を歩んでほしいと思います」という言葉に宿るのは、それをやってきた、今もやり続けている者だけが持つ説得力だ。

五十嵐ハル

「どんなにしんどいことがあっても、この最後の曲ぐらいは、僕がみなさんのヒーローになれたらと思っています――」。完璧な曲紹介から「センチメンタルヒーロー」へ、全速力で駆け抜けるラストスパート。「声を聴かせてくれよ!」と、全員を巻き込んだクライマックス。そして最後に頼もしいバンドメンバー、ヒビキ(Key)、ユウキ(Ba)、ミライ(Dr)、そしてGrape Kikiのボーカルでもあるアンリ(Gt)を紹介してライブを締めくくる。飾らない姿勢でファンと向き合い、誠実な歌と演奏で五十嵐ハルの音楽性と人間性をしっかりと示した、およそ50分間、11曲。

五十嵐ハル

アンコールとしてもう1曲、アコースティックギターの弾き語りで「心音」を披露して、五十嵐ハルの初ライブは終わった。ハットを脱いで手を振り、ステージを去る間際にちらりと見えた横顔は素敵な笑顔だ。そして「またどこかで会いましょう」という言葉通り、終演後すぐに次回のワンマンライブが発表された。2026年3月5日の渋谷WWW Xと、3月13日の大阪JANUS。今日ここに来た人は、次回も必ず観たいと思ったはずだ。今日ここで、始めの一歩は踏み出された。あとは走り続けるだけだ。

五十嵐ハル

取材・文=宮本英夫 撮影=しおみわかば

セットリスト

五十嵐ハル 1st LIVE「NO TITLE」
2025.11.13 渋谷WWW

01. AM2:00
02. 恋熱
03. ノーネーム
04. 笑う癖
05. ブラックホール
06. 恋花火
07. 結晶 (新曲)
08. 少しだけ
09. めんどくさいのうた
10. スカーレットハート
11. センチメンタルヒーロー

ライブ情報

五十嵐ハル LIVE TOUR「Mr.Sentimental Vol.1
■2026.3.5 東京・渋谷WWW X
開場 18:00 / 開演 19:00

■2026.3.13 大阪・心斎橋JANUS
開場 18:00 / 開演 19:00


オフィシャルSNS先行(抽選)11/13 20:00 ~ 11/24 23:59
https://eplus.jp/haru-igarashi/

リリース情報

「結晶」
2025年11月19日(水)配信
配信URL: https://HaruIgarashi.lnk.to/kessyou
ミュージックビデオURL: https://www.youtube.com/watch?v=iOKRS0uuUGA
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