身近な植物を芸術へ昇華~アーティスト「岩谷雪子」インタビュー
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スズメノテッポウ
『大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2015』で注目を集めたアーティストが「岩谷雪子」氏だ。身近な植物をアートへと昇華させる作品に魅了される人は年々増えている。現在Hasu no hanaにて個展『越後妻有から』を開催中の岩谷雪子氏、そしてHasu no hanaオーナーのフクマカズエ氏に、個展開催の経緯や作品の誕生秘話などを伺ってきた。
※アーティスト・ギャラリー情報はページ最下部に記載
――Hasu no hanaで展示を開催されるきっかけはなんだったのでしょう?
フクマカズエ(以下、フクマ):岩谷さんの作品を初めて見たのは2013年でしたがすごく素敵だったので、声をおかけしました。岩谷さんがギャラリーの空間や多摩川の植物に興味を持ち、その翌年に展覧会『カラスムギの憂鬱』を開催しました。そして、昨年夏に『大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2015』を巡った際、岩谷さんの作品を再度拝見しました。里山のすばらしさというのでしょうか、新潟という土地が魅力的に見えてくる作品で、あえて東京でもお披露目の機会を作りたいと思い本展のお誘いをしました。
――フクマさんの熱い気持ちがきっかけになったんですね。岩谷さんの作品は一つ一つに特徴がありますが、希少性の高い植物を使われるのでしょうか?
岩谷雪子(以下、岩谷):作品には、群生しているいわゆる”雑草”を用いています。
――岩谷さんは高知を拠点にされているんですよね。高知と東京では植生は変わりますか?
岩谷:植生はそれほど変わらないですよ。太平洋側は特にですね。ただし、なるべく現地の特徴を出したいので、越後妻有の場合は雪深い地で育っているものを作品に使うようにしたんですね。また、そこにしかないものに拘るつもりはないけれど、初めてみたものは使うようにしています。女木島という瀬戸内海の島で個展をやった時は、海岸が近かったので海藻も使いました(笑)
――海藻のアート作品って中々ないですよね。
岩谷:特徴のあるものは特に使いたいと思っています。繰り返しになりますが、植生が似ている場合もありますので。
――そういう場合は作風をかえるんですか?
フクマ:インスタレーションじゃないですかね?
岩谷:そうですね。場所に合わせたり、備品や建物を作品に取り入れることでそこにしかない空間が生まれますから。会場が元学校の時は黒板消しに種を刺したり、カスタネットなども使ったんですよ。
――この写真のベットにも種を刺されていますよね。これは人がいなくなった後を想像されたのでしょうか?
コセンダングサ
コセンダングサ
岩谷:そうです。人はいずれ恐竜のように滅びていくという感覚があるんです。でも彼ら(植物たち)はそこに生き続けていく。そんなこともあるだろうと想像して作りました。また偶然のタイミングだったのですが、このインスタレーションは2011年でちょうど震災の時だったので、自分でも印象に残っている作品の1つです。
――インスタレーションには色々と考えさせられる魅力がありますよね。前回、Hasu no hanaで開催された『カラスムギの憂鬱』もインスタレーションがメインですよね?
岩谷:多摩川で面白い植物に出会ったんです。展覧会のタイトルにもなっている「カラスムギ」という植物なんですが、種に”ノギ”というくの字に曲がった角のようなものが付いていて、下部が捻じれているんです。雨に濡れるとその捻じれが真っ直ぐになろうとして”ノギ”が回転する。その動きによって種が地面に潜るという機能を持っているんです。その種を型に入れ、抜いて長方形の作品にしたのがこの写真です。
カラスムギ
カラスムギ
岩谷:日差しが入ってくるショーウィンドウに展示しました。通常、作品は直射日光を避けるのですが、この作品は日が当たると乾燥するので”ノギ”がゆっくりと動き、形がだんだん崩れてゆく「自ら崩れる彫刻」として発表しました。
――日々変化するインスタレーションも珍しい。自然と崩れていく様は植物ならではの面白みがありますね。岩谷さんの植物を視る目というのはどこで培われたんですか?
岩谷:子供の時、家の裏に山がある環境に育ったこともあって、植物はその時から好きだったんです。大学では日本画を卒業しているのですが、書いているモチーフは人間ではなく乾燥した植物とか書いていましたね(笑) その時から手法は変わっていますが、好みは変わっていないんだなと思っています。
――手法が変わったというのは何かきっかけがあったんでしょうか?
岩谷:大学卒業当時は、コンセプチュアルアートが全盛期で、頭でっかちになり、絵も作品も作れなくなった時期がありました。そんな時に「物を編んで作る」関島寿子さんのワークショップに参加してそれでまた手を動かしはじめました。作家が意図して作るのではなく、素材の性質から形を見つけるという手法は関島さんからの影響が大きいです。
――岩谷さんはコンセプトを決めてからではなく、植物を見つけてから造形し始めるんですね。
岩谷:植物に触れながら、感じたもの をなるべく損なわないように少しだけ自分の中を通過させて形にしてゆきます。
――岩谷さんは自然そのものを表現するための手助けをしているという感じでしょうか。
岩谷:近いものはあるかもしれませんね。
――今回の『越後妻有から』の作品をみると、動物の毛も使われていますが、今後使ってみたい素材はありますか?
ミズタマソウの種とウサギの毛
岩谷:今は植物がほとんどですが、今後はその場所の出会いによって扱うものが増えてくるかもしれません。
――展示によって違うと思いますが、どれぐらいの準備期間で仕上げるんですか?
岩谷:1年前から準備することが多いですね。現地には平均3回は行くんですよ。越後妻有に関しても3回行きましたが、お話をもらったのは2014年11月だったんです。2015年7月から始まる展示だったから半年しか準備期間はなかったんですね(笑)。その時は身近にあって採取できるものはとにかく採取しました。
――岩谷さんの作品は普段身近にあるものだから馴染みやすいですよね。作品や過去のインスタレーションを見て、次の展示も観たいと思いました。
岩谷:今年5月に松本でグループ展、来年岐阜で2人展を予定しています。そこでインスタレーションも少し発表できると思います。
――では最後に、岩谷さんが作品をご覧になられた方に伝えたいことってなんでしょう?
岩谷:存在していたけれど、今まで気がついていなかったものに気がつくようになるとか、感覚がすこし研ぎ澄まされて、世界が少し違って見えたらいいなと思っています。
インタビュー・文=高木健次
開催期間:2016年1月10日(日)~2月6日
開館時間:月・火・土・日 / 12:00~18:00 水 / 15:00~22:00
入場料:300円 ※作品購入の場合は、返金します。
その他:併設カフェあり
公式サイト:http://www.hasunohana.net/#!-yukikoiwatani/cvev
1958年札幌生まれ。武蔵の美術大学日本画科卒業。現在高知在住。世界を見つめる視点に変化をもたらす”装置”として、植物を用いて制作。展覧会の際にはなるべくその周りで植物を採集し、各地で発表している。主な展覧会として、2015年「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ 」十日町市立里山科学館 越後松之山「森の学校」キョロロ/ 新潟 2014年「岩谷雪子・田島征三展」田島征三 絵本と木の実の美術館 / 新潟 「女木島作家プロジェクト」瀬戸内生活工芸祭 / 香川などがある。
岩谷雪子 公式サイト:http://iwayuki249.wix.com/yukiko-iwatani
長屋古民家を改装した、珈琲が飲める「アートギャラリー」
コンテンポラリーアートを中心に企画展を開催。
住所:〒 146-0091 東京都大田区鵜の木1-11-7
開館時間:月・火・土・日 12:00〜18:00 水・金 15:00〜22:00 ※木曜定休日
※展覧事に異なる場合があるためexhibitionやeventでご確認をお願いいたします。
アクセス:多摩川線鵜の木駅から徒歩1分
改札を出て左へ進み、交番のある信号を渡り、左折。
玉堤通り沿い、長屋商店街の5軒目です。
Hasu no hana 公式サイト:http:// www.hasunohana.net
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皆様のご応募お待ちしております。
応募期間:2016/2/1(月)~2/14(日)23:59まで
応募ページ:http://eplus.jp/sys/web/museum/inv/index.html