勅使川原三郎が“無音”のダンスに挑む

2016.1.27
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『Tranquil(トランキル)』(イメージ写真) ©Kotaro Nemoto/STAFF TES

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ダンス表現の永遠の命題に挑む

近年、勅使川原三郎は音楽家とのコラボレーションに精力的に取り組んできた。チェロのタチアナ・ヴァシリエヴァ(2009)、ソプラノ歌手のマリアンヌ・プスール(2011)、地歌箏曲の富田清邦・二宮貴久輔(2011)、オルガンの鈴木優人(2013)、合唱団のヴォックス・クラマンティス(2012/2013)、ヴァイオリンの庄司紗矢香(2011/2014)、ピアノのフランチェスコ・トリスターノ(2010/2012/2014)等々、それぞれ著名な音楽家と共演する公演は常に話題となってきた。

ところが、1月28日(木)から始まるアップデイトダンスNo.31では、なんと“無音”で踊るという。タイトルは『静か 無音のダンス』。文字通り、音楽は一切使わず、音の無い状態で踊る作品となる。この公演に際して、勅使川原の次のようなコメントを発表している。


「静か」
 風が止み 沈黙の後 静けさがやってくる 静けさが交差する
 身体から湧き出るダンス 身体に向ってくるダンス
 ダンス「静か」はすべて無音によって踊られる
 (勅使川原三郎)


実は、“無音”で踊るということは、ダンス表現にとっては根源的な命題といえる。音楽がなくても、ダンスだけで自律的に成立させなければならないからだ。既存のダンスの枠組みでは捉えられない新しい表現を追求し続ける勅使川原三郎が、このダンス表現の永遠の命題“無音”にどう取り組むのか!? 興味が尽きない。


スウェーデンのイエテボリ・バレエ団で世界初演

さらに、この『静か 無音のダンス』は、3月にスウェーデンのイエテボリ・バレエ団へ振付・創作する新作『Tranquil (トランキル:静か)』として正式に世界初演される。2月からイエテボリに長期滞在して本格的な創作に入り、3月12日・16日の初演時には佐東利穂子もイエテボリ・バレエ団とともに出演する予定だ。

昨年の2015年3月にもパリ・シャンゼリゼ劇場で新作オペラ『ソラリス』を世界初演して話題となったが、これに先立つアップデイトダンスでは佐東利穂子によるソロ『ハリー』を上演していた。活動拠点である複合アートスペース「KARAS APPARATUS(カラス・アパラタス)」での取り組みが、海外の劇場の大作へ有機的にリンクしているのだ。今作『静か 無音のダンス』も、『Tranquil』に向けたクリエイションの一部を世界初演に先駆けて国内で公開する、非常に貴重な機会となる。

なお、この『Tranquil』が世界初演されるのは、2016年3月12日〜4月14日の期間、イエテボリ・オペラ劇場において“Teshigawara”と名付けられた勅使川原作品のみで構成されたイブニングプログラムとなる。同時上演として、イエテボリ・バレエ団のために初めての振り付けた2014年初演の『Metamorphosis(メタモルフォーシス:変容)』も再演される。こちらはメシアンやラヴェルによる楽曲と激しいノイズ音の交錯する中で、ダンサーたちの身体が変容し続けるという意欲作で、初演以来、現在もヨーロッパをツアー中の作品である。

イエテボリ・バレエ団『Metamorphosis(メタモルフォーシス)』 ©Bengt Wanselius

イエテボリ・バレエ団『Metamorphosis(メタモルフォーシス)』 ©Bengt Wanselius

この『Metamorphosis』について、勅使川原のコメントは以下の通りだ。

 

”Even when we believe we are completely still, our bodies are moving. That movement is life. To stop is to die. Life is like cycling – if you stop you lose your balance and fall over. Life is balance in motion.” — Saburo Teshigawara

(私たちがすでに完璧であると信じている場合でも、私たちの体は動いています。その動きが、生命なのです。停止することは、死ぬことです。生命とは、サイクリングのようなものです。もし、あなたが停止した場合、あなたはバランスを失い、転倒します。生命とは、運動におけるバランスなのです。——勅使川原三郎) ※筆者訳

イエテボリ・バレエ団『Metamorphosis(メタモルフォーシス)』 ©Bengt Wanselius

イエテボリ・バレエ団『Metamorphosis(メタモルフォーシス)』 ©Bengt Wanselius


欧州のオペラハウスで日本人振付家の作品がイブニングで特集されるというのは大変に珍しく、快挙と言えるだろう。そして、無音のダンス作品と、繊細な音楽や激しいノイズによるダンス作品と、メリハリの利いたプログラムを一夜のうちに堪能できるスウェーデンの観客のなんと羨ましいことか! ともあれ、“無音”のダンス『Tranquil』が、欧州のダンス界でどのように評価されるのか!? 期待したいと思う。

イベント情報
勅使川原三郎+KARAS/アップデイトダンスNo.31『静か 無音のダンス』

■演出・構成:勅使川原三郎
■出演:勅使川原三郎/佐東利穂子
■日時:2016年1月28日(木)〜2月4日(木)
1月28日(木)20:00
1月29日(金)20:00
1月30日(土)16:00
1月31日(日)休演
2月 1日(月)20:00
2月 2日(火)20:00
2月 3日(水)20:00
2月 4日(木)20:00
*1/30(土)は16:00開演
*1/31(火)は休演日
*受付は開演30分前から、客席開場は開演10分前から。
*開演後の途中入場はできませんので、時間に余裕をもってご来場ください。
■場所:カラス・アパラタス/B2ホール(東京都杉並区荻窪 5-11-15)
*JR総武線・中央線/地下鉄丸ノ内線「荻窪駅」西口改札よりすずらん通り3分
■料金:一般/予約2500円 当日3000円 学生/1500円 *全席自由
■問い合せ:03-6276-9136
http://www.st-karas.com/karas_apparatus/

 

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