ツアー中も進化を続ける、オイスターズの最新作
左から 作・演出の平塚直隆、出演者の田内康介、川上珠来、大脇ぱんだ、横山更紗
<五感シリーズ>第4弾『この声』は、よりストイックな会話劇に
前作『その味』から1ヶ月半という驚異のスピードで新作上演に臨んだオイスターズ。しかも今回は伊丹、名古屋、東京、そして初上演となる豊橋公演の4都市ツアー敢行という、なかなかのハードさだ。そんなタイトな創作時間の中、『この声』はどのように生まれたのか、そして作品に対する思いなどを、伊丹公演を終え、ホームグラウンド・名古屋での公演準備を進める作・演出の平塚直隆に伺った。
今作『この声』は平塚が昨年、創作のテーマとして掲げた<五感シリーズ>の一作で、『あの匂い』(2015年7月上演)、『その味』(2015年11月~12月上演)、『みるみるうちに』(2015年12月上演)に続く第4弾である。『その味』で執筆の苦しみを語っていただけに(関連記事を参照)、新作もどうなるのか気がかりだったが、聞けば「本当に地獄でした」との返答が。
── 『その味』が終わってから書き始めたんですよね。 今回は“聴覚”がテーマですが、構想や設定などはすぐに思いつきましたか?
いやもう、のたうち回って書きました。『その味』より苦しかったですね。いつも通りのペースで書いたと思うんですけど、1ヶ月で書いても公演ギリギリだったんで。こんなはずじゃなかった。『その味』がもっとスムーズに書けてればよかったんですけど。『この声』は、ラストシーンまで書いていないくせに頭から途中までを延々と何度も何度も書き直して、役者には本当に申し訳なかったんですけど。しっくりこないとケツが見えてこなかったので、どういう話なのかわかるために、ずーっと書き直しましたね。それでようやく、伊丹の小屋入りの3日くらい前に持って行った台本がしっくりきたので、「あっ、これでなんか終われそうだな」と。
稽古風景より
── 今作ではゾンビが出てくるとか。なぜゾンビなんでしょう。
『この声』っていうタイトルを何度も何度も声に出して考えていて、どれだけ言っても届かないような状況を作ろうと思って。最初は誰もいないような、距離的な状況を作っていたんです。でもそうではなくて、そこに居るけれども相手に伝わらない、という方が面白いんじゃないかなと。もうひとつは、幕開きから面白オカシイ状況を作っておきたいということです。最初は、ゾンビを全く知らない人が「みなさん落ち着いてください」って声を掛けている。で、金網越しにゾンビがワーッて居るような状況を幕開きにしようと思ってたんです。そうすると可笑しいな、なんて思って。でも、いろいろ考えてたら「ゾンビって何だろうな?」と思ったり。だって、現実にはゾンビなんていないし(笑)。それで、相手はゾンビじゃなくて普通の人間に話してるんだけど、「俺の言ってること解ってるのかな? この人」っていうやりとりの方が面白そうだなと思って、そこから女子高生とオジサンの会話が浮かんだんだと思うんですよね。でも、ゾンビのことを考えていたので、第一声として生徒が、「友達がゾンビになりそうだったらどうしますか?」って先生のところへ相談に来る、という風にしようと。その相談自体ワケがわからないので、そこから話の食い違いを出していこうかなって。
── 女子高生と先生(オジサン)のジェネレーションギャップもあるし、先生がゾンビという存在を知らないというギャップもあるという。
そうですね。ゾンビのことを考えると、自然と「生きてるって何だろう?」とか考えたりして。言ってることが伝わらない相手のことを「ゾンビだ」って言うけど、そういう人は日常にも結構いるから、その人もゾンビなのか? ゾンビっていうのは死んでるのに動いている、動く死体のことだから、じゃあ死んでるって何なんだろう?とか…。生き死にみたいなことがテーマとしてあるんだなぁと。そこから自然にジェネレシーションギャップで女子高生とオジサンという設定したんですけど、きっと高校生から見たら、政治家たちのゴタゴタとか、通勤ラッシュでオジサンたちが電車に乗っててスマホ見て、家に帰って飯食って、また朝起きて…こんな世の中に何の魅力を感じたらいいんだろうって思うだろうな…みたいなことのピースがピッピッピッと。漠然と考えてたことが、いろいろ繋がってくなぁと。
稽古風景より
── 女子高生から見たら、この人何のために生きてるんだろう?って思うんじゃないかと。
そうそう。ゾンビと変わらないんじゃないのかなって(笑)。将来への不安とか、このまま生きていっていいのかしらとか、一番多感な時期だから考えますよね。僕も中学、高校の時とか将来のことを考えると、「いつ死ぬんだろうな?」なんて思ったり。そうやって話がうまく繋がっていった感じです。
── 男子ではなく、女子高生にしたは何か理由が?
それはもう劇団の事情ですね。役者の。
── 前回も「今出られる役者で上演する」と仰っていましたが、劇団としては多くの役者が出られる時を待つ、という選択肢もありますよね。でもそうじゃなくてどんどん上演していこうというのは、今はそういう時期だと思ってやってらっしゃるんでしょうか? 公演のスパンも1ヶ月半というタイトさだったり(笑)。
そうですね。これはもう、機会に恵まれているというか。上演できる機会があるんだったら、やろうと。演劇を始めた時から、言われたものは断らないというスタンスなので、それだけですね。そうしないと僕の場合、いつまで待っても出来ない気がするので。
── 敢えて、ご自身を追い込んでいらっしゃるのかなと。
まあそうですね。目的がないと、たぶん書かないと思うので(笑)。昔からそうなんです。プロジェクト・ナビにいた時(2001年~2003年の解散まで所属)から、全国の戯曲賞スケジュールを壁に貼って、締め切りがいつまでだとか、人気作家気取りで書いてたので(笑)。別に上演はしないんですけど、書き上げては応募して。そういうのが染み付いてる。
稽古風景より
── そうやって書き続けてきたことで、変わってきたことはありましたか?
書くのも筋肉なので、そういう筋力はついたのかなと。
── 苦しくても、絶対にいつかは書けるという自信になっているんですね。今回も前作に続き、シンプルなセットということですが。
過去最少ですね。いろんなものをよくよく考えていくと、いらないんじゃないかっていうことがいっぱいあったので、その結果なんですけど。
── 余計なものを削ぎ落としていくという作業が続いてる?
そうです。最小限の情報だけで、今回は映像もないので、もう話してるだけです。演出の企みとしては、ちょっとありますけど。
── 伊丹公演が終わってからもホンを書き換えていると伺いましたが、最後まで粘ろうと。
僕らずっと会話劇、会話劇って言ってきたけど、“話してるだけ”というのは難しいなって、つくづく思います。役者のスキルも重要だと思うし。ちょっとの掛け違いで後の方がグニャグニャになっちゃったりするから、細心の注意を払って組んでいかないと難しいぞと。回によってボタンの掛け方が、ちょっと深く入ったり浅かったりするんです。名古屋に帰ってきて、今はそれをちゃんと、「ここはこれぐらい掛けよう」とチェックしている。頭から細かく、なるべくブレを少なくしましょう、っていう作業をしてますね。その中でわかりくいところは台本から変えて、言葉が足りないところを足していったり。
演出をつける平塚直隆
── 名古屋公演はブラッシュアップ版で、この先もさらに進化していくと。
確実に良くはなるとは思います。このまま上手くいけば。今はこの検証作業で、お米を洗うように綺麗にしていってるので。見た目も構造も典型的な不条理劇だと思うので、ある意味わかりやすくて見やすい作品だとも思うんですけどね。
稽古の様子を拝見していても、役者自身の感情とセリフの持つ意味との差異や、単語や語尾のトーン修正など、細部に至る調整を繰り返していた平塚。ごくシンプルな会話劇だけにセリフにこだわるのは当然のことだが、“観客の聞こえ方”まで重視して初めて、この作品は成立するということなのだろう。名古屋、東京、豊橋…と、この先どんな変化を遂げていくのかも楽しみな作品である。
『この声』チラシ表
■作・演出:平塚直隆
■出演:田内康介、横山更紗、川上珠来、大脇ぱんだ(劇団B級遊撃隊)
<名古屋公演>
■日時:2016年2月11日(木)19:30、12日(金)19:30、13日(土)11:00・16:00
■会場:東文化小劇場(名古屋市東区大幸南1-10-10 カルポート東3・4F)
■アクセス:名古屋駅から地下鉄東山線で「栄」駅下車、地下鉄名城線に乗り換え「ナゴヤドーム前矢田」駅下車、1番出口から南へ徒歩5分
<東京公演>
■日時:2016年2月19日(金)19:30、20日(土)14:00・19:00、21日(日)14:00・19:00、22日(月)14:00・19:00、23日(火)14:00
■会場:こまばアゴラ劇場
<豊橋公演>
■日時:2016年3月12日(土)14:30、13日(日)14:30
■会場:穂の国とよはし芸術劇場 PLATアートスペース(愛知県豊橋市西小田原町123)
■料金:一般3,000円 U24(24歳以下)1,500円 高校生以下1,000円
はじめて割(要予約・劇団予約のみ、豊橋公演を除く)
はじめてペア割(要予約・劇団予約のみ、豊橋公演を除く)
豊橋公演のみ/ペア割(要予約・一般のみ)5,000円
※はじめて割は、はじめての方及びはじめての方を連れてきた方も半額(全券種組み合わせ自由)
■問い合わせ:オイスターズ 090-1860-2149(10:00~22:00)
■公式サイト:http://www.geocities.jp/theatrical_unit_oysters/