WHITE ASH 自身のロック観と向き合いライヴを意識した傑作『SPADE 3』を紐解く
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WHITE ASH 撮影=菊池貴裕
何を言ってるんだ?と言われてしまうかもしれないが、WHITE ASHの「ロックな」新作『SPADE 3』が完成した。彼らの音楽に触れたことのある人はお分かりのように、WHITE ASHは元々「ロックな」、しかもそれをストレートな形で提示してきたバンドであるし、これまでの作品も紛うことなきロックアルバムだ。ただ今作がこれまでと決定的に違うのは、ロックンロール、ガレージ、グランジといった彼らのルーツに誠実に向き合い、ロックという音楽ジャンルを聴き込んでいない人でも分かるくらい真っ当なアプローチをして、音色やフレーズ、楽器のチョイスまで綿密にこだわり抜いた制作過程を経た結果、ピュアとさえいえるロックンロールアルバムの形になったという点。そしてライヴを念頭に置いて作られたというところだ。WHITE ASHにとって何が大切なのか、譲れない部分は何なのか、そんな彼らのアイデンティティがビリビリと伝わってくる最新作について、メンバー全員に話を訊いた。
「THE ロックバンド」みたいなものを作りたいと思った
――去年の代官山UNITでのツアーファイナル(『WHITE ASH One Man Tour 2015“ Put A Smile On Your Face!”』)と『Cycle』の東京公演を観させていただいて。
全員:ありがとうございます!
――僕が観た2本を通してだけでも、ライヴの質さらに一段階上がった感じを受けて。まとまりというか、タイトさといった部分をものすごく感じたんですけど、ツアーを通して自分たちの中には変化や、意識した部分がありましたか?
のび太:UNITのライヴはシングルのリリースツアーで。どちらかというと、僕らWHITE ASHっていうバンドをちゃんと見せて、初めて観る人もずっと応援してくださっているファンの人たちのどちらも楽しめるように、且つWHITE ASHってこういうバンドなんだっていうのが分かるように提示するツアーだったと思うんです。そのぶんある種の熱量というか……自分たちもガーっとテンション上がってやれたかどうかっていう部分がちょっと微妙なところで、そこが少し課題として残ったんですよ。『Cycle』っていうイベントに関しては、ギターの山さんが福島県出身で、福島のために何かできることはないかっていう想いから、一昨年にスタートさせたイベントなんですけど、普通のワンマンライヴと比べてよりお客さんとの距離を縮めたかったし、普段とはまた違った楽しみ方もできればいいなと思ったので、企画としてお客さんと一緒にステージで演奏したり、どちらかというと自由な気持ちでやったんですけど、その時にある意味自分たちのスイッチがもう1回入った気がしたんです。自分たちもすごく楽しんでやれているこの感じって、もしかしたら忘れかけていたものなんじゃないかなと思って。その『Cycle』が次の僕らのライヴをやっていくスタンスに影響を与えてくれていて、『Cycle』で掴んだものを元に、年末のフェスとかでもちゃんと自分たちも楽しんでロックをやれたのが、2015年の最後の方にはなりましたけど、2016年のライヴをやる上で良いものを思い出せたなと思います。
――他のみなさんも、感覚的には同じような感じですか?
山さん:そうですね。去年『THE DARK BLACK GROOVE』っていう、黒いグルーヴを意識して制作したアルバムを出したんですけど、そこでのライヴはどちらかというと自分たちをかっこ良く見せるために、良い意味でお客さんとの距離感を保つというか。突き放すわけではないですけど、そういう感覚がちょっとあって。それはそれで良いライヴになったんですけど。
――そういう収録曲たちですしね。
山さん:はい。それに新木場STUDIO COASTっていう大きなところで良いライヴをみせることができた経験にもなりましたし。その後、シングルの「Insight / Ledger」を出して、ライヴで盛り上がるロックチューンとかを作って……『WHITE ASH One Man Tour 2015“ Put A Smile On Your Face!”』は、そのためのツアーだったんですよね。その時はハコが小さかったのもあって、よりお客さんと近づけるライヴがちょっとずつできたなと思って、それの集大成として『Cycle』だったのかな。作った曲がライヴに反映されて、お客さんと一緒に楽しむっていう意識が音源でもライヴでもできてきたなって思います。
――“楽しむ”っていうワードが何度か出てきていますけど、実際にライヴを観てて楽しそうだったし、観ている側としても楽しかったし……それってすごく大事なことですよね。
のび太:そうですね、それはすごく感じました。『Cycle』が終わった後に、ちゃんと出し切ったなぁ……という達成感というか満足感はありました。
山さん:前から「自由に楽しんでいいよー!」ってお客さんに言ってはいたけど、自分たちが自由に楽しめていたかな?ってちょっと不安だったんです(苦笑)。自由に楽しめるライヴを見せると、お客さんもこんなに楽しんでくれるんだっていうこともどんどん分かってきました。
――それでいながら、演奏自体はすごく緻密だなと思って観ていたんですよ。音楽的には途中でブレイクが入ったり、テンポが変わったりっていう箇所が頻繁に出てくるのに、そういった部分の意思疎通がすごくて。
彩:近年まれに見ないくらいあちこち行っていたんで、これを機に鍛え直して『Cycle』とかでまた改めてひとつになれたのかなと思いますね。
のび太:多分去年やったライブの数が、例年やっている数より多かったんですよね。だから自分たちでもっとちゃんと演奏やろう!っていうのは特になく、毎回毎回次のライブのためにリハーサルをしてっていうくらいだったので、「演奏力上げよう月間」みたいなのはなかったです(笑)。
剛:前作がバンドとしての一体感という部分でのグルーヴ感を重視したアルバムだったから、そこをリハーサルとかでも注意していて。各々がまとまるように、且つノリを出せるように意識していたことが経験値として積まれて、今があるのかなって。
のび太:『THE DARK BLACK GROOVE』は、演奏力がないとグルーヴは出せないよね。前作のツアーが演奏力を上げる良い機会になって、普通に演奏してもそれが下地としてあるから意識しなくてもまとまったのかもしれないです。
剛:本格的にシーケンスを導入したのもそのツアーからだったんで、バンドプラス打ち込みのシーケンスの音っていう見せ方もあるし、バンドの演奏形態も含めていろんな魅せ方をすることができましたね。
WHITE ASH・のび太 撮影=菊池貴裕
――楽器4つの勢いがぶつかって生まれるグルーヴもありますけど、『THE DARK BLACK GROOVE』はどちらかというと作り込んだグルーヴだったと思うんですよ。サウンドメイクからしてそうだったし。そこを通ったことによって、勢いを出すナンバーにも緻密さが自然と活かされる、その表れが最新作『SPADE 3』なんじゃないかなと思うんです。
のび太:そうですね、元々アルバムの出発地点が『THE DARK BLACK GROOVE』のリリースツアーで。その追加公演は“back to basics”っていうサブタイトルを付けた、僕らが初めてワンマンツアーをやった場所3ヶ所を回って今の僕らを見てもらうツアーだったんですけど、どちらかというと『THE DARK BLACK GROOVE』を大きい会場で鳴らす曲メインで作ったこともあって、小さめのハコでやるときに曲の良さを伝えられないんじゃないかと思って(セットリストから)外した曲があったんですよ。それはアルバムの最後の曲の「Gifted」っていう曲なんですけど、ライヴハウスで(ライヴを)やるにあたって外す曲がある……ロックバンドなのにライヴハウスでやれない曲があるっていうことに、何か……おかしいな?って感覚になって。ボロくて薄汚いライヴハウスでも普通にアンプと楽器さえあれば、そこでバーンとやれるのがロックバンドとして自然な形というか。だけどそうできていない自分たちって、大事なものを見失いかけている気がする!と(笑)。
――これは健全じゃないぞと。
のび太:そう。確かにカッコ良さを追求してはいたんですけど、なんか……スマートな方に寄ってるぞ、みたいな感じ(笑)。ちょうど去年カート・コバーンのドキュメンタリー映画を観たんですけど、やっぱり荒削りだけど嘘がないというか、衝動的に音を鳴らさずにはいられないっていう感じで音楽をやっている彼の姿を観て「これだよ!!」みたいな、「荒削りでもいいからこういうロックをやりたいんだ!」と。そこからアルバムの制作に入ったんで、ある種前作の作り込んだアルバムの反動もあって“THE ロックバンド”みたいなものを作りたいなと思って……ちょうどツアーファイナルと『Cycle』の間あたりがレコーディング期間だったのかな。だからその荒削りでもいいから衝動的なものをパッケージングするんだっていう気持ちは『Cycle』にも影響して。だから今どんどん衝動的なテンションというか、スタイルになってると思います。
――原点回帰でもありつつ、かといって昔の焼き直しみたいなことをやる訳でもなく。いろいろと作品を経た今のモードで、初心をもう一回やってみるということに近いんですかね。
のび太:そうですね。『THE DARK BLACK GROOVE』で手首とか足首に重りみたいなものをつけて特訓をして、それを取ったあとに以前と同じ動きをしたら「無駄な動きを一切せずにスムーズにめっちゃ体動くじゃん、なんかしなってんだけど!」って(笑)。
彩:逆に山さんにはヘタクソに弾きなさいっていう命令がでて。しっかり弾くなっていう(笑)。
――えーと、上手くなりすぎちゃったんですか?(笑)
山さん:なんだろう……。
のび太:性格的なところなんだろうけど、その曲において決まったフレーズとかをちゃんと弾こうとするんですよ。それが音にモロに出ていて。間違えないようにというか……
山さん:間違えないようにっていうのは語弊があるけど(笑)。一音一音をガッツリと出したいタイプなので、そういう意識があったんですけど。もうちょっといい意味でラフにというか、音もあえてスカスカにした方がよかったんですよね。
のび太:「GR101」って曲で、最初に山さんが考えたギターフレーズが、きちんと構築されてたんです。でも僕としては、ガレージでギター持ってジャーンってやっているような、衝動的なものにしたかったんですよ。だからもっとラフでいいというか、ギターを初めて持った人が30分練習したら弾けるくらいのフレーズが欲しいって言って。
山さん:逆に難しい(笑)。
のび太:だから山さんにね「山さんアレだよ……上手くなっちゃったね(遠い目)」って(一同笑)。
山さん:褒められてんのか、けなされてんのか(笑)。そういう意味では、それぞれのロックとは何かっていうところがどんどん出た作品だなと。「GR101」でいうと、サビ裏でリフを弾くんですけど、自分の中では「ロックだ! めっちゃキテる」って思ってたんですけど、ガレージ感が欲しいとのことだったのでお互い話し合って、今の方向になりました。
のび太:山さんの気持ち的には、普段考えるフレーズの20~30%くらいの力で考えたフレーズなんだけど?って思ってたはずです(笑)。でも、この曲に関してはそういうイメージだったんですよね。
山さん:最終的に曲のイメージに合ってよかったです。
WHITE ASH・山さん 撮影=菊池貴裕
普通に弱いカードが、ここぞって時に一発逆転できるのって、めっちゃロックじゃん
――今ちょうど楽曲のお話も出たので、『SPADE 3』から個々の楽曲に関して、アルバムの曲をメインに訊いていけたらなと。「Blaze」はライブでも(アルバムから)最初に披露されましたけど、出来た時期も早かったんですか?
彩:最初の方ではないよね。
のび太:うん。ちょい後半くらいかな?
山さん:前半は結構自分たちが作りたいものに忠実に作っていて。
のび太:「GR101」が一番最初にできたんだっけ? 「Blaze」は「Insight / Ledger」をリリースして、少し経ったくらいなんで9月くらいだった気がします。アルバムを作るにあたって「Insight」を入れるとなったときに、これと対になるようなパンチのある曲をアルバムに入れたいなと思って。どっちかというと「Insight」はポジティブなパワーをもってると思うんですよ。大衆的な方のロックというか……陽な感じというか。それで熱量とかは一緒なんだけど、陰なダークで疾走感のある、暗いパンチのある曲を作ろうと思って。「Insight」にない要素は「Blaze」に入れてっていう。どっちかっていうと、「Insight」は山さんのフレーズが際立ってたりしてるので、「Blaze」に関してはそこまで動かずにチョーキングだけで行き来するというか。あと「Insight」はツルーっといく構成になってるんですけど、「Blaze」に関しては2番のサビが終わったあとに4人でブリッジをつけて曲のメリハリをより際立たせていたり。「Insight」は若い人向けで、「Blaze」はロックが好きな大人たちに「意外と良いロックしてんじゃん?」って言ってもらえるような感じを意識して作りました(笑)。
――そんな2曲がアルバムの中で連続してるのは意図して?
のび太:そうですね! パンチのあるアルバムなんだよっていうのを一発目で分からせたくて。僕の中で、アルバムの1~2曲目で持っていけるかどうかが、最後まで聴いてくれるか聴いてくれないかの別れ目だと思ってて。
彩:たしかに。試聴機で1~2曲目聴いてそのまま置いちゃったりしますし。
――逆に1曲目聴いて「いいじゃん!」ってものが2曲目もよかったら、レジに持っていっちゃいますよね。
のび太:そうそう。だから1~2曲目にガツンとくるものを入れると、「今回、WHITE ASH攻めてるな」って伝わるかなと。
――そこからタイトルになっている「Spade Three」に。この曲も1曲目でも良いくらいだなぁと思いました。
のび太:ライヴで「Blaze」と「Spade Three」を披露したときに、「Spade Three」のイントロが僕と山さんのギターの掛け合いから始まるんですけど、それがものすごい評判が良くて。
WHITE ASH 撮影=菊池貴裕
――あれ、カッコ良いですよ。
のび太:ありがとうございます! 初披露した時点ではある程度曲順を固めてたんで、「あれ、意外とこれが1曲目の方がよかったんじゃないかなぁ」って思ったり(一同笑)。ただ、コイツが3曲目に控えている……ツートップの後ろにもまだいるんだ!?っていう感じもいいかなと思って。今回、Red Bull Studios Tokyoっていうスタジオがサポートしてくれるということで、レッドブルにちなんだ曲を作っちゃおうかなと思って出来た曲で、レッドブルのロゴって、2頭の闘牛がにらみ合ってるじゃないですか。それが印象的だったから、イントロを僕と山さんから始めて、バチバチと火花が散るような感じだったらカッコ良いなと思って。今回のアルバムのタイトルっていうのが……これアルバム全体の話になっちゃうんですけど。
――全然大丈夫です。
のび太:シングル「Insight / Ledger」の「Ledger」って曲が、『ダークナイト』っていう映画に出てくる敵役・ジョーカーをモチーフに作った曲で。ある種、ジョーカーのシングルがアルバムに入るわけだから、アルバム全体としてジョーカーよりも強くないといけないなぁと考えているときに、ちょうど札幌とかでライブがあったんです。移動がフェリー移動だったので電波も通じなくて、何もすることがないからってマネージャーがトランプを用意してくれて、マネージャーと僕たち5人で6時間くらいずっと大富豪やってたんですけど(笑)。大富豪って2より強いのってジョーカーじゃないですか。地域ごとにルールも違うと思うんで、知らない人もいるかもしれないんですけど、ジョーカーに唯一勝てるのがスペードの3なんですよ。それで、スペードの3をモチーフにするのってなんかいいなと思って、なおかつスペードの3って最初にも出せるじゃないですか。
――最弱の駒でもありますもんね。
のび太:そう。普通に弱いカードではあるんだけど、ここぞって時に一発逆転できるのって、めっちゃロックじゃん!と思って。スペードの3ってロックアルバムのタイトルとして、すごくいいと思ったので、アルバムタイトルになったんです。話は戻って、レッドブルの曲を作ることになったときに……今までアルバムタイトルを曲のタイトルと一致したことがなかったんですけど、レッドブルってここぞ!っていうときに気合いを入れるために飲むじゃないですか。その感じってすごくスペードの3と似てるなと。だとしたら、アルバムタイトルと同じにしたらすごい良さそうと思って、初めてタイトルを一致させようと思って作りました。知っている人と知らない人がいるくらいの知名度なあたりもいいなと思って(笑)。
――分かりやすすぎずっていう。続いて、先ほどお話いただいた「GR101」があって、シングル曲があって、一番スローな曲「Snow Falls In Lavender Fields」……メロディセンスが光ってますよね。
のび太:ありがとうございます(笑)。
――これはアルバム全体の中で一回落とすところというか。
のび太:そうですね。僕の「アルバム論」の中で言うと(笑)、5~6曲目あたりで一旦違う表情を見せたくて。全部やりすぎちゃうと、途中で消化不良を起こしちゃうので、中盤でスローな、メロウな曲を入れて。アレンジをいろいろ考えたんですけど、結果ギターだけで、ベースもドラムもなくチェロが低音を担う形で作りました。
山さん:僕は途中から入るパターンなんですけど、最初リズム隊2人がいないって聞いたとき「おっ?」って思ったんですけど、曲の雰囲気的にそれでも成立するかなと。弾き語りで歌っているところに乗っかって、立体的にするイメージで作ったので、なんかハープというか、こういうやつあるじゃないですか……女神が持ってるやつ……
のび太:ハープってもう答え出てんじゃん!(笑)
山さん:そういう包み込むような感じの音で、邪魔しないように音を乗っけて。それで下の音がほしいなと思ったときに、ベースよりはチェロかなと。長い音で一緒にいた方が曲の空気に合うんじゃないかなと思ったんです。
剛:ベースだと、人間が弾いている指の動きとスライドさせたときに上がったりする音がちょっと曲とは合わないなって。もうちょっとなめらかな音が欲しいなと思ったときに、じゃあチェロだなと思ったんですよ。
のび太:そもそもイメージとして、人生を全うして天国に行くと目の前にお花畑が見えてどうこうみたいな(笑)。そういう世界観の曲で……
山さん:ぶふっ(笑)……すみません、レコーディングのときの面白い話を思い出しちゃいました。あ、進めてください。思い出し笑いです。
――それおかしいですよね!(笑)
剛:インタビュー中なんだから、そういう話こそ言うべきだよ(笑)。
山さん:あ、そっか!…… この曲のイメージをお互いに話してたときに、一音一音確認してて最後の音のときに、「花開いちゃったよ。ツボミのまんまでいいんだよ」ってのび太に言われて。
のび太:僕がイメージしてたものって決して明るくはないんだけど、ドラマチックにさせすぎたくないというか、泣かせにいきたくなくて。ただそのまんまでいくんだけど、なぜか心動かされる、くらいのテイストがいいなと。でも山さんは、最終的にポジティブな響きのフレーズをもってきたんですよ。僕は明るくもないし寂しくもない、その中間を攻めてほしかったんですけど、山さんのフレーズはハッピーエンドに向かうような音をにおわせてて。それを聴いたときに「それ花開いちゃったよ」って(笑)。万年開かなかった花が、最後に開いて「わぁ~ぁ!」みたいな(一同笑)。心あたたまっちゃダメなんだよ。
山さん:それでこの曲は一音一音、お互いに「ここ開かない」とか言いながら(笑)。
のび太:悲しいのか救いのある曲なのか……明確な答えは無くて、聴いている人が「こうなんだろうな」って思える余白みたいなものを残したくて。
WHITE ASH・彩 撮影=菊池貴裕
ロックバンドって色々とあったりするけど僕らは止まらずに行く
――そういう一音一音のこだわりって、過去の作品でもあったんですか?
のび太:前作は多かったったね。
山さん:ここ(のび太と山さん)は多いですね。ギターは乗っかる音なので、そこに関してのイメージを話すことは多いかもしれないですね。
のび太:ベースとドラムは曲の骨組みで、ギターが一番曲の色を付けていくわけじゃないですか。それが過剰だったり、色が違ったりすると、曲の印象が全然違ってくるので、そこは伝えながら一緒に考えることは多いですね。
――次の「Dumbass」ではリズム隊が機械的というか打ち込みの。
のび太:そうですね。この曲は、原型を剛がもってきて、そこに僕が曲をつけていった感じです。剛が打ち込みの曲を作りたいっていうところから始まって。
剛:このアルバムはロックアルバムでいきたいっていうことが具体的に定まっていなかった頃、ツアーの移動をしているときにたまたまThe Prodigyとかデジタル系のロックをたくさん聴いていたんですよ。それでこういう音圧っていいなと単純に思って。僕はドラマーなんで、リズムからフレーズを作ることが多いんですけど、ドラムが結構ひずんでて、突飛な曲っていいなぁって。最初は「The Phantom Pain」とかを活かすような2~3分の曲ができたらいいなと思ってドラムのフレーズを考えていたら、最初のフレーズができて、そこからあれよあれよと原型もできていって。のび太に渡したら、ドラムのフレーズが良いってなって共作という形になりました。
――ドラムの打ち込みなので淡々としてるところに、ギターでどのように色を足すか、この曲でもギターの重要度は高いですよね。
山さん:これは(音を)もらったときに完全にファズだ!と。ズンズン弾いて、あまりこざかしいことはせずリズムを活かすギターという意味では、パワーコードでパンチがあるというか、リズムに寄せて作りました。
のび太:質感としても、このアルバムの中で一番The Prodigyみたいなデジロックに寄っているので、逆にそこは敢えてバランスとか考えずに行ききっちゃった方が、アルバムのスパイスに……“SPICE”になるんじゃないかなぁと。
彩:あははは(笑)。
山さん:俺もずっと文字見ながら、いつSPICEって言おうか考えてた(笑)。
のび太:すべての音において、パンチのあるものになるよう目指しました。
――ちょっと曲順が前後しちゃうんですけど、「Gamble」はギターが基本的に同じ音をしててリズム隊で色を付けてますよね。「Dumbass」との対比も聴いてて面白かったです。
のび太:ありがとうございます。「Gamble」は、もともとサックスをフィーチャーして1曲作ろうっていう案があって曲を作ったんですけど、最終的にバンドサウンドでやるのが一番しっくるくるんじゃないかと思って、バンドでやってみるとやっぱりしっくりきて(笑)。ここでサックスをフィーチャーする意味っていうのが最終的に見いだせず、前作に通ずるグルーヴを大事にしながらも、打ち込みとかは使わずバンドサウンドでやりました。1stとか2ndをリリースしたころの僕らでは作れなかった曲だなと思います。こういう武器も手に入れられたなぁと。
――打ち込みと生々しさの中間を攻めるにあたって、リズム隊のお2人はいかがでしたか?
彩:ドラムは打ち込みなんだっけ?
剛:基本は生の音だけど、何フレーズかをそのままループしてる。
彩:そこに生のベースが入って、ベタベタに生じゃないおしゃれっぽさが出たかなと思います。
山さん:全体的なループ感を曲にしたいなっていうのがあったので、リフとサビのフレーズがずっとカッティングというかループしていて、ギターソロも入る、みたいなイメージで作ったんで、歌のノリを大事にしながらギターは乗っかるという感じで、やりすぎない程度に少しずつ展開していきました。だから本当にバランスがいい曲になったんじゃないかなと思います。
WHITE ASH・剛 撮影=菊池貴裕
――一つ戻って「Emperor」についてのお話もお訊きしたいです。
のび太:最初にリフを思いついて。……ブラックコーヒーを飲みたくなるような曲(一同笑)。
山さん:それ完全にディープ・パープルでしょ(笑)。
のび太:往年のロック感というか、そういうのを1曲作ろうと思って。ズシンズシン迫りくる感じが……エンペラーだ!って。
彩:最初に曲を聴いたときに、ラスボスのイメージでっていう注文が(笑)。
のび太:この曲を聴いたら誰しもが「強そう」って思うようなフレーズにしてって言ったら、山さんが、コバエみたいな……
山さん:あのさぁ、今取材やってんだから人のギターをコバエって言うのはよくないと思うよ!(一同爆笑)
のび太:僕のイメージしてた強そうな感じって、大砲とか、一撃でバーンっていう強さだったんですけど、山さんのは小振りな剣でキンキンやる感じで。スピード感はあるけど、一撃必殺ではなくて(笑)。
山さん:エンペラーっていうタイトルを聞いたときに、中国の三国志みたいなイメージが出てきて、メロが生まれちゃったんですよ。リズム隊がラスボス感出てるから……将棋でいうと「歩」みたいな役をやろうと思って。
のび太:その他大勢の兵!みたいな(笑)。でも、それがメインになっちゃうと、強いのか弱いのか分からなくなっちゃうかなと思ったんで、ギターも重く強く。
山さん:投げるフレーズで曲のイメージが固まってくことが多くて。僕結構フレーズとかは自由でいいよって言われるんで、面白いアイディアがあると投げるんですけど、「それは違う、こっち」ってなることもあって、その“こっち”の部分がどんどん出来上がっていく過程がギターにはありますね。
――でも山さんが持っていったフレーズがきっかけで、全体像が明確になってくるんですよね。それって良いやりとりだなぁと思います。
山さん:そうですね!
――コバエと言われたりするけれど……
山さん:コバエはひどいよ!(笑)
彩:でも中国感はでてたね。
山さん:ジャッキー・チェン好きなんで。中国じゃないですけど……
のび太:じゃあ、なんでいま出したんだよ!(一同笑)
――そして最後、「Don't Stop the Clocks」。これはもう、単純にメロディがすごく良いですよね。リフとかロック感のイメージでWHITE ASHを聴く人って多いと思うんですけど、このメロディセンスに裏打ちされているバンドなんだよなっていうのを実感させられました。これ、ライヴで聴きたいです。
のび太:ですよね! 早くやりたいです。この曲はアルバムの最後の曲って決めて作ったんですよ。制作自体も終盤で完成したもので、“ロックアルバム”っていうコンセプトのもと最後はどんな感じで終わらせようかと考えてて。ロックっていろんなものがあるじゃないですか。ガレージロックやデジロック、ハードロック……ロックバラードもあったり。そうなったときに、「……オアシスだ!」と思って。
――まさにそうですよね。
のび太:僕ら、アークティック・モンキーズっていうロックバンドがきっかけでバンドを組んだっていうのもあるし、UKロックをすごくリスペクトしてて。だからオアシスにリスペクトの気持ちを込めて、純粋に良い曲を作ろうと思ったんです。ノエル(・ギャラガー)がほとんど選曲した『ストップ・ザ・クロックス』っていうアルバムがあって、そのあたりがオアシスが活動休止するかしないかというタイミングだったと思うんですけど、そこと少し重ねて“ロックバンドって色々とあったりするけど僕らは止まらずに行くよ”っていうメッセージも込めてDon'tをつけて“Stop the Clocks”しないよって。かといって仰々しくするのも違うなと思ったので、バラードではありつつもそこまでは長くせず、聴きやすさとコンパクトさを大事にして。聴き終えてまた1曲目に戻ってもいいよなぁと。
――ちょうど良い余韻があって終わりますもんね。……という作品が出て、少し先にはなりますが、ツアーがあります。
のび太:今回のアルバム自体、初めてライヴを意識して作った作品なので、このアルバムの曲たちが活きるのってライヴだと思うんです。今回のツアーは今まで以上にお客さんとの距離が近く、アツいライブになるんじゃないかなという予感はすごくしていて、僕らはメジャーに行って3年目ですけど、「まだまだWHITE ASH、今年はさらに攻めるんだな」っていう姿勢が伝わるライヴにしたいと思います。
撮影=菊池貴裕 インタビュー・文=風間大洋
WHITE ASH 撮影=菊池貴裕
『SPADE 3』