未完成の空間だからこそ、やりたい演劇が見つかった

2015.7.23
インタビュー
舞台

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演劇のための“巣づくり”しています

演劇のメッカ、新宿。新宿三丁目に「SPACE 雑遊」がオープンして9年がたつ。その同じビルの2階に、フクロウがどんと待ち構えた?迎えてくれる?不思議な入り口がある。SPACE 梟門だ。ほんの50〜60人も入ればいっぱいになる小さな空間だが、こけら落としを前に、現在は工事中のこのスペースにひと足先に息吹を根付かせようとする女優がいる。占部房子。「未満、途上」の空間に宿る可能性とエネルギーに魅かれ、作家・石原燃が手がけた脚本『夢の力』で初の一人芝居に挑む。

SPACE 梟門のオープンにかかわった経緯と、女優として経験を通して感じたことは?

 オープンじゃないんです(笑)。工事をしていたのは知っていたけど、なかなか進まないから「それだったらオープンしないうちにその場所で何かやらせてください」ってオーナーの太田篤哉さんに話したんですよ。「いいよ。電気もまだだけど」「あ、じゃあロウソクの明かりだけでもやります」みたいな感じでしたね。無理やりです、ほとんど。でき上がっていない空間で作品を上演するのって面白いな、と勢いがついてやることになったものの、とはいえ「トイレがないのはまずいだろう」とか「夏にエアコンなしはさすがに無理だろうとか」、SPACE 梟門のスタッフさんがすごく頑張ってくれて、ようやく、もう少しででき上がるかな?という段階までやってきました。でも、まだ途中ですけどね。先日、とうとう来年にはオープンすることになった!とスタッフさんは言ってました。

 スペースづくりにかかわったのは、女優としてと言うより、人間としてたくさんの人に「迷惑かけたなぁ」という感じですね(笑)。何せ、小屋のスタッフさんももちろんですが、芝居を一緒につくってくださるスタッフさんにも、「照明つくの?」「小屋入りいつ?」「客席あるの?」と聞かれても、私自身が「・・・たぶん・・・たぶん」としか答えられなかったんです。1カ月前に宣伝用のハガキを入稿した時点でようやく「この公演やります」と、はっきり言えたくらいですから。改めて「迷惑かけたなぁ」と。いや、まだ迷惑かけてる途中ですけどね。すみません。

石原さんはどんな劇作家さん?

 大阪を拠点に活動されている方なんです。3年前になるんですが、私が石原さんの戯曲『人の香り』をブラッシュアップするために行われていた燈座(あかりざ)公演に偶然出会ったことがすべての始まりです。続く『父を葬る』という作品を観劇した時に、「ご自身が自由に書きながら長く温め、幾度も同じ戯曲を見直しつつ、演じることをじっくり考え、育て続けていけるような作品づくりを一緒にしませんか」とお声がけしていました。びっくりされたと思いますよ。でも粘り強い作家さんです。今回、1稿が出たのは1月の終わりでした。そこから演出の関根信一さん(劇団フライングステージ)を交えて6月の半ばまでずっと直しですから。最終的に19稿まで行ったかな。難しいテーマにと向かい合ってるから簡単には書けない、書きたくない思いがあるのだと思います。そのことに正直に向かい合う、あきらめず妥協せず考え続ける作家さんですね。

なぜ一人芝居にチャレンジすることを決意した? それは作品の力? この空間であることは大きい?

 これは簡単に説明できないのだけど、とっても簡単に言うと、やってみたことのないことをせっかくだからやってみたかったんです。私が一人でやるなんて、自分で言い出さなきゃ一生ないだろうと。何だかわからないけど、どんな作品になるかも、その時点で台本があるわけでもなかったんですけど、とにかくやってみようと。この空間であったことも大きいですね。そうだ、そう! 私自身が今後、長く続けていきたいと考えている創作を、縁の深い、出会いの場でもある建物の、生まれかけの空間で始める。こんな素敵なめぐり合わせは、そうはないと思っています。

 
1971年、「私」はヘルに出会った。見知らぬ女が電車に飛び込んで死んだ日。 ヘルは、30年前の記憶を語り続ける。 「パラオにいた頃が一番幸せだった」と。 「私」は話の続きをせがんだ。 それが、ヘルを追い詰めることになるとも気づかずに。 「私」は気づくべきだった。 「慰安婦」だったヘルの語られない痛みと、「私」の加害者性に。 

想像するにかなりハードな物語のようですね。どんな作品になりそうですか? 演出、美術、自身のことを含め教えてください。

 作家、演出家、美術、照明、音響、役者、空間、スタッフ、すべて「今の時点でやれることはなんだ」と模索していますからエネルギーは高いです。と、同時にリラックスもしています。通し稽古に入り、スタッフさんの意見もどんどん入りますから、その時点でまた「じゃあ、どうしようか?」なんてコミュニケーションの繰り返しで日々つくり続けています。だから最終的にどんな作品になるか、まだまだわからないけれど(笑)。私としてはこの物語をお客さんと共有することは、自分自身にとって大きな経験になると強く思います。

 作品の内容を説明したいと思うのですが、言葉にすると簡単になりすぎてどうもしっくりこないのでうまく説明できません。でも、今、とても伝えたいことがあります。

最後にSPACE 梟門ってどんな場所ですか?

 オーナーの太田篤哉さんには10代のころからお世話になっていて、その方に出会わなかったら私は演劇を続けていたかわからない。SPACE 梟門でたくさんのお芝居が生まれますようにと願う、大切な場所です。

うらべ・ふさこ/1978年生まれ、千葉県出身。98年に青年団プロデュース『夏の砂の上』でデビュー。以後、舞台や映像で活躍。主演映画『バッシング』が第58回カンヌ映画祭コンペティション部門に出品され注目を集める。最近の舞台は、MODE『逃げ去る恋 2012』、パルコ・プロデュース『ヒッキー・ソトニデテミターノ』、tpt『地獄のオルフェウス』、地人会新社『根っこ』、立誠シネマプロジェクト『石のような水』、座・高円寺『エドワード・ボンド 戦争戯曲集・三部作』、加藤健一事務所『ブロードウェイから45秒』など。

 
イベント情報

燈座占部、勝手に巣づくり企画 『夢を見る』

 日時:2015年7月30日(木)~8月2日(日)
 会場:SPACE 梟門オープン予定地
 劇作:石原 燃(燈座)
 演出:関根信一(劇団フライングステージ)
 出演:占部房子