“酸欠少女”さユり SPICE初登場で明かす表現の原点、いまの想い、"それでも"歌うということ

2016.2.23
インタビュー
音楽
アニメ/ゲーム

さユり

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2015年、シーンに突如として現れた"酸欠少女"さユり。2次元と3次元の狭間やそれらを行き来するという概念を指す「2.5次元」が彼女を表すキーワードの一つであり、それを巧みに表現するYKBX氏によるアートワークもとても印象的だ。同時に一人のシンガーとしてのさユりとはどんな人間なのだろう。不思議? 無邪気? 等身大? 天才的? きっとどれも当たっていて、けれどそれだけでは彼女を表現しきれない不完全なワードだ。容易に言語化できない多面的で奥深い彼女の魅力を、その楽曲に触れ、話を訊きくことで少しずつ解き明かしたいーー本稿はそんなインタビューである。音楽との出会いや作品について、ライヴに関すること……様々な内容を丁寧に語る彼女の言葉から、読む人一人ひとりにとっての「さユりとは」を見出してほしい。

――2月24日に2ndシングル『それは小さな光のような』がリリースされるというタイミングでSPICEにご登場いただくわけですが、今回は楽曲のことだけではなく、さユりさんのバックボーンというか、パーソナルに近い部分についてもお聞きできたらなと思っています。

よろしくお願いします。

――現在の作曲や音楽性に直接つながっていなくてもいいんですが、さユりさんが曲作りを始めた14歳の頃、どういう音楽に触れて刺激を受けていたんですか?

んーっと……その頃に一番グッときたのは、小林武史さんの音楽でした。今でも大好きなんですけど。なんだろう……自分の中では、曲を作るときに〝匂い〟から作るんですけど、小林武史さんの曲はすごく匂いが強いんです。あと、岩井俊二監督の映画で小林さんの曲を聴いて、もっと好きになって。一番最初に好きになったっていう意味だと、小学4年生のときにポルノグラフィティさんが大好きになりました。すっごい好きなテレビドラマの『スカイハイ』でポルノグラフィティさんの「渦」がかかっていて、めっちゃカッコいいなと思ったんです。

――今のお話に関して、さユりさんに聞いてみたかったことがあって。Twitterで「真夜中に部屋でうたってたらメロディからきもちいい匂いがしてくる」っていうツイートをされてましたよね。

ふふふっ(笑)。つぶやきましたね。

――それってすごく独特の表現だなと感じたんです。ちなみに、小林武史さんの音楽の匂いは、言葉で表現するならどういうもの?

なんか……回帰? 帰る……。(自分のお腹のあたりを手のひらで示しながら)どこかに帰るっていうような感覚になるんです。

――具体的に記憶を持っている人ってほとんどいないと思うんですけど、お母さんの羊水の中にいる、っていうような?

それとか、もっともっと前の場所っていうか。そんな場所はあるはずないんだけど、あるような気がしてきて……。「ここに、はよ帰らないかん」みたいな、不思議な気持ちになる音楽なんです。

――なるほど。サウンドメイクとかっていう表層的な意味じゃなく、もっと原体験的な音楽になっているんですね。そういう音楽に触れる中でさユりさん自身もギターを手にしたんだと思うんですが、いろんな楽器がある中で、なぜギターだったんでしょう。

小学6年生の時に関ジャニ∞さんが大好きで、ライブDVDを観て。そこでギターを弾かれていて、一番目に留まったんです。ギターで作曲している様子とかも収録されていて、なんかすごくカッコいいなって気になっていって、ギターを持つようになりました。そのあと中学生になって、GO!GO!7188さんがすごく好きになって。最初にアコギで買ったコード本に「こいのうた」が載っていたんです。そのときは「いい曲だな」っていうくらいだったんですけど、その矢先に友達とカラオケに行って、友達が「浮舟」を歌って、めちゃカッコいい!ってなって。それから、3ピースバンドに惹かれる傾向にあるんですよ。

――他にはどういうバンドに?

凛として時雨さんとか、andymoriさん、Half-Lifeさんとか……plentyさんとか。3ピースだとギターがひとりしかいなかったりして、ガムシャラ感がより出るっていうのが理由なのかな? 今思えばなんですけど。

――3ピースで代表的な、ギターボーカル、ベース、ドラムっていう編成って、ある意味バンドの最小ユニットじゃないですか。それで4ピース、5ピースに劣らない音を出していくっていうソリッドさはあるかもしれないですね。

うん、確かに。それを受けて、「最小人数で」っていうところで、自分はひとりでやろうって思ったのもあるかもしれないです。

――3ピースとソロだと一気に2人減ってますけど(笑)。

ふふっ、極端ですよね(笑)。

――ソロでもバンドの人たちに負けたくない、みたいな気持ちもありますか?

それは、昔からものすごくあります。負けたくないです。

さユり 撮影=菊池貴裕

――ギターという楽器の、どういうところがしっくりきます?

どの楽器でも同じだと思うんですけど、「強く弾けば強く音が出る」っていうところ。最近になって、ギターはダイナミックレンジが広いということを教わったんですよ。それで、ギターは強弱の幅が広いんだって思ったら、余計にしっくりくるようになりました。自分が弾いたときの感情を、そのまま表現してくれるような感じで。どれだけでも強くなるし、逆に弱くもなるし。

――そこまで信頼していると、ギターに相棒感も出てきますよね。

ありますね! 今のはまだつけてないんですけど、前はギターに名前をつけてかわいがったりしてました。

――以前はどういう名前を?

最初のギターは淀ヶ崎伊緒(よどがさきいお)ちゃん(笑)。大阪の淀川と、兵庫の尼ヶ崎の掛け合わせで。伊緒ちゃんっていうのは、単に響きがかわいいなって。ネーミングは、関ジャニ∞さんが好きだったから、ゆかりのある地名に憧れがあったんです(笑)。

――本当にファンだったんですね(笑)。では、音楽以外で、さユりさんがよく触れていたカルチャーはありますか?

んー……漫画やアニメも好きなんですけど、その中でもドラマはすごくたくさん観てました。小説でもなんでもそうだと思うんですけど、違う世界のいろいろな問題を提起してくれるところが好きで。小さい頃はそんなことは考えてなかったけど、最近になってあらためてドラマが好きだったことを振り返って、いろんなことを学んでいたんだなっていうことに気づいたんです。

――完全なファンタジーっていうよりは、もうひとつの現実を見ているような。

うん、そうですね。

――それって、さユりさんの楽曲にも通じるところがありませんか?

あります。ドラマの物語って、普段使わない言葉や世界観を通じて、自分の中身をさらけ出すっていうことだと思っていて。内面を、こうやって(と、胸のあたりをかき混ぜるようなジェスチャー)……潜っていって、さらけ出すのは曲を作るのと通じるなって。

――「中身をさらけ出す」というのは、さユりさんの曲において大きなキーワードなんじゃないかと思っていて。その中身は、たくさんの人に広がれば広がるほどたくさんの解釈が生まれるし、時には意図しない聴かれ方をすることもあると思うんです。そういうことに対して、躊躇はないんでしょうか。

怖いって思ったことはないんですけど、さらすこと……自分の中身を純粋な言葉と音にするっていう作業はものすごく難しいです。それが一番体力を奪われるところですね。怖いっていう意味だったら、私は逆に、人が感情を隠していることに恐怖を覚えるんです。どうしてそんな顔をしているの?とか、何を隠しているの?って思ってしまって。だから、人間関係がちょっと……苦手だったりっていうことなんだと思っていて。

さユり 撮影=菊池貴裕

――むしろ、みんな内面を出せばいいのに、と思っている?

多分、私の曲を好きと言ってくれている人たちは、「自分の内面を出せよ!」っていうメッセージとして聴いてくれている部分はあるんじゃないかなって。「さらけ出せよ」って。

――さユりさんは、ビジュアル面ではYKBXさんとのタッグで2.5次元という世界観を構築していたり、ノイタミナのアニメ・エンディングになったりと、今いろんなところからリスナーが入ってきていると思うんです。そこで、思わぬ反応が来たりもすると思うんですけど、やっぱり怖さよりは楽しさの方が強い?

まさに今、そういう状況にあるんですけど、「わーっ!」って思います(笑)。私について、いろんな想像をしてくれる人がいるんだなって、新鮮で。2次元と3次元は、見せ方もできることも全然違うので、幅が広がるのはすごく嬉しいです。私は、自分を限定したくないっていう気持ちがあって。だから、どういう風に感じてもらってもいいと思ってて。でも……できたら実際に会いたいです。本当は、みんなと直接話がしてみたいなと思っているんですけど。

――でも、今の状況ってすごいものですよね。これまではライブハウスや路上で活動されていて、そこではほぼ対面の関係性でやっていたわけですから。

これまでは、ライブをして、私から直接CDを買ってもらうっていう形だったのが逆になってきていて。TVやネットで私のことを知ってくれて、その人たちがライブに来てくれて。自分の知らないところで自分を知ってくれる人がいるっていうのは、想像もできなかったです。だから、どんどん……変な感覚に(笑)。でも、私のこと、もっともっと好きになってもらいたい。「みんなライブに来い!」って思ってます(笑)。

さユり 撮影=菊池貴裕

――そういう状況の中で、2月24日に2ndシングルである『それは小さな光のような』が発売されます。表題曲は梶浦由記さんの作詞・作曲ナンバーですが、さユりさんはツイッターで、自分以外の人が作った楽曲を歌うことについて「挑戦だし吸収できる」とおっしゃっていて。この曲から、どういう吸収がありました?

音楽的なところでいうと、リズムもそうだし、自分が使わないコード進行や転調があって、それだけで刺激だったんです。でも、一番は歌……なんだろう、意識というか。私が自分で作る曲よりも、外を向いている気がして。私の曲は、自分の弱さと向き合うっていう内容が多いんですけど、「それは小さな光のような」は〝対他者〟っていう部分で、これまでの自分の枠を飛び越えていて。誰かを守るっていう意志を歌うのは……自分の中にあるものだけだと、まだまだ先にあったことだと思うんですね。今、この曲を歌うことで……。

――飛び級したような?

うん、そうですね。おっきな試練を与えられて、それをまっとうしなければという感覚ではあります。

――ちなみになんですけど、梶浦由記さんのサウンドからは、どういう匂いを感じますか?

えっと、古代っていうか……エジプトっていうか……遺跡? その質問、言葉にするのすごく難しいかもしれないです(笑)。ちょっと待ってくださいね……(空中に指で何かを描くような仕草をしながら)、あと、古代の帝国とか……。kalafinaさんが歌う梶浦さんの曲のイメージが強いのかもしれないけど、そういう世界の中でのしきたりっていうか……幽閉されている美しさっていう感覚です。そういう世界を歩いていくような。

――「それは小さな光のような」も壮大ですもんね。

はい。それもあって、歌うのはとてもパワーが必要で。大事だなって思ったのは、サビの頭の<守りたいと思う>っていうところなんですけど、ストレートな言葉じゃないですか。だからより思いを乗せないと……「思いを乗せやすそう、だが、そこには強い意志が必要だ!」みたいなところで格闘しました。

――シンプルな言葉だからこそ、気持ちが入らないと言葉に負けてしまう。

そうなんです。誤魔化しが効かないというか。

――なるほど。そして、カップリングの「来世で会おう」なんですけど、これもかなり言葉の力が強い楽曲だと感じました。

歌詞にもあるんですけど、自分が選ばなかった人生を歩む自分の夢をよく見て。で、目覚めた時に、夢で会った自分やいろんな人への愛おしさとか、もう同じ夢は見れないことの寂しさとか……それがごっちゃになった感覚だけが残っていて。いつか、私も頑張れば夢の中の自分にも会えるかもしれないって妄想して、そこから生まれた曲なんです。前世・来世っていう概念は前から好きなので、その言葉はパッと出てきたんですけど。

――「来世で会おう」ってすごいフレーズだなと思って。すごく寂しい別れの言葉でもあるし、究極に前向きな言葉のようでもあるし。

もともと、私はすごく性格がネガティブで……だから辛いって思うこともいっぱいあるけど、〝それでも〟生きていかなければいけないから。うん、やっぱり、言いたいのは〝それでも〟なんです。人生は強制的に進むし……それでも、自分も進まないといけなくて。マイナスなことに、〝それでも〟っていう気持ちを掛け算して、プラスにしていくというか。その戦いというか。そうですね……うん、それでも、負けない気持ちを持ちたいなと思っています。

――多分、人間ってそういう部分はいくつになっても変わらないと思っていて。歌詞にある<選ばなかった日々>、有り得たかもしれない日々への後悔とかって、歳を重ねるごとに増えていくし、だからこそ、それを逆転させる〝それでも〟という言葉も強くなるというか。たくさんの人に刺さる曲だと思います。

はい、ありがとうございます。そうだといいな。

さユり 撮影=菊池貴裕

――さユりさんは、曲を作るときに、どういう人たちを思い浮かべているんですか?

みんな、です。あんまり、おじいちゃんとかは想像したことがないですけど(笑)、ライヴに来てくれるのは、中学生、高校生、大学生、社会人、おじさん、いろんな人で。だから、どういう人っていうよりも、みんなっていう感覚なんです。私が感じることは、みんな持っている気持ちだと思うから。でも、特に若い子とかは……私もそうだけど、経験もあまりない中で、いろんな苦しいこととかがあると思って。後悔もあるだろうし、私もそういう気持ちの中で曲を作ったし。だけど、そこで私が言えることって、やっぱり〝それでも〟しかないと思うんです。それしかないから。それと、具体的には書けないことだと思うんですけど、すごく悲しいニュースに触れたりして……。その当事者の人とかに、いつか何かのきっかけで私の歌が耳に入ったときに、ほんの少しでも救いになるような、そんな自分でありたいなっていうのはすごく思っています。

――4月23日には、渋谷WWWでワンマンライヴがあります。ここは映画館を改築したライヴハウスですけど、今のさユりさんのストーリーを見せるっていう意味で、うってつけの場所ではないかと。

1回目のワンマンが『夜明けの支度』っていうタイトルで。自分の中のテーマは、〝過去を過去にする〟というものだったんです。夜明けを恐れずに待とうという気持ちで。今回は『ミカヅキの航海』というタイトルで、航海と後悔をかけていて。いろんな後悔もあるんですけど……それでも歌っていくんだという決意を出すことができたら。ふふっ……なんか〝それでも〟しか言ってないですけど(笑)。来てくれるお客さんに少しでも光を与えられたり、抱えている孤独に寄り添えるようなライヴにしたいなと思っています。


撮影=菊池貴裕 インタビュー・文=矢野裕也

さユり 撮影=菊池貴裕

リリース情報
2ndシングル「それは小さな光のような」
2016年2月24日リリース
 
■初回生産限定盤 A CD+DVD 

初回限定盤A

CD
1. それは小さな光のような
2. 来世で会おう
3. 光と闇-弾き語りver.-
DVD
1. それは小さな光のようなMV(フルサイズ)
封入特典:酸欠少女さユりキャラカード(数種の中から1種ランダム封入)
デジパック仕様
 
価格:¥1481+税
BVCL-696~697
 
 ■初回生産限定盤 B CD+DVD

初回限定盤B

CD
1. それは小さな光のような
2. 来世で会おう
3. スーサイドさかな-弾き語りver.-
DVD
1. 来世で会おうMV(フルサイズ)
封入特典:酸欠少女さユりキャラカード(数種の中から1種ランダム封入)
デジパック仕様
 
価格:¥1481+税
BVCL-698~699
 
 ■期間生産限定盤 CD+DVD

期間限定生産盤

CD
1. それは小さな光のような
2. 来世で会おう
3. ふうせん-弾き語りver.-
DVD
1. それは小さな光のような-「僕だけがいない街」ノンクレジットED映像
初回仕様限定封入特典:「僕だけがいない街」キャラカード(数種の中から1種ランダム封入)
「僕だけがいない街」描き下ろしアニメジャケットデジパック仕様
 
価格:¥1481+税
BVCL-701~702
 
 ■通常盤 CD

通常盤

1. それは小さな光のような
2. 来世で会おう
初回仕様限定封入特典:酸欠少女さユりキャラカード(数種の中から1種ランダム封入)
 
価格:¥926+税
BVCL-700

 

ライヴ情報
さユりワンマンライブ「ミカヅキの航海」
 
日程:2016年4月23日(土)
開場:16:30 開演:17:00
会場:渋谷WWW
料金:前売り ¥3,000
座席形態:オールスタンディング
整理番号:あり
ドリンク:ドリンク代別
 
 ■オフィシャル先行(抽選方式)
受付期間:1月21日(木) 12:00 - 1月27日(日) 23:59
 
 一般発売:2016年3月19日(土)  10:00
問い合わせ:クリエイティブマン 03-3499-6669
備考:未就学児入場不可

 

 

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