デリケートな問題をシニカルな笑いに 注目劇団・(劇)ヤリナゲへインタビュー

2016.3.7
インタビュー
舞台

(劇)ヤリナゲ(左から川村良太・中村あさき・越寛生)

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東京・王子小劇場にて2月より開催される、佐藤佐吉ユース演劇祭に参加する(劇)ヤリナゲ。デリケートな社会問題をシニカルな笑いにかえて描きだす作風で、早くもあらゆる演劇メディアに取り上げられるほどの話題を呼んでいる。今回、そんな(劇)ヤリナゲの主宰・越寛生、劇団員の中村あさきにインタビューを実施。社会的なテーマを取り上げる真の理由や、次回公演の登場人物に関する秘密まで、たっぷり語ってもらった。

 

--(劇)ヤリナゲを旗揚げした経緯を教えてください。

越:大学三年生の時に旗揚げしました。1回こっきりの「やり逃げ公演」ということで公演を行ったのが始まりです。ヤリナゲという名前は、その「やり逃げ公演」からきています。もともと大学の劇団に所属はしていましたが、それとは別にやろうということで立ち上げました。その後、2014年の8月くらいに中村あさきさんと川村良太さんの2人が劇団員という形で加入しました。二人を誘ったのは、二人のことが前から好きだったからですね。一緒にやろうよという気持ちだけです。劇団員を増やすことによって、利便性が高まるとか、なにか良くなるとかはあまり考えずに、身近にいてほしいなという気持ちで声をかけました。

 

--越さんに声を掛けられた時の心境は?

中村:いざ所属するってなると、どうなることかわからなかったっていうのもあるし、声を掛けられたその当時、私は大学3~4年生で卒業した後どうするか決まっていない時期だったので、1回回答を渋ったんです。でも、単純に越が作る作品が好きだったし、ずっと越の作品に出ていきたいって思っていたし、これから彼が何を考えていくか気になるという気持ちもありました。なので、特に断る理由がないというか、「やるならここでやりたいな」っていうのがあったので、加入を決めました。

(劇)ヤリナゲ『非在』(2014年、王子小劇場)

--(劇)ヤリナゲの作風は?

越:テーマとしては、何かしらの社会問題みたいなものを取り上げています。例えば、中学校のディベートの授業とかで議題にあがるような話をテーマにすることが多いです。お肉を食べるために動物を殺していいんでしょうか、とかっていうようなことをこれまで扱ってきました。

 

--そのようなテーマを扱い始めたのはいつごろからですか?

越:第2回目公演の『パンティー少女ミドリちゃん』からですね。

 

--どうしてそのようなテーマを扱うようになったのですか?

越:なんか、僕役に立つものが欲しいんですよ、誰かにあげるプレゼントを選ぶときは、普段使っているのの上位互換というか、使えるものをあげたいなって思うんです。ちょっと言い過ぎだけれど、花をあげるよりも、実用性のある今後も使えるものをあげたいなと考えるプラグマティック(実用主義的)なところがあって。それと同じような感じで、演劇を見た後に「感動した楽しかったおしまい」ってなるだけよりは、その後もなにか見た人の中に残ってくれるものを作っていきたいなっていう気持ちがあるんだと思います。

僕、小学校の時に結構仲の良かった男の友人がいるんですけれど、彼が中学校で陸上部に入ったんですね。それで、僕もあわせる形で陸上部に入ったんです。でも、僕自身は陸上が得意では全くなくて…朝起きられないから朝練にもいかず、不真面目な感じだったんです。けれど、彼はすごく足が速くて、責任感があった。だから陸上で県大会に行ったり、部長になって部員から信頼を集めたりと、有望な感じの選手になっていったんです。部活では彼は遠い存在になってしまって、僕は彼のことを見ながら「わあいいなあ。小学校の時は仲良く喋れていたのに」って思っていたんです。けれど、彼とは市内の同じ塾にも一緒に通っていたんですね。その塾が終わって帰る時は、二人とも帰る方向が同じだったんで一緒に帰っていたんですよ。仲良く話しながら。その、部活動での距離感と、塾での距離感に整合性がないなって感じていました。部活動で全然話さないのに、塾で一緒に帰る時には仲良く話すっていうのが、なぜか出来なかったというか、納得できなかったんです。人と人はコミュニティが違えば、接し方が違うとは思っているんですけれど、そうではなくて、なるべく一つの距離感でいたい、一つの方程式で生きていけたらいいのになって思っているんです。たとえば死刑を良しとするのも悪しとするのも、こうだからこっちが正解だっていう方程式では太刀打ちできない、凄く決めづらい問題だと思うんですよ。それが気持ち悪くって「なんとかして方程式立てられないか?1つの式で全部解決できないか?…できないね」っていうことを描きたいんだと思います。中学校の時から、なにか矛盾があって自分がうまく判断出来ないことに対して、これどうしたらいいんだろうっていう気持ちがずっとある。それが今は、社会問題への興味という形で表れているんじゃないだろうか思います。社会問題をテーマにするのも、なにか訴えたい主張があるからということではないんです。

越寛生

--中村さんはそういった社会的なテーマを扱う方針に共感されて、出演を続けているのでしょうか?

中村:作品を通して誰かに何かを一緒に伝えたいっていうよりは、そういった「言われてみれば凄い気になる!」っていうテーマを越がどう演劇にしていくのか、に対して個人的に気になっているんだと思います。あとは、そういうディベートの議題のようなテーマを扱っていながらも、作られた作品が劇として面白いというか、好みなんですよね。

 

--次回公演『緑茶すずしい太郎の冒険』はどんな作品でしょうか?

越:ちょっと未来の日本の話です。出生前診断っていう、妊婦さんが自分のお腹の中の子供に障害があるかどうかを診られる検査があるんですけれど、日本ではそこまで積極的に行われてはきていないんですね。でもイギリスなどでは、全妊婦さんがそれを受けられるようにしましょうっていう指針があるそうなんです。つまり、「あ、この子ダウン症らしい。じゃあ中絶しよう」っていう判断がほぼ全女性できるっていう話なんです。日本でもヨーロッパのように、どんどん出生前診断を受けられる層が広がっていった時に、お腹の子供になにか障害があったらじゃあ中絶しよう、っていう判断をする人が結構たくさんいるんじゃないかと思うんです。日本でも2013年に新型出生前診断が始まってから、妊娠中の子に障害があると分かった人はほぼ全員中絶しているというデータがあります。もちろん、個々人の判断をどうこう言いたいわけではありません。経済的な事情とか、パートナーのことだとかがあって、それぞれが決めることだと思います。ですけど、総体として見た時に「あれ、結局これって障害者は生まれて来なければいいっていうことにならない?それどうなんでしょう」っていうのが気にかかっているんです。そういったことを今回の公演では扱っています。

 

--では、出生前診断をして障害がある子供を妊娠していることがわかる登場人物が出てくるわけですね。

越:そうです。ウーロン茶熱い花子っていうのがお母さんで、その子供が緑茶すずしい太郎といいます。なので、緑茶すずしい太郎が、生まれる前の話を描いています。お母さんのお腹の中にいる時に障害があるということがわかり、産むのかどうしようか迷うことになる話ですね。

 

--「緑茶すずしい太郎」「ウーロン茶熱い花子」などキャラクター名が特徴的ですが、なにか意味はあるのでしょうか?

越:以前、アムリタっていう団体の公演の稽古場で、偽名で自己紹介をするというゲームをやったんです。その時、アムリタの劇団員の藤原という方が「こんにちは!緑茶すずしい太郎です!」って言ったんですね(笑) そのフレーズがあまりに印象に残っていて、それをそのまま使わせてもらっているんです。

 

--中村さんはどんな役どころでしょうか?

中村:私は、初演とは違う役を演じます。

越:初演の時は、ただ可愛いだけみたいなキャラクターでした。

中村:あんまり出てこないヒロインみたいな…越からは、演技が下手でも可愛けりゃいいって言われていました。

越:そんなこと言ったっけ!?

中村:言ったよ(笑)

越:その頃をよりも彼女の演技が上手になったんですよ。なので、あの時とは違う役をやれるんじゃないかということで、今回は別のキャラクターを演じてもらいます。

中村:初演は、主に緑茶すずしい太郎側の人間だったんですけれど、今回は主人公に圧をかける役になります。この作品は、いろんな状況に置かれる主人公がどう判断していくのかを描いているんですが、その判断のし辛さに対して決断を迫る立場ですね。

中村あさき

--初演から内容は変わりそうですか?

越:変わるかも。

中村:うん。2年経って、越も作品に対して思うところが変わってきているだろうし、演出の仕方も変わってきている。昨日過去の台本に訂正を加えたものを読み合わせてみたんですけれど、これでは今やりたいことは表現できないなって思いました。

越:再演だからと油断してました(笑) 根っこは変わってなくて、それをどうやったら効果的に表せるかなっているのが、だんだん変わってきています。ヤリナゲの現在地を見てもらうには一番いい公演なんじゃないかなと思いますね。僕にとっても、前やったものをもう一回取り組むっていうのは意義がありそうだなって思っています。

 

--佐藤佐吉ユース演劇祭の出品作品ですが、その点は意識をしますか?

中村:するの?してるの?

越:やっぱり並べて見られるわけじゃないですか。並べられた5つの中で、どう見られているんだろうってのはすごい気にかかります。矛盾した気持ちがあって、前から並べられると1等になりたいっていう気持ちが強いんですけれど、一方でみんな面白いんだろうなっていうわくわくも強いです。ですけれど、やっぱりやるからには「ヤリナゲだけすごい残ったな」っていってもらえるようになりたいなあっていう欲はあります。

 

--佐藤佐吉ユース演劇祭では、各団体が個性的なイベントを実施予定です。(劇)ヤリナゲさんはどのような企画を予定されていますか?

越:例えば、アフタートークでレティクル東京座の赤星さんとお話するっていうのがあります。それこそ赤星さんは、誰に対しても全く距離感が変わらない人だなと思います。圧倒的なエネルギー量で、一つの式で誰とでも等しく接していらっしゃる。赤星さんとは作っているものも、性格も全然違うと思うので、どうなるのか楽しみです。あとは「カタカナ四文字の会」ってのをやろうと思っています、ヤリナゲ、アムリタ、カミグセ、ゲンパビなどカタカナ四文字の名前の劇団のメンバーが集まってみようっていう会です。あとは、4月から僕が無職になるので「就職相談会」をやろうと思っています(笑) 僕に仕事をくれる人、または、僕と仕事がしたいよっていう人、出演したいとか脚本演出をしませんか?みたいなオファーをくれる人が来ないかなっていうのを予定しています。

 

--今後の(劇)ヤリナゲの野望、展望はありますか?

越:メンバーを増やしたいです、劇団全体で5~10人くらいになったらいいかなあ。なんか二人だと「やりたい」「いやだ」で話が止まっちゃうんですよね。もう一人いたら、「やりたい」「いやだ」「やってもいいんじゃない」ってなると思うので、そこで物事が進んでいくと思うんですよ。それに加えて、作品づくりでもいろんなものを持ち寄ったほうがよりよくなるんじゃないかなとも思いますしね。

中村:私はヤリナゲ専属の制作の人がほしいです。それプラス、何人か俳優を増やしたい。

越:あと、自分のじゃない脚本を使って公演をやりたいです。演出家として演出するのも楽しいんですけれど、やりたいことを実現するために脚本家としてのペースが追い付かないので…。すでにやりたい脚本っていうのは決まっているので、いつかそれを上演出来たらいいなって思っています。

 

--(劇)ヤリナゲに関心を持たれた方に、メッセージをお願いします。

越:うーん…。あさきさんどうぞ。

中村:え!?うーん…。

越:なんか二人とも、本当のこと以外言っちゃいけないって思っているのかな。営業トークというかそういうのができないんです、そこ、僕らのウィークポイントだね。うーんと…とりあえず出る人が素敵なひとたちなので、それだけで見る価値があると思います。あと、もし僕の思っている関心に対して、同じようなことを少しでも感じている方ならより深く感じていただけるんじゃないかと思います。

 

「それらしいことをそれらしく」言えない(劇)ヤリナゲの二人。インタビューでも、心からの言葉を全力で語ってもらった。こんな彼らの作り出す公演に嘘が描かれるわけはない。もどかしさは全力でもどかしく、愛おしさは全力で愛おしいはずだ。上っ面だけの作品、綺麗にまとめただけの作品に飽き飽きしているあなたは、ぜひ彼らの公演に足を運んでほしい。登場人物たちの剥き出しの気持ちに、容赦なく心動かされること間違いなしだ。次回公演『緑茶すずしい太郎』は、王子小劇場(東京・北区)にて、3月24日(木)~28日(月)開催。

 

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イベント情報
(劇)ヤリナゲ第7回公演『緑茶すずしい太郎の冒険』

日時:2016年3月24日(木)-28日(月)

会場:王子小劇場

作・演出:
越寛生

出演者:
浅見臣樹
伊岡森愛
岡本セキユ
國吉咲貴
津枝新平
中村あさき
三澤さき
四柳智惟(ママスパパス)
 

 

(劇)ヤリナゲ
2012年1月『八木さん、ドーナッツをください。』で主宰・越寛生により活動開始。うかつに笑えないデリケートな問題をアバウトな手つきでシニカルな笑いに転換する。そこで描かれる愛しくもしょうもない人間たちは、いつのまにか笑えないほどあなたにそっくり。

(劇)ヤリナゲ公式サイト
 
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