佐々木蔵之介が人間の尊厳と究極の愛を描く衝撃作『BENT』に挑む

2016.4.23
インタビュー
舞台

佐々木蔵之介『BENT』 (撮影=福岡 諒祠)

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ナチス政権下のドイツ・ベルリンを舞台に、迫害された同性愛者たちの過酷で悲しい運命を描いた『BENT』が佐々木蔵之介主演でこの夏、上演される。演出を手がけるのは佐々木と初タッグとなる、気鋭の演出家・森新太郎。キャストはほかに北村有起哉新納慎也中島歩小柳友ら個性派役者が勢揃いする。

ナチスドイツがユダヤ人だけでなく同性愛者も強制収容所に送っていた時代の物語。マックスは恋人のダンサー・ルディと面白おかしく生きていたはずだったが、ナチスのホモセクシャル狩りに捕まってしまう。収容所で単に岩をただ右から左へ、そして左から右へと移すだけの虚しい労働を強いられる中、マックスはホルストに出会い、お互いを知れば知るほど好意を持つように。絶望と暗闇が支配する収容所での日々を励まし合い生き抜こうとする二人だったが、やがて極限状態に追い詰められていく……。

国境も性別も関係ない、究極の愛がドラマティックに描かれる衝撃作。佐々木はマックスというこの難役に、果たしてどう挑むのか。



――『BENT』に出演することについて、現在の思いを率直にお聞かせください。

またこういう芝居かと、まず思いました(笑)。前作は『マクベス』(2015年)で病棟に閉じ込められ、その前は『ショーシャンクの空に』(2014年)で刑務所に閉じ込められて、今回は強制収容所に閉じ込められる。なぜこういう作品ばかり続くんでしょう。
 

インタビューの様子 佐々木蔵之介『BENT』 (撮影=福岡 諒祠)

――ご自分で選んでいるのでは?(笑)

きっと選んでいるんだ、ということに今、気づきました。本当はたまにはライトコメディをやりたいんですけどね。プロデューサーには伝わっていなかったようです(笑)。もちろん『BENT』は過去に何度も上演されている名作ですが、それよりも今はとにかく、今年もまた舞台をやれるんだなという思いのほうが強いです。
 

――佐々木さん演じるマックスと深く情を交わすことになるホルスト役を、北村有起哉さんが演じられることに関してはいかがですか。

北村有起哉くんはなによりも演劇が好きな演劇青年で、僕が大好きな舞台俳優のひとりです。舞台上で本当に自由に演じられるし、それも彼ならではの個性ある芝居ですしね。初めて彼の舞台を拝見した時から、天才的に面白いなあと思っていました。舞台共演は『おはつ』(2004年)、こまつ座の『私はだれでしょう』(2007年)に続いて3回目なので気心は知れていますし。映像でも何度か共演していて、ちょうど今年1月クールのドラマ(『怪盗 山猫』)でもずっと一緒だったので、現場で『BENT』の話もよくしていたんですよ。「おまえと愛し合うんか……」「お互いに変な感じですねえ」って(笑)。
 

佐々木蔵之介『BENT』 (撮影=福岡 諒祠)

――北村さん以外のキャストも個性的な男優陣が揃いました。

ルディ役の中島歩さんとも、どんなお芝居を交わせるか楽しみですね。小柳友くんとは『非常の人 何ぞ非常に(~奇譚 平賀源内と杉田玄白~)』(2013年)の時に一緒だったんですが、他は初共演の方ばかり。これまで僕が芝居をやってきた中でも、初めての人がかなり多いカンパニーになります。
 

――演出の森新太郎さんとは初顔合わせですね。森さんの演出のどういった点に注目されていますか。

いろいろな方から森さんの演出は「しつこい」という話を聞いているんですよ。誰だったかに「白井さんと森さん、どっちがしつこいですか?」と聞いたら、「どっこいどっこいだな」って言われました。経験上、かなり白井さんの演出はしつこいと思っていたので(笑)、覚悟して稽古に臨むつもりです。僕はしつこい演出も、稽古すること自体も嫌いではないから大丈夫です。しつこいというのは単に回数を重ねるというわけではなく、もっと先があるだろうと探求していくことだとも思うので。今回はちょっと、森演劇学校みたいなところの学び舎に入れるような気もしています。

佐々木蔵之介『BENT』 (撮影=福岡 諒祠)

――今回はまたキャストが男ばかりですが、男性ばかりならではの稽古場の楽しさとは。

男ばっかりというのにも慣れてきましたね。そもそも“Team申”(佐々木が主宰する演劇ユニット)には男しか出ていないし、スーパー歌舞伎(Ⅱ『空ヲ刻む者―若き仏師の物語』)(2014年)は当然男しか出ていなくて、『ショーシャンク~』もそうでしたしね。なぜか僕、基本的に舞台で女優さんと共演することがあまりないんです。
 

――それも選んでいるんですか?

いやいや、選んでいるわけではないんですけど、単にそういう流れになっているみたいですね。しかも、今回は夏場の稽古か……。暑いし、きっと汗臭いし、しかも愛し合うわけだし(笑)。一体どうなんねん、と思っているところです。まあ、男同士だと特に気を遣うことなく稽古ができるかなとも思いますけど……だけど、ここで「楽しみです」とはあえて言いたくはないかなあ(笑)。

佐々木蔵之介『BENT』 (撮影=福岡 諒祠)

――役づくりなどはまだこれからだとは思いますが、マックスという役を今の段階ではどう演じようと思われていますか?

やっぱり演劇って想像力が一番の武器だと思います。舞台上の僕たち、つくる側にもお客様側にもその想像力が今回は特に重要で、それを信じなければできない作品になるのではないかと思うんです。人間として扱われない状況にありながらも、人として生きなきゃいけない。でも、そう思うと気が狂いそうになる。夢を持っちゃいけない、俺を愛するな、自分も決して愛しちゃいけない、愛したとしてもそれを返せない。顔も見られず、目すら合わせられないところで、二人は愛し合うことで生きていこうとする。こんなこと、動物では絶対にできないことですよね。そういう無理な状況下で、今、ここでお互いは抱きしめ合っているんだ、一緒になっているんだということを想像する。舞台上ではただ石を運んで向き合って立っているだけなのに、そう思わせることができるのが、この芝居なんです。
 

――それを想像させることができる、とてもやりがいのある役だということですか。

そうですね。二人の人間がただ立っているだけなのに「すごいことが今、起こってる!」ってお客様も体感できるような芝居になるはずです。
 

――演劇を観慣れない方にもぜひ観ていただきたい作品ですよね。

あらすじを読むとちょっとハードに感じるかもわかりませんが、でもこういう芝居ってなかなか体験することができないですから。ただまっすぐ二人が舞台の上に立っているだけなのに、そこで愛を確かめ合っている、何かがそこで起きていると感じられる。映像を見るのとは別の、演劇でしか味わえない感覚なので、ぜひ劇場に足を運んでそれを体感してほしい。「すっげーな、かっこいいんだな演劇って」とか「こんなに心に突き刺さってくるものなんだ」と思っていただけるお芝居にしたいです。しかもその究極の愛を男だけで演じるわけなので、それはもういろいろなハードルを越えちゃっていますよね。愛というものの核が、きっと見えてくるんじゃないのかなとも思います。

佐々木蔵之介『BENT』 (撮影=福岡 諒祠)




衣裳協力=Vlas Blomme
スタイリスト=勝見宜人(Koa Hole inc.)
 
撮影=福岡 諒祠 インタビュー・文=田中里津子
公演情報
『BENT』

■日程
【東京】2016年7月9日(土)~24日(日) 世田谷パブリックシアター
【仙台】2016年7月30日(土) 仙台国際センター
【京都】2016年8月6日(土)、7日(日) 京都劇場
【広島】2016年8月14日(日) 広島アステールプラザ・大ホール
【福岡】2016年8月16日(火) 福岡市民会館
【大阪】2016年8月19日(金)~21日(日) 森ノ宮ピロティホール

■作:マーティン・シャーマン 
■翻訳:徐賀世子 
■演出:森新太郎 

■出演者
佐々木蔵之介/北村有起哉/新納慎也/中島歩/小柳友/石井英明/三輪学/駒井健介/藤木孝