『磯部磯兵衛物語』井上拓哉&中山義紘インタビュー

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2016.4.8
(左から)井上拓哉、中山義紘  撮影:吉永美和子

(左から)井上拓哉、中山義紘  撮影:吉永美和子

お客さんも僕らと一緒に、バカになってくれたら嬉しいです(井上)
 
 
以前通し稽古の模様をレポートした、劇団Patchの『磯部磯兵衛物語~浮世はつらいよ~』。今回は主役の磯部磯兵衛を演じる井上拓哉と、磯兵衛の母上を演じる中山義紘のインタビューをお送りする。どちらも、今世紀最高視聴率を記録した朝の連続テレビ小説『あさが来た』に出演するなど、演劇ファン以外からも注目を集めつつある期待の俳優。今回で初主役・初女役を演じるという、2人にとっては個人的にも大きな挑戦となるこの舞台について、いろいろ話を聞いてきた。
 
 
■母上役で、初めてというぐらい末満さんに褒められました。(中山)
 
──原作の漫画は以前から読んでたんですか?
 
中山 僕は(『磯部磯兵衛物語』が連載されてる)週刊少年ジャンプを毎週読んでるので、前から「浮世絵の漫画が載ってる!」と衝撃を受けてました。でもジャンプの漫画の舞台化はいっぱい聞いたことがありますけど、まさかこういうギャグ系をやるというのは驚きましたね。ツイッターとか、周りの友人の反応も「うわ、それをやるぅ?」みたいな声をよく聞きますし。
井上 僕は舞台化の話を聞いてから読み始めたんですけど、基本的に一話完結でめっちゃ読みやすいし、内容も結構ファンタジーな部分があって面白かったです。最初は「これを舞台で表現できるのかな?」と思ったんですが、逆に「だからこそ舞台ならではの表現ができるんじゃないか?」というのもあって、そこは楽しみになりましたね。

──それで実際、(脚本・演出の)末満健一さんの脚本を読まれた時の感想は。
 
中山 「このシーン(原作でも)あったあった」みたいな感じで楽しめたんですけど…。
井上 「これ(舞台で)できんの?」って疑問点が何点かあって。母上の登場シーンとか。
中山 「天井から這い出してくる」ってサラッと書いてあるけど(笑)、どうやるの? って。でも稽古を進める中で、末満さんからいろいろアイディアを聞いていって…。
井上 「なるほど!」と納得しましたね。何か無限大やなって思いました、表現の仕方が。
 
──キャストはどうやって決まったんですか?
 
中山 劇団内オーディションで。いろんな役をみんなで順番に演じて、その中で末満さんが(磯兵衛役に)「いい」と思ったのが…(井上を指す)。
井上 ビックリしましたね。でも磯兵衛って主人公なのにヘタレというか、結構だらしないじゃないですか? 主人公って、(人間が)できててカッコいいってイメージがあるのに。でも自分と共通点はいくつかあるなあ、とは思いました。やっぱり人間って、磯兵衛みたいにサボりたい気持ちもあるだろうし、男子なら春画…エロ本を読みたいという欲はありますし(笑)。

──でも母上のキャスティングが、さらにサプライズで。
 
中山 母上は、女性のゲストさんを連れてくるのかなあと思ってたんですよ。でも末満さんが僕の母上を「面白い。ハマり役や!」みたいに言ってくださって。普段そんなに褒めてくれる人ではないのに、Patchに入って初めてってぐらいに褒められました(笑)。
 
ぜひ原作と比べて欲しいビジュアル。左/磯部磯兵衛 右/母上

ぜひ原作と比べて欲しいビジュアル。左/磯部磯兵衛 右/母上

 
──磯兵衛は、井上さんも言ったように結構誰もが身近に感じられる部分がありますけど、母上は完全にぶっ飛びキャラですよね。
 
中山 ねえ。何であんなに強いんや? とか。ただ男が女の役をやってる時点で、出落ちになりかねないなあと。なので末満さんともいろいろ相談して、歌舞伎の女形のイメージで演じることにしました。それで所作とか声色とかを、実際の歌舞伎を観て参考にさせていただいてます。
 
──ちなみに誰を一番参考にしていますか?
 
中山 所作は坂東玉三郎さん。声色は(三谷幸喜作・演出の)『決闘! 高田馬場』で、市川猿之助(当時は亀治郎)さんが女性役をやってる所があって、末満さんから「ああいう感じがいいかなあ」と言われました。あと磯兵衛への愛の気持ちをソロで歌う所があって、そこは「ミステリアス感が欲しい」と言われて…稽古場レポートでも書いていただいたんですが、美輪明宏さんをイメージしています。シャンソンを意識して、声をめっちゃ震わせたりして(笑)。確かに母上って得体が知れない存在やから、僕が演じる上でも、そういうミステリアス感は出したいと思っています。
 
■ハードルを超えるのではなく、くぐって進むみたいな見せ方。(井上)
 
──この前の通し稽古で印象的だったのが、全体的に見せ方がすごくアナログということでした。プロジェクションマッピング全盛のこのご時世に、春画を切り捨てるシーンをああいう形で表現するのか! とか。
 
井上 ですよえね(笑)。
中山 そのチープさも、磯部磯兵衛らしい所かなと。何でもとにかく人を使う(笑)。
井上 ハードルを超えるんじゃなくて、くぐり抜けて進むみたいなやり方(笑)。ああいう場面の小道具は、(中島役の)星璃が手間ひまかけて作ってるんですよ。
 
──中島がここでも磯兵衛のフォローを(笑)。でもキャラクターのビジュアルだけでなく、ちょっとしたポーズや場面なんかも、すごく原作に忠実でしたよね。
 
井上 ビジュアルはメイクさんや衣裳さんのおかげですけど、それでも「ここまで似るか?」って(笑)。でも漫画を舞台化するのって、やっぱりイメージが大事じゃないですか? ポーズもなるべく再現したいので、原作の(磯兵衛の)腕の角度とかも考えて。でも「役に入る」という点では、原作があると頼れる…じゃないけれど、気が楽な部分はあります。
 
──でもやっぱりそこに、自分たちが何をプラスできるか? というのは…。
 
井上 もちろんです! ただ再現するだけだったら、何か…。
 
──コスプレイヤーと変わらないですもんね。
 
中山 そうそう、衣裳とメイクさえあれば誰でもできる。
井上 ねえ。そこからプラスしてどうオリジナリティを出せるかが、役者の力、見せ所やと思うんで。そういう意味では今回ミュージカルなんで、原作にあるシーンをいかに面白く膨らませられるかっていう部分に、やり甲斐を感じています。
 

──確かに「それを歌にするか!」みたいなシーンの連続ですし。
 
井上 それありますよね。「ここ歌入れんでええやん!」っていう(笑)。曲が和田(俊輔)さんだからクオリティ高いけど、歌詞はよく聞いたらバカバカしいし。
中山 自分たちでも歌いながら笑ってるもんね。
井上 でも「笑いが一番難しい」というのは、今めっちゃくちゃ実感してます。間を全部完ぺきに決めたら笑いが取れるか? って言ったらそうでもないし、セリフの抑揚もキメ過ぎちゃうと面白くないし。舞台はお客さんとの対話でもあるから、場の空気をいかに読めるのかというのが、やっぱり笑いにつながるのかなと。だから稽古でも「まず共演者を笑かそう」という所からスタートして、そこから身内受けにならないようにお客さんに届けるというのが、今一番向かうべき方向かなあと思っています。
中山 特に磯兵衛はなあ、大変やんなあ?
井上 確かに。ずっと(舞台に)出てる分、笑いの要素がいっぱいあるわけですから。でも磯兵衛以外のキャラも見せ場がいっぱいあるし、みんな本気でバカやってますよ。もうどうなるんだろう? 劇場がどんな空気になるのかなあ。
中山 でも笑いに対する意識は、稽古場から「あいつより俺おもろいぞ」みたいな競い合いがあって、そういう稽古場は新鮮でしたね。歌うのをガッツリやるのも初めてですし、僕たちも役者としてだいぶ幅を広げられる可能性があるなあと思います。
 
──特にライバル視してるキャラクターとかは…。
 
中山 (川下)大洋さんの先生と熊本さんは、やっぱり存在感デカいよねえ。
井上 特に熊本さんがね。見た目もインパクトあるけど、本当に動きがすごいんです。負けてられないですよね。打倒熊本さんですよ、僕(一同笑)。
 
■次の目標は『磯部磯兵衛物語』第二弾「徳川埋蔵金編」です。(中山)
 
──今は漫画やアニメをミュージカル化した「2.5次元ミュージカル」が流行していますけど、『磯部磯兵衛物語』は「この漫画をミュージカルにするなんてどうかしてる」という時点で、すでに異色ですよね。
 
井上 そうそう! 舞台化はまだわかるとしても、さらにミュージカルにするとか(笑)。
中山 歌も原作の空気感そのままに、脱力系の歌みたいなんばっかりやから。
井上 だから変にカッコ付けた感じにはならないと思うし、そこにPatchらしさが出ると思うんですよ。男臭さ…じゃないけど、ストレートな気持ちは負けないというか。
中山 確かにね。カッコ付けないというのは大事かもしれへんなあ。それこそ「必死のパッチ」で一生懸命やってる姿を見に来て欲しいし、たとえそれがダサくても「何かこの子ら、必死やなあ」みたいなのを感じてもらうというね。
井上 うん、何かエネルギーみたいなのを感じてくれたら嬉しいです。でも磯兵衛自身はだらしないキャラなので、そこの間が難しいですね。必死にゆるさを表現するという(笑)。 
 
──今回は人気漫画の舞台化ということで全国的に注目が集まってますし、これが飛躍の大きなきっかけになりそうな予感もしますが。
 
中山 今回ジャンプに載せてもらったりして、目に止められる機会がすごく増えたと、本当に感じてるんですよ。だからまず『磯部磯兵衛物語』を成功させて…劇団Patchを知らずに観に来て「おもろいやん」と思ってくれて、その次の公演も、次の次の公演も見に来てくれるお客さんが増えたらいいなと思います。その次の目標は『磯部磯兵衛物語』の第二弾ですね。「徳川埋蔵金編」も舞台化したら面白そうですし、人気キャラのお犬様も出せたらいいと思いますし。
井上 Patchはこの4月で5年目に入るんですよ。その節目でこういう話題性の大きい作品で、しかもこういう大きい役をいただいて。やっぱりこれを必ず成功させて、いずれ関西以外にも…今Patchは関西だけでやってるけど、それ以外の所にも発信していきたいです。僕個人も磯兵衛をやってて、また自分の新たな部分も知れたし、課題もたくさん見つかったので、そこも今後いろいろ試していきたいなあと。5年目に向けて、何だかワクワクした気持ちになっています。
 

──でもそういったことも、一重にこの公演の成功にかかっているかと。
 
中山 そうですね。「2時間があっという間やったなあ」と思わせたいし、耳に残る曲とかも持って帰ってもらえたら嬉しいし。前回(『幽悲伝』)は重い話でしたけど、今回はとにかく「何かスッキリしたなあ」って劇場から帰ってもらえるのが一番です。
井上 そうですね。わちゃわちゃーっとしたお祭騒ぎの2時間を目指したいです。普段舞台観ない方も、こういった舞台ならわかりやすいんじゃないですか? 原作を知らない方も多分楽しめると思うので、本当にフラットな気持ちで観に来ていただいて、僕らと一緒に楽しんでいただきたいです。
中山 動画で予習していただいたりしてもね。
井上 そうそう。今僕ら、ツイッターで稽古動画をちょこちょこ上げているので、それでまず曲とかを聞いた上で、何なら合いの手を入れてくださってもいいですよ、と。最後の『磯兵衛音頭』も振付簡単やから「一緒に踊りましょう!」みたいになれたらいいなあと。そういうお客様を巻き込んだ演出もあるんで、客席も一緒にバカになってくれたら嬉しいなあと思います。
 
最後に井上&中山からの動画メッセージをどうぞ。実は素顔もちょっと磯兵衛が入ってるという井上の天真爛漫ぶりと、最後の最後で母上が憑依する中山が見モノです(笑)。

 
 
イベント情報
Patch Stage Vol.8 浮世戯言歌劇『磯部磯兵衛物語~浮世はつらいよ~高尾山地獄修業編
 
■日時:4月20日(水)~25日(月) 14:00~/19:00~ 
※20日=19:00~、23・24日=13:00~/18:00~、25日=12:00~/17:00~
※24日昼公演は前売完売。20日、21日昼の回、22日昼の回は終演後、アフタートークイベントを開催。24日夜の回は終演後、Patchによるハイタッチ会を開催。
■場所:ABCホール
■料金:6,500円
■原作:仲間りょう(集英社「週間少年ジャンプ」連載)
■脚本・演出:末満健一
■音楽:和田俊輔
■出演:井上拓哉、中山義紘、星璃、村川勁剛、吉本考志、岩﨑真吾、三好大貴、松井勇歩、竹下健人、近藤頌利、有馬純、田中亨、藤戸佑飛、尾形大悟、山田知弘/竹村晋太朗(劇団壱劇屋)、坂本頼光(声の出演)、鎮西寿々歌、川下大洋(Piper)、ほか
■公式サイト:
http://isobe-stage.com/
 
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