濱田めぐみ&市川洋二郎が『Tell me on a Sunday』を語る【前編】
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左:市川洋二郎 右:濱田めぐみ
ミュージカル界のディーヴァ・濱田めぐみが、活動20周年を記念し、アンドリュー・ロイド=ウェバー作曲のソロ・ミュージカル『Tell Me on a Sunday ~サヨナラは日曜日に~』 で主演を務める。イギリスからアメリカへ渡った女性の恋と自立を描くこの作品、待望の日本初演となる。前回SPICEでは濱田に単独インタビューを実施したが、今回は本作の演出を務める市川洋二郎との共同インタビュー。劇団四季時代からの付き合いであり、「戦友」と表現する二人。どんな話が飛び出すのか!?
――このインタビューが始まる前から、もうお二人の仲の良さが非常に伝わってきているのですが、劇団四季では何年くらい時期がかぶっているんですか?
市川: 僕が四季にいたのは2年くらいなんですよ。めぐ(濱田めぐみ)さんは十数年いらして。(一緒だったのは)退団される最後のころですよね。
――そこから…何年ぶりの“共演”なんでしょう?
濱田: 10年は経ってない。
市川: 10年ギリギリ。入ったのが2007年だったと思うので。
濱田: ようやくここでお手合わせできる。
市川: ほんと。
―― お互いの第一印象は?
濱田: 私が市川(洋二郎)くんを認識したのは、劇団四季時代に彼が『春のめざめ』を全部取り仕切った時。彼が裏番みたいな感じで「できる奴、ここにいるな」って。
市川: 当時ニューヨークに送られて、その作品についてクリエイターと話をし、翻訳の方向性を決めて帰国。翻訳して「さあ」、というところで一度クビになったのちに再び劇団に戻ってきたりと…大変でしたけど…そんなことがあった時期ですね。
左:市川洋二郎 右:濱田めぐみ
―― 当時の濱田さんはどんな活動をされていた頃でしたか?
濱田: 3つの作品をずっとやっていました。劇団から「日替わりで」と電話がかかってくるから。「明日どこそこの現場に行ってくれ」と。稽古場では、右の稽古場が『マンマ・ミーア』をやっていて、左が『アイーダ』をやっていた。午前中は右でドナを演じてると、「お前、午後から『アイーダ』をやれ」って呼ばれて。左の稽古場の人も「あれ、ドナさん…ですよね??」って(笑)。結構大変でした。
濱田めぐみ
市川: 僕は元々観客として観ていました。めぐさんと土居(裕子)さんっていう好きな女優2人のお芝居が似ているなと思って。2人のお芝居の原点はきっと音楽座にあるんだろうと思い(※濱田めぐみは四季入団前、音楽座に準劇団員として一年半在籍していた)、僕は最初、音楽座に入ったんですよ。半年後くらいにめぐさんの舞台を観た、ちょうどそのころに四季のオーディションの募集要項が出たので、「(四季に)行け!」と言われているんだと思ったんです。それで四季に入り、浅利(慶太)先生が非常に目をかけてくださって、「いろんな部署で勉強してこい」と、いろんなところに回していただきました。裏方として研修を積んでいる時に事務のトップの方がとてもよくしてくださって。「めぐさんと芝居をやりたくて四季に入った」って話をしたら紹介してくれて。そこから個人的に友達に。
濱田: 彼がブロードウェイとかロンドンに行っても「そっちの具合はどうだね」って連絡取り合って。「キミは演出でバンバンやって、それを日本に持ってきたまえ」みたいな(笑)。日本に来ると時間をみつけては「どうなの、ブロードウェイは? ロンドンはどんな感じ? 私もこっちで頑張るよ! 」って話をしてね。
市川: 「いつか一緒にやりましょうね」って話をしていたら、今回この舞台のお話をいただいたので本当にありがたいなと感じています。
―― しかも作品が、市川さんがお世話になったアンドリュー・ロイド=ウェバーさんの作品ですし。いろいろな歯車がピタッと合った感じがします。
市川: そうですね。ロイド=ウェバーは僕が在籍していた学校(Arts Educational Schools London)の学園長なんですよ。しかも(今回の歌詞を書いた)ドン・ブラックはそこのパトロンで。この前、ドン・ブラックの家まで行って「日本版の台本をどうするか」って話をした時に、「僕はロイド=ウェバーの学校の生徒なんですよ」って話をしたら、彼「僕がパトロンしてるところじゃん、知ってるよ」って。だから出したんです、その名前(笑)。
その学校は、校舎の中に二つ劇場があって、一つはブラックボックス型の劇場で、一つはちゃんとしたプロセニアム型の劇場なんですよ。
―― そういった施設や設備がある学校ってうらやましいですね。
市川: ロンドンは演劇学校のシステムが日本と比べると非常にきちんと構築されているんです。
―― そんな市川さんは、これが日本で初めての演出仕事になるんですね。
市川: その前からインディペンデントとかではやっていましたけど、「商業演劇」という意味では初めてやらせていただきます。この作品をやることが決まって、「演出家はどうしますか」って話をプロデューサーがめぐさんにしたときに、「市川くんじゃない? 」って言ってくださって(笑)。それでお話をいただいたんです。
市川洋二郎
―― 濱田さんも「チャンス!」と思ってお声がけしたんですか?
濱田:『タイタニック』(2015年)に演出助手として市川くんが入っていて、その時くらいから、「よし、何かタイミングがあったら絶対に一緒にやろう」と言っていたんです。ちょうど1年くらい前に「この作品の演出家をどうしましょうか」ってプロデューサーと話した時に、「ん!?」とひらめいて打診してみたんですよ。「この辺のスケジュール、空いているの?」って。「空いてる」「じゃ、市川くんゲットね」と。 そこからプロデューサーに市川くんとやりたいとお願いして。
―― この作品、ソロ・ミュージカルということですが、いざ作っていくとなると、かなり大変なんじゃないですか?
市川: そうですね。演出の基本的なプロセスではあるんですが、この作品がどういう経緯で作られてきたか、っていうのをまず完全リサーチするんです。この話をいただいたその日にAmazonで楽曲のCDをオーダーするところから始まりました。それで1枚目を手に入れていろいろ調べていうちに、いろんなバージョンがあることがわかって。この作品は1987年に書かれてから本当にいろんなバージョンがあって。それで今回、日本のお客様に向けてどういう風にやっていくかを非常に考えた。僕はゼロから勝手に作るのが嫌だったんですよ。やっぱり元々作った人がいるから、その人の作ったものの中から上手く合わせて日本用に作り直せないかっていうのを考え、日本版として台本を練り直しました。そして、稽古準備の意味で、ロンドンの役者さんを一人使って3日間ワークショップをやってみて、確かな手ごたえを感じました。おこがましい話ですが。でもあらかじめ自分の中でイメージが確固たるものとなったので、そういう意味では準備万端ですね。
―― こんなにしっかり準備してくださった市川さんに、どう自分を託そうと思いますか?
濱田: 全部ついて行こうかなって。自分でいじらずに。私、自分がどういう風にやっているのか、どう見えているのかって、お稽古中はぜんぜん分からないんですよ。本番の時の方がまだ自覚はあるんですが。お稽古中に方向性などが決まるから、そこは彼の持っている感性に沿って『Tell me on a Sunday』を作りたいです。「おんぶに抱っこ」で頼むよ!っていう感じで。
―― 市川さんとしては濱田さんのどんなところを引き出したいですか?
市川: もともと“ソング・サイクル(連作歌曲)”というコンセプトをもとに作られている作品ということもあり、そのまま舞台にしてしまうと起伏が弱いんですよ。もちろん翻訳の段階でかなり明確に表すようにして、流れが分かりやすいように工夫してますけど。演出という意味でも60分、70分のジェットコースターのような感じで、激動の1年を描くという感じにしようと思っているので…この前めぐさん本人にも言ったんですけど、「ボロボロにしましょうね」って(笑) 。こういう機会をいただいたので、この作品が濱田めぐみという女優の次のステップに繋がる、さらなる躍進に繋がる作品になればいいな、と本当に思っているんです。そうなった時に、自分がどうとかではなく、初日や千秋楽に灰になろうとも全力でぶつかっていって、「濱田めぐみ」という、めぐさん自身の中にもあるだろうし、お客さんも持っているだろう、また作る人たちも持っているかもしれない既成概念みたいなものを、すべてぶっ壊そうと思うんです。だからすごく嫌われるだろうなあと思いながらも、「それ、おかしい」って平気で言ってしまうようにしようと。
―― そういった事を言い合える関係だからこそですね。
市川: 僕を信じていただいているから。そして、いいものを作る、ということがぶれなければ、ちゃんと分かるってくださるだろうって。それを信じてぶつかっていこうと思っています。
濱田: 結局は観にきてくれる人のためのことだから。もちろん「やりにくいな」っていうことは相談しますけどね。「状況的に」とか「心理的に」ということに関しては、演出家頼みなので。
市川: 僕はめぐさんがちゃんと役のことを分かっている方だと知っているので、きっと僕と同じものが聴こえるだろうって信じていますね。だから聴こえてきたのものをどう表現していくか、というのを相談しあえる現場であれば、きっと大丈夫って信じています。
濱田: 後は集中力だね!人数が少ないので。この前も「全員集まりましょう!」って声かけたら、たった4人でした。4人で最長5時間稽古をやったところで5時間後にはフラフラになっていると思うから……そこは、いかに集中してできるか、ですね。疲れてくると散漫になってしまうし、それでやっても意味がないから。そういう集中力との戦いでもあると思うんです。
(後編に続く)
左:市川洋二郎 右:濱田めぐみ
(取材・文:こむらさき/ヘアーメイク:住本由香/撮影:こむらさき&安藤光夫)
■日時:16/6/10(金)~16/6/26(日)
■会場:新国立劇場 小劇場 (東京都)
■音楽:アンドリュー・ロイド =ウェバー
■歌詞:ドン・ブラック
■演出・翻訳・訳詞:市川洋二郎
■出演:濱田めぐみ
■公式サイト:http://hpot.jp/stage/sunday
【アフタートークショー】
濱田めぐみと演出・市川洋二郎が以下の回に異なるテーマでトーク。
◆14:00公演:6/14(火)、15(水)、16(木)、21(火)、22(水)、23(木)
◆19:00公演:6/24(金)