吉川晃司 音楽も演技も規格外の男は、何を想い、表現し、創作するのか

2016.5.13
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音楽

吉川晃司

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かつて吉川晃司が自らの音楽について、「表現というよりも体現」と語っていたことがある。確かに吉川の生き方はそのまま彼の音楽表現に直結しているように思える。肉体の動きまでもがライヴの一部。彼の代名詞的なシンバルキックは自分の身長よりも30センチ高いところにあるシンバルを跳躍して回転しながら蹴る荒技だ。そこに理屈はない。だが、その蹴りを観るだけで伝わってくるものが確実にある。そこには現実を軽々と越えていくパワーが存在している。

近年は役者としての活動も目立っている。ドラマ『下町ロケット』で財前部長がスーツ姿で疾走する姿。映画『さらば あぶない刑事』の悪役・ガルシアの超人的なバイクアクション。NHK大河ファンタジー『精霊の守り人』での短槍を使った武術。『日清焼きそばU.F.O.』のヒーロー、ソースの荒唐無稽な活躍。もちろんこれらはあくまでも“芝居”なのだが、吉川晃司という存在があり得ないような設定なのに、あり得るかもしれないと思わせる説得力を与えている。

その規格外のスケールの大きさは、5月18日にリリースされる3年3か月ぶりのオリジナルアルバム『WILD LIPS』でも遺憾なく発揮されている。ダイナミックでロマンティックでエロティックな大人のロックンロールアルバムにしてダンスアルバム。映画『イン・ザ・ヒーロー』の主題歌「Dream On」、ゲーム『三國志13』のテーマソング「Dance to the future」、テレビアニメ『義風堂々!! 兼続と慶次』の主題歌「The Sliders」、『日清焼きそばU.F.O.』のCMソングのオリジナルバージョン「Oh,Yes!」はもちろん、それ以外の曲にも彼の唯一無二の魅力が詰まっている。この新作について、ツアーについて、さらには近年の活動についても聞いていく。


足を骨折していなかったら『下町ロケット』の出演もなかったかもしれない。

――前作『SAMURAI ROCK』以来、3年3か月ぶりとなるオリジナルアルバム『WILD LIPS』が完成しました。

制作の後半はスタジオに泊まり込んでの作業だったので、締め切りとの戦いもあって、しびれました。なんだかんだで時間を取られてしまったので、スケジュール的にはきつかったんですが、自分のやりたいことをやりたいようにやらせていただいたので、納得のいく作品になりました。

――映画、ドラマ、CMなど、音楽以外の仕事もたくさんやられていましたもんね。

最近、“役者に転身したのか?”って言われることもあったんですが、もちろんそんなつもりはまったくなくて。たまたまだったんですよ。

――たまたまというと?

昨年、足を骨折してしまって、そのリハビリ期間に映画やドラマのいいお話をたくさんいただいて、こういう流れになった。

――骨折した直後にもライヴハウスツアーをやり遂げました。

あれくらいの骨折で、予定されていたステージを中止するわけにはいかないですから。骨折しても、シンバルキックはできるし、ステージアクションもやれないことはない。骨折して何ができないかっていうと、ステージ上でリズムを刻み続けることなんですよ。

――頭からつま先まで連動しての運動ですもんね。

そうなんですよ。みなさん、不思議に思うみたいだけど、アクションや殺陣はそんなに長い時間、やり続けているわけじゃないから、多少のハンディはあっても、なんとかなる。でもステージはそうはいかない。シンバルは蹴れても、長時間リズムを取り続けることは難しい。それで新たにツアーを組むのは治ってからにすべきだと判断して、しばらくリハビリ期間に当てることにした。ドラマの撮影はその空いた時間に入ってきたものだったんですよ。もし足が折れてなかったら、『下町ロケット』の出演もなかったかもしれませんね。

――『下町ロケット』に出演したことで、創作活動にプラスになったことはありましたか?

たくさんありますね。監督やプロデューサーの魅力に引っ張られたということもあったと思うんですが、ともかく情熱にあふれる現場だった。スタッフたちが3日、4日、寝ないで撮影に臨んでいた。撮影はハードで、長台詞を短期間で覚えなきゃいけなくて、これは物理的に無理でしょうというレベルだったんですが、何日も寝てないスタッフを見たら、やるしかない。できるできないじゃなくて、やるしかない。おかげで役者としてもいい勉強になりました。本番を10回くらい続けるという撮影方法で、セリフをしゃべり慣れている俳優の方々でも後半になると口の筋肉が痺れて、口が回らなくなっていたくらい。要はトランス状態に追い込んでいくということだと思います。人間って生命の危機に追い込まれると、本能的に何かを出していく。その部分が欲しいということだったんじゃないかと思います。その限界を越えて出てくるものが、映像に乗り移った感じはありました。

――音楽の制作でもその体験はプラスになりましたか?

なっていると思います。一番大きいのは、諦めない姿勢かな。アレンジャーの菅原弘明さんにも言われました。「なんか前よりもさらにしつこくなったね」って(笑)。「もっといいフレーズがあるんじゃないの? 明日、もう1回考えようよ」「えー? まだやるの?」って。そういうところは『下町ロケット』効果の一つだと思います。

――吉川さんはもともと妥協しないタイプですよね。

妥協するところはするんですけどね、どうしてもできないところ、したくないところもあるということですね。

――『下町ロケット』効果ということでいうと、年配の方から声をかけられる機会が増えたとうかがっています。

そうですね。70代、80代でスポーツクラブに通っている方も結構いらっしゃって、声をかけていただくことが増えました。「『下町ロケット』観たよ。良かったよ」って。みなさん、「大人が観られる番組が少ない。『下町ロケット』はその数少ない番組のひとつだった」ってことをおっしゃる。日本のエンターテインメントって、どうして子ども向けばかりにフォーカスしているんだろうって思いますよね。“若いことに価値がある”みたいな風潮があるでしょ。写真撮影でも、加工したり修正したりしてシワを取ろうとするんですが、「やめてください」ってお願いしてるんですよ。だってシワにこそ、人間の味わい、年を重ねた深みが表れますから。


エンターテインメントには夢を描ける良さがあるわけで、
夢までこじんまりとはしたくない。

――確かに年を重ねてきたからこその魅力ってありますよね。最新アルバム『WILD LIPS』も今の吉川さんだからこそ表現できた大人のロックンロールアルバムとなっています。大人と言っても、渋くなったり丸くなったりしてないところが吉川さんならではで、歌もとてもエロいです。

前作『SAMURAI ROCK』は社会的なテーマを掲げて作った作品だったんですが、その反動もあったと思いますが、エロい歌を歌いたかったんですよ。アメリカのソウルミュージックって、やたらとエロいじゃないですか。どうして日本にはそういう音楽が少ないんだろうって以前から不思議に思っていた。もっと大人向けのものがあってもいいんじゃないかなって。

――子どもは聴いちゃだめってことではないですよね。

もちろんませた子どもが聴いても楽しいと思いますよ。“おもしろい大人になりたかったら、こういう音楽どうですか?”ってことですね。

――エロさとともにスケールのでかさも特徴的です。

最近、真面目というか、こじんまりしちゃった音楽が多いから、つまんないなあと思っていて。だったら、自分はそういうのじゃないものを作ってやろうっていう意識はありましたね。等身大の歌みたいなのは自分の担当じゃない。バカバカしいって言われてもいい。阿呆で結構。エンターテインメントには夢を描ける良さがあるわけで、夢までこじんまりとはしたくないですね。

――吉川さんが80年代に聴いていた洋楽、ローリングストーンズ、デビッド・ボウイ、デュランデュラン、ロバート・パーマー、パワーステーションなどのテイストが感じられるのもこの『WILD LIPS』の特徴のひとつと言えそうですね。

自分の中でも今80年代の音楽が新鮮なんですよ。デビッド・ボウイやミック・ジャガーって、当時50歳ぐらいでしょ。今の自分が80年代の頃の彼らの年齢になって、やっとこういう表現ができるようになってきたのかなって。

――アルバムタイトル曲「Wild Lips」はバンドサウンド全開のロックですね。

そういうのが大事だなと思って。この曲は“せーの”で今度のツアーメンバーで録りました。ギターは僕と生形真一君(Nothing's Carved In Stone ex.ELLEGARDEN )、ベースはウエノコウジ君(the HIATUS KA.F.KA exTHEE MICHELLE GUN ELEPHANT.)、ドラムは湊雅史君。バンドって、しばらく一緒にやっていく良さもあるんですが、水は澱まないことも大事なので、時には新しいメンバーとやることも必要なんですよ。新しいメンバーとゼロから作っていくおもしろさもありますし。

――それぞれのメンバー、どういうところから声をかけたのですか?

湊君にはアルバム『Cloudy Heart』(1994年1月発売)の時に、何曲か叩いてもらったことがあって。その後、もう1回叩いてもらって以来なんですが、同い年だし、自分を貫いていく真っ直ぐなヤツなところも好きだし、そういう部分は音に出ますから。ウエノ君も同じ。ウエノ君はアベ(フトシ:※注)君と同じTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTのメンバーだったし、同じ広島出身ということもあって、一緒になった機会に話すようになって。レコーディングに1回来てもらったら立って弾いていてて、「立って弾かないと気合いが入らないんですよ」って言う。おもしろいヤツだなと思って。昨年夏の『中津川 THE SOLAR BUDOKAN』でも一緒に演奏したんですが、ぶっとい音を出すんで、湊君のドラムと組み合わさったら、骨太な男っぽいバンドになるんじゃないかなって。生形君は以前、四国のフェスで一緒になったとき、ELLEGARDENのステージを観て、いいなと思った。ロックなメンバーが揃ったので、いいバンドになっていくと思いますよ。唯一のネックはそれぞれバンド活動もしているので、なかなかスケジュールが合わないことなんですけど。
(※注:2008年12月に開催された吉川晃司のライヴに、アベフトシがバンドメンバーとして出演)

――ロックなアルバムであると同時に、ボーカルアルバムとしてもとても魅力的ですね。身も心も酔わせて、踊らせる作品ですが、自分の歌について、どう思われていますか?

まだまだですが、だんだん思い描いたように歌えるようになってきたかなとは思ってます。以前と比べても、キーも下がってないし、声量も増している。煙草を吸わなくなったとか、肉体的なことも要因になっていると思いますが、『SEMPO』という舞台をやった時に、クラシックの発声を習ったこともプラスになっているんじゃないかな。いろんな声の出し方もできるようになったし、いろいろなことが繋がって、結果が出始めている気はしますね。

――「Love with you」での深みのある歌声も素晴らしいです。歌詞だけでなく、声そのものから伝わってくるものがたくさんあると感じました。

歌詞は松井五郎さんなんですが、「ともかく言葉を少なくしてください」ってお願いしたんですよ。「吉川君、それはすごく難しいね」「だから松井さんにお願いしているんですよ」って(笑)。デモテープもウーとかアーばっかりだった(笑)。饒舌なミディアムはいやなんですよ。半分スキャットでもいいくらい。日本にはミディアム文化ってあまりなくて、急にバラードになってしまう。ブライアン・フェリーの大人のミディアム、素晴らしいなあと思っていて、そういうところに自分でも挑戦し続けたいんです。英語と違って、日本語は制限があるんですが、そこをうまくクリアしつつ、年齢なりの色っぽい曲がやりたい。ブライアン・フェリーもそうなんですが、遥か遠く目指しているのはフランク・シナトラですね。じいさんになった時に、シナトラみたいに歌えたらというのが目標。

――色っぽいと言えば、大黒摩季さんが参加している「Expendable」。ふたりのかけ合い、セクシーで実に魅惑的でした。

大黒君の声もいいですよね。彼女は5年くらい歌っていなかったんですが、その間、節制したり、勉強しなおしたりしたみたいで、以前から持っていたハードでハスキーな声にプラスして、透き通ったきれいな声も出るようになった。休養して大変だったと思いますが、そのことも身にしているところが素晴らしいですね。

――アルバムタイトルを『WILD LIPS』としたのはどういういきさつからですか?

最初、『Rock'n Rouge』って付けていたんですが、「そのタイトル、松田聖子の曲にあるよ」って言われて、「えっ、そうだっけ?」って。確かに松本隆さんの作詞曲であった。かっこいいのになと思ったんだけど、きっとどこかで聴いて、無意識のうちにインプットされていたんでしょうね。何曲か作詞で参加してくれているjam君が「『HOT LIPS』ってどう?」って提案してくれたんだけど、「自分の曲ですでに『HOT LIPS』、あるんだよ」「じゃあ『WILD LIPS』はどう?」「それはいいね」ってことで、こうなった。

――セクシーなイメージもあるし、ストーンズに通じるロックなイメージもあるし、ぴったり合っていますよね。

くちびるって、おもしろいんですよ。傷口のように見える瞬間もあるし、人間の体の内側を見せているようなところもある。人間の本能が露わになっている場所がくちびるなんじゃないかなって思っていて。本能や衝動という人間の根本に立ち返ったエネルギッシュな音楽を目指したので、このタイトルがしっくり来ました。

――アルバムジャケットもインパクトがあります。

最初はくちびるのデザインを考えたんだけど、ありとあらゆることをストーンズにやられていた。それで発想を転換して、背中の写真とキスマークを組み合わせることにしました。映画『キャット・ピープル』の頃のナスターシャ・キンスキーみたいなくちびるのイメージがあったので、“くちびるが印象的な女の子、誰かいない?”って周りに聞いたら、ちょうど、『U.F.O.』のCMで共演している水原希子ちゃんがくちびるが印象的な女優さんのベスト3に入っているとのことだったので、頼んでみたらおもしろがって、やってくれました。

――CM活動までもが音楽制作に繋がってくるところがおもしろいですね。

そうなんですよ。20代の頃はCMに出るのが嫌だったんですが、最近は変わってきました。映画にしてもドラマにしてもそうですけど、楽しそうだな、おもしろそうだなって思える部分があれば、自分の身になる部分も出てくる。本業はあくまでも音楽ですが、時には回り、より道をすることがあってもいい。


シンバルを蹴るには邪魔な筋肉はちょっと絞らなきゃいけない。
やるべきことは年々増えている。

――この最新作『WILD LIPS』を携えてのツアーも6月11日から始まります。どんな内容になりそうですか?

新作の曲もやりますが、『下町ロケット』の影響なのか、幅広い年齢層の方にを買っていただいているらしく、初めて観る人、久しぶりに観る人もいると思うので、通常のアルバムツアーよりも代表曲を多めにしようかと考えています。バンドのメンバーが大幅に変わったので、どうなっていくのか、自分でも楽しみですね。レコーディングで何曲か一緒にやった段階で、すでに手応えがあったんですが、リハを重ねると、また変化していくだろうし、バンドはそこが楽しいですから。

――デビューして、この夏には33年目に突入していきます。積み重ねてきたことが作品にもステージにも自然に染みこんでいくのではないですか?

でもね、自然体みたいなこととは違うんですよ。『下町ロケット』の撮影にしても、アルバム制作にしてもそうですが、追い込んでいかないと、できないことが増えてきた。今もほぼ毎日、1日平均4キロ泳いでいます。ドラマの撮影中は泳ぎながらセリフを覚える日々だった。骨折してからは陸上でのトレーニングが思うようにできない分、水中での運動を増やしてきたんですが、ステージは当然、陸上でやるわけですから、水泳で付けた筋肉が邪魔になる部分もある。これから、水中から陸上に徐々にシフトしていく予定です。シンバルを蹴るには邪魔な筋肉はちょっと絞らなきゃいけない。やるべきことは年々増えているので、どんどん時間が足りなくなっていくんですけどね。

インタビュー・文=長谷川 誠


 

 
リリース情報
アルバム『WILD LIPS』

吉川晃司『WILD LIPS』

2016年5月18日発売
【初回限定盤】(CD+DVD) ※デジパック仕様
WPZL-31181/2 ¥3,000+税
<CD>
1.Dance To The Future
2.Dream On
3.Wild Lips
4.The Sliders
5.サラマンドラ
6.Love with you
7.Expendable
8.Oh, Yes!!
<DVD>
Wild Lips [MUSIC VIDEO]
MAKING OF “WILD LIPS”
※特典応募用シリアルコード封入
【通常盤】(CD)
WPCL-12359 ¥2,500+税
<CD>
初回限定盤CDと同内容
※初回プレス分のみ特典応募用シリアルコード封入

【購入者応募特典】
初回限定盤(WPZL-31181/2)、通常盤〈初回プレス分〉(WPCL-12359)に封入されているチラシ記載のシリアルコードで下記2種類(A賞・B賞)のいずれかの特典にご応募できます。
A賞:「KIKKAWA KOJI Live 2016」ツアー会場にて終演後に行われるハイタッチお見送り会へ各会場30名様、合計450名様をご招待!
※対象のLIVEのをお持ちでなくてもご応募いただけます。
B賞:アルバムの特製カセットテープ(非売品)を抽選で計300名様にプレゼント!!
※応募締切:2016年5月22日(日)23:59
※応募詳細に関しましては商品封入チラシをご参照ください。 

 

ライヴ情報
KIKKAWA KOJI Live 2016 "WILD LIPS" TOUR
2016年6月11日(土)厚木市文化会館 大ホール
2016年6月12日(日)大宮ソニックシティ 大ホール
2016年6月18日(土)わくわくホリデーホール(札幌市民ホール)大ホール
2016年6月26日(日)静岡市民文化会館 中ホール
2016年7月2日(土)千葉県文化会館
2016年7月3日(日)よこすか芸術劇場
2016年7月9日(土)福岡市民会館 大ホール
2016年7月16日(土)仙台市民会館 大ホール
2016年7月18日(月・祝)長野・ホクト文化ホール 中ホール
2016年7月23日(土)広島・上野学園ホール
2016年7月31日(日)愛知県芸術劇場 大ホール
2016年8月11日(木・祝)金沢市文化ホール
2016年8月13日(土)大阪・フェスティバルホール


FINAL​
2016年8月27日(土)東京体育館
2016年8月28日(日)東京体育館