映像関係者にも愛される、岡崎体育「MUSIC VIDEO」の真なる“凄み”とは

2016.5.3
コラム
音楽

岡崎体育

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動画公開から半月ほどで(5月2日現在)、すでにYoutubeで150万再生超というバズりを見せている、岡崎体育の「MUSIC VIDEO」のMV。リスナーはもちろん、アーティストや映像制作者にも大きな衝撃を与えることとなった問題作である。「MVあるあるネタ」を取り入れたこの作品の、本当の“凄み”について具体的に紐解いていきたい。

今回、コラムの執筆にあたり「妄想キャリブレーション」や「バンドじゃないもん!」など、数多くのアーティストのMV制作を手掛けるクリエイター集団「アマナ異次元」の映像監督、篠田利隆氏に話をうかがった。業界の第一線で活躍する彼をして、開口一番「(あのMVを見て)く~、やられたな~!と思いましたよ」と言わしめた「MUSIC VIDEO」。いったいこの作品の、何がそれほどまでにすごいのだろうか。

まだ観ていない方は、まずこちらをご覧いただきたい。


 

展開の多い、手間暇かけた楽曲構成

岡崎体育みずから「MVあるあるの映像を作りたかった」と語っているように、今回の作品は映像化されることを目的として作られたものだ。だが、当たり前ではあるが、楽曲の存在を忘れてはいけない。「MUSIC VIDEO」は映像や歌詞のおもしろさに注目が集まりがちではあるが、それらを取り払ってみても、楽曲のクオリティがとても高い。キャッチ―なメロは言うまでもないが、何よりも展開が多く曲調がコロコロ変わるため、聴いていて飽きないのだ。

しかし、展開が多いということは、そのぶん多くアレンジを考えなければならないうえに、トラック制作にも時間がかかるはずである。単純な“A→B→サビ→2A→2B→サビ”のような展開であれば、“一度作ったAメロのデータを2Aにコピペする”ことができるので、作業が比較的早くすむ。だが、こう目まぐるしくメロが変わるとなると、ほとんどの箇所をオリジナルで作らなければならなくなる。つまり、MVだけでなく、楽曲もかなり手間暇かけて作られていることが想像できるのだ。この時点で、すでにすごい。
 

4日間のロケで撮りためた映像を、たったひとりで編集

そして肝心のMV制作のロケには、4日間を要したそうだ。一般的なMVの場合、アーティストの撮影は1~2日ですませることが多いので、4日というのはかなり長丁場だということが伝わるだろう。さらに、撮影スタッフは岡崎体育、彼のマネージャー、監督・寿司くんのたった3名というからまたおどろきだ。つまり、外部スタッフは実質寿司くんのみということになる。メジャーアーティストはもちろん、インディーズであっても、撮影時には外部スタッフが複数人立ち会うことがほとんどだというのに。

言うまでもなく、映像は撮ったら終わり、ではない。そこから始まる映像の編集作業には、いったいどれほどの時間がかかったことやら……。それを寿司くんひとりでこなしているわけで、その作業を考えると本当に「おつかれさまです」以外の言葉が見つからない。

“MVあるあるネタ”を披露したいだけであれば、「こういうMVあるよね」と、それこそSNSに簡単に投稿することだってできる。いまどき動画アプリも多いのだから、わざわざ曲を作ってMVにせずとも、そういうツールを使ってインスタントに共感を得ることだってできたはずだ。だが、その「わかる」「あるある」を引き出すために、手間のかかる楽曲を作り、手間のかかるMVを作った。ものすごい熱量である。愛すべきアホである。ほんの数分のMVを一本作るためには、本当に気が遠くなるような時間と労力が必要なのだ。
 

同業者にも愛される、“嫌味のなさ”の秘密とは?

そして、この作品のもうひとつ優れている点は、あれだけのバズりを見せながらも、否定的な評価が極端に少なかったということ。Twitterで「岡崎体育 嫌い」とツイート検索をかけてみても、「このMV、嫌いじゃないw」という肯定的な投稿がほとんどで、本当に「嫌い」だといっている人はほんのわずかであった。とはいえ、ネタにされたようなMVを作ったことがあるアーティストやクリエイターであれば、やはりおもしろい気はしないのでは……?

ところが、「僕、あのMV好きですよ!(映像制作)業界内でも評判いいです!」と篠田氏。「僕自身、アイドルのMVなどで女の子を踊らせることが多いんですけど、そういうあるあるネタを拾ってもらえて、むしろうれしさすらありますね。すごく研究したんだなと思いました」とのこと。いわく、「岡崎さんに悪意を感じない」のだそうだ。

ネタにされている側であっても、悪意を感じない演出となっているのはなぜか。岡崎体育自身も、Twitter上で「誰のこともディスってないし、バカにしてるわけでもないし、否定してるわけでもない」と制作意図を語っているので、そのスタンスが映像に表われたということもあるだろう。だがもうひとつ、“映像の素人感”もポイントだと、篠田氏は言う。SMEからのメジャーデビュー一発目を飾るMVでありながら、制作スタッフはたったの3名。さらに、モデルは素人のようだし、ロケもほぼ野外なのでスタジオレンタルの費用はかからない。機材もそれほど高価なものでないようで、とにかく手作り感満載。

「企画自体がおもしろいので、それを表現するのにそもそも高画質とか必要ないですよね。自主制作っぽい中でやっていたから、嫌味がないのでは」と篠田氏。たしかに、それこそメジャーデビューアーティストによくある“背後にひそむ大人の香り”が、こちらのMVからはほとんど感じられないのだ。逆にこのアイディアを、人員や予算をかけて、大人が本気で制作していたら、世間からの反応はまた違ったものとなっていたかもしれない。
 

ハードルが上がったのは、クリエイターよりもむしろアーティスト

メジャーデビュー作品にして、この素人感。これはある種のインディペンデントとなるのではないだろうか。「今後のMV制作のハードルを上げた」とも言われているが、ハードルを大きく上げられてしまったのは、クリエイターよりもむしろアーティスト側なのではないだろうか。

これまでにも、バンドやアーティストは純粋な音楽性のみを武器にして売り出していくことは相当困難で、それ以外の付加価値――容姿やファッション、若さ、キャラクター性などが求められてきた。だが、この一件で、MVのクオリティ、さらには優れた企画力までもが、アーティストに求められるようになってしまうかもしれない。「低予算、自主制作でもおもしろい作品を作ることができる」ということが広く一般に認知されたことで、メジャーのみでなく、インディーズアーティストの活動ハードルも上げられたことだろう。私であれば、「『つまらない』って言われるのこわいから、ライヴ映像以外のMV撮らなくてよくない……?」と怯えていたに違いない。

これから制作されるMVはもちろん、リスナーが求めるアーティストのあり方といった点にも、今後は多少なりとも変化がみられることになるのかもしれない。岡崎体育「MUSIC VIDEO」、心底恐ろしい作品である。


取材協力=篠田利隆(アマナ異次元、映像監督) 

取材・文=まにょ

岡崎体育情報
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2016年5月18日(水)発売

『BASIN TECHNO』初回盤ジャケット

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初回生産限定盤(CD+DVD)SECL-1879~1880 \2,800(税込)
通常盤(CD)SECL-1881 \1,800(税込)
 
【CD収録曲】
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MUSIC VIDEO
家族構成
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【DVD収録曲】※初回生産限定盤のみ
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MUSIC VIDEO
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Voice Of Heart
FRIENDS
家族構成

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