“白鳥の騎士”再臨~新国立劇場「ローエングリン」ゲネプロレポート

SPICER
撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場

撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場

撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場

撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場

撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場

撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場


23日、いよいよ新国立劇場「ローエングリン」が初日を迎える。その開幕を控えて20日には公開ゲネプロが行われた。ここにそのレポートをお届けしよう。

2012年の新制作でも話題を呼んだ新国立劇場の「ローエングリン」が、再演にあたってクラウス・フロリアン・フォークトを再び起用することはプログラムが発表された時点から注目を集めていた。なにせ、彼は世界のどんなオペラハウスがこの作品を上演する際にも、かなうならば出演してほしいと求めるローエングリン歌いなのだから。そしてこの日のゲネプロを経た今、言わずもがなのお薦めをいま一度私からしなければならない。オペラパレスにふたたび世界最高のローエングリンが降臨する、と。

(新国立劇場オペラ「ローエングリン」ダイジェスト映像/2012年の上演より)


この日の上演を見てまず思うのは、「この白鳥の騎士に、耳目を奪われないことなど可能なのだろうか?」ということだ。第一幕の半ばに登場してから幕切れまで、彼には終始感嘆させられどおしであった。

撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場

撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場

撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場

撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場

フォークト独特の、少し軽めにも聴こえる声質はこの無垢なる英雄をそのまま体現したかのようだ。それでいてその声は力まずとも客席まで届き、しかも強弱の抑揚は自然で振幅が大きく重唱でも隠れることはない。オーケストラのフォルテにも負けないほどの、オペラハウス全体に響き渡る力強さがありながら、歌曲の歌詞の世界を細やかに表現できる繊細さが両立した彼の声は、異世界からの来訪者、高貴な騎士をそのままに表現できてしまう。さらに加えて、彼は恵まれた容姿までも兼ね備えているのだから、「ローエングリンその人がいる」と自然に思わされてしまうのだ。「世界最高のローエングリンは、5月23日から新国立劇場で聴くことができる」と断言することに、私はためらいをまったく感じていない。開幕を前に申し上げておきたい。

撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場

撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場

もちろん、ローエングリン以外のキャストも充実している。ハインリヒ国王のアンドレアス・バウアー、テルラムントのユルゲン・リンの声の威力は十分で、ワーグナーを聴く醍醐味を味あわせてくれる。そしてこの日は会場の響きを確かめるようだったエルザ役のマヌエラ・ウール、オルトルート役のペトラ・ラングも要所ではその実力を示し、本公演への期待を大いに高めた。そう、”この日「ローエングリン」が上演された”とは言っても、あくまでこれは公演ではなく最終段階のリハーサルだ。この日はサウンドや段取りの確認を優先した出演者たちも、さらなる歌唱と演技で魅せてくれることだろう。

撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場

撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場

撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場

撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場

ワーグナーを得意とする飯守泰次郎の指揮からは、作品への強い没入と献身が随所に感じられた。東京フィルハーモニー交響楽団を率いてドイツのロマンティック・オペラの世界を存分に示してくれることだろう。

また、マティアス・フォン・シュテークマンの演出は、このドラマを象徴的に、説明に依らず抽象化して描き出すものだ。映像的な美しさとドラマ的厳しさの共存する舞台となることだろう。

撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場

撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場

もし、これからワーグナー作品に入門しようという方がいらっしゃるならば、今回上演される「ローエングリン」こそはその最高の入口となるだろう。ワーグナーが”歌劇”として作曲した最後の作品は、それまでの初期作品の集大成として洗練された出来栄えとなっているし、またその音楽は後年の楽劇にも通じるものだ。また、題材としては彼の最後の作品「パルジファル」とも直接につながることから、ワーグナーのキャリアすべてを俯瞰できる作品とも言えるだろう。

撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場

撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場

撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場

撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場

「長大な作品をどう受け取ったものか」とためらわれるようならば、ぜひこちらの、飯守泰次郎オペラ芸術監督がみずからピアノを弾いて「ローエングリン」の音楽を解説してくれている動画を見てほしい。

(飯守泰次郎の「ローエングリン」音楽講座 ~新国立劇場 YouTubeチャンネルより)


ここで解説されるように、様々なモティーフが変容させられることでワーグナーの数々の巨大な作品は形作られている。そうして編まれた音楽が自然にドラマを描き出すさまは、管弦楽やアリアの抜粋では味わい得ない、ワーグナー独自の世界だ。世界最高のローエングリンが訪れるこの機会にその醍醐味を体験していただきたいと、切に願う次第である。

公演情報
新国立劇場 リヒャルト・ワーグナー作曲 歌劇「ローエングリン」

全三幕・ドイツ語上演・字幕付き
 
■会場:新国立劇場 オペラパレス
■日時
5月23日(月)、6月1日(水) 17:00開演
5月26日(木)、29日(日)、6月4日(土) 14:00開演
 
指揮:飯守泰次郎
演出:マティアス・フォン・シュテークマン
美術・光メディア造形・衣裳:ロザリエ
照明:グイド・ペツォルト
合唱:新国立劇場合唱団(合唱指揮 三澤洋史)
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
キャスト:
ハインリヒ国王:アンドレアス・バウアー
ローエングリン:クラウス・フロリアン・フォークト
エルザ・フォン・ブラバント:マヌエラ・ウール
フリードリヒ・フォン・テルラムント:ユルゲン・リン
オルトルート:ペトラ・ラング
王の伝令:萩原潤
4人のブラバントの貴族:望月哲也/秋谷直之/小森輝彦/妻屋秀和

■公式サイト:http://www.nntt.jac.go.jp/opera/performance/150109_006154.html
シェア / 保存先を選択