宮藤官九郎監督『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』を語る <後編>

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2016.6.22
宮藤官九郎

宮藤官九郎

遂に、今週25日より全国ロードショーとなる映画『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』。(以下「TYTD」)本作の監督を務めたのは「中学生円山」以来3年ぶりとなる宮藤官九郎。昨年末「COUNTDOWN  JAPAN 15/16」の12月29日(火)のステージに登場する話を伺ったが、後編では映画の話をお届けしよう。


――『TYTD』を作りたいと思ったのはいつ頃でしたか?

本作をやろう、と企画をたて始めたのは、「中学生円山」(2013)のちょっと前くらいから。「中学生円山」はリアル路線で撮っていたのですが、次はちょっと派手なエンターテイメント作品を作りたいと思い始めて。それが4年前くらいですね。そしていよいよ「TYTD」のホンを書こうかなってなったのが、撮影が始まる2年前くらいでした。

――『TYTD』の脚本は、書き直しもされたんですか?

こういう内容なのでかなりやりました。第1稿を読んだ人はきっとポカンとしたと思います。そのときはあまり書きたいことが伝わらなかったのでそこから何回直したかなぁ。3、4回は内容的な書き直しをして、その後、予算内に収めるための書き直しを何度もしましたね。

設定から大きく変えたことといえば、本当は地獄だけで話を作ろうとしていたんです。転生の話はなかったんです、当初。現世は回想という形で入ってはくるけれど、基本的に大助(神木隆之介)はずっと地獄にいる…っていう話にしていたんです。そこに「転生」のアイディアが入ってきたのが、地獄関係の本をたくさん調べていたときに「人は7回転生する」という説があり、これは映画でも使えそうだな、と思ったんです。畜生道、修羅道…って6つあるんですが、畜生道だけはイメージしやすかったので、ひたすらこれをくり返したらどうなるだろう。そこから考えていって現世の話、近藤さん(長瀬智也演じるキラーKの現世)のエピソードなどを割と後付けで作りましたね。当初、キラーKは背景も何もないただの鬼でしたが、でもこれじゃだめだろう、ちゃんと背景を考えたほうがいいだろうと思いまして、後から足して。

自分で撮るときは、自分で演出するつもりで書いているからあまり内容のことを詳しく書いていないんです。脚本だけ頼まれたときは、そこから監督に説明する、というひと手間が入るんです。まずは監督にわかってもらうために説明をし、監督が役者にそれを伝える。その手間が1つ省かれているので、どうしても説明不足になってしまうんです。「俺がわかっているから大丈夫だ」って。今回は、過去の作品に比べたら、ものすごく説明しました。ただ、長瀬くんと神木くんには説明したけれど、他の人にはそんなに詳しくは説明していないですね。しないほうが面白い場合もあるし。自分で観ていて話がつながっていればそれでいいやって。説明したことで演技が変わってしまうのもいやだなって思って。宮沢りえさんの演技なんてテストを1回やっただけで素晴らしくて。でも何もやってないと思われるのもどうかと思って、一応「こんな風にやってもらっていいですか?」くらいのことは言いました(笑)。いいものに対してことさら言うことないですから。

宮藤官九郎

宮藤官九郎

――本作の設定に関して。宮藤さんは『木更津キャッツアイ』」はじめ作品にどこか「死」をにおわせる脚本家だと思っているのですが。

死ぬとか生きるということにずっと興味があって、それに対して自分が思っている印象が年々変わってきているんです。だからそういう匂いのする作品を作るんだろうなって。主人公の死から物語が始まることによって、死ぬということが終わりじゃなく、始まりとして捉えてもらえたらいいなって思ったんです。

「木更津」のときは、主人公が死ぬという流れで書いているからもう少し生きている人間の目線、死がまだ身近じゃない目線で書いていたんです。今回はもうちょっと自分自身が「死」に近づいているから、マジメな感じを回避したかったのかなあ。今後作る作品はどんどんそうなっていくんじゃないかな(笑)

――天国の造形がどんどんコミカルになっていたのもそういう意識があったからですか?

天国についてもみんなといろいろ話し合いました。楽しくなっちゃうと本来の狙いとは変わってくるけれど、不思議な世界観にはしたいと思って作りました。死後の世界の本を読むと地獄の事は事細かに書いてあって、天国のことは実にあっさり書いてる。だから、みんな本当は地獄に興味があるんじゃないか?と。天国はすべての欲から解放されるって書いてあるけれど、「いやいや、欲がなかったら生きてておもしろくないじゃん」って思うんです。悪いことをした人は地獄に落ちる、って考えた人はむしろ本当は地獄に興味があったんじゃないの?と。
もともとこの映画をやろうと思ったきっかけの一つはそんな発想でした。

――宮藤さんが行きたいのはどちらかというと地獄なんですか?

地獄にも天国にも行きたくないんですけど(笑)でも地獄のほうが個性が活かされているというか。地獄の設定って「ウソをついた人は●●地獄、不倫した人は●●地獄…っていっぱい分かれているじゃないですか。それってある意味、その人の個性を尊重しているんじゃないかって(笑)天国はみんな平べったく扱われて、逆に普段、人として見られてないんじゃないかなって。地獄では「おまえ、こんなことしただろう」って個性や独自性を理解されていていいじゃないかなって。そういう感じにしたかったんです。存在を尊重されている訳ですからね、鬼に(笑)天国はなんだかほっとかれている感じがします。

――宮藤さんの作品は、舞台の脚本・演出の経験がバックボーンにあるせいか、カメラのフレームの中にいるキャラクターだけでなく、ギリギリフレームインするかしないかの場所にいるキャラをも手厚く描いているように感じます。

そうですね。演劇は(カメラで)寄れないので。それこそが演劇が好きなところの一つです。2年くらい前に機会があって、自分の1本目の作品『真夜中の弥次さん喜多さん』(2005)を観たんです。基本的に出来上がったものはほとんど観ないんですが、そのときやむなく観たところ、すごく「演劇」だったんです。誰かに寄ればいいのに、そこそこのサイズにしておいて変な事をやらせていて、映画でそれを撮っているけれど追いきれないんですよ。今思うに、あの頃はまだ「演劇」を引きずっていたというか、「演劇」を「映像」でやろうとしていたんだなって思いました。そのあと映画を2本やって今回の「TYTD」となりますが、逆に少し自覚的に演劇的要素を取り入れたというか、場面転換の仕方とかすごく演劇的にしたいなあって。そういう意味では今回のほうがより確信犯的に演劇に近づけたと思っています。

宮藤官九郎

宮藤官九郎

今まで、自分は芝居をやっている人間だから映像をやるときはなるべく芝居っぽいことを排除して撮る…という意識があったんですが、それをやっていたら年中映画を撮っている人には到底かなわないと思って。ならば演劇をやっていたからこそ、芝居ばっかりやっていたからこそ、こういう手法があるんじゃないかと思うようになって。自分の得意技という訳じゃないが持っているスキルを使ってね。だから映画の中に出てくる地獄の幕とかもそんなこだわりを持って作りました。

――昔、宮藤さんが撮影している様子を拝見する機会があったのですが、カメラチェックでモニターを見ているときに誰よりもご自身が大笑いしている姿が印象深かったです。今回は撮っているときにどの場面がいちばんおもしろかったですか?

撮っているとき…じゅんこ(皆川猿時)が出てきてからかなあ(笑)じゅんこが出てきてからは現場でも面白かった。「地獄図」(ヘルズ)のメンバーがいて、それまでは人物紹介もあるから、長瀬くんがそこは引っ張っていかなければならなかった。そして長瀬くんからじゅんこに主導権が変わったとき、映画がもう一段階変化した。実は長瀬くんに「鬼」をやってもらうということの次に決まってたのが、皆川くんに女子高生をやってもらうということだったんです。これは自分の中でのチャレンジでもあった。皆川くん、芝居ではよく女子高生役をやっていますが、映画となると、より鮮明に見えてしまうところでもそれが通用するのかしないのか、「賭け」もあったかな。

映像を繋いで改めて面白かったのは、やはり動物が出てくる場面ですね。撮影している最中は本当に辛くて。インコとか実は5羽くらいいるんですよ。飛べるヤツ、じっとしていられるヤツ…それぞれ得意分野があって、5羽くらいいつも現場にいて「こういう風に撮ります」というと助監督さんが「じゃあこのコで」って選んでくれるんですけど、本当に言う事をきかなくて…まあ、所詮インコですから(笑)それに比べたらアシカは本当に優秀でしたね。1か月前にアシカが便器から顔を出すということをやりたい、と伝えたら、トレーナーさんが便座の形の段ボールを作って1か月間練習してくれたんです。便器から顔を出して止まる、という動きをしっかり練習してくれて…まったくアシカショーでは活かされない芸を(笑)映像を繋いでからはそういうことを思い出して「これ、実は中身は神木君なんだよな…」と思うと面白いなと。

「TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ」

「TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ」

――本作を作る前と後で地獄観は変わりましたか?

以前、みうらじゅんさんと対談したときに、今時、地獄の設定がアップデートされていないねって話になったんですよ。現世でやったことが閻魔さまの鏡に映っていたって話も、今やもうブルーレイの時代でしょ?って話をされて「ああそうだなあ」と。いつか、アップデートされた地獄の作品を撮りたいと思います。例えば、「携帯電話を奪われる地獄」とか、「機種変地獄」とか、「せっかく入れた情報を全部消される地獄」「機種を与えられたあとで全部壊される地獄」とか(笑)本当に辛い地獄というのは今の世じゃ全然違うんだろうな。アップデートされた地獄にはもう鬼がいないかもしれない。コンピューターで全部制御されているかも。そもそも地獄は昔の人が考えた設定ですからね。

――もし、宮藤さんが地獄に落とされて、閻魔さまの前で言い訳しなければならなくなったら何と言いますか?

まずは、自分が作った作品を見せたいですね。僕が手掛けた作品のDVDを見せたり…Wikipediaでもいい(笑)
そういえば撮影のときに閻魔帳にリアルに書いたんですよ。「僕はこんなことを頑張りましたので現世に行かせてください」って。その閻魔帳自体は撮らなかったんだけど一応書いたんです。それを閻魔さまに提出するくらいなら、自分の作品を持っていきますね。それ以外見せられるものがないって話もありますが。いっぱい悪いこともしましたけど、いいこともしましたって主張しますね(笑)

――いちばん行きたくない地獄はどれですか?

どれも行きたくないけど、精神的にキツイのは嫌ですね。不倫した人とかエロイことで地獄に落ちた人がいくところなんですが…天女がいるんですって、木の上に。人間は下にいて天女を追いかけて木に登っていくんですがその木が刃物でできていて身体中切り刻まれるんですって。で、やっとの想いで上に上がると、いつの間にか天女が下にいる…また天女を追いかけて木を伝って下りて身体がザクザクに…それを永遠に繰り返すって地獄があるらしいんですが、それは嫌です(笑)痛みはまだ共有できる人がいれば「痛いねー」で言えばいいんですが、期待して裏切られるの繰り返しがいちばんツライんじゃないかなあ。

上映情報
映画『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』

■公開: 2016年6月25日(土)より全国公開
■監督・脚本:宮藤官九郎
■出演:
長瀬智也、神木隆之介
尾野真千子、森川葵
桐谷健太、清野菜名、古舘寛治、皆川猿時、シシド・カフカ、清
古田新太
宮沢りえ
■映画公式サイト:TooYoungToDie.jp

 
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