猿之助&巳之助がダブルキャストで地方巡業、南北の怪作『獨道中五十三驛』

2016.6.27
レポート
舞台

(左から)坂東巳之助・市川猿之助


松竹大歌舞伎は今年(2016年)10月の一カ月間、『獨道中五十三驛(ひとりたびごじゅうさんつぎ)』で各地を巡業する。

本作は四世鶴屋南北の作品。十返舎一九の『東海道中膝栗毛』に着想を得た南北が、東海道五十三次を舞台に御家騒動と仇討を主軸に描いた怪作だ。昭和56年(1981年)7月に三代目市川猿之助(現・猿翁)が、宙乗りや早替えなどケレンに満ち溢れたスペクタクル大作として復活させた。その後、再演ごとに改訂を加え、「三代猿之助四十八撰」の中でも人気作の一つとして上演を重ねてきた。平成26年(2014年)には四代目の現・猿之助が新橋演舞場で主演し、これも高い評価を得ている。

今回は、この大作を地方巡業にかけること、そして四代目市川猿之助に加えて二代目坂東巳之助も登場し、お互いが役を交替する形にてダブルキャストを演じることが、新たな話題として注目を集める。6月27日には、製作発表が行われ、猿之助、巳之助、そして安孫子正・松竹株式会社取締役副社長/演劇本部長が登壇した。

最初に安孫子副社長が挨拶、初演では先代猿之助がこれを作るのに日々徹夜で苦労しながら挑んだこと、初演の上演時間が休憩除きで4時間18分、再演では4時間23分に及んだこと、それが一昨年の現・猿之助の新橋演舞場公演では3時間19分と、初演から約1時間縮める努力を成功させたこと、などを紹介した。

(左から)坂東巳之助・市川猿之助・安孫子正

続いて、猿之助が挨拶。「『獨道中五十三驛』は地方公演には難しいと言われる作品だが、伯父(猿翁)がかつてこの作品で巡業した実績があり、それがあっての今回の実現となった。一昨年の新橋演舞場では五十三次に因んで五十三場の全てをやったが、今回は選り抜いて再構成する。歌舞伎の地方巡業ではオーソドックスな演目が上演されることが多い。しかし、地方の人にはなかなか見る機会の少ないこういう作品の存在も知って欲しい」と語った。また、今回のダブルキャストについては「自分が巳之助を指名した。松竹もスーパー歌舞伎『ワンピース』での巳之助の活躍ぶりを認め、賛成してくれた」と明かした。

市川猿之助

その巳之助は「初めての全国巡業は19歳のとき、当時の亀治郎(現・猿之助)兄さんについていった。今回はその時以来、久しぶりに猿之助兄さんと巡業をおこなう。その作品が、まさか今回のような作品になるとは夢にも思っていなかった。青天の霹靂だ」と話した。

坂東巳之助

その後、記者たちとの質疑応答。地方の劇場での宙乗りは難しくないか、との問いに対して猿之助は「京都の春秋座以外は花道がないので、宙乗りは上手(かみて)と下手(しもて)を往復する形でおこなう。距離が短くなるので、そこは照明などで工夫をしたい」と考えを述べた。

早替えについては、「変わり目の鮮やかさが重要だが、鮮やか過ぎてもよくないと伯父から教えられた。完全に違う人物になるのではなく、同じ人物がやっているように敢えて見せる部分も大事。『また出てきたな』とお客さまに気付いてもらわないと面白さが減じる。早替えもスマートにおこなうのではなく、舞台裏を走る際にわざと足の音をドタドタ立てるなど、奮闘感を強調する」と極意を披露した。

市川猿之助

本水の使用については「移動式のシステムがまだできあがっていない。しかし、いずれは実現させたい。今年は、熊本地震などもあり、節水の配慮も必要なので、本水を大量には使えない事情もある」と猿之助。

さらに巳之助を指名した理由を訊かれると「地方公演で昼夜二回をひとりでやるのは正直大変で…というのもあるが(笑)、スーパー歌舞伎を一緒にやった時に、彼(巳之助)はいいものを持ってると思った。役者は華がなければいけないが、そういうものは場数を踏むうちに身についてくる。芸に厚みも備わる。そういう役者に、自分の一番元気な時の姿を見てもらいたかった。私はそうすることの必要性を伯父から教えられたが、伯父はかつて仏文学者の桑原武夫先生からそう言われたそうだ」「さらに、坂東家が変化舞踊(へんげぶよう)の得意な家であること。変化舞踊も早替えだ。だから、今回の早替えの体験を通じてお家芸にも役立てて欲しいという思いもあった」

それに対して巳之助は「身に余る役を与えられて光栄だ。しかし『お前にこれができるのか』と、ふっかけられているようにも思える。自分の殻を破って食らいついてゆかないと、役をこなすことができない。今回は自分のこれまでの中で最高の難役だけに、必死に食らいついてゆきたい」と心情を吐露した。

坂東巳之助

会見には、巡業先となる各地の関係者の人々も数多く出席していた。岡山、出雲、岐阜、福島などから、それぞれの地域に住まう人々への言葉を求められた二人は、それぞれ丁寧に対応した(猿之助は「岡山のママカリが好き」としきりに強調)。

最後に、「劇中に登場する宝刀・雷丸(いかづちまる)のように大切にしている物は何か」と問われた二人、猿之助が「役者はカラダが資本だから、何よりもカラダを大切にしています」と答えたのに対して、巳之助は「物理的な意味での“家”です」と回答。「カラダを大切にするにも、自宅でこそ癒される。私は最近、父(故・十代目坂東三津五郎)から自宅を相続して、自分の所有物になった。そんな自宅に帰って、カラダを休めたいと思う。だから“家”が大切」と述べ、会場を大いに湧かせた。

(左から)坂東巳之助・市川猿之助

今回の『獨道中五十三驛』は、猿之助と巳之助という“サル&ヘビ”コンビによる貴重なダブルキャスト・ヴァージョン。この二人がステージ毎に交替で、十二単を着た化け猫になり宙を飛ぶなど、見どころはふんだんに溢れている。今回は地方まで追っかけてでも、ぜひ見ておきたい内容といえるだろう。

(左から)坂東巳之助・市川猿之助



(取材・撮影:安藤光夫)
 
公演情報
平成28年度 松竹大歌舞伎
『獨道中五十三驛(ひとりたびごじゅうさんつぎ)』
京三條大橋より江戸日本橋まで
浄瑠璃 お半長吉「写書東驛路」(うつしがきあずまのうまやじ)
市川猿之助・坂東巳之助 宙乗りならびに十三役早替り相勤め申し候

 
■四世鶴屋南北 作
■奈河彰輔 脚本・演出
■石川耕士 補綴・演出
■市川猿翁 演出
三代猿之助四十八撰の内

 
■配役
おさん実は猫の怪:市川猿之助(Aプロ)坂東巳之助(Bプロ)
由留木調之助:市川猿之助(Aプロ)坂東巳之助(Bプロ)

 
丹波与八郎:市川猿之助(Bプロ)坂東巳之助(Aプロ)
丁稚長吉:市川猿之助(Bプロ)坂東巳之助(Aプロ)
信濃屋娘お半:市川猿之助(Bプロ)坂東巳之助(Aプロ)
芸者雪野:市川猿之助(Bプロ)坂東巳之助(Aプロ)
長吉許嫁お関:市川猿之助(Bプロ)坂東巳之助(Aプロ)
弁天小僧菊之助:市川猿之助(Bプロ)坂東巳之助(Aプロ)
土手の道哲:市川猿之助(Bプロ)坂東巳之助(Aプロ)
長右衛門女房お絹:市川猿之助(Bプロ)坂東巳之助(Aプロ)
鳶頭三吉:市川猿之助(Bプロ)坂東巳之助(Aプロ)
雷:市川猿之助(Bプロ)坂東巳之助(Aプロ)
船頭浪七:市川猿之助(Bプロ)坂東巳之助(Aプロ)
江戸兵衛:市川猿之助(Bプロ)坂東巳之助(Aプロ)
女房お六:市川猿之助(Bプロ)坂東巳之助(Aプロ)

 
重の井姫:市川笑也
半次郎女房お袖:市川笑三郎
丹波与惚兵衛/赤星十三郎:市川寿猿
やらずのお萩:市川春猿
赤堀水右衛門:市川猿弥
石井半次郎:市川門之助
※※ダブルキャストにて上演。
「1回公演」および「2回公演の夜の部」(Aプロ)、
「2回公演の昼の部」(Bプロ)

■日時・会場

<埼玉県入間市>
◆日時:10月01日(土)11:00 Bプロ、16:30 Aプロ
◆会場:入間市市民会館
問合せ先:04-2964-2411

 
<新潟県新潟市>
◆日時:10月02日(日)12:00 Bプロ、16:30 Aプロ
◆会場:新潟県民会館
問合せ先:025-249-8878

 
<岐阜県高山市>
◆日時:10月03日(月)18:30 Aプロ
◆会場:高山市民文化会館
問合せ先:0577-34-6550

 
<石川県小松市>
◆日時:10月04日(火)14:00 Aプロ
◆会場:こまつ芸術劇場うらら
問合せ先:0761-20-5500

 
<岐阜県羽島市>
◆日時:10月05日(水)13:00 Aプロ
◆会場:不二羽島文化センター(羽島市文化センター)スカイホール
問合せ先:058-393-2231

 
<愛知県岡崎市>
◆日時:10月06日(木)13:30 Bプロ、18:00 Aプロ
◆会場:岡崎市民会館
問合せ先:0564-21-9121

 
<京都府京都市>
◆日時:10月08日(土)~11日(火)
・10月08日(土)11:00 Bプロ、16:00 Aプロ
・10月09日(日)11:00 Bプロ、夕方貸切
・10月10日(月)11:00 Aプロ
・10月11日(火)11:00 Aプロ
◆会場:京都芸術劇場 春秋座
問合せ先:075-791-9207

 
<大分県大分市>
◆日時:10月12日(水)13:30 Bプロ、18:00 Aプロ
◆会場:iichiko総合文化センター
問合せ先:097-533-4004

 
<長崎県長崎市>
◆日時:10月14日(金)13:30 Bプロ、18:00 Aプロ
◆会場:長崎ブリックホール
問合せ先:095-827-3400

 
<岡山県岡山市>
◆日時:10月15日(土)14:00 Aプロ
◆会場:岡山市民会館
問合せ先:086-232-9714

 
<島根県出雲市>
◆日時:10月16日(日)13:00 Bプロ、17:30 Aプロ
◆会場:出雲市民会館
問合せ先:0853-21-7580

 
<広島県東広島市>
◆日時:10月18日(火)12:30 Bプロ、17:00 Aプロ
◆会場:東広島芸術文化ホールくらら
問合せ先:082-426-5900

 
<香川県丸亀市>
◆日時:10月19日(水)12:30 Bプロ、17:00 Aプロ
◆会場:丸亀市民会館
問合せ先:0877-23-4141

 
<和歌山県和歌山市>
◆日時:10月20日(木)13:00 Aプロ
◆会場:和歌山県民文化会館
問合せ先:073-436-4468

 
<秋田県鹿角郡>
◆日時:10月22日(土)~23日(日)11:00 Bプロ、15:30 Aプロ
◆会場:明治の芝居小屋「康楽館」
問合せ先:0186-29-3732

 
<福島県郡山市>
◆日時:10月25日(火)貸切
◆会場:郡山市民文化センター
問合せ先:024-531-4161

 
<宮城県仙台市>
◆日時:10月26日(水)13:30 Bプロ、18:00 Aプロ
◆会場:東京エレクトロンホール宮城
問合せ先:022-211-1189