外山啓介(ピアノ) 10回目となるサントリーホール公演を、ベートーヴェンとリストで

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外山啓介(ピアノ)

外山啓介(ピアノ)

 

音楽に対する理解と愛情を深め、それを客席へ大切に伝えたい

「30代になった今だから弾ける音楽があると思います」やさしい物腰での語り口ながら、自信にあふれた言葉が飛び出してくる。2007年にCDおよび全国各地でのリサイタル・デビューを飾った外山啓介。そのデビュー時から毎年行っている東京・サントリーホールでのリサイタルをはじめ、この夏から秋にかけて全国8カ所を回るツアーを予定している。プログラムはベートーヴェン、そしてリストの名作群。どういった思いで音楽と向き合い、音楽家としての自己分析をしているのだろうか。


 ――リサイタルでのプログラムは多くの人が知る名作ぞろいですが、「今の自分を表現する音楽はこれだ」といった選曲のこだわりはあるのでしょうか。

常に自分が心から弾きたいと思える曲、そしてお客様に喜んでいただける曲を選んでいますけれど、実を言いますとベートーヴェンやハイドンなどの古典派音楽は、ずっと苦手意識を抱えていました。ピアノ・ソナタ32曲を全曲演奏する方などを横目で見ながら「みんな意識が高いなあ」と感心していたほどですが、演奏するのにいろいろな制約や枠があるという堅苦しいイメージが拭えませんでした。それが変わったのは最近のことです。あらためて楽譜を調べたり弾いてみたりすると、第1番から第32番まで音楽のキャラクターがどんどん変化していくことに驚かされ、当時のピアノが目まぐるしく発展していたことが大きな原因だろうなと思い当たりました。

――ベートーヴェンは人生において常に新しいピアノへの関心を忘れず、鍵盤が増えたり新しい機能が付加されたりすると、それを生かして曲を書く作曲家でしたね。

楽譜からも新しいピアノを弾いて、試して、曲を書いているなということが伝わってきますし、現代のピアノで弾くとどういうギャップや違和感が生まれるだろうと思うなど、想像力を働かせる時間が多くなるのです。「月光」も「テンペスト」もそれぞれ作曲された時期や当時のピアノを知ることで音楽の組み立て方が変わり、一生をかけてもソナタ32曲は弾き込んでいく価値があるなということに気がつきました。当時のピアノ(フォルテピアノ)にも興味が湧いてきましたので、勉強してみたいと思っています。今回のリサイタルでは、そういった新鮮な気持ちで2曲のソナタを弾けますので、自分でも楽しみにしているのです。

外山啓介

外山啓介

――フランツ・リストの曲は「ラ・カンパネラ」や「愛の夢」(有名な第3番を含む全3曲)といった有名な作品を演奏されますけれど、「バラード第2番」はちょっと意外な選曲かもしれません。

たしかに「非常に有名な曲」とは言えませんけれど、ピアニストとしての人生を送るか送るまいか、と悩んでいた高校生の頃に出会った、とても思い出深く大切な曲です。うちは両親とも音楽の仕事ではありませんし、高校も芸術系ではありませんでしたので、先生に「東京藝術大学を受験したい」と伝えて驚かれたほどでした。そうした中でプロのピアニストになることを意識しつつ悩んでいたとき「バラード第2番」を知り、「こんな素晴らしい曲を弾くまではやめられない」と思ったのです。それ以来ずっと大切にしていた曲であり、コンサートでもまだ数えるほどしか弾いていません。昨年は皇后陛下にお聴きいただいたコンサート(東京都庭園美術館)でも弾いたのですが、感激してこみ上げるものがありました。今回はもっとたくさんの方に聴いていただきたいと思ったのです。

――リストの曲も、外山さんのレパートリーとしては珍しいでしょうか。

ロ短調のピアノ・ソナタは大好きですけれど、他の曲はまだまだ少ないですね。実は「バラード第2番」もピアノ・ソナタと同時期に作曲され、同じロ短調、しかも同じモティーフを使っているという作品なのです。ロ短調というのがリストにとってどういった意味をもつのかわかりませんが、彼自身はピアノ・ソナタが自分の集大成だと言っており、この調がもつ意味の重要性を感じずにはいられません。ロ短調ソナタは壮大な音楽に聞こえますけれど、実は「ラ・カンパネラ」や「スペイン狂詩曲」のように「これって罰ゲームなの?」と思えるような技巧には走っていないのです。そこにリスト自身の真髄が隠されているでしょうし、「バラード第2番」も同じ精神で書かれたのだろうなと思っています。

外山啓介

外山啓介

 ――サントリーホールでは何度もコンサートをされていますが、外山さんにとってはどういった場所でしょうか。

毎年行っているリサイタルも今回で10回目であり、今年はベルリン交響楽団のツアーにもソリストに呼んでいただきましたので演奏する機会が多いです。「音の宝石箱」と呼ばれるように、とにかく響きが美しいですし、ステージに出ると今でも圧倒されますね。実は先日、大好きなアンナ・ネトレプコ(ソプラノ歌手)のコンサートをサントリーホールで聴いたのですが、歌い出しのピアニッシモがきれいに響き、本当に神様がいるホールだなということを実感しました。

――10回目になると、もちろんデビューの頃から音楽は変化していると思いますが、ご自分では意識されますか。

客観的にどうであるかは聴いていただいた方の感想をうかがいたいと思いますが、自分ではずいぶん変わったなと思います。以前は自分を必要以上に大きく見せようとしていましたし、仕事でピアノを弾くということの意味もあまり考えていませんでした。ネトレプコのコンサートは自分でチケットを買い、当日まで本当にわくわくしながら過ごしたのですけれど、彼女がステージに出てきた瞬間「わ、本物だ」と感激してしまったのです。でも考えてみましたら、自分のコンサートにいらしていただける皆さんも同じ気持ちなのかもしれませんし、もしかすると「年に一度の大切な演奏会」という方だっていらっしゃるかもしれませんよね。それを考えると気が引き締まりますし、自分の音楽を大切に伝えようという気持ちも高まります。

外山啓介

外山啓介

外山啓介を聴き続けてきた方には音楽家としての成長を、名前は知っているけれど……という方には新鮮な出会いを。サントリーホールでのリサイタルは、名曲をじっくりと味わいながら一人のピアニストが発する“こだわりのオーラ”を体験するひとときになりそうである。

外山啓介

外山啓介

 
☆外山啓介さんの動画コメントもご覧ください↓
 

(取材・文=オヤマダアツシ、写真撮影=大野要介)

公演情報
外山啓介ピアノ・リサイタル ~ベートーヴェン&ショパン~
 
■曲目:
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第14番「月光」
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第17番「テンペスト」
リスト:愛の夢(第1番/第2番/第3番)
リスト:ラ・カンパネラ(パガニーニによる大練習曲集第3番)
ワーグナー/リスト:イゾルデの愛の死
リスト:バラード第2番

 
[東京]
■日時:7/29(金)19:00
■会場:たましんRISURUホール(立川市市民会館)小ホール
■問合せ:立川市文化振興財団 tel042-526-1311
■チケット料金:全席指定2,300円

 
[茨城]
■日時:7/31(日)17:00
■会場:BRICKS HALL(ひたちなか市)
■問合せ:関山楽器 tel029-273-6803
■チケット料金:全自由席4,320円

 
[鳥取]
■日時:8/4(木)18:45
■会場:米子市文化ホール メインホール
■問合せ:米子労音 tel0859-34-3173
※会員制演奏会のため、チケット料金・申込み方法はお問い合わせください

 
[東京]
■日時:8/7(日)14:00
■会場:サントリーホール
■問合せ:チケットスペース tel03-3234-9999
■チケット料金:S席4,000円、A席3,000円

 
[静岡]
■日時:8/27(土)15:00
■会場:沼津市民文化センター 小ホール
■問合せ:イーストン tel055-931-8999
沼津市民文化センター tel 055-932-6111
■チケット料金:全席指定4,000円、高校生以下2,000円

 
[大阪]
■日時:9/10(土)14:00
■会場:ザ・シンフォニーホール
■問合せ:ABCチケットインフォメーション tel06-6453-6000
■チケット料金:全席指定3,500円

 
[北海道]
■日時:9/18(日)13:30
■会場:札幌コンサートホールkitara 大ホール
■問合せ:オフィス・ワン tel011-612-8696
■チケット料金:A席3,500円、B席2,500円

 
[名古屋]
■日時:10/1(土)13:30
■会場:三井住友海上しらかわホール
■問合せ:中京テレビ事業 tel052-320-9933
■チケット料金:S席5,000円、A席3,000円、学生2,000円
■公式サイト:http://www.keisuke-toyama.com/

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