先鋭的ポップスセンスをより間口の広い音楽へ――Awesome City Clubがワンマンでみせた覚醒
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Awesome City Club 撮影=古溪一道
Awesome Talks −One Man Show 2016- 2016.7.8 恵比寿LIQUIDROOM
3rdアルバム『Awesome City Tracks 3』のリリースに伴う全国ツアー『Awesome Talks −One Man Show 2016-』のファイナル公演が2016年7月8日、東京・恵比寿LIQUIDROOMで開催された。大阪・心斎橋JANUS(6月25日)、愛知・伏見JAMMIN(6月26日)、福岡・DRUM Be−1(7月3日)で開催された今回のツアー。ソールドアウトとなったLIQUIDROOMで、メンバーの5人はカラフルなエンターテインメント性と優れたポップ感覚をバランスよく共存させたステージを展開、ACCがいま、新たなフェーズに突入していることを明確に示してくれた。
LIQUIDROOMに集まったオーディエンスは“Tシャツとジーンズ、首にタオル”というフェス仕様ではなく、皆一様にオシャレ。たとえば“Hostess Club”のイベントなど、洋楽系のコンサートに近い雰囲気だ。ロビーにはdroptokyo(東京のストリートファッションを紹介するウェブメディア)とのコラボレーションによる、「Don’t Think,Feel」のMVを再現したフォトスポットも設置するなどACCらしい演出も施されている。
Awesome City Club 撮影=古溪一道
これまで以上に開かれたポップネスを感じさせる『Awesome City Tracks 3』の楽曲が、ライブという場でどう変化するか——そんな期待が高まるなか、ついにライブがスタート。オープニングは『Awesome City Tracks 3』の1曲目に収録された「Into The Sound」。強靭にしてしなやかなファンク・ビート、atagi(Vo/G)エモーショナルなボーカルが響き渡り、観客はゆったりと体を揺らし始める。さらに「『Awesome Talks -One Man Show 2016-』へようこそ! ただいま、東京!」というPORIN(Vo/Syn)のコールに導かれて「Vampire」へ。ニューウェイブ経由の最新型エレポップとでも称すべきこの曲の歌詞は、PORINと高橋久美子(ex.チャットモンチー)の共作。恋に恋する女の子のストレートな感情を客観的に描き出したこの歌は、人間らしい感情表現をテーマに掲げた『Awesome City Tracks 3』を象徴するナンバーのひとつだろう。ハンドマイクでキュートに歌うPORINのパフォーマンスも素晴らしい。
Awesome City Club 撮影=古溪一道
さらにユキエ(Dr)骨太のビートとモリシ—(G)のエッジ—かつメロディアスなギターフレーズを軸にしたミディアムチューン「Children」、80年代のAORのテイストを現代的なポップスへと変換したサウンドによって近未来的なディスコ空間を作り上げた「It’s So Fine」、そして、気持ちよくバウンスするマツザカタクミ(B)のベースラインにリードされた「WAHAHA」(マツザカは曲中でPORINとともにラップも披露)を次々と放つ。最初は緊張が感じられたメンバーも楽曲が重ねられるごとにリラックスした雰囲気になり、アンサンブルの精度を上げていく。序盤の数曲だけで、メンバー5人のプレイヤビリティが大きく向上していることがはっきりと伝わってきた。
Awesome City Club 撮影=古溪一道
「3rdアルバムを出したばかりです。心も体も踊れるアルバムということで、一生懸命作りました。今日はたくさん、3rdアルバムから曲を聴いてもらおうかなと思ってます」(atagi)というMCの後は、Leo Imaiが作詞を担当した「ネオンチェイサー」。直近のインタビューでatagiは「僕にとってのシティポップの良さは“都市感”と“メッセージを自分の言葉で発すること”」と定義したうえで、Leo Imaiへの音楽に対するリスペクトを示していたが、「ネオンチェイサー」の“冷徹なポップネス”とでも呼ぶべき音像は、2016年の日本のポップミュージックにおける、もっとも良質な部分を体現していると思う。
Awesome City Club 撮影=古溪一道
この後は、ACCが持つ幅広い音楽性を体感できる場面が続く。モリシ—のサイケデリック&ブルージーなギターソロから始まる「Jungle」では酩酊感に溢れたグルーヴをフロアに響かせ、スムーズに流れるバンドサウンドが印象的な「Pray」では卓越したコーラスワークを披露。そして「女の子に捧げます!」(PORIN)という「4月のマーチ」では<コットンパフ舞い上がって飛んでいくよ パラレルワールド>の大合唱が生まれる。ネオシティポップの旗手としてシーンに登場したACCだが、その音楽性はひとつに枠に収まることなく、多彩な広がりを見せている。色彩豊かな楽曲を立体的に描き出すパフォーマンスもじつに魅力的だ。
Awesome City Club 撮影=古溪一道
マツザカ「最高なライブのときはだいたい、「Pray」でatagiがメガネを飛ばすんですけど、今日はしっかり飛んでるので良いライブだと思います!」
atagi「耳が滑るんだよねー。リキッドも埋まるようになったし、メガネ・バンド買おうかな」
という和やかなMCを挟み、再び『Awesome City Tracks 3』の楽曲を重ねていく。まずは「新しいアルバムでは、別れにスポットを当てて書いた曲があって。もう会えない、大事な人を思い浮かべて聴いてもらえたら嬉しいです」(atagi)と紹介された「Moonlight」。”お別れも言えないまま 旅立って行った君”に対する未練にも似た感情を、丁寧に抑制されたポップソングとして昇華したこの曲のボーカルからは、ソングライター/シンガーとしてのatagiの新たな境地が感じられた。
atagi、PORIN、モリシ—のアカペラから始まるソウル・テイストのナンバー「Lesson」を挟んで披露された「エンドロール」も強く心に残った。「Vampire」と同じくPORINと高橋久美子が歌詞の共作したこの曲は、“渋谷のミニシアター ガラガラのウェンズデー”というシチュエーションから始まる失恋ソング。リアルな状況を歌い、生々しいエモーションを描き出しても——PORINの歌声からは切実な感情表現がしっかりと伝わってきた——決して品を失うことなく、洗練されたポップスへ結実させるセンスもさらに進化しているようだ。
Awesome City Club 撮影=古溪一道
「せっかくだから、このリキッドルームを熱狂の渦に巻き込みたいと思っていて。初めてここに来たのは、リトル・バーリーというバンドとビッグ・ストライズというバンドの来日公演で(←“お、いいヤツだね”とマツザカが突っ込む)。まさか俺たちがワンマンでここに来れるとは思ってなかったから…。盛り上げようと思ってるんだけど、ついてきてくれますか!」(atagi)という思い出トークと煽りがごちゃ混ぜになったMCをきっかけに、ライブはクライマックスへ。まずは「Don’t Think,Feel」。流麗なストリングスを取り入れたトラック、エッジの効いたギターカッティング、快楽的なファンクネスがひとつになったサウンド、セクシーなグルーヴをたたえたボーカルがフロア全体に響き渡り、楽曲タイトル通り“考えるな、感じろ”状態へ突入。atagiがステージを降り、観客の至近距離で歌い始めると強烈な歓声が巻き起こった。さらにACCの(現時点における)最大のアンセムとも言える「アウトサイダー」で圧倒的な多幸感を出現させ、PORINが「今日は本当にありがとう! みんなのおかげで最高のワンマンになりました」と語り掛けた瞬間、フロアとステージの距離が一瞬にして消えてしまった。観客と直接的なコミュニケーションを交わしながら、ライブならではの臨場感につなげるステージングもまた、5人がこのツアーが獲得した大きな財産だろう。
本編最後はアジア的エキゾティズムをたっぷりと含んだ「涙の上海ナイト」――“東西南北/トン・ナン・シャー・ペー”の大合唱に対し、PORINが“愛してるよ、東京”と返す――そして「東京のみなさんに聴いてほしいと思って。最後にこの曲を贈ります」(atagi)というコメントとともに「Lullaby for TOKYO CITY」。美しい憂いを帯びた旋律、喪失感と未来への微かな希望が溶け合うリリックが静かに降り注ぎ、会場には豊かな感動が広がる。ノイジーな爆発力を放ちまくるエンディングのパフォーマンスにも強く心を揺さぶられた。
Awesome City Club 撮影=古溪一道
アンコールではまず、PORINが「大阪、名古屋、福岡と回って、すごくパワーをもらって。東京のお客さんもすごいパワーで、こんな景色を見られるのは本当に嬉しいです」と感謝の気持ちを表現。また11月に大阪・東京で『Awesome Talks』の開催が決まったことを発表すると、会場から大きな拍手が巻き起こった。
「みんな音楽が好きそうでよかった。日本の未来は捨てたもんじゃねえな(笑)」「カッコいいバンドはいっぱいるし、先輩バンドもスゴイけど、今日来てくれてるような人たちにとっての一番を目指したいなと思いました。だから……がんばるよ」(atagi)という決意表明、そして、ソウルミュージックのエッセンスを濃密に吸収したアンサンブルと“誰も見たことのない場所へ行こう”というフレーズがひとつになった「Around The World」、直線的なビートが炸裂、観客が楽しそうに飛び跳ねた「GOLD」でライブは終了した。
11月17日に大阪・umeda AKASO、24日に東京・TSUTAYA O-EASTで行われる『Awesome Talks』は、ゲストアーティストを招いたイベントとなる予定。先鋭的なポップスセンスをより間口の広い音楽へと結晶化し始めたACCの最新モードをぜひ、ライブ会場で味わってほしいと思う。そこであなたは、2010年代の後半における、この国のポップスのもっとも優れたスタイルを体感することになるはずだ。
撮影=古溪一道 レポート・文=森朋之
Awesome City Club 撮影=古溪一道
1. Into The Sound
2. Vampire
3. Children
4. It's So Fine
5. WAHAHA
6. ネオンチェイサー
7. Jungle
8. Pray
9. 4月のマーチ
10. Moonlight
11. Lesson
12. エンドロール
13. Don't Think,Feel
14. アウトサイダー
15. 涙の上海ナイト
16. Lullaby For TOKYO CITY
[ENCORE]
17. Around The World
18. GOLD
大阪・umeda AKASO
OPEN 18:00 / START 19:00
出演:Awesome City Club・・・and more!!
Awesome Talks -Vol.6
2016.11.24 (Thu)
OPEN 18:00 / START 19:00
出演:Awesome City Club・・・and more!!
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受付期間:7月8日(金)22:00~7月26日(火)18:00