SPICE開設当初の人気企画が帰ってくる! フェス初心者が1年ぶり2度目のフジロックに向かう

2016.7.21
コラム
音楽

SPICE名物(?)レポーター・シマザキ

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突然ですが。このサイトSPICEは7月22日でオープン1周年を迎える。

サイトオープンといっても、本格的に各所に告知をし始めたのはもう少し経ってからなので、「オープン当初から見ているよ」という方はあまりいないかもしれない。なんせウェブというのは残酷なもので、ひっそりとオープンしただけでは検索にも引っかからないし、SNSで拡散しようにもフォロワーがいない。わりかし虚しい状態だった頃の話。

しかし、そんな状況下で密かにバズを起こしていた企画があった。それが……

“初心者シリーズ”だ。

フェス初心者の、もっといえばロック系の音楽自体に全く興味のない、新卒の女子社員・シマザキをフェスの現場に送り込み、現地で気づいたことや学んだことを体験レポートしてもらおうという企画。その第1回目が昨年のフジロックだったのである。その後、僕(音楽編集長・風間)が取材に行くフェスに何度となくシマザキを連れ回し、すっかりシリーズ化したこの企画だが、"フジロックにシマザキを送り込んでみよう"という悪ノリを最初に思いついたのは、実は僕ではない。SPICEの総合編集長だったか、その上長だったかが、おそらく思いつきでゴーサインを出したのだと思う。僕が気づいた頃にはあえなくシマザキは苗場に送り込まれており、帰りたい気持ちしか伝わってこないレポートをいきなり送りつけてきたのである。

SPICEが送り込んだ、夏フェス超初心者がフジロックに挑む

「これをそのまま公開したらさすがにマズい」シマザキのレポートにはそう思わせるだけの負の感情が渦巻いていた(上のレポートはかなり前向きに編集されています)。 無理もない。彼女は普段、ディズニーオンなんちゃらとか、僕は名前も知らないような上品そうなミュージカルとか、キラキラして花びらが舞ってそうな、清楚なお姉さんのいい匂いとマダムの香水の匂いがしそうな類のエンタメにしか触れていない。ご趣味は観劇という、完全なる中流階級以上、僕らには縁のない世界で生きてきたシマザキ。ここ日本ではそれほどでもないが、やはりロックは日常にフラストレーションを抱えた労働者階級のカルチャーであり、花びらの代わりに汗が飛び散り、ディッキを履いたキッズが頭上を転がっていく世界である(フジロックはそうでもないが)。しかもいきなり下界から隔絶された山中に2泊3日だ。まぁ、そりゃあ嫌でしょうなぁと同情しながら、僕はシマザキの帰りたさや恨みをひたすらオブラートに包む作業にいそしんだ。

 

そうしたら、なぜかたくさん読まれた。

僕が必死に書いたコラムやレポよりも、最新のニュースよりも、なんならフジロック現地から送られてきた「骨折していたデイヴ・グロールが立った!」という速報よりも、何の興味もない空間に放り込まれた新卒女子が、死んだ目をして嫌々書いたレポートが読まれたのだ。世の中はサディスティックに満ちている。

最初に書いたように、SPICEが今よりもずっとひっそりひっそりしていた頃の話である。当然、偉い人たちが「こりゃあいいぞ」「もっとやれ」というテンションになったのは言うまでもない。こうしてシマザキは次々とフェスの現場に送り込まれていった。おヒマな方は過去記事を検索してみるといろいろと出てくるはずだ。サマソニのビーチでシャボン玉を飛ばしてみたり、山中湖畔のSLSでボートに乗ったり。初心者・シマザキは出演者のカラーも場の雰囲気も様々なフェスを攻略していった。

そして、昨年11月。シマザキは初心者の肩書きの返上を賭け、これまでで最恐にして最凶のフェス・オズフェスに挑むまでになった。オズフェスのプレゼンターはかのオジー・オズボーン。生きたコウモリにかじりついて病院送りになったり、世界遺産かどこかで立ち小便をして出禁になったり、いけないケミカルで生死を彷徨ったりと、シマザキの愛するなんちゃらオンクラシックとは対極に位置するお方だ。これまでのフェスと比べて圧倒的な男性比率、高確率で服装が黒っぽく、喫煙所がやたらと混んでいるという過酷な状況にビビり倒すシマザキの運命やいかに……!?

初心者、OZZFESTに上陸! 伝説・オジーを目にし、感動のフィナーレを飾る

生ける伝説・オジーのステージを目撃したシマザキは、泣いていた。僕がちょっと引くくらい、普通に泣いていた。ビビって、ではない。これまで最恐伝説を残しまくった男が心底楽しそうにステージに立っていて、それを観た強面なおっさんどもがキッズばりに熱狂している様子を目の当たりにして、なんだかエモくなってしまったかららしい。やるじゃないかシマザキ。その理屈ではないエモーションこそが、ロック音楽が人々を夢中にさせる根本であり、それを体現するミュージシャンとファンが集うのがフェスなんだよ。これでシマザキもロックフェスの魅力を知り、知見を深め、初心者卒業への道を歩き始めるに違いない。やってよかったよ、初心者シリーズ!

……そう思っていたのだが、どうやらシマザキ、新卒初年度かつフェス地獄の1年を乗り越え、後輩もできた今、すっかりあの感動を忘れ、惰弱な生活を送っているようなのだ。そんなことではオジーに申し訳が立たないではないか。

全ての始まりだったあのフジロックからもうすぐ1年。僕はシマザキを呼び出すことにした。


音楽編集長に呼び出され、恐る恐る会議室に入ってくるシマザキ

シマザキ:……え、なんですか。これは。

風間:あれから1年ですよ。

シマザキ:もしかしてフジロックのことですか?

風間:その通り。

シマザキ:……行きませんよ? もう初心者じゃないんですから。

風間:確かに、初心者じゃなくなったなら、シリーズの趣旨に合わないね。

シマザキ:そうですよ!

風間:本当に初心者じゃなくなったなら……ね。果たしてそれはどうかな、という話だよ。

シマザキ:いやいやいや、だって今年の新卒もいるじゃないですか!

風間:あのね、今年の新卒は誰かと違って超やる気だから。超やる気の人がフェス体験するとかさ、普通でしょ? 鈴木くんとか多分すげえよ。「初めてのフジロック最高っす!!」みたいになるよ。そんなレポート誰が読みたいんだ。

シマザキ:……。

風間:とはいえね、シマザキも2年目なので知識や経験が身についたはずなんだよ。それが一定以上に達していたら、初心者シリーズにはふさわしくないよね。今日はそれを確かめるために呼びました。

シマザキ:それがコレですか。

この写真と名前を正しい組み合わせにせよ

風間:そう。今年のフジロックでSPICEがレポートをする予定のアーティストから、10組の写真とアーティスト名をランダムに並べてあるから、正しい組み合わせを作って欲しいんだけど、初心者卒業したのなら当然全てわかってくれるはず!

シマザキ:おかしいですって! 全部英語じゃないですか!

風間:そりゃフジロックだからね、洋楽の人が多いのは当然です。でも3組は邦楽だから。さぁ、やってみよう!

シマザキ:うぅ……あ、これ野田洋次郎ですよね! 野田洋次郎がいる!

風間:いるね。

シマザキ:これは分かりますよ……あれ、野田洋次郎の名前がない! いいんですか?

風間:いいんですよ。

シマザキ:嘘でしょ? RADWIMPSも無いじゃないですか。全然わからないんですけど……あ、Suchmos! Suchmosはよく名前を聞きますよ、最近。オシャレな感じなんですよね。邦楽……邦楽の人ですよね?

風間:……。

シマザキ:これかな、このなんか全員菅田将暉みたいな雰囲気を出している写真がSuchmosですか?

風間:全員菅田将暉ってなんだよ、怒られるぞ。

シマザキ:あ、すごいことに気づきました! 最後にSが付いてるアーティスト名はバンドですね? 複数形のS!

風間:いや、シガー・ロスとかトラヴィスのSは複数形のSじゃないと思うけど……。

シマザキ:シガー・ロスも名前聞いたことあります! 友達が観たいって言ってました。でも、サマソニでレディオヘッドを観ることにしたって。

風間:フジロック行かないのかよ。でも、その2組で迷うっていうのはわかる気がするな。

シマザキ:似てるんですか? どんな感じ?

風間:通じる部分はあるよ。ポストロックというか、打ち込みとか取り入れてて実験的要素が強かったり、アンビエント  つまり環境音楽っぽさもあるし。

シマザキ:環境音楽……って、あのプラネタリウムとかで流れてるやつですか?

風間:プラネタリウムには何十年も行ってないからわからないけど、それは多分イージーリスニング系なんじゃないか?

シマザキ:余計混乱してきました。あ、レッチリ! レッチリは知ってますけど、ベテランですよね。おじいちゃんですか?

風間:ベテランではあるけど、おじいちゃんではないよ。ギタリストはオリジナルメンバーじゃないから若いしね。とういか本当にね、レッチリをおじいちゃん呼ばわりとか本当に怒られるから。

シマザキ:あ、この写真ジェイムスっぽい! すごくジェイムスっぽいから、ジェイムス・ブレイクはこれですね? これはどんな音楽なんですか?

風間:んー、ダブステップとか言われる、録音した音を細切れに組み合わせたりするクラブミュージック系のジャンルがあるんだけど、それを次のステージに押し上げた人というか。基本的に暗めだけど綺麗だし歌はうまいし、あとイケメンだし、すごく注目されてるよ。(だがな、シマザキ。そのお前が選んだ写真は、ベックだ)

 

ーー15分後ーー

 

シマザキの悲惨な音楽知識が浮き彫りになった瞬間

シマザキ:これでどうですか? BABYMETALとSuchmosは自信があります!

風間:そこは超サービス問題だよ……。というか結局野田洋次郎の名前がない問題は解決してないし。

シマザキ:そうなんですよ。でもなんとなくこれっぽい! illion、合ってますか?

風間:正解!

シマザキ:やったー!!

風間:あとレッチリと、なぜかステレオフォニックスは正解。

シマザキ:おお! あとは?

風間:……すべて不正解です。

シマザキ:! え、シガー・ロスは? 結構自信があったんですけど。

風間:それはね、トラヴィスです。これも綺麗な音楽だけど、シガー・ロスよりだいぶバンドサウンド。

シマザキ:オアシスとかみたいな感じですか?

風間:わりと近いかも。もっともっと美しい方に寄ってるけどね、メロディとかもすごく日本人に染みる感じだし。

シマザキ:じゃあ、このベックは?

風間:それはウィルコです。バンドです。ベックはシンガーソングライターだよ。ファンクとかヒップホップとかフォークとか、いろいろと吸収した音楽性で、レジェンド級のお方。ベックは、シマザキがジェイムス・ブレイクだと思っているその写真だよ。

シマザキ:え、嘘だ。すごいジェイムスっぽいじゃないですか! じゃあジェイムスはどれですか?

風間:ジェイムスはトラヴィス扱いされてます。ちなみに、トラヴィスはシガー・ロスにされ、シガー・ロスはウィルコにされてる。

 

シマザキ:……。

 

風間:……。

 

シマザキ:…。

 

風間:これは、初心者だね。

シマザキ:……ですね。

風間:いこうか、フジ。去年は空間を体験しただけでしょ? 今年はさ、ちゃんと音楽にも触れて、爪痕を残そうぜ。

シマザキ:……わかりました。


こうして2年連続2度目のフジロックへと向かうことになったシマザキ。果たして何が彼女を待ち受けているのか。無事、苗場の地に爪痕を残すことはできるのか。そして初心者を卒業できる日は訪れるのか。

ここからは、シマザキ本人による意気込みをお届けしたい。


というわけで、今年もフジロックからはじまる夏がやってきてしまいました。シマザキです。風間編集長による超大作な前フリに目頭が熱くなったと同時に少しだけ引いています。

あれから1年、各所からさまざまな反響をいただきました。なんと弊社の新卒採用面接でシマザキの名が挙がることもあったといいます。ありがとうございます。そんな読者の皆様を落胆させるようなことは決してするまい、今年も咲かせて見せますシマザキの華!と意気込みたいところですが、こうして戻ってくるまでには正直、かなりの葛藤がありました。

というのも、昨年数々のフェスでロックファンの方々の熱意を目の当たりにしてきたから。だからこそ、「フェスは分からない」というネガティブな姿勢では、その瞬間を待ちわびてきた彼らに対して顔向け出来ない、という感情が日に日に大きくなっていったのです。

では、そんなネガティブ・シマザキの記事は、なぜ読まれたのか。

それは「初心者である」という前提のもと書かれたレポートであったからと考えます。フェスに興味も縁もない人がフェスに行くという、プライベートではまず起こり得ないシチュエーション。それゆえの「どうなるの?」という好奇心が多くの人に読んでいただけた要因だったのではないでしょうか。すなわち、この初心者感なくしては、もはやシマザキである必要はどこにもないのではないか。でも、いつまでも初心者のままでは、ロックファンの皆様に失礼なのではないか。そんな葛藤が今もあるのは事実です。(そもそも1年経った今、知識や経験がついていればここでこうして執筆していることもなかったのですが)

また、この「初心者シリーズ」が多くの目に止まったのは、風間編集長が先述したように、たまたまSPICE創設直後という良い機会だったからこそだと思っています。なのでこうして、1周年を迎え成長した今のSPICEに居場所はあるのだろうか、という不安もあるのです。

「じゃあ、断れば良かったのに」

YES!! 事実、大好きなミュージカルの観劇予定を1つ犠牲にしてまで再びフジロックに挑む意味などないのではないだろうか!! そう感じる方も少なくないかもしれませんが、これはもはや本来の目的であるレポートやプロモーション業務の云々を越えた、自分自身への挑戦となったといっても過言ではありません。

この夏、シマザキはまた大きくなって帰ってきます。

そして、折角なのでこんなこともします。

「昨年シマザキと友達になったよ!」という方との奇跡の再会は叶うのか。
下記の記事の中に掲載されているどなたかの中で、
http://spice.eplus.jp/articles/4695
http://spice.eplus.jp/articles/4675
奇跡的に今これを読んでいるという方は、ぜひ @spice_music 宛てにツイートしてお知らせください。

 

再会できたあかつきには、きっと泣きます。

最後に、皆様にお願いしたいことが2つ。ちゃんと読まなくてもいい、せめてアクセスしてください。(もちろん努力します) そして、いかなる場合も、怒らず、温かい目で見守っていてください。(悪意はありません) ……以上、今年もどうぞよろしくお願い致します!

 

P.S.
再びフジロックへ向かうことになり、この記事がめっちゃ役に立ちました。昨年の私グッジョブだと思います。
初心者、来年の初心者に送るフジロックオススメ装備

 

“来年の初心者”、私のことだったんですね。

文=風間大洋 / シマザキ

イベント情報
FUJI ROCK FESTIVAL'16
日時:2016年7月22日(金)・23日(土)・24日(日)
会場:新潟県湯沢町苗場スキー場