「超かっこいい音楽をやる」LILI LIMITがメジャー前夜にみせた大いなる可能性の片鱗
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LILI LIMIT
-LIVING ROOM EP Release Tour- LILI LIMIT presents PUNCTUM
LILI LIMITにとって、インディーズバンドとして迎える最後のライブ、そして翌日のメジャーデビューを控え新たなスタートラインともいえるライブが、7月12日、青山CAYで行われた。純粋なライブハウスではなく、レストランとしても営業しているオシャレな会場で、ここをチョイスするあたりのセンスも彼ららしい。入口から地下へと降りる階段の踊り場にはバンド名をあしらった蛍光灯のオブジェがそっと置かれているのだが、これも周囲の雰囲気とよくマッチしており、カルチャー系バンド(曖昧な表現だが)に不可欠な総合的セルフプロデュース力の高さも伺わせてくれる。
LILI LIMIT
対バン相手もなかなかエッジが立っており、先攻でフロアを沸かせたのはCharisma.com。のっけから話術とキャラクターでグイグイと迫るMCいつかと、マイペース極まりない空気を放つDJゴンチの2人は、たっぷりとLILI LIMITを祝福したりイジったりするMCを繰り広げたかと思えば、曲になるとエゲツない重低音で会場を震わせ、クールなトラックとエグめのワードもてんこ盛りのラップで攻め立てる。HIP-HOPとEDMのハイブリッドといった彼女たちの音楽性は、一見するとLILI LIMITの客層とはズレているようにも見えるのだが、マニアックに尖ったサウンドプロダクションや、ポップミュージックというものの捉え方、バランスの取り方には共通する部分が多くあるようだ。オーディエンスもどんどん惹き込まれていく。Fワードを合唱させる「GODcustomer」や、スマホ撮影OK、むしろ推奨な「自撮ーる」など、日常をテーマとしつつもトリッキーで型にはまらない楽曲とパフォーマンスはさすがだ。最後は「HATE」でオーディエンスを全員座らせてから飛ばすという力技も繰り出して締め。メジャーの先輩として(同期などと言っていたが)、独自の立ち位置と鋭さを見せつけるステージであった。
LILI LIMIT
そしてLILI lIMITの登場だ。転換の間に、ステージは紗幕に覆われていたのだが、それが閉じたまま断片的な音像が流れだし、それが「Festa」であることに気づくのに、そう時間はかからなかった。コーラスとビートによるイントロでどんどんオーディエンスを引き込み、バンドINした瞬間に一気に視界が明るくなるような祝祭感に満ちた音が飛び込んでくる。インディーズ時代に打ち立てたひとつの金字塔と言っていいこの曲は、聴いたことのあるようでないコーラスといい、軽やかでありながら推進力のあるグルーヴといい、問答無用のアンセムだ。牧野純平(Vo)が「みんな調子はどう? 踊れる? 踊っていこう」と一声かけてから、志水美日(Key)のシンセがメインリフを担う「N_tower」を。ポストロック系のモダンで尖った音やアプローチが随所に顔をのぞかせるのだが、黒瀬莉世(Ba)と志水による女声のコーラスが華やかさとまろやかさをプラスし、ちょうどよくポップなラインに着地させている。
LILI LIMIT
ゆるゆるなMCを挟みながら、翌日にリリースされるメジャーデビューEP『LIVING ROOM EP』からの楽曲を披露していくLILI LIMIT。「Unit bath」では弾むピアノと遊び心のあるベース、そしてクリーンな音色から刺すようなノイズまで巧みに使い分ける土器大洋(Gt)のギターが効いている。「Living Room」では、丸谷誠治(Dr)のドラムを軸に強固なリズムで重低音を刻みながら、反響するストリングスの音色や歪んだギターがそこに色付けをしていく。シンセポップの煌びやかさとクラウトロックの無機質さや実験的要素をロックバンド編成に落とし込んだかのような、LILI LIMITのエッセンスが詰まった曲は、デビュー作の名刺代わりにふさわしい。放射状に広がる白い照明を背負った牧野は、まるで話しかけるようなニュアンスの歌い回しで、とてもナチュラル。「Kitchen」もそうだが、このEPの楽曲は“家”という身近な環境を題材にした曲たちなので、その何気ない歌がよくハマっており、ちょっと舌ったらずなところもいい味が出ている。
また、わりとマイペースに奔放にバンドを牽引する牧野、マニアックでクレバーなプレイが光る土器、ピョンピョン跳ねたりと視覚にも映える志水、派手な自己主張こそないが気の利いた丸谷、そんなメンバーたちの個性を引き立たせるよう出たり引いたりが絶妙な黒瀬、という5人のバランス自体も、バンドとしてとても有機的に機能しているようだ。
LILI LIMIT
「僕が思い浮かべてたメジャーデビューは、高級外車に乗って、毎晩フレンチを食べて、世田谷区に住む、そんな感じ」「でも、実際は毎日忙しくて、メジャーデビューのことなんて忘れるくらいで。でも楽しくて」
メジャーデビューを目前に控え、牧野はそんな風にバンドの現在を表現した。とても率直な言葉。そんな彼らが初心を大事に、と本編のラストに選んだのは、「at good mountain」だった。フロアからは一斉にクラップが起こり、ラストのサビに向けてどんどん開放感を増すサウンドも相まって、彼らの輝かしい道のりを暗示するような一幕でもあった。
アンコールでは、「今日一番緊張した」という志水のキーボードの調べにのせて、牧野と土器の誕生日を祝ったケーキが登場するサプライズもあり、メジャーデビューとダブルの祝福ムードに包まれた。ここで改めて牧野が「メジャーデビューしても普通に電車に乗って、機材も自分で運んで、超かっこいい音楽をやる。そういうバンドになりたいです」とその抱負を口にし、ラストナンバー「Girls like Chagall」へ。エレクトロ風味の導入から軽やかにピアノが弾み、シンセのような音色のギターが踊る。牧野はハンドマイクを手にステージ上を行き来しながら言葉を届け、リズム隊がそれらをしっかりと支えながら音を紡ぎ、LILI LIMITはインディーズバンドとしてのラストステージを終えた。
LILI LIMIT
サウンド面の鋭いセンスと、思いのほか親しみやすい個々のキャラクター、その両方を個性に変換しながら前進するバンドとしてのバランス。LILI LIMITの強みが随所にしっかりと見て取れて、同時に大きな伸びしろも感じさせてくれたこの日。ここからが本番であることの自覚と、まだまだこんなものではないぞ、という強烈な自負。その点も含め、彼らの今後に期待を抱かせるには十分すぎるライブであった。今はまだ、その魅力と秘めた可能性の片鱗を見せたに過ぎないものの、彼らの今後に期待を抱かせるには十分すぎるライブであった。
レポート・文=風間大洋
OUT NOW
1. Living Room
2. Kitchen
3. Unit Bath
4. Bed Room
【初回生産限定盤】 KSCL2739~2740 ¥1,759(税込¥1,900)
「LILI LIMIT×伊丹豪 コラボレーションフォトブック」(100ページ)封入
【通常盤】 KSCL2741 ¥1,203(税込¥1,300)