松たか子×森山未來が挑む、誰も見たことのない新たな演劇体験 舞台『メトロポリス』インタビュー
撮影:横川良明
1926年に製作され、「SF映画の原点にして頂点」として名高い傑作モノクロ・サイレント映画『メトロポリス』が、11月、Bunkamura シアターコクーンにて舞台化される。演出・美術は串田和美。出演には、松たか子、森山未來ら一筋縄ではいかない実力者が並ぶ。松と森山の舞台共演は、06年の『メタルマクベス』以来10年ぶり。10年の時を経て、様々な経験を積み、表現者として充実期を迎えたふたりが、今度はどんな舞台を見せてくれるのだろうか。
――以前、テレビ番組で一緒にお出になっているとき、お互いのことを「姉弟のように感じる」とお話しになっていたのが印象的でした。10年ぶりの共演です。この10年、お互いのことをどんなふうにご覧になっていましたか。
松:未來に関しては、とにかく生きててくれて良かったなあ、と(笑)。それが何よりです。1年間、イスラエルに行って、帰ってきて。私はダンサーじゃないからすべてはわからないけれど、たぶんすごくいろんな経験をしてきたと思うんですね。でも、そこから顔がキツくなっていくんじゃなくて、むしろ昔よりずっと優しい顔になっていってるような気がして、そういう変化が面白いし、素敵だなあと感じています。
森山:松さんに関しては、今さら僕が語るまでもないというか、姉弟って言うのも憚られますけど、本当に大好きですね。舞台に立つと、ひとりで空間を持っていってしまう力を持ってはるんで。ただ、踊りのことだけちょいちょい聞いてくるんですよ(笑)。
松:『もっと泣いてよフラッパー』のときもどうすればいいか相談したら、「これを見ろ」ってYouTubeの動画を送ってくれて。
森山:シド・チャリシーとか送ったんやっけ?
松:そう。で、見て、これはムリだって…(笑)。
森山:イスラエル行く前に送別会を開いてくれたよね? (北村)有起哉さんと(長塚)圭史さんとで。ショットグラスとか風鈴とか、いろいろもらったけど。
松:私があげたのはそれじゃないけど。
森山:え? あれ? 手袋?
松:うーん、巻くもの、かな?
森山:そや、ストールや!(笑)
撮影:宮川舞子
――それだけ意気投合されたのは、何か初共演のときにシンパシーを感じる部分があったのでしょうか?
森山:何だったんでしょうね。これは劇団☆新感線のみなさんにも直接言っているからもういいんですけど、『メタルマクベス』のとき、僕は「クソだクソだ」って新感線のことをボロカスに言ってたんですよ。たぶん、そういうふうに言ってないといられなかった時期だったんだと思うんですけど。
松:あのときの稽古場では、未來と有起哉さんが毎晩飲んだくれて、公演前走ってお酒を抜いている姿をよく見かけました(笑)。3人とも新感線は初参加で、そこにおさまるというよりも、挑戦したいというか、何かをやりたいという想いを持っていて、そこがハマッたのかなと思います。
森山:すごい自分自身がウガウガしている時期。たぶんそういうのを見て面白がられていたんじゃないかと思います(笑)。
撮影:宮川舞子
松:未來が芝居を観に来ると、「こんなもんか」と言われているような気がするんですね。私はわりと視界が狭くなるというか、突き進むところがあるんですけど、いつもちょうどそんなタイミングで彼は私の舞台を観に来て、ハッとさせてくれるようなことを言ってくれる。おかげでクールダウンできるし、もっと頑張らなきゃとも思わせてくれる。厳しいけど、大事な存在ですね。
森山:みんな松さんのことを「すごいすごい」って言うから、俺くらいちょっと言うとこうかと(笑)。
松:私はいつも「すごいすごい」って言ってるよね。
森山:楽屋まで挨拶に来て「すごいね」って言って、そのまますぐ消えちゃう(笑)。
松:だって素直にすごいって思うから。もう言われ飽きているかもしれないけど、あの身体能力は他の人にはないもの。もっといっぱい「すごいね」って言われ続けてほしいし、私もこれからもすごいと思ったら「すごいね」って言い続けます。ただ、未來は言葉でも解説できちゃう人なんですけど、そんな難しいこと言われても私にはわからないから、あんまり言わないでほしいなあって(笑)。もっとパーンっていこうよって感じです。
森山:そうやね。頭でっかちにならないようにせんとね。それこそ、このお芝居の中での松さんはすごく象徴的な存在。松さんを信頼して、僕は暴れまわるだけかなっていう気がしています。だから、頭でっかちにならず、柔らかく、串田さんが見たいものとか見たくないものを提示できるようにしたいなって。
撮影:宮川舞子
――松さんは過去に何度も串田作品に参加していますが、森山さんは今回が初です。それぞれ楽しみにしていることは?
森山:原作になってる映画のトレーラーを見たんですけど、群衆の動きとか、すごく規模で見せる印象が強かったんですね。それをこの限られた座組みで、どういう描写で見せるのか。串田さんと話せども話せどもまだ見えてこないので、その分、楽しみですね。串田さんは本も書くし美術もされるじゃないですか。だから、作品の構築が、もちろん戯曲から出発されていらっしゃるんでしょうけど、いわゆる演劇の面的な部分だけじゃなく、美術だったり、もうちょっと違う視点からつくられているのかなっていう印象が前からあるんです。この間見た『漂流劇 ひょっこりひょうたん島』もそうだし、『十二夜』なんて特にあの空間がすごく印象的だった。そういういろんな切り口から作品を構築していく串田さんの目線に乗っかるのは面白そうだなって思っています。
松:このお話をいただいてから映画を見たんですけど、これをそのまま再現するのは次元が違いすぎて難しいし、かと言って反対の方向に行きすぎるというか、小さい空間で少人数でやることに労力を費やすのも何かもったいないような気がしたんですね。単なるお伽噺でもないし、メッセージだけが残ればいいというわけでもない。あの映画の世界を、お客さんが想像力を使って広げていける方法が何かあると信じたいし、串田さんはスケールの大小にかかわらず、自分の世界をつくり出す方なので、きっとその方法を見つけてくださると楽しみにしています。今まで串田さんのお芝居に出させていただきましたが、きっとそのいずれとも違うものにしなくちゃいけないんだと思う。勝手な想像ですけど、今までとは違う挑戦をしないといけないんだっていう想いが、今、自分の中にありますね。
森山:作品を通じて“頭と手をつなぐのは心でなくてはならない”という主題があって。きっとその主題的な部分をきちんと取り上げられたら作品の肝は伝わるんだろうなって思います。翻訳の方がこの作品をもう一度翻訳したいと思ったのは、日本で派遣切りが流行ったのがきっかけだそうなんです。この作品の中で描かれる階級社会は、今の日本の状況にもすごくつながる話。いくらテクノロジーが進化しても、使う人と距離感が保てなかったら、それはどんどん破綻していくばっかり。その距離感をどう考えるかは、僕たちがずっと突きつけられている問題だし、この『メトロポリス』に通じるところがあると思います。
撮影:宮川舞子
――ちなみに今回、松さんは歌ったり、森山さんは踊ったりされるんでしょうか?
松:まだわからないですけど、恐らくは…。
――振付には山田うんさんの名前がありますね。
森山:イスラエルに行ったとき、うんさんの作品が招聘されていて、現地の劇場で見たんですよ。そのときの印象は、すごく“神経にさわる”ような動きだなあって。串田さんの作品のイメージって、もっと柔らかい感じだったから、うんさんのお名前を聞いたときは、どんなふうにされたいんだろうってますます楽しみになりましたね。
――串田さんのつくり出す舞台美術に関してはいかがですか。
森山:以前出演した『タンゴ』という作品で串田さんが美術を担当してくださったんですけど、そのときも透明なパネルを使った舞台美術で、そういう見せ方が好きなのかなという印象はあります。頭でっかちな人たちの言葉の応酬が繰り広げられる中で、そこに付随させるというより、言葉から連想するものをすべて抽象化するようなイメージの舞台美術で、僕はすごく好きでした。
松:串田さんはコクーンという劇場をいちばんよくわかっている方だと思っているんです。だから、そこに関してはもう本当に信頼しています。
撮影:宮川舞子
――原作の映画は、1926年製作。100年後のディストピア未来都市をイメージして描かれた作品です。今年は2016年。実は映画製作時から90年後の未来を今、私たちは生きているということになります。
松:今の人たちってもう先のことを想像することに疲れてしまったようなところがある気がするんですね。だからよくこんなものをつくったなあって、90年前の人たちの想像力の逞しさに敬意を表したくなりました。そのパワーだけをお借りして、今の私たちだからできるものをつくられたら。
森山:あの映画は、当時の最高級のテクノロジーを使った映像。もちろん今は映画だけじゃなく、舞台もいろんな技術が発達していますけど、結局は“頭と手をつなぐのは心でなくてはならない”という主題にどう対峙するかというところだと思うんですね。特に今回はこれだけ濃くて力強い方たちが集まっていますから。役者たちの肉体が舞台上でどう成立するのか。そこが前面に出てくる舞台になればいいなと思っています。
1977年6月10日生まれ。東京都出身。93年、歌舞伎座『人情噺文七元結』で初舞台。94年、大河ドラマ『花の乱』でテレビデビュー。95年、『ロングバケーション』で脚光を浴び、一躍国民的女優に。その後、舞台、ドラマ、映画、歌手として幅広い活動を続ける。近年の主な舞台出演作に、串田和美 作・演出・美術『もっと泣いてよフラッパー』、長塚圭史 作・演出『かがみのかなたはたなかのなかに』、NODA・MAP『逆鱗』などがある。
森山 未來(もりやま・みらい)
1984年8月20日生まれ。兵庫県出身。舞台『BOYS TIME』で本格デビュー。以降、俳優/ダンサーの垣根を超えた活動を展開。16年3月、『談ス』で、スウェーデン、日本全国15都市をめぐり、4月にはドイツのカールスルーエ・アート&メディアセンター(ZKM)にてソロパフォーマンス『Upload a New Mind to the Body』を行った。8月に直島・ベネッセハウスミュージアムにて岡田利規×森山未來 『In a Silent Way』が控える。
■会場:Bunkamura シアターコクーン
■原作:テア・フォン・ハルボウ『新訳 メトロポリス』(訳・酒寄進一、中公文庫)
■演出・美術:串田和美
■原作翻訳:酒寄進一
■上演台本:加藤直
■台本協力:木内宏昌
■照明:齋藤茂男
■音楽:平田ナオキ
■音響:武田安記
■振付:山田うん
■衣裳:堂本教子
■ヘアメイク:中井正人
■演出助手:長町多寿子
■技術監督:櫻綴
■舞台監督:大垣敏朗
<出演>
松たか子、森山未來、飴屋法水、佐野岳、大石継太、趣里、さとうこうじ、内田紳一郎、真那胡敬二、大森博史、大方斐紗子、串田和美 ほか
<ミュージシャン>
平田ナオキ、エミ・エレオノーラ、青木タイセイ、熊谷太輔
■公式サイト:http://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/16_metropolis.html