市村正親のひとりエンターテイメントショー『市村座』ゲネプロレポート

2016.8.15
レポート
舞台

市村座

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市村正親のすべてを見ることができる珠玉のエンターテイメントショー『市村座』が旗揚げから20年を迎えた。2004年の『新市村座』から12年が経った本年度の公演のテーマは「親と子」。お馴染の口上に始まり、古典落語『子別れ』を題材にした舞台は、全編新作での上演となる。唄あり、笑いあり、涙ありの市村正親一人奮闘エンターテイメントショーのゲネプロの様子をお届けする。

東京芸術劇場プレイハウスには、黒、緑、燈と三色の定式幕がかかり、市村座の文字と紋の提灯がずらりと飾られている。普段は洋風な空間が、すっかり江戸の芝居小屋の雰囲気だ。

ご挨拶替りでは、最近ヒットしている桑田圭祐の「ヨシ子さん」、RADIOFISHの「PERFECT HUMAN」などの音楽や、お笑いなどをチラチラと。映像で市村の出演作のチラシや舞台写真、懐かしい扮装姿が流れ、その舞台人生に感嘆させられる。口上では12年ぶりとなる市村座への思いが吐露される。

芝居仕立人情噺『子別れ・下』は、古典落語に市村が動きをつけ、一人芝居として演じる。熊、金坊、女房など、一人とは思えない絶妙な会話の掛け合いと動きだ。熊は自分の過去を後悔し、隠しつつも女房への未練が溢れている。無邪気でおませな金坊は、別れた父と母の距離を肌で感じている。また女房の市村の所作のしなやかさには舌を巻く。鰻屋で夫婦が再会するシーンは、互いの恥ずかしさと嬉しさが交錯し、一気に引き込まれた。ミュージカル俳優として名高い市村だが、芝居の上手さも実感できる。

音楽講談『二世たちのコーラスライン』は、『屋根の上のヴァイオリン弾き』の三女チャヴァ、『ミス・サイゴン』のタム、『オペラ座の怪人』『ラブ・ネバー・ダイ』のグスタフと、市村の出演作の子供たちがブロードウェイのオーディションを受けるという奇想天外な物語。講談として、基本、机の前に座って、歌い舞う。馴染みのあるメロディに乗せて、「サンライズ・サンセット」が「賛成、サンキュー」、「アメリカン・ドリーム」が「ブロードウェイ・ドリーム」と歌われるから、遊び心たっぷりだ。ミュージカルの二世たちがただオーディションで出会う話かと思いきや、物語は『コーラスライン』と重なり、チャヴァはキャシー(『コーラスライン』)、グスタフはポール(『コーラスライン』)とオーバーラップしてゆく。グスタフが自らをカミングアウトし、父親である怪人がそれを見守る様は、涙無くしては語れない。市村がかつてポール(『コーラスライン』)も怪人(『オペラ座の怪人』『ラブ・ネバー・ダイ』)も演じていることを知る人は、よりぐっとくるにちがいない。

市村は『ラブ・ネバー・ダイ』でグスタフが登場したことから、この話の原案を思いついたという。親子の絆の素晴らしさを受け取ると同時に、この物語はミュージカルを担う次世代への市村からのエールのようにも感じられた。

唄入り狂言『ピアフという人』では、ブロードウェイから飛び、打って変わってパリの雰囲気。エディット・ピアフの人生、恋模様を語りで振り返りつつ、ジャック・ピルスの「去りし夢」、ピアフの「水に流して」「群衆」「愛の讃歌」が歌われる。市村の哀愁と色気の帯びた、伸びやかな歌声は、実にシャンソンとよく似合い、場の空気を一変させた。

大団円は『俵星玄蕃』。忠臣蔵のサイドストーリーであり、三波春夫の長編歌謡浪曲として有名。市村座の定番でもあり、市村の十八番だ。浪曲、語り、芝居など、この一編にさまざまな要素が含まれている。並大抵の技量では演じきれない難曲だが、市村はエネルギーたっぷりに演じ上げた。

舞台上で、市村は着替え、自分で片付け、お茶を飲む。『市村座』は舞台人・市村正親の歌、芝居、語り、踊り、笑いなどを丸々体験できる、至高のエンターテイメントといえるだろう。

文:三浦真紀

公演情報
『市村座』
 
■作・演出:髙平哲郎
■出演:市村正親
 
【東京公演】
■日程:2016年8月11日(木)~8月21日(日)
■会場:東京芸術劇場 プレイハウス
 
【仙台公演】
■日程:8月23日(火) 19:00開演
■会場:電力ホール
■主催:仙台放送
 
【新潟公演】
■日程:8月24日(水)19:00開演
■会場:りゅーとぴあ
■主催:公益財団法人新潟市芸術文化振興財団、BSN新潟放送
 
【大阪公演】
■日程:8月27日(土)13:00開演・8月28日(日) 13:00開演
■会場:サンケイホールブリーゼ
■主催:サンケイホールブリーゼ
 
【名古屋公演】
■日程:9月2日(金)19:00開演
■会場:日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
■主催:キョードー東海
 
【長野公演】
■日程:9月3日(土)18:00開演
■会場:ホクト文化ホール(長野県県民文化会館)中ホール
■主催:信濃毎日新聞社、NBS長野放送、オフィス・マユ
 
■公式サイト:http://hpot.jp/stage/ichimuraza​