ましまろの3人に訊く 伸びやかで心地よいサウンドと空気はいかにして生まれるのか
ましまろ 撮影=菊池貴裕
ザ・クロマニヨンズの真島昌利とヒックスヴィルの真城めぐみ、中森泰弘によって、ましまろが結成されたのが2015年春。ファーストアルバムをリリースして、ツアーを経て、この1年あまりの歳月の中でバンドはさらにバンドになった。セカンドアルバム『ましまろに』は彼らの音楽性はもちろん、それぞれの人間性も有機的に混ざり合って、そのまま封じ込められている。心地良くて、緩やかで、みずみずしくて、伸びやかな音楽。太陽の光や風の音や潮の音が聞こえてくる瞬間があって、アコースティックでフォーキーで叙情的な世界が広がっている。とはいっても、ただ気持ちいいだけではない。彼らの音楽の根底には、強風の中でも折れることなく、そよいでいる草のようなしなやかな強靱さがある。世界は認識の仕方によって、その様相を変えていく。彼らの音楽は凝り固まった感性をほぐしてくれる精神のマッサージ機能が備わっていると思うのだ。だが彼らの音楽を聴く上では理屈も理論も不要だろう。彼らの音楽と同じように、3人の会話もいい感じで肩の力が抜けていた。
――去年、3人でましまろを組んで、アルバムを作って、初のツアーをやって、このバンドがどんなバンドなのか、わかってきたことや感じていることはありますか?
真城:人間的なところでストレスが一切なくて、良かったなってことですね。……遅刻しないとか(笑)。みんな、時間にちゃんとしていて。私はそういう無駄のないところが好きなんですよ。
――真島さんは?
真島:いや、なんだろう? 楽しくやれました。僕はわりと人に寄っかかるほうなんで、こっち(真城)に寄っかかったり、あっち(中森)に寄っかかったりしながら(笑)。
真城:めんどくさい人がいないもんね。
真島:めんどくさい人はいない。
真城:そこがいいな。
中森:音のやりとりもそうなんですが、「もっとこうやれ、ああやれ」って、誰かが強制することがまったくない。そっちがそうくるなら、こうやろうかっていう自然なやりとりがいい感じなんですよ。
真島:全てにおいてそうかもしれないですね。
中森:いい意味で気楽です。
――ましまろの音楽を作る上で、指針となるようなキーワードが出てきたりは?
中森:いろいろとキーワードは使いますね。“あれのあんな感じ”とか。でも(普段は)そういうキーワードすら全然合わない人もいるんですよ。この3人だと、話していて、すぐに通じるし、「あ、それいいね」「いいねいいね」っていうことが多い。そういう意味でも気が楽ですね。
真城:それぞれのバンドがあって、やってることは全然違うんですけど、みんないろいろな音楽を聴いてきているし、音楽以外で話しててもあまりズレがないのが一番ストレスのないところなのかな。
――ましまろの音楽の魅力のひとつはコーラスの楽しさだと思います。真城さんと真島さんの声が混ざった瞬間の生命力のあるハーモニー、素晴らしいですが、どんな意識でやっているのですか?
真城:ファーストよりもきれいに作ろうとしなかった感じはありますね。きれいな曲もあるんですけど、もう少し荒いイメージ。そういった部分ではよりアクは出たかな。
――真島さんは真城さんとのハーモニー、いかがでしたか?
真島:僕がこれまでやってきたバンドではやったことがなくて、女性とハモるのは初めての経験なので、ましまろでは楽しんでやってます。おもしろいです。
――ふたりの声質って、似た成分もありますよね。
真島:そうですね。声がよく似てるって言われる。どっちの声かわからないって。
真城:「遠雷」という曲があるんですけど、あれが一瞬どっちが自分の声か分からないときがありました。
――真城さんの声はよりスモーキーで、真島さんはノイジーなところがありながら、叙情的ですもんね。
真城:叙情的のひと言に尽きますね。
――セカンドアルバムはいつ頃から作ろうということになったんですか?
真城:去年の暮れくらいだったんじゃないかな。
真島:わりと成りゆきなんですよ。
――「成りゆきまかせ」という曲も入ってますもんね。
真島:誰からも「2枚目作ろう」とか「作ってよ」といった話も特になく(笑)。なんとなく成りゆきで。前回のツアーでも「ナポリの月」とか、セカンドに入ってる曲を数曲やってたんで。なんだかんだで曲もいろいろできてきて、調子に乗って、「じゃあ、2枚目も作っちゃう?」みたいな(笑)。
――ましまろというバンドで活動する中で、それぞれが手応えを感じていたからこそ、曲が出てきたということなんでしょうね。
中森:そうですね。曲もどんどん自然に出てくるんで、「曲数はもう揃っちゃったね」ってことになり(笑)。
――ファーストのときは真島さんが作った曲のストックの中から、ましまろに合いそうな曲を選んだとのことでしたが、今回はましまろ用に作ったりしたのですか?
真島:僕は歌を作るときに、誰が歌うとか一切考えずに歌は歌として作っていて。その中でこれはましまろでやったらおもしろそうだなって曲を持ってきて、みんなでガチャガチャやっているうちに、だんだん形になるという感じなんですよ。
――1枚目を作ったときの経験が生きたところはありますか? 2枚目ならではのこととか。
中森:楽曲ありきでアレンジをしているところがあって、“こんなアレンジにしよう”ってところから始まらないので、制限もなければ、決まり事も何もなくて。とにかく思いついたアレンジを進めていくという感じですね。
――確かにとても自由な創作という印象を受けました。「ひき潮」や「わたりどり」はストリングスも入っています。これは?
中森:あれはストリングスがほしいなって、ただそれだけですよね。じゃあ、ストリングスを入れようと(笑)。
――曲が求めることをやっていくということですか。
真城:それだけですね。
――ファースト・アルバムからさらに自由になっているという印象を受けました。ファーストはネオアコを今の時代に新に解釈したサウンドが軸という言い方も成り立ちそうですが、セカンドはもはやジャンルで説明できない音楽になっているのではないですか?
真城:枠はとれてると思いますね。
中森:最初は3人ともどういうものになっていくか、わかってなかったと思うんですよ。あっ、これでもいいんだっていうのがだんだんつかめてきて。
――バンド感あふれるサウンドが魅力的です。1曲目の「朝」は炸裂するパワーがすごい曲ですし、「さがしもの」もバンドの楽しさが伝わってきました。
中森:この曲は楽しかったですね、録ってるとき。
真城:これはマーシーっぽいなと思う曲というか。昔のブルースっぽいところもあるし。
――真城さんは真島さんの作った曲を歌うときにどんなことを感じていましたか?
真城:言葉の乗せ方とかチョイスが独特なんで、「これはなんですか?」って確認したりすることもあって。突拍子もない言葉が出てくるから、おもしろいですよ。
――真島さんは真城さんが歌うのを聴いて、どう感じましたか?
真島:僕は昔から真城の歌、声のファンだったから、僕が作った曲を真城が歌ってくれるんだという喜びを感じてました。
ましまろ 撮影=菊池貴裕
――中森さんは真城さんの歌は熟知していると思うのですが、ヒックスヴィルでの歌との違いを感じるところはありますか?
中森:より自由に歌ってるという印象はありますね。
真城:っていうか、一切何も注文はないですから。「これでいいのかな?」と思ったりもするんですが、何も言われないから、まあいいかって(笑)。
――「ナポリの月」、「わたりどり」などでの真城さんの歌声、素晴らしいです。
真城:あれがまた最初に、「こんな曲できました」って聞かせてもらうわけですけど、すごいなと思いました。
――「けあらしのまち」は中森さんの作曲、真城さんの作詞曲ですが、これはましまろでやることを念頭において作ったんですか?
中森:そうですね。ましまろでやったらいいかなと思って作りました。
――光と影が同時にあって、去っていくものと、新たに来るものが共存していて、深みのある作品ですよね。ちょっとビートルズ的なポップさもあります。
中森:そうですね。ちょっとそっち寄りに作りたくて。歌詞は預けました。
――真城さんは作詞する上では?
真城:できれば統一感というか、ましまろでやるからっていうことを少しは意識してましたけど、意識して作れるほど、歌詞を書いたことがないので、自分としては難儀しました。白玉の3声のコーラスを一度やってみたいなと思ってたんで、それができてうれしかったですね。
――真島さんはましまろでは、アコギを弾く機会が多いと思うのですが。
真島:そうですね。アコギは難しいんですよ。
真城:「手が痛い」って言ってたよね。普段エレキ弾いてる人がアコギしか弾かないって、大変だよね。まったく別物だから。
真島:そう。エレキギターとは鳴らし方が違うから、コード一発鳴らしても全然うまく鳴らなかったり、自分で思ったとおりに鳴らなかったりするので、大変でした(笑)。
――でもストロークそのものからパワーが伝わってくるなあと思いました。
真城:アコギのほうが感情が出やすいですからね。温度というか。
真島:そうだね。アコギ、難しいけど、おもしろい、すごく。ライブのときもおもしろいですね。その時々で音も変わってくるし。
――真島さん、ましまろでは歌もかなり歌っていますよね。リードボーカルを取ってる曲もありますし、コーラスもたくさんあります。シンガーとしてはどうですか?
真島:歌も大変です(笑)。難しいです。
――歌うときに何かポイントにしていることはありますか?
真島:あんまり考えすぎないのがポイントですね。考えて歌うと、逆にうまく歌えないので。
真城:私はなるべくマーシーには荒く歌ってほしいと思っていて。うまいとか下手とかそういう世界じゃないから。でも実はすごいピッチがいいっていうのが、おもしろいなって。
――中森さんはましまろでのギターについては?
中森:ファーストに引き続き、シンプルにっていうのは心がけました。余白を少しつけるというか。どうしてもつい弾き倒しちゃうので、今回は弾いておいて、ずいぶん削りました。
――それはみんなで判断した結果なんですか?
中森:そうですね。「ないほうがいよね?」って聞くと、だいたい「うん」ってなるという(笑)。
――真島さんは曲はどういう時に生まれたりするんですか?
真島:あんまり覚えてないんだけど、散歩してるときが多いかな。あとは布団の中で寝たり、寝れなかったりの中間地点ってあるじゃないですか。睡眠に入る直前。あと、目が覚めるときとか。ああいうときにできることも多いですね。
真城:それは頭に入れておくの?
真島:寝る寸前にひらめいたら、めんどくせぇなと思いながらも、ギターで弾いてカセットテープに入れたり。ホントに眠くて、そのまま寝ちゃうこともあるんだけど。そうすると、朝にはすっかり忘れちゃうんですよ(笑)。まぁでも忘れちゃったら、それまでですからね。
――あくまでも個人的な感想なんですが、「朝」「ローラー・コースター」「遠雷」など、この現実の社会を生きていく上での糧となるものが詰まった曲が目立っているという印象を受けました。
真島:曲を聴いて何を感じるかは、聴いた人が勝手に感じればいいと思っています。僕はこういう気持ちで作ったから、こんなふうに感じてほしいっていうのは一切ないので、聴いた人それぞれで自由に感じてくれれば。
――心地良かったり、穏やかだったりしながらも、根底にロックやパンクに通じる要素もあって。
真島:そういう音楽を僕らは世代的に通過してきてるから、にじみ出るものはあるんじゃないですかね。知らずに影響受けてるっていうのは絶対あると思うし。
真城:今はそういう形でやってなくてもね。
――「妙なねじれ」はラテンジャズのテイストが入っている曲です。それぞれの音楽の背景の広さも感じましたが。
中森:自分が気持ちいい感じに向かうっていうことですよね。そうなると、自然にそういう感じになっちゃいますね。
――気持ちいい音楽が詰まっていますが、いわゆる“オシャレな音楽”という枠の中には収まらない音楽ですよね。
真城:オシャレなのは難しいね。
中森:オシャレな音楽ってどんなのだろうね?
真島:FMでヘビーローテーションになるような音楽?
真城:いやいや(笑)。
――ましまろのファーストのラストの「山の師匠」を聴いたときに、これは絶対にオシャレな音楽とは違うなと思いました。
中森:アハハ。
真城:あれはどうしてもネオアコにはならない。でも、ある意味ネオなアコだよね(笑)。
――ネオアコは日本ではオシャレな音楽として捉えられたりもしていましたよね。
真島:ネオアコが80年代前半に出てきたときって、オシャレな音楽として紹介されてましたもんね。多分そうしたほうが売れると見込んだんでしょうね。
――根底にある精神性みたいなところが抜け落ちて、入ってきたところがありますよね。
真島:トレイシー・ソーンの「遠い渚」の帯なんかでも、オシャレな感じで、けだるい昼下がり、みたいなオシャレ・イメージで日本では売り出されたけど、僕にとってネオアコってパンク直結なんですよ。
真城:そのあとのムーブメントというか。
真島:パンクのスピリットから出てきたもので、パンク直結。ハードコアパンクと同じような。当時、チェリー・レッド(イギリスのインディーズのレコードレーベル。80年代にネオアコ作品をたくさんリリースした)でもハードコアパンクのバンドも普通にリリースしてましたもんね。ネオアコだけじゃなく。そのへんの尖ったところが日本に紹介されるときに削られて、オシャレな音楽っていうふうな紹介のされかたをしてましたね、当時。
――そういう意味では、ましまろの音楽はオシャレにはなりきらないという。
真島:はい(笑)。
――レコーディング・スタジオでのこの3人の空気感がどんなものだったのか、やりとりで印象に残ったことはありますか?
真城:スタジオはとにかくリラックスしていましたね。真島さんが煮干しを毎日買ってきて、ずっと食べてましたね。
真島:食べていました。
中森:来るときに買ってくるんですよ。
真城:私、煮干しを見直しましたから。煮干しって、うまいんだって(笑)。
真島:おいしいでしょ?
真城:うん。おいしい。
――煮干しはどうして食べることにしたのですか? カルシウム補給のためとか?
真島:骨粗しょう症にならないように(笑)。
――美しい音楽でありながら、根底に骨太な精神が宿っているのはそのせいなんですね(笑)。今回はゲストプレーヤーは?
真城:前回同様、伊賀航さん(ベース)と大槻敏彦さん(ドラム)ですね。今回はベテラン・チームにお願いしまして。
真島:あと叩き物を入れてもらいました。ビブラホンの組み立て方が分からなくて困ったよね(笑)。
真城:部品がバランバランでくるんですよ。みんなで組み立てたんだもん。
中森:僕が借りてきたんですけど、バラバラの状態で、全然組み立てられなかったんですよ。しばらく悪戦苦闘していたら、取扱説明書が出てきて、やった!って(笑)。それを見ながら、なんとか組み立てました(笑)。
真城:ストリングスは私の友人に頼みました。
――「引き潮」「わたりどり」のストリングスも素晴らしいですが、何か、リクエストしたりは?
中森:曲を聴いてもらって、そのまんまそのイメージで付けてもらって、その後でいくつかリクエストしたりして。
真城:1曲はそのまま使ったよね。
――アルバムのラストに「わたりどり」が入っていて、ツアーのタイトルが『ましまろ “ほーぼーツアー2016”』で、hoboには渡り鳥という意味があって、ウディ・ガスリーやボブ・ディランなども好んで歌ってきています。ましまろがツアーを回って旅をしていくことを歌っているとも取れるような気もしました。
真島:なるほど。じゃ、そういうことでお願いします(笑)。
――2枚目のアルバムが完成しての感想は?
真城:ファーストだけで終わっちゃうと、バンドとしては“やっぱりね”みたいな感じもあるんで、セカンドにこぎつけて良かったなって気持ちはあります。うれしいです。
真島:今回、前よりもいろんな音を入れたから、カラフルな仕上がりになってるけど、これをライブで3人でやるときに、解体するのは楽しみな作業でもあるなって。まったく別物としてライブでやるのが楽しみです。
中森:ましまろでの活動、ここまで2年ですけど、今までやってきたバンドでは年1枚のペースで作品を出した経験がほとんどないんですよ。しかも誰かにひっぱたかれてやったわけじゃなく、できあがったってことがすごくうれしいです。
真城:普通は叩かれてやるからね(笑)。
中森:ケツを叩かれてやったものって、レコーディングやってる最中に歌詞を書いてるものが出てきちゃうんですけど、ましまろはそれがないんで、すごく達成感があるんです。健全な達成感というか。
真城:詰め詰めでやってたらこういう風にはならないと思います。
――ましまろの未来の展開について思うことは?
中森:次も出せていければいいなとは思いますけど、どうなるか、わからない。それこそ計画を立てて、進んでいくバンドではないので。
真島:「成りゆきまかせ」ってことですね(笑)。
――ツアーは昨年よりも本数が増えたり、会場が大きくなったりもしていますが、こんな感じでやりたいとか、イメージしていることはありますか?
中森:いや、そこも特に何も考えてません。
――前回のツアーではホッピーを飲みながら、ライブをやっていたようですが。
真城:それぞれのお酒の量は全然違いますけどね。マーシーはずっと飲んでるけど、変わらないし、声が大きくなったりもしない。
真島:暴れたりもしないし(笑)。
中森:今年も飲みながらやるの?
真島:そうだね。楽しく出来れば、いいですね。
真城:お客さんにもガンガン飲んでほしいよね。
真島:そうだね。どっちかっていうと、お客さんにベロンベロンになっててほしいよね。
真城:そうそう。そのほうが気が楽だもんね(笑)。
取材・文=長谷川誠 撮影=菊池貴裕
ましまろ 撮影=菊池貴裕
2016.08.31リリース
『ましまろに』
12inchアナログ盤
\3,241+税 BVJL-22
1. 朝
2. さがしもの
3. けあらしの町
4. ひき潮
5. ひき潮(inst)
6. ナポリの月
Side-B
1. 遠雷
2. ローラー・コースター
3. 成りゆきまかせ
4. 妙なねじれ
5. わたりどり
CD
\2,913+税 BVCL-745
2. さがしもの
3. けあらしの町
4. ひき潮
5. ナポリの月
6. 遠雷
7. ローラー・コースター
8. 成りゆきまかせ
9. 妙なねじれ
10. わたりどり