【特別インタビュー】“ミュージカル界のプリンス”浦井健治「全ての人達に失礼のないように」
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浦井健治『王家の紋章』より
“ミュージカル界のプリンス”浦井健治に注目が集まっている。“ミュージカル界のプリンス”というキャッチフレーズ、どこかで聞いたことがないだろうか。浦井、そして井上芳雄、山崎育三郎、この今の日本のミュージカルシーンを引っ張っていく俳優3人に使われる言葉だ。それぞれが主役を張ることができる人気・実力の持ち主で、切磋琢磨しながらシーンを盛り上げている。ちなみにこの3人はStarSというユニットを組み、CDデビューもし、日本武道館も満杯にしている。
浦井健治は8月27日までミュージカルの聖地、東京・帝国劇場で行われていた『王家の紋章』で、帝劇単独初主演を務め、完売御礼という盛り上がりをみせた。「単独でやらせていただくのは初めてで、今回浦井にやらせてみようって思ってくださった関係者の方々に感謝していますし、愛をすごく感じています。それはカンパニー全体にも浸透している感触でもあって、キャスト、スタッフ、オーケストラがひとつになって、絆を感じながら歩みを進めていて。お陰様で満員御礼が続き、お客様が一回一回スタンディング・オべーションしてくださるというのが、毎回なんて幸せなんだと心から思っています」(浦井)。
『王家の紋章』より
帝国劇場での初座長、そして連載開始から40年、累計発行部数4千万部という歴史ある人気作品の世界初舞台化と、相当なプレッシャーの中で初日を迎えたであろう舞台初日に、浦井にいきなり大きなプレゼントが届いた。それは『王家の紋章』が大好評につき、来年4月帝劇、5月大阪・梅田芸術劇場での再演が決定したことが発表されたのだ。「この作品の原作ファンの方々を「王族」と呼ぶのですが、その方々にも失礼がないように、メンフィスという役をやらせていただきました。「王族」の皆さんの中にしっかりとしたメンフィスのイメージができあがっていると思いますので、そこで自分には何ができるのかというプレッシャーが、最初は大きかったです。でもスタッフさんと試行錯誤を重ね、作者の細川智栄子先生と芙~みん先生のお二人にも気に入っていただき、公演中に来年の4月に帝国劇場、5月に大阪・梅田芸術劇場メインホールでの再演も発表できて、こんなに嬉しいことはありません」(浦井)、そう声を弾ませた。
“帝劇には魔物”が住んでいると言われている。しかし浦井はそれを、舞台の神様に見守られながら演じていると受け取り、毎日、ひたすら誠実にお客さんと舞台とに向かい合わなければ、その神様から見放されるという想いを胸に1か月間、走り抜けた。「僕は舞台の上には神様がいると思っていて、気を抜いたり、手を抜いたときには見放されると思っています。やはり舞台に立つ者は、本当に誠心誠意努めなければいけないよと言われている気もします。なぜかというと、一回一回の公演を、何か月も前からお財布に一枚の
『王家の紋章』より
演者、スタッフ、そしてオーケストラが一回一回の舞台、一瞬一瞬に、それまでの経験、費やした時間、その全て捧げ、そこにお客さんが色々な想いを抱えて駆けつけ、そんな魂と想いとが渦巻く劇場では、魔物が住んでいると思われても仕方がない独特の空気が生まれるのではないだろうか。それは演者にとって時に味方に、時には敵となり、翻弄されることもある。「ただその空気が自分にとっては愛おしいですし、公演中、不思議と“無音”になる時があるんです。例えば相手役と向かいあって芝居をしている時、集中している時に自分が自分を俯瞰して見ている瞬間があるんです。そういう時に、お客様も息をするのも忘れて観入って下さっているのを感じると、その瞬間“無音”状態になるんです。これを一度体験してしまうと、役者としてこれ以上幸せなことはないんじゃないかと思えます」(浦井)。浦井はそんな劇場の舞台の上でしか味わうことができない“瞬間”に幸せを感じ、エネルギーに替えている。
浦井は『仮面ライダークウガ』でデビュー以来、昨年11月で15周年を迎えた。『美少女戦士セーラムーン』、『エリザベート』『ヘンリー六世』『ロミオ&ジュリエット』『シンベリン』劇団☆新感線への客演、『アルジャーノンに花束を』『デスノート The Musical』『アルカディア』『あわれ彼女は娼婦』etc…ミュージカルから、ストレートプレイまで様々な舞台を踏み、月9ドラマ『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』や『ニーチェ先生』等テレビドラマでも活躍し、今最も忙しい俳優の一人だ。全ての事に真摯に向き合うその姿勢、それが力となり、変幻自在の演技と圧巻の歌は、お客さんのみならず共演者、演出家、監督をも虜にしている。
8月に発売された初のオフィシャルブック『アシアト』(キネマ旬報社)には、これまで浦井を起用した福田雄一、いのうえひでのり、鵜山仁、萩田浩一、小池修一郎、栗山民也といった日本を代表する演出家/監督から、彼を絶賛するメッセージが寄せられている。そこには改めて“舞台から愛される男”の姿が生々しく描かれている。「僕はあれを読んで涙が出てきました。なんて愛のある素敵な言葉を残してくださったんだろうと。出会いから、今とこれからの事を書いてくださっていて、こんなに愛してくださっていたのかということを改めて実感したというか。やっぱり文字って一生残るものですし、日本を代表する演出家の方々があれだけのメッセージをくださったことが本当に嬉しいです」(浦井)と恐縮しながらも、制作サイドの人間から愛されていることを素直に喜ぶと同時に、15年という節目での錚々たる顔ぶれからのメッセージに、改めて役者としての姿勢を確認、見直すいい機会になったようだ。
オフィシャルブック『アシアト』(キネマ旬報社)
そんな浦井は、デビュー15周年を記念して、8月3日は初のソロアルバム『Wonderland』をリリース、彼がこだわる“芝居歌”に取り組んだ。「ファンの方から、いつでもどこでも僕の歌声を聴けるものが欲しいです、という声をたくさんいただいていました。アルバムを出すことになり、どういう作品を作ろうと考えた時、目標とするアーティストの方がなかなか頭に浮かんでこなかったことが自分の中では衝撃でした。それで、1曲1曲大切な楽曲をセレクトして、浦井健治ならではのアルバムを作りたいと思いました。自分では“芝居歌”と言っていますが、役が歌うというか、芝居のセリフと歌がちゃんとリンクしている歌をメインにしました」(浦井)。浦井はさらに9月29日に初のソロコンサートを東京国際フォーラム・ホールAで行う。そのタイトルはアルバム同様『Wonderland』。「役者ならではのアルバムを目指すことができたと思い『Wonderlamd』というタイトルにして、コンサートもそれに連動したものというか、「不思議の国のアリス」じゃないですけど、何でもありという感じにしたいと思っています。歌ありダンスあり、浦井健治の面白い部分も感じてもらい、楽しんでいただき、元気になって帰っていただけるようなものを目指しています」と、役者の自分と素の自分両方をファンに楽しんでもらいたいと、自身が一番楽しみにしている。
ソロアルバム『Wonderland』
しかしこのコンサートは一夜限りのもので、舞台と同じように多くのスタッフと作り上げていく作品で、一回限りではもったいないのでは?ということを本人にぶつけると「一回だからこその“Wonderland”です。CDになっていれば音源が、DVDになると映像は残りますが、生の空気はその場限りで、その瞬間ってもう一生訪れない、その一回が一生脳裏に、もしくは心に残るもので、それが人生を豊かにするのだとすごく思っていて。形あるものは色褪せていくかもしれませんが、あの時あんな表情をしていたなとか、あの歌すごかったなとか、音まで覚えているというのは、これは文化というか芸術の極みだと思っていて。こういう仕事に携われることができて幸せだなと思います」(浦井)と、ここでも変わらない真摯な言葉が返ってきた。
様々な事を経験しての15年。その努力の積み重ねで掴んだ帝劇という大舞台での主演。大きく花開いた役者人生だが、まだまだ「山を登っている途中」だと謙虚に語る。「あるミュージカルで共演した仲間が言っていた「僕は今、大きな山、エベレストに登っている」という感覚を、僕は今感じています。ひたすら登り続けなければいけないし、登山って標高が高くなればなるほど空気が薄くなって、休まなければいけないときもあって、でも本当に見える景色が変わってきたり、雲が晴れる瞬間っていうのは絶景なんですよね。言っていたことの意味が今ならわかるなと思って。帝劇の真ん中に立つということはこういう事なのかと感じました」。確かに役者は永遠に山を登り続けるクライマーなのかもしれない。いや、浦井の話を聞いているとアスリートに近い仕事なのかもしれない。「ケアが仕事といっても過言ではありません。歌は全身の筋肉を必要とするので、アスリートは休んだら能力、筋力が落ちるのは役者も同じです。常にマッサージやストレッチで体をほぐし、疲労を取り、食事も気をつけています。食べるものは体を作る、飲むものは自分を潤すという考え方で、口から入れるものも徹底して気をつけています。喉のケアも例えば美顔器のミストを吸入して、自然治癒力を高めることを心がけたり、喉に良いといわれるものは全て摂取して、でもそれくらいやらないと追いつかないくらいの大きな仕事を、やらせていただいていると思っています」。
浦井はこの後ソロコンサートを経て、11月~12月は『ヘンリー四世』二部作(新国立劇場)、2017年2月にはミュージカル『ビッグ・フィッシュ』(日生劇場)など大作舞台への出演が決まっている。役者・浦井健治は山を登り続けながら、ひたすら役者道を極めていく。「今35歳なんですが、35の役者って中堅とは言われますが、海外に目を向ければヒヨっ子もいいとこで。舞台『シンベリン』(2012年)に出演させていただいた時に、蜷川幸雄さんと出会うことができ、それは僕にとっては奇跡だったのですが、その時、蜷川さんが「お前らがやっていることが、後の人の道になるんだからな、責任持てよ」と言って下さって、その言葉にグサッときて。やっぱりそういった方との出会いが、自分にとってはかけがえのないもので、先人のみなさんに失礼のないようにしなければという思いはすごくあります。年齢的にも抱擁力や寛容さが求められる役が多くなるにつれ、歌と向き合う、歌だけで伝えられることがいかにこれから大事になってくるかということはわかっていて。それは必然で、これからはそれができなければいけないと思っています」(浦井)。
歌で感情が表現できて、ストレートプレイで鍛えられた演技でも感動させることができる、それが浦井の強みだ。しかし自分の事を劣等感の塊、雑草と謙遜する。「自分は劣等感の塊なんです。作品によっては、劇団やその道を極めている役者の中に僕が一人いて、そういう人達からすると、僕の発声や台詞回しはナンセンスと思われてしまっていないかと気になります。それでも演出家の方が僕を使ってくださるのは、自分ではわからないのですが、奇想天外なことをするとか、とにかく本気でやっているとか、なんだか力んでるとか、でもそれが面白いって思ってくださっていると聞いたことがあります。それが全てになってはいけないと思いますが、ある意味では色々な蓄積とか基礎がないからこそ、そうするしかない自分がいて。だから劣等感の塊で、僕よりも全てにおいて上手い人はたくさんいて、そういう人から褒めていただくと嬉しくて仕方ないんです。雑草でもいいんだと思えたときに、僕のことを好きだよって言ってくれる人が増えて、自分を受け入れられるようになったのは最近です」と語っているが、しかしプレッシャーの中で成長した人間ほど強いものはない。
その証拠に今、浦井の元には大きな仕事が次々と舞い込んできている。帝劇での主演もそのひとつだ。「僕は舞台に立たせていただいている、イコール全ての人達に失礼がないようにしなければいけない。やりたい人はごまんといて、僕の代わりなんていくらでもいて、世代交代ももちろんあるし、そういう中で自分はどうやっていくべきなのかということを常に考えています」と、常に危機感を感じながらも、謙虚な姿勢を崩さない。
全てはお客さんのために、でも全てのスタッフに失礼がないように、そう言い続けている浦井の話を聞いていると、常にアウトプットを続けていて、疲弊しないのだろうか?インプットはどうしているのだろうか?という疑問が湧いてくる。「これは不思議なもので、もちろん日常とか、人に会ったり、何かを見ることでインプットできていますし、癒しもありますけど、舞台上でインプットしている自分がいます。これは嘘でもなんでもなく。自分がやりたかったことができているということもありますが、もちろんできなかった時の悔しさも忘れていないですし、その時の負けたと思った自分もインプットになっています。そして今やれていることがインプットになっているのも事実です。お客様が本当に楽しんで、贈ってくださる拍手が栄養をくれるんです。疲れていても笑顔になって元気になる。元気をもらえるということは、お客様からもインプットしているということです」。ここでもどこまでも真摯で紳士な浦井がいた。愛すべき“役者バカ”である。
(文・田中久勝)
■日程:2016年9月29日(木)18:30
■会場:東京国際フォーラム・ホールA
■出演:浦井健治
■ゲストボーカル:AKANE LIV 照井裕隆
■ダンサー:加賀谷真聡
■構成・演出:萩田浩一
■音楽監督:かみむら周平
■公式サイト:http://www.uraikenji.net/
■日程:2016年11月26日(土)~12月22日(木)
■会場:新国立劇場 中劇場
■翻訳:小田島 雄志
■演出:鵜山 仁
■出演:浦井健治 岡本健一 ラサール石井 ・ 中嶋しゅう 佐藤B作 ほか
■公式サイト:http://www.nntt.jac.go.jp/play/performance/160420_007978.html
■日程:2017年2月7日(火)~2月28月(火)
■会場:日生劇場
■脚本:ジョン・オーガスト
■音楽・詞:アンドリュー・リッパ
■演出:白井 晃
■出演:川平慈英 浦井健治 霧矢大夢 ほか
■公式サイト:http://www.tohostage.com/bigfish/
○浦井健治ロング・インタビュー
○浦井健治自作の童話掲載
○座談会 浦井健治×井上芳雄×山崎育三郎
○対談 浦井健治×高寺成紀(『仮面ライダークウガ』CP)
○関係者インタビュー
○浦井健治 15年の軌跡
and more……
B5判/144ページ(予定)
本体価格:2,000円+税
発売:株式会社キネマ旬報社
(CD+DVD) スリーブケース+豪華36Pブックレット付
AVCD-93455/B 5,500円(本体価格)+税
(CD+DVD)
AVCD-93456/B 4,500円(本体価格)+税
M01. ジャーニー・ホーム ~ミュージカル「ボンベイドリームス」より
M02. いまは子どものままで ~ミュージカル「二都物語」より
M03. デスノート ~ミュージカル「デスノート The Musical」より
M04. 闇が広がる ~ミュージカル「エリザベート」より
M05. どうやって伝えよう ~ミュージカル「ロミオ&ジュリエット」より
M06. ホール・ニュー・ワールド ~ミュージカル「アラジン」より duet with濱田めぐみ
M07. Color of Dream
M08. ミッドナイト・レディオ ~ミュージカル「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」より
M09. 彼方へ
M10. シャルルの小冒険 ~劇団☆新感線スピンオフ作品
≪『薔薇とサムライ~GoemonRock Overdrive』後日談プロット≫~ボスコーニュ公国シャルル王子のある日の出来事~
・ Color of Dream Music Clip
・ 浦井健治オフショットドキュメント
・ Color of Dream Music Clip
・ 浦井健治スペシャルインタビュー
■浦井健治公式サイト:http://www.uraikenji.net