写真力と空間力がせめぎあう"秘密の館"  篠山紀信展『快楽の館』を観た

2016.9.21
レポート
アート

篠山紀信『快楽の館』2016年 展示風景 (c)Kishin Shinoyama 2016

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その登場以来、日本写真界の先頭を走り続けてきた写真家・篠山紀信の展覧会『快楽の館』が、9月3日から品川の原美術館で開催されている。本展はヌード写真のみで構成されており、それらは篠山が同館内にて撮り下ろした写真作品となっている。さらに、奈良美智や森村泰昌などの館内の常設展示作品を用いて撮影されたコラボレーション写真もあり、大変見ごたえのある内容になっている。

 

篠山紀信『快楽の館』2016年 ©Kishin Shinoyama 2016

 

迫力の"篠山NUDE"を味わう

展示室に入るとすぐ目に飛び込んでくるのが、自分が今立っているまさにその場所で撮影された、飛躍する女性の裸体だ。写真には実際の受付のスタッフも写り込んでおり、まるで自分が合わせ鏡の世界に入り込んでしまったかのような錯覚を覚える。と同時に、鑑賞者は大きく引き伸ばされた写真の迫力に圧倒されてしまうことだろう。非日常的な世界が、現実の空間を捻じ曲げ、入っては行けない「館」に迷い込んでしまったことを感じさせる。

篠山紀信『快楽の館』2016年 ©Kishin Shinoyama 2016

 

漂う死のイメージ

1979年開館の原美術館は、元々1938年に個人の邸宅として建てられたものである。約80年間、人々の生活を見つめてきたこの貴重な建物を、篠山は怪しげな"快楽の館"に変貌させた。出品作品77点は全て館内で撮られたものであるが、原美術館という建物が内包する歴史とドラマが、篠山の写真によって一層香り立つように感じられる。作中のヌードも単純な美しさやエロティシズムを超え、生きているのか死んでいるのか、はたまたこの裸体が人間なのかすらわからなくなるような、重層的なイメージが与えられている。篠山が「緑のコケの中を白い蛇が動いてゆく感じ」と評する、本展のモデルをつとめた壇蜜の作品も、どこか耽美的で、死のイメージをも喚起させるものになっている。

篠山紀信『快楽の館』2016年 ©Kishin Shinoyama 2016

 

常設展示作品とのコラボレーションも

館内に常設展示されている作品とのコラボレーションもまた見逃せない。奈良美智や森村泰昌、宮島達男などの作品の中に篠山のヌードが入り込むことで、全く違った味わいが生まれる。一見すると挑発的にも思えるこの試みでは、篠山の写真が他の作品を食ってしまっているようにも見える。しかしながら、常設展示・篠山の撮影・鑑賞とが全て同じ場所で行われていることは、鑑賞者に不思議な違和感を与え、とてもポジティブなアート体験をもたらす。常設作品と篠山のコラボレーション作品の両者を眺めることができる、とても面白い試みである。

篠山紀信『快楽の館』2016年 ©Kishin Shinoyama 2016

 
 

篠山紀信はそのキャリアを通して一貫してヌードを撮り、人が「裸であること」から創り出し得る表現に挑戦し続けている。今回の展覧会で展示されるのは、その全ての展示作品が彼が向き合い続けてきた、まさにそのヌードなのである。ヌードのモデル達が紡ぎ出す非日常と、美術館という空間が交錯する本展は、耽美的で、何か見ては行けない秘密の館小さな穴から覗いているような不思議な感覚を観る者に与えてくれる。

2012年より『篠山紀信 写真力』展が全国各地の美術館を巡回中の篠山だが、「美術館は面白い。写真にとっての新しいメディアである」と語っている。ヌード写真の文脈が雑誌媒体からよりアートなものへと舵を切っていく事を踏まえた上で、篠山は本展示において、作品のもつ"写真力"と原美術館のもつ"空間力"とのバトルを仕掛けているといえよう。さらに篠山は、美術館という場所の新たな可能性までも提示しようとしているのではないか。そんなことを筆者に思わせる展覧会であった。

 

イベント情報
篠山紀信展 『快楽の館』

日時:2016年9月3日(土)~2017年1月9日(月・祝)
会場:原美術館 東京都品川区北品川4-7-25 〒140-0001
開館時間:午前11:00~午後5:00(祝日11月23日をのぞく水曜は午後8:00まで/入館は閉館時刻の30分前まで)
休館日:月曜日(祝日にあたる10月10日、1月9日は開館)、10月11日、年末年始(12月26日~1月4日)
公式HP:http://www.haramuseum.or.jp