FUKUMA流のこだわりプログラムで、音楽の新しい顔を発見 ~福間洸太朗(ピアニスト)に聞く
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福間洸太朗
2回のコンサートで、作曲家たちが楽譜に込めた感情や意図へ迫る。
演奏家の中には、多彩なコンセプトを軸にコンサートのテーマを設定し、熟考した選曲によってコンサートがひとつのドラマであるかのように提示してくれる人も少なくない。日本とヨーロッパを主な拠点として活動している福間洸太朗もそうしたひとり。その傾向を知れば「次のコンサートはどういうテーマだろう」ということが楽しみになり、聴き慣れた曲であっても違った表情を探している自分に気がつくはずだ。2016年の秋もまた、2つのテーマによるコンサートが聴き手を新しい扉の前へと誘ってくれる。
福間洸太朗
―― 10月に行われる2つのコンサートでは『幻想』および『コン・フォーコ』というキーワードにより、2つのプログラムでコンサートが行われます。それぞれ興味深く、どのような曲が選ばれるのか楽しみですが、まずは『幻想』というテーマからお聞かせください。
モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルトという、18世紀から19世紀にかけてウィーンを舞台に活躍した3人の作曲家に焦点を当てるシリーズで、昨年のテーマは初期の作品で「最初に作られた変奏曲とソナタ第1番」でした。「幻想曲」はピアノ・ソナタのような規則性のある曲に対し、自由な形式を重んじるタイプの音楽。転調やテンポの変化などにも大胆な工夫が見られ、しかも3人それぞれに特徴のある「幻想曲」を残しています。モーツァルトの2曲は、死の影が見えるニ短調と、あらがえない運命を表現するハ短調を使い、即興の要素を含みながら、均整の取れた美しい構成を持っています。ベートーヴェンの『月光』はよく知られているように彼自身の命名ではなく、「幻想風ソナタ」というのがベートーヴェンの意図でした。珍しい嬰ハ短調を使用し、ソナタなのに緩徐楽章で始まるというのが当時としては異例です。幻想曲Op.77は、より即興性が強く現れ、彼らしい苦悩から歓喜に至るドラマが描かれています。そしてシューベルトが書いた2つの「幻想曲」は、どちらも「ハ長調」でありながら、全く違う性格・構成を持ち、グラーツの方がよりシューベルトらしい、独自の幻想世界で温かみも感じられます。さすらい人は、かなりベートーヴェンの影響が感じられますね。
福間洸太朗
―― シューベルトの作品は、福間さんにとってまだ珍しいレパートリーであるように思えますが、挑戦するようなお気持ちもあるのでしょうか。
たしかにこれまでは「即興曲」など一部の作品を除き、演奏してきませんでした。しかし自分が30代になり、シューベルトがわずか31歳で亡くなっていることを考えると、どうしても「自分と同じ年代の人がこんなに深い曲を書いていたのか」と思わざるを得ません。「さすらい人幻想曲」は『幻想』というテーマを決めたときに弾きたいと思い、今回のためにレパートリーへ加えました。こうして3人の「幻想曲」を並べてみますと、ベートーヴェンはモーツァルトから、シューベルトはベートーヴェンから影響を受けている様子が見てとれますし、共通する音の進行を見つけるなど深めていくのが楽しくなります。そうしたことも聴いてくださる方に伝わるコンサートにしたいですね。
―― 一方のショパンは、すでにいろいろな曲を弾いていると思いますが、『コン・フォーコ』(Con Fuoco、熱烈に、炎のごとく)という言葉(楽譜上の指示)はショパンにとって象徴的なものでしょうか。
ショパンが曲の中でコン・フォーコという指定を使っているのは、ピアノ・ソナタ第1番を完成させた1828年あたりから、スケルツォ第3番を作曲した1839年という10年ちょっとに集約されており、コンサートで演奏する曲は全てこの期間に書かれています。ショパンの生涯と照らし合わせると、ポーランドを後にしてパリへ定住し、マリア・ヴォジンスカとの恋愛やジョルジュ・サンドとの出会い、マヨルカ島への療養も兼ねた旅行をするという激動の時期だといえるでしょう。コン・フォーコというのは理性を失った怒りや感情の発露だと思いますが、理性をコントロールできないことの表れでもあるように感じられます。ですから、そういう感情を自ら意識していた時期でもあるでしょうし、音楽の中でも極めてドラマティックなところにこそ、この指定が使われているのだと思います。「24の前奏曲」をすべて演奏するのは今回が初めてですけれど、演奏時間が短く技術的に最難曲とも言える第16番にコン・フォーコの指示があり、右手が激しく疾駆する中に、結核で死を宣告されたショパンの激しい感情が爆発しているように感じます。その前後に穏やかな曲が配置され、空気の変化にもご注目いただきたいです。まだまだ追究しがいのあるテーマですね。
福間洸太朗
―― ショパンの作品中にも多くの音楽用語がある中、コン・フォーコというキーワードに注目したのは、なにかきっかけがあったのでしょうか。
2015年に『ファンタジー・オン・アイス』というフィギュアスケートのショーへピアニストとして呼んでいただき、お客様へのサプライズ演出という形で羽生結弦選手と共演させていただいたのです。ショーの最後に、ほんの短い時間でしたけれど、ショパンの「バラード第1番」からまさに「プレスト・コン・フォーコ」と指定されたコーダの部分を演奏し、それに合わせて羽生選手が短い演技をされました。自分自身も興奮しましたが、客席から伝わってくる熱気も相まって,たいへん印象深い時間になったのです。また、昨年「水に寄せて歌う」という水をテーマにしたアルバムを出させていただき、イメチェンするのも良いかなと思い(笑)、今年は燃え盛る「炎」で行こうと思いました。
古典派からロマン派へ移行していく中、音楽における人間的な感情を深めるという時期の曲が並ぶため、聴き手は福間のピアノからドラマを感じとれることだろう。音楽家、そしてひとりの人間として深みを増していく30代。注目し、その変化を楽しみたい方であれば、今こそが福間の演奏に出合うべき時だ。
(取材・文:オヤマダアツシ 写真撮影:大野要介)
【昼公演】
「三大楽聖のキセキ」Vol.2~幻想~
モーツァルト:幻想曲 ニ短調 Kv.397
モーツァルト:幻想曲 ハ短調 Kv.475
ベートーヴェン:幻想曲 Op.77
ベートーヴェン:幻想風ソナタ『月光』 Op.27-2
シューベルト:グラーツ幻想曲 D.605a
シューベルト:さすらい人幻想曲 D.760
【夜公演】
~ショパンの命日に捧ぐ~《 コン・フォーコ 》
オール・ショパン・リサイタル
ノクターン第4番ヘ長調 Op.15-1
練習曲 Op.10 第3番ホ長調『別れの曲』 、第4番嬰ハ短調
練習曲 Op.10 第11番変ホ長調、第12番ハ短調『革命』
バラード第1番 ト短調 Op.23、第2番 ヘ長調 Op.38
スケルツォ第3番 嬰ハ短調 Op.39
24の前奏曲 Op.28
「三大楽聖のキセキ」Vol.2~幻想~
モーツァルト:幻想曲 ニ短調 Kv.397
モーツァルト:幻想曲 ハ短調 Kv.475
ベートーヴェン:幻想曲 Op.77
ベートーヴェン:幻想風ソナタ『月光』 Op.27-2
シューベルト:グラーツ幻想曲 D.605a
シューベルト:さすらい人幻想曲 D.760
「三大楽聖のキセキ」Vol.2~幻想~
モーツァルト:幻想曲 ニ短調 Kv.397
モーツァルト:幻想曲 ハ短調 Kv.475
ベートーヴェン:幻想曲 Op.77
ベートーヴェン:幻想風ソナタ『月光』 Op.27-2
シューベルト:グラーツ幻想曲 D.605a
シューベルト:さすらい人幻想曲 D.760
「三大楽聖のキセキ」Vol.2~幻想~
モーツァルト:幻想曲 ニ短調 Kv.397
モーツァルト:幻想曲 ハ短調 Kv.475
ベートーヴェン:幻想曲 Op.77
ベートーヴェン:幻想風ソナタ『月光』 Op.27-2
シューベルト:グラーツ幻想曲 D.605a
シューベルト:さすらい人幻想曲 D.760
《 コン・フォーコ 》
オール・ショパン・リサイタル
ノクターン第4番ヘ長調 Op.15-1
練習曲 Op.10 第3番ホ長調『別れの曲』 、第4番嬰ハ短調
練習曲 Op.10 第11番変ホ長調、第12番ハ短調『革命』
バラード第1番 ト短調 Op.23、第2番 ヘ長調 Op.38
スケルツォ第3番 嬰ハ短調 Op.39
24の前奏曲 Op.28
《 コン・フォーコ 》
オール・ショパン・リサイタル
ノクターン第4番ヘ長調 Op.15-1
練習曲 Op.10 第3番ホ長調『別れの曲』 、第4番嬰ハ短調
練習曲 Op.10 第3番ホ長調第11番変ホ長調、第12番ハ短調『革命』
バラード第1番 ト短調 Op.23、第2番 ヘ長調 Op.38
スケルツォ第3番 嬰ハ短調 Op.39
24の前奏曲 Op.28