『あずみ〜戦国編』公演成功祈願・制作発表会。座長・川栄李奈は終始ほんわかしたムード

2016.10.1
レポート
舞台

左から有森也実、小園凌央、鈴木拡樹、川栄李奈、早乙女友貴、星田英利、岡村俊一。

『あずみ〜戦国編』の原作『あずみ』は、小山ゆうの手により、『ビッグコミックスペリオール』に、1994年から2014年まで、約20年間連載され、文化庁メディア芸術祭優秀賞を受賞し、日本の漫画史に後世まで残る傑作コミックだ。戦国時代に悪を倒す刺客として育てられた少女あずみの強く生きる姿が、同世代の共感を呼び、映画化はもちろん、アニメ、ゲームまで多くのジャンルで大ヒットを記録している。舞台においても、昨年、絶賛の内に幕を閉じた『AZUMI 幕末編』から1年を待たずして、今回の「あずみ〜戦国編』の上演が決定したほどだ。

ちなみに戦国編は幕末編の前作、パート1にあたり、あずみの名を漫画好きの少年少女(もちろん大人も)にとどろかせたストーリーに焦点をあてている。この作品、映画化は一度、舞台化も2006年にされており、映画は、上戸彩があずみを演じ、舞台では、黒木メイサ(岡村俊一構成・演出)が明治座で最年少座長・あずみをつとめた。今回、『あずみ戦国編』をリメイクするにあたり、昨年『AZUMI 幕末編』で絶賛を受けた川栄李奈があずみを演じることも決定している。今回は出演者である、有森也実、小園凌央、鈴木拡樹、川栄李奈、早乙女友貴、星田英利、岡村俊一の7名が登壇、作品に対する意気込みを語った。
 

■現代演劇の歴史は新宿から始まった

「花園神社には舞台の神様がおる」 そんな格言ばった言葉をのたまったのは誰だったのだろう? ゴールデン街の酔っ払い? 『ガロ』の『カムイ伝』の白土三平? 模造千円札のオブジェを作った赤瀬川原平? いやはや、いつからか戦後、新宿はゴールデン街の喧騒、思い出横丁のオヤジ談義、新宿ピット・インのアングラ演劇、タバコの煙でムンムンとするジャズ喫茶風月堂にかかるオーネット・コールマン? などを中心に栄え始め、東京の文化の一躍を担うようになると、気づけば、花園神社の敷地内では、唐十郎率いる状況劇場が紅テントで血気盛んな舞台を行い、60年代〜70年代のアングラ演劇の活気場となっていた。現在でも外波山文明率いる「椿組」が毎年この境内で公演を打っているほどだ。

今回「あずみ〜戦国編」の構成・演出を担当するのは、アングラ演劇とは世代は離れつつも、その熱波にあてられた、故・つかこうへいに多大な影響を受けた岡村俊一である。今回、この舞台の成功祈願に花園神社に赴いたのも不思議な縁ではない。

秋初めのすこし曇りがちな午後12時。それでも額から汗が浮かぶような暖かさの日に、花園神社の境内に向かう階段に彼らはやってきた。『放浪記』『華岡青洲の妻』などの名演で名を馳せる有森也実、昨年デビューしたばかりの俳優、芸能人のヒロミと松本伊代の長男である小園凌央、数々の日本2.5次元演劇等で華々しく活躍してきた鈴木拡樹、『AZUMI 幕末編』でも主演をつとめた元・AKB48の川栄李奈、やはり昨年の『AZUMI 幕末編』にも出演、あずみの敵役を演じる早乙女友貴、元・芸名「ほっしゃん。」で多くの笑いを勝ち取る吉本興業の雄・星田英利、そして岡村俊一の、強者たち7名。

左から川栄李奈、早乙女友貴、星田英利、岡村俊一。

彼らは緊張感に満ちているという様子もなく、どこか和やかなムードでやってきたが、カメラマンがカメラを向けると凜としてフレッシュなたたずまいをみせてくれた。

その瞬間に、どこか、60年代〜70年代にワープしてしまうような感覚を覚えたのは気のせいだろうか。

左から有森也実、小園凌央、鈴木拡樹。

そこにあるのはほんわかムードの中にも、この舞台にかける熱き血潮のようなものをファインダー越しに感じたから。

一陣の秋風のようにあっという間にフォトセッションが終わると、彼らは境内にお参りをして、舞台の制作発表に移った。

笑顔の川栄(中央)。鈴木拡樹(左)、早乙女友貴(右)。

■『あずみ〜戦国編』のテーマは「正義」です。

左から有森也実、小園凌央、鈴木拡樹、川栄李奈、早乙女友貴、星田英利、岡村俊一。

集まった多くのメディアに動ずることなく、座長・川奈に率いられた「あずみ」チームは登壇し、役の見所、意気込みなどを語ってもらった。

それでも、緊張した彼らがしどろもどろになって一言ずつの挨拶だけで場をしらけさせてしまうと、星田英利(さすが芸人!)は気を利かせて「島袋寛子役の星田英利です。あああ、ごめん緊張しちゃって(笑)。徳川方の忍びの井上官兵衛の配下の飛猿……」と、この間、島袋寛子と婚約したばかりの早乙女友貴をいじってジョークにする。すると、出演者や会場は笑いにみちた雰囲気に。

その瞬間にこのチームは特別なものなのだなと感じる。

川栄李奈は決してのほほんとしているわけではない。この舞台にかける気概、そしてチームを支えたい気持ちを前面に押し出していた。

それを感じているのだろう。最後に、岡村俊一は、川栄に頷いたあと、どこか一点をみつめ、舞台にかける思いを静かにそして丁寧に語った。

岡村俊一 みなさま、今日は天気がよくて良かったですけど、雨が降ったらどうしようと思ったのですが……花園神社は芸事の神様でございまして、お芝居をやらせていただくことがある場所です。『あずみ〜戦国編』というのは、10年前に、明治座で作ったものをリニューアルして、新しいキャストで生まれ変わらせようと思っております。テーマ、それは「正義とは何か」という話でございまして、いろんな戦争がありますが、それぞれ正義の見方が違うわけです。味方の側の正義と、敵の側の正義がありまして、それぞれ、どの正義が正しいのか。あずみという刺客は、雇われる人ごとに使命が変わっていくわけです。自分に命令する人によっては、この人の正義はこっちで、正しいと思ったことがほんとうに正しいと思ったんだろうということを、ひとりの少女の目で、戦国時代をとらえていく壮大な物語でございます。ほんとうの正義が誰にあるのかがテーマで、この物語を作っていこうと思います。

そう岡村俊一が語ると、場は一気に「あずみ」モードに。出演者たちも打ち解けながらも、しっかりと一言一言、この舞台にかける意気込みを語っていった。

川栄李奈 今回の戦国編は、1年前にやった幕末編とは、まったく違うお話で、新しいスタッフ、新しい方に集まっていただいて、ほんとにまだ稽古始まってないですけれども、みんなで団結していいものができたらいいなと思っております。

鈴木拡樹 僕は今回で初めての参加になります。「うきは」という役は、あずみと同じく刺客として育てられた一人です。その中では冷静な立ち位置で、あずみをずっと見守るポジションなので、しっかりと見守りたい。正義という言葉がでてきましたが、それによって生きるという価値観が変わってくるものだと思います。生きるというテーマと、僕はあずみに恋をするころの時代を描いていますので、うきはの恋というのもしっかりと描きたいと思います。

早乙女友貴 僕は、最上美女丸という役をとても昔からずっと好きで、いつかやってみたいと思っていたので、今回こういう機会をいただいてとてもうれしく思っています。美女丸はあずみたちを狙う刺客なんですけれども、性別不明ということで、美しく、そして、人を殺すことに快感を覚える“変態”なので、どこまで“変態”になれるか、がんばってみたいと思います。

小園凌央 僕の方は役が決まってないので、稽古を経てですね、構想はあるらしいですけれど、ちょっとまだ発表出来ない状態で……だから困りましたね(笑)。言うことはあまりないです。岡村さんの助け船を待っていたんですが、こないので。

岡村 いやー、ほんとはね、まあ、淀君をやってくださる有森さんの息子さん、バカ息子と呼ばれた豊臣秀頼役を。

小園 誰がバカ息子ですか(笑)!

岡村 ほんとうはそういう構想があるんですが……ぜひ小園凌央にバカ息子をやらせたいという思いを……とはいえ、まだ彼は新人で海の物とも山の物ともつかいないので、彼は稽古場で決めようと。

小園 じゃ、もうオーディションが始まっているのかもしれな(“い”を“ひ”と噛む)。

岡村 そこ噛んだの相当ヤバい(笑)。

小園 このままだと「足軽1」ですね。

星田英利 音声さんや。

小園 それでここ立っててどうするんですか! まだ始まってませんから、がんばっていきます。

あまりにまぶしそうな顔をする出演者に配慮して、主催者側から、ここで撮影のフラッシュを止められるという事態に。

星田 おれからフラッシュなかったらメッチャ寂しいやん(笑)。いらんのかなみたいな。あっちに映像があるからやな(開き直り)。僕は飛猿という忍びの役で、あずみとは反する勢力なんですが、ストーリーでいろいろ出ている人間に惚れたり、かわいそうだなっていうあずみの生い立ちを憂いたり、ある程度年上なので……そういう役柄でございます(笑)。忍びの中にいながら、作品を土台から、支えたいと思っています。やっぱりかっこいいというところはあるんですけれども、殺陣があったり、いつの時代でも大きい権力の下で戦争が起こった場合に、いろいろ下々のものが愛するものを殺したり……そういう戦いって不毛だなって、こんなんなくなればいいなというところも若い子がみて伝わってくれたらええな。

有森也実 私の演じる淀君(淀の方)は、みなさんが知っている人物だと思うんですけれども、今回の淀の方は、盲目的な母性愛がでるように激しく演じられたらと。後半になると、あずみの人間味に光を感じて、彼女に未来を託していくいさぎよさみたいなものが伝えられたらなと思っております。

取材陣からまだ息子役が決まっていないですねと声があがると。

有森 岡村さんが決めることなので……ただ、私も稽古にでますので、その稽古の時に、ああ、いいな、という子を岡村さんに、どう? って相談すると思います(小園がじっと見つめている)。(そちらをチラチラと見ながら)まだ、ちょっとわからないです(笑)。

有森也実に詰め寄る小園凌央。

小園 じゃあちょっと立候補しておきます。

有森 ほんとに盲目的な母性愛で、悲しい親子になると思いますので、もしそのときがあったらよろしくお願いいたします。

小園 よろしくお願いいたします。

取材陣から、顔合わせはしたけれど、これから稽古、本番のふた月をどう過ごしていくか問われると。

川栄 どうしましょう。差し入れをいっぱいします。おにぎりとか(笑)。

星田 そんなん言うても取材の人、メモりはるねん。

川栄 ええー! あんまり休憩がないので、すぐ食べれるようなものを、みなさんが元気になったらいいなと思います。

岡村 どうしても殺しあいの話なので、殺陣が凄いんですよ。幕末編もみんな驚かれていたんですけど、あずみひとりで、去年の1.5倍ぐらいの人を斬るんですよ。殺人鬼「美女丸」との戦いも激しい殺陣になるので、体力つけるために食べてください、寝てくださいって感じですね。

■秋の花園神社にお願いすること

川奈 もちろん「あずみ」が大ヒットしますように。

鈴木 僕もやっぱり座長に続いて、「あずみ」がヒットするように頑張りたいと思いますので、上のほうから支えてくださればと思います。

早乙女 同意見です。成功することを祈るのみです。がんばります。

小園 もちろんあずみも大ヒット願いたいですけど、変なスキャンダルとかないように(笑)。ないんですけど、ないようにしていきたいと思います。

星田 小園君の役が早く決まりますように。

小園 言うの忘れてた(笑)。

星田 それ自分で言わんと! 早く決まるように祈っております。

有森 スタッフも含めて、病気も事故もなく、無事に千秋楽が迎えられるように。それと、この仕事が終わったあとに、次に繋がる良い仕事が入りますように。

岡村 大変危険な舞台です。しかも小さな舞台で、フライングがあったり、殺陣があったり、激しい舞台になりますので、怪我がないように乗り越えることを、これからあとふた月、考えていきたいと思います。神様助けてくださいって感じですね。

岡村俊一はその瞬間、さっと天井を見上げた。芸事の神様にお祈りを捧げているのか、それとも……。次に囲み取材に移ったのだが、ここからは、ほんとうに座長の川奈のほんわかしたムードに満ちたものに。最初にでた質問は、あまりの人気で、あっというまに続編の舞台になったことにたいして。

川奈 とてもうれしいです。ただ、また新しいお話なんで、前作とは違う感じになるので楽しみです。

厳しくなるという殺陣については。

川奈 殺陣はプロの方(清家利一)にまかせているので大丈夫です。

今年は小園さんに教えたり出来そうかという問いに。

川奈 (いきなり)がんばってください(笑)。

小園 ええ! 急だ。なんかちょっと座長っぽくないな。稽古始まってないんでわからない部分もあるんですけど、今日の感じだと楽しい稽古になるなと思います。

話は変わって、座長・川奈李奈の話になると……。

岡村 去年もさんざん言いましたけれど、川栄ってバカだバカだって言われますけど、もともとの性能が良い人間。中身が入ってないだけで、いくらでも覚えるので、相当容量のあるコンピュータだと思ってもらったらまず間違いないと思ってるので……。

のほほんと答える川栄李奈。それを支える鈴木拡樹と早乙女友貴。

有森 どんな容量があるんだろう(笑)。

岡村 難しい戦争の正義を問うてるわけですよ。あずみというのは人間なんですけども、もっとも強い「兵器」なんですね。誰があずみを持つか、そういう一番強い兵器が何を選ぶか、それはほんとうに正義のために力をふるって良いものかということを問うているので、話自体は壮大な作品になる予定です。あずみ演じる川栄は、すごいとんでもない、神のようにみえるシーンをつくるのが目標です。

川栄と早乙女の共演で期待していること。

早乙女 前回とはまず幕末編と戦国編という作品そのものが違うので、稽古も始まってもいないですけど、お互いにアドバイスしあって良い物を作れたらいいなと思います。今回は二回目なので、ダメなところがあったらアドバイスよろしくね。

川栄 さっき、お前は、力を抜きすぎて、のほほんとしていてって、いろいろな人にきつく言われているのでがんばりたいと思います。

小園はまだ役がついていないが、お父さんとお母さんは何を言ったのか。

小園 はずかしくならないの演技? って言われたんですけど。この前ヒロミさんはドラマにでていたから、どうだい演技楽しいかって返してやろうと思います。そうですね、松本さんは毎日来るんじゃないですか。時間があるかぎり、自分の仕事がなかったらできるだけ観に来ると思います。あの人はちょっとおかしなところがあるので。ただ、すごい母親だと思いますね。みなさん、ちょっと、おバカっぽいと思ってるかもしれないですけれど、母親としては、レベルの高い人間だと僕は思っております。あんまり言うとヒロミさんが怒る(笑)。ただ、やっぱり、稽古を前に不安なので、岡村さんに、一言でもほめてもらえたらいいや、と毎日思っております。

早乙女が婚約をしたことについて。

早乙女 とくになにもかわらないですね。いつもどおり、結婚についてはいずれ。年齢差は感じてないですね。プライベートでも支えてもらっております。手料理はおいしいです。まったく関係ないですけど、いいんですか(笑)。

星田 むちゃくちゃ興味ありますもん。仲間の祝い事ってご本人たちのタイミングもあるんで、あんまり回りががちゃがちゃいうのも、違うかなって(さりげなくフォロー)。

川栄 幸せオーラ吸い取っています。私も、いつか、はい(笑)。

和気あいあいと進んだ囲み取材も最後に座長としての心構えについて聞いた。

川栄 とくに、考えてはいないんですけど、みんなで楽しく。たぶんすごく稽古大変だと思うので、稽古終わったみんなの話しを聞いてあげたりとか、支え合っていけたらと思います。

星田 いや、ぜったい座長でっせ。

川栄 差し入れのおにぎりは手作りではなくて。ちょっといいところで買ってきたいと思います(笑)。すごく殺陣もすごいんですけど、お話も、みなさんの胸を打つような、みなさんも思うところがある、すごく考えさせられる舞台だと思いますので、11月11日から11月27日は、Zeppブルーシアター六本木にぜひ観にきてほしいと思います。

こうして取材が終わり、外にでると、雲はなくなり一面の晴れ間が空に広がっていた。参拝客もたくさんいて、仕事に、恋に、世界平和に、あなたに、募る思いを願っていた。

みなさんはどうだろう?

11月11日から11月27日は、Zeppブルーシアター六本木で『あずみ〜戦国編』を観るのも悪くない。

きっと神様があなたの願いを叶えてくれる特別な公演になるかもしれない。

チラシ

 
公演情報
『あずみ〜戦国編』
日時:11月11日〜27日
会場:Zeppブルーシアター六本木
 
原作:小山ゆう(小学館刊)
 
〈出演〉
川栄李奈
鈴木拡樹
早乙女友貴
小園凌央
斉藤秀翼
三村和敬
山本亨
吉田智則
久保田創
有森也実(友情出演)
星田英利
 
〈スタッフ〉
構成・演出:岡村俊一
潤色:山本能久
照明:熊岡右恭
映像:ムーチョ村松
殺陣:清家利一
舞台監督:中嶋武

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