鴻上尚史&山本涼介インタビュー「飛び込んで、やるしかない」 舞台『サバイバーズ・ギルト&シェイム』
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左から山本涼介、鴻上尚史
「サバイバーズ・ギルト」とは、戦争や災害、事故でかろうじて生き残った人が、死んでしまった人たちを思い、生きていることに罪悪感を感じてしまう、という近年急激に話題に上る悲しい言葉である。この罪悪感に“恥ずかしさ”を加えたタイトル『サバイバーズ・ギルト&シェイム』が、作・演出:鴻上尚史による抱腹絶倒の爆笑悲劇として、11月11日(金)から12月4日(日)まで紀伊國屋ホールにて上演される。山本涼介、南沢奈央、伊礼彼方、片桐仁、大高洋夫、長野里美の6人が織りなす喜劇と悲劇のラプソディーは、なぜ生まれたのか、また、どう演じるのか……。そんな疑問を、鴻上尚史と、今作が舞台初主演になる若手俳優・山本涼介に伺った。
――稽古がはじまったというところで、手応えはいかがでしょうか。
鴻上:面白い作品になると思いますよ。山本くんは一生懸命にやってくれているし、ぶつかろうとしてくれている。その周りの南沢奈央ちゃんも真剣にぶつかろうとしてくれて、周りに芸達者なお兄ちゃん、おいちゃん、お姉様が出演してくれているので、面白い作品に間違いなくなると思います。
山本:稽古もまだ始まったばかりなんですけど、それだけでもすごく面白くて、それぞれの個性が詰まっているので、絶対面白い作品になると感じています。
鴻上:稽古をして成長して、言ったことをちゃんとうまく反映してくれるので、ここから先1ヶ月でどう変わって行くかも楽しみです。
山本:鴻上さんは、こうしてほしいということはすぐに伝えてくれます。僕が頭で考えながら演じているとすぐにバレちゃうんです。頭でっかちにならずに、その場に飛び込んで演じるほうがいいんだと気づかされますね。
――山本さんは、今作が初の主演だとお聞きしました。
山本:気合いは十分にあります。プレッシャーは感じますが、そこは自分の内面で戦う部分なので、とにかくまずは僕にできることを全力でやればいいかなと思っています。
――今回、様々な演劇作品に携わっている鴻上さんの舞台に出演することについてはどうでしょうか。
山本:僕自身、1年間『仮面ライダーゴースト』に出演させていただいたことで、“ヒーロー芝居”が染みついてしまっている部分もあると思うんです。舞台作品は、ナチュラルな演技にじっくりと向き合う時間でもありますし、周りの先輩方は演技に長けた方ばかりなので、いろいろと盗みながら成長できるチャンスだと思っています。
――鴻上さんが、山本さんを主演とする決め手になったものとは?
鴻上:何週間か前にワークショップをしたんだけど、まず背が高かった(プロフィールより、185cm)。
山本:(笑)。
鴻上:真面目だから、ちゃんと僕の言っていることを吸収してくれるというのと、可能性を感じるんだよね。この舞台もひとつのステップとして、大きくなっていってくれると嬉しいです。そして何年か経って、「鴻上の芝居に涼介がでていたんだよね」というのが、ちゃんとみんなが言ってくれるようになったら、頑張る甲斐もある。
山本:本当に頑張るしかないというか、(もっと高みに)羽ばたけるようにやるしかないです。
鴻上:そうだなあ……。頑張ってくれ!(笑)
山本:(笑)。
鴻上:演劇というのは人の生きる形を見せるものなので、その技術というよりは、その人がどう生きているかということが大事なんだよ。心が折れさえしなければ、なっ?
山本:そうですね!
――演出に関して、今までの鴻上作品と変わったことはありますか。
鴻上:今回登場人物が6人という少人数なので、6人の関係の濃密さがうまく出ると面白いかな、と思っています。大人数だと、その人数が動くスペクタクルがあるじゃないですか。6人しか出ないということは、6人のお互いへの想いが交錯するのがスリリングなわけで、それがちゃんとうまく舞台の上に現れるような形になるといいなって。……まあ、すぐに出番が来るな(笑)。
山本:そうなんです(笑)。昨日も稽古は出ずっぱりで。
鴻上:人数多くて、15人ぐらいいると、見て、見て、出て、見て、見て、だけどね。
山本:基本的にずっと出ている状態なので、本当に濃い時間を過ごしています。
――天災や戦争などから生き残った人が抱える罪を描くというのは、重いテーマだと思うのですが、それをあえて喜劇にしようと思った理由と意図とは。
鴻上:アメリカの9・11(2001年)があってから「サバイバーズ・ギルト」という言葉が世界的に広がり始めた。でも、まだ日本人の多くはピンときてなかったと思うんですよ。それが5年前の3・11でみんな感じるようになったというのがきっかけです。僕は、深刻なものを深刻なまま提出するのではなく、それをどうエンターテイメントという形で見せられるかが、いわゆる芸術とか芸能の仕事だと考えています。狙い甲斐はあるし、やる意味もあるし、面白いと思ったんですよ。それを観て「ふざけるな」と言われるんだったら、それはもちろん俳優よりは僕の責任なので申し訳ないですが。
山本:鴻上さんのおっしゃる通り、心が沈むような作品なのではなく、笑い合いながらも問題に向き合っていくような話になっているので、今まさに苦しんでいる人たちが観てくださったときに、思いもよらない糸口から解決へ向かう道に繋がるきっかけになるんじゃないかと思っています。そして、「サバイバーズ・ギルト」を知らない人たちにも、“こういうものがある”と知ってもらえる、一つの作品になればいいなと感じています。
鴻上:「サバイバーズ・ギルト」は3・11のものだけではなくて、交通事故にあって自分だけが生き延びた、火事にあって家族や友達が亡くなった、そんな日常でみんなが多かれ少なかれ経験するかもしれないことです。そういうことがまったくなくても、生き延びていることへの、「やましさ」や「ちゃんと生きているのか?」という感覚は割とみんなが感じる問題だと思っています。それを、深刻であればあるほど、笑い飛ばす方向で作品を創りたいと思うんです。
――深刻であるがゆえの“喜劇”なのですね。『サバイバーズ・ギルト&シェイム』はどのようなお話になるのでしょうか。
鴻上:“自分が死んだ”と思い込んだ男が、故郷に帰ってきて母ちゃんに「死んだよ」と告げる。どうして帰ってきたのか、天国に行かないでなんで帰ってきたのかというと、大学の映画研究会に所属していて、このままだと死んでも死にきれないので、天国に行く前に自分の最後の映画を作ろうとする。それが山本くんの役。自分の生きた証をつくろうとする話です。
――難しい役だと思いますが、山本さんはどのように臨まれますか。
山本:演じる役が僕と年齢も近いので、「演じないと」という焦りの気持ちはあまりなくて、自分の感情で使えるところは活かしていけたらいいなと思っています。自分の中にない部分は空想の中に落とし込んで演じていますが、ここはこうしないと、というふうには考えすぎずに、生の演技の中でぶつかっていきたいです。
――最後に、作品の見所、意気込みをお願いします。
鴻上:すごく深刻そうなタイトルですが、実際は笑いに溢れた抱腹絶倒の悲劇になりますので、山本涼介の頑張りを観ていただきたいのと、ベテランの達者な演技を見てもらえたら。
山本:みなさんの力を借りて、僕はやれることをやるだけです。少しでも笑っていただけるように頑張ります。
(左から)山本涼介、鴻上尚史