「蜷川幸雄さんの“血”と僕の中の“血”を融合させたい」吉田鋼太郎が彩の国シェイクスピア・シリーズ2代目芸術監督に就任!
吉田鋼太郎
今年5月にこの世を去った蜷川幸雄が生前手掛けていた「彩の国シェイクスピア・シリーズ」。シェイクスピアの全戯曲を上演するという彩の国さいたま芸術劇場の看板企画だったが、蜷川亡きあと、この企画を引き継ぐ2代目芸術監督に吉田鋼太郎が就任することとなった。おりしも蜷川の誕生日でもある10月15日(土)、都内にて記者会見が行われた。
これまでの作品のフライヤーをバックにして会見が行われました。
1998年に上演された『ロミオとジュリエット』から数えて、これまでに32作品が上演された本企画だが、来年12月上演の『アテネのタイモン』を皮切りに残り5作品を吉田が手掛けることになる。
埼玉県芸術文化振興財団の竹内文則理事長は、吉田が芸術監督に就任することになった経緯について、蜷川が亡くなる1か月くらい前に病室で「(吉田)鋼太郎が役者の面倒を見てくれるのも含めて、残りをやってくれたら本当に安心なんだがなあ…」と語っていたことをシェイクスピア委員会に伝え、その後、9月20日の会議にて正式に決定したとのことだ。
竹内は「蜷川さんは全37作品の完全上演後は、特別バージョンとして『テンペスト』をやるんだ、とおっしゃていた。主人公プロスペローの最後のセリフで人生全体に関わった人々に向けた感謝の言葉があるのですが、その言葉は蜷川さんにとって演出家が演劇に関わった人びとに感謝する言葉だという想いがあったようで、ご自身がそれを言いたいところだが、その言葉を言う役は吉田鋼太郎しかないと話していた」と在りし日の蜷川との思い出を語った。
そんなエピソードを緊張した面持ちで聴いていた吉田は、自身の挨拶の番となり、
「本日は私のために来ていただいてありがとうございます…と言いたいところですが、やはりこんなにたくさんの方に来ていただけるのは、蜷川さんのお力だとあらためて感じています。この席に蜷川さんの跡継ぎとして座らせていただきますと、逆に蜷川さんがいないという、喪失感を強く感じます。寂しいという気持ちと共に、蜷川さんが自分にやってもらいたいと言ってくださったというのなら、ちゃんとその遺志を受け継ぎたい」と語った。
緊張した面持ちの吉田鋼太郎
蜷川さんとの出会いを「運命」と語る吉田。「22歳の頃、『下谷万年町物語』の芝居に出ることになったのが蜷川さんとの最初の出会い。オーディションを経て渡辺謙さんが主演になり自分は落ちて、自分は群舞のオカマの一人になったのですが、約100人ものオカマの中で稽古初日に…まだ22歳なのでオカマ自体もよく知らないし、どう演じたらいいかも踊りもわからない…だから適当にやっていたら蜷川さんに『そこのお前!踊れぇぇぇ! オカマで踊るんだ踊れぇぇぇ!』と怒鳴られて(笑) それで嫌になって、その日限りで稽古に行かなくなり、蜷川さんとはそれっきりお会いしてなかったんです。で、もう一生蜷川さんに会うことはないだろうなあと思って俳優人生を生きていたら、何故かこういうことになり…本当に不思議だなと思います」
「ここ10年くらい若手俳優の演技指導係を仰せつかることになりまして、最初は『お気に召すまま』で、小栗旬、成宮寛貴が出演した作品ですが、あの二人のセリフがどうにもならないから面倒を見てくれと蜷川さんに言われました。当時、小栗がすごく熱心で自宅まで押しかけてきてセリフを教えてくれ、と言ってきて…そこで二人が成長したこともあり、以降、若手指導を任されるようなり、それが今日につながったのかなと思います」と振り返っていた。
吉田鋼太郎
唯一無二、蜷川にしかできないシェイクスピア作品の演出を引き継ぐことについて、「蜷川さんとはたくさんの作品を一緒にやらせていただいたこともあり、蜷川さんの『血』が僕の中にも流れているような気がしている。蜷川さんの作品には、素晴らしいビジュアル、老若男女問わず胸がワクワクするような演出がありますが、きちんと受け継いでいかければならないと思っているのはシェイクスピアをやる限り、“言葉”だと思っている。蜷川さんが全日程稽古に参加できた『仏壇マクベス』(『NINAGAWA・マクベス』)のときにおっしゃっていたが、セットや演出が出来上がっても、俳優が言葉を喋らなければ、すべてが台無しになると。まず、シェイクスピアのセリフは朗唱をしないといけないハードルがある。次に役者がぶつかる壁が、その朗唱に血と肉を与えて、会話にしないといけないこと。そこで壁が高くなり、ここで脱落する俳優が多い。これを蜷川さんは危惧していらして、最晩年まで大事にしてきた。それは受け継ぎたい」。そして、「蜷川さんはシェイクスピアは自由だ、芸能だと断言してきたので、その遺志を受け継いで、蜷川さんから受け継いだ血と僕の中の血を融合させて演出ができれないいなと思います」
記者の一人から「もう悪いことはできませんね!」と冷やかされると「結婚してマジメになりました!」とニヤリ。
記者との質疑応答で、今後上演される5作品について話が及ぶと「蜷川さんがやりたくないものばかり遺したんじゃないか」と悪態をつくと詰めかけた記者たちが大笑い。「逆にそれが燃えますね。シェイクスピアをやってきた人間にはやりたいことがいっぱいありますので、蜷川さんならこうするだろうな、俺ならこうしたいなということを混ぜ合わせながら新しいものがつくれたらいいな」と改めて意気込みを見せていた。