デビュー30周年を目前にしてバンド史上最強 エレファントカシマシが挑み続ける理由をZepp Tokyoに観た
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エレファントカシマシ
エレファントカシマシ ZEPP TOUR 2016 2016.10.14 Zepp Tokyo
どんなに高い山でも登り続けていくと、いつかは頂上が見えてくるが、音楽という山には果てがないのかもしれない。それでもエレファントカシマシは前に進み続けることをやめない。デビュー30周年を迎えようとしているのに、バンドの成長期はまだまだ続いている。未来を切り拓いていくその姿勢もロックなら、サウンドも実にロックだった。ツアー初日のZepp Nambaのステージも見たのだが、場数を踏めば踏むほど、バンドサウンドはさらにソリッドになっていた。バンド史上、今が最強。『ZEPP TOUR 2016』の5本目にあたる10月14日、Zepp Tokyo、2daysの1日目のステージを観て、そう断言したくなった。
初日は「ハロー人生!!」で始まったが、この日のオープニングナンバーは「俺の道」だった。「こんばんは。じゃあ始めます」という挨拶に続いて、演奏がスタートする。ステージ上の全員が大地を踏みしめながら進んでいくかのように、存在感のある確かな音を刻んでいく。メンバーは宮本浩次(Vo&G)、石森敏行(G)、高緑成治(B)、冨永義之(Dr)に加えて、サポートのヒラマミキオ(G)という5人。前進する原動力が現状に満足しない向上心であるとするならば、「俺の道」はまさにそうした“満たされない思い”が描かれた曲だろう。序盤の宮本の歌声は絶好調という感じではなかったのだが、コンディションを超越するがごとく、気合いが入っていた。喉も楽器であるとするならば、喉の筋肉のどこをどう使って鳴らしていくのか、歌いながら自分のペースをつかんでいて、歌うほどに声が前に出てくるようになっていた。これまで積み重ねてきたボーカリストとしての経験値と技術の高さによるところも大きそうだ。
バンドの演奏も最初から気迫に満ちていた。「ズレてる方がいい」での冨永のドラムと高緑のベースを軸とした重厚なグルーヴが、ヘヴィ級のボクサーのボディブローのようにズシッと効いてくる。「未来の生命体」での推進力とマジカルさを備えたリズムにもシビレた。ニューウェイヴ、グラムロック、パンクなど、過去のロック・ミュージックのエッセンスを消化して1曲の中に凝縮しながらも、今のビートを鳴らしていると感じたのだ。宮本の歌とバンドの演奏とが一体となって疾走していく。観客もバンドの演奏を全身で受けとめて、盛りあがっていた。開演前からすごいステージになるだろうと思っていたのだが、ここまですごいとは。こちらの予想を彼らは軽々に越えていた。
「今日はようこそ、Zepp Tokyo。ホームグランドみたいですね。結構初期から俺たち、ここでやったことがあります」との宮本の発言もあった。確かに今の彼らにはこの会場が似合っている。芯の強さのあるギター、うなりをあげるベース、エネルギッシュなドラム。箱鳴りが抜群にいいガレージロック的なバンドサウンドを展開していた。ステージ上も会場内も一体となって、ロックのエネルギーを発散していく。この5人編成での「TEKUMAKUMAYAKON」もロック度がグッと増していた。会場が激しく揺れている。石森、高緑、ヒラマによるコーラスもワイルドで男っぽい。冨永のドラムの威力がとんでもないことになっている。「もっともっと自由になれ~! everybody!」と宮本が叫んでいる。この曲の持っている呪術的な魔力もパワーアップ。冨永のドラムと石森のワイルドなギターで始まった「星の砂」は曲が展開するほどにヒートアップしていく。ロックンロールにしてパンクと言いたくなるくらい、エネルギーがほとばしっていた。宮本の動きに合わせて、観客も手の平をヒラヒラさせて、“星の砂”感を表現していた。「悲しみの果て」では宮本の歌とヒラマのギターのタイム感がピッタリ合っていて、まるでひとりの人間が弾き語っているかのようだった。もはやヒラマは5人目のエレファントカシマシと言っても過言ではないだろう。
最新アルバム『RAINBOW』の楽曲はアルバムで聴いた時も、素晴らしかったのだが、ボーカル、ギター、ベース、ドラムという編成による生のステージで聴くと、新たな一面も見えてきて、違う曲なんじゃないかというくらいの劇的な進化を遂げていた。「なからん」もそんな曲のひとつだ。ロック・センスとプログレッシヴロックの斬新さとブルースの奥深さがミックスされていて、初期ピンクフロイドに通じるようなセンスも感じた。宮本のエモーショナルな歌と石森のブルージーなギター、ヒラマのイマジネイティヴなギター、高緑の深く深く潜行していくようなベース、さらには緩急自在の冨永のドラムが曲に独特の陰影を付けていく。ディープな表現力が素晴らしい。シングルとして発表された時点ではキャッチーさが際立っていた「Destiny」はゴツゴツとしたバンドサウンドで表現されることによって、楽曲の良さがよりダイレクトに伝わってきた。ヒラマのアコギのストロークもナイスだった。「愛すべき今日」は全員が一丸となって生み出していく人間味あふれるグルーヴが最高。さらにロックンロール全開の「デーデ」へ。
アルバムにおいては、ストリングスやキーボードを多用したり、打ち込みを駆使したり、各パーツをバラバラで録ってバンドのリズムを解体したりして、様々な実験的な手法にも意欲的にチャレンジしていた。そうした数々のトライを経て、またストレートなサウンドに回帰することによって、バンドは着実に進化していた。応用問題や難問をクリアーしてから、再び基礎問題に着手したら、すらすらと解けた、といったところだろうか。ロックバンドとしての初期衝動の詰まった曲もたくさん演奏されたのだが、今回のツアーの選曲の特徴のひとつは、音源で発表された時点では、凝ったアレンジが施されていた楽曲が目立っていることだろう。それらの曲の本質をむきだしにして、再構築して、ロックバンドの音楽として新たに提示しているのが、この『ZEPP TOUR 2016』ということになるのではないだろうか。シンプルにすればするほど、曲の骨格が際立ち、演奏者の音楽力、人間力があからさまになっていく。これこそがエレファントカシマシの生身のロック。
最新アルバムの楽曲だけがバンドの最新の姿を浮き彫りにしているのではない。この日のハイライトのひとつは中盤での2000年代前半の曲たちだ。例えば、2004年発表の「DJ in my life」。ゆったりどっしりとした懐の深いグルーヴが曲のスケールをさらに大きなものにしていた。石森の深みのある音色のギター、ヒラマの表情豊かなソロが最高。続いての「おかみさん」はもともとレッド・ツェッペリン的なテイストのあった曲なのだが、ギターもベースもドラムもよりレッド・ツェッペリン化が進んでいて、炸裂するパワーもアバンギャルドなセンスも増していた。石森はボウイング奏法(バイオリンの弓でギターを弾く)を披露。70年代初頭の荒々しい時代の空気が今に蘇り、過去も未来も現在もシャッフルしたような混沌とした光景が出現した。
「俺も音楽大好きです。みんなももちろん好きでしょう?」というMCに続いて、宮本がアコギの弾き語りでスタートしたのは「リッスントゥザミュージック」だった。屈指の名曲のひとつだが、シンプルなアレンジが、この曲の輝きをさらにまばゆいものにしていく。宮本の歌に寄り添うようにヒラマのエレキギターが入ってくる。宮本のフェイク、口笛に続いて、冨永、高緑、石森が加わっていく流れもとてもヒューマンだった。後半はヒラマがスライドギターも加わって、ロックのエネルギーがあふれ出していく。冨永の自在なドラムソロで始まった「世界伝統のマスター馬鹿」ではソリッドなグルーヴでぐいぐい押していく演奏に会場内が熱くなっていく。白熱の演奏が次から次へと繰り出されて、最新シングル曲「i am hungry」へ。この曲の根底にある飢餓感こそがロックの原動力。宮本のテンションがとんでもないことになっている。下手へ、上手へ走り回りながらのボーカル。かと思うと、いきなり石森の胸ぐらをつかんで、すごい勢いで揺さぶる瞬間があった。が、その直後にはグイッと肩に手を回している。これは乱暴なる友情表現か?
メンバー紹介を挟んで、怒濤の後半へ。ブルージーな演奏が染みてくる「風に吹かれて」、3本のエレキギターとベース、ドラムとがヘヴィで骨太なグルーヴを生み出していた「コール アンド レスポンス」とダイナミックな演奏をたたみかけて、会場が熱狂に包まれていく。曲間で一瞬、静寂が訪れて、宮本が後ろ向きになって、冨永のそばに近づいている。あの曲が始まろうとしているのだ。そんな緊張が会場内にも漂っていく。その直後にまるで短距離走のランナーのスタートダッシュのように、5人の一斉の歌と演奏で始まったのは「RAINBOW」だ。宮本が疾走するように歌っていく。そのスピードに言葉が振り落とされていくかのようだ。限界に挑むようなギリギリの歌声にバンドも並走していく。毎回、この曲は尋常じゃない空気を撒き散らしていく。歌という概念を越えて、歌もメロディもリズムも竜巻のように渦巻き、あたりの空気を撹拌して一新していく。第1部のラストもとことんロックな「生命賛歌」。ハードでヘヴィでソリッドな演奏が展開され、宮本のシャウトが空間を切り裂き、熱気と興奮が渦巻く中で1部終了。
2部は「笑顔の未来へ」からスタートした。ギターもベースもドラムも一体となって、温かくて力強いグルーヴを生み出していく。続いては最新シングル「夢を追う旅人」。「新しい曲です。どでかい未来って、一体何だ? わからない。きっと勇気を持って生きていく、そんなことじゃないか、everybody!」というMCに続いて、宮本が歌い出していく。宮本が飛び跳ねたり、走ったりしながら歌っている。身振り手振りも歌詞と連動させつつ。この曲、ステージで演奏されるたびに、そして観客とともに共有していくたびに、曲そのものもどんどんどでかくなっているという印象を受けた。冨永のドラムもまさにパワフルのひと言だった。歌詞にあるように、観客にエネルギーをチャージしていくような演奏だ。思いのたっぷり詰まった「俺たちの明日」、さらには不穏な空気を撒き散らしていく「ガストロンジャー」、ロックバンドとしての彼らの代表曲にして、初期衝動が詰まった「ファイティングマン」と、振り切った演奏を展開して、2部もロックな構成で幕を閉じた。演奏が終了しても、体の中で発火した炎が消えていかない。
アンコールで登場した宮本がいきなり語り出した。「昔と違ってさ、その時はいいんだけど、2、3日経つと、あれ?みたいな、腰が痛いみたいな。50なんで」と50歳ならではのMCに続いて始まったのは「悪魔メフィスト」だった。ハードかつダークなサウンドに乗ってのシャウトは50らしからぬものだった。ネガティブの極地とも言えそうな曲だが、ここまで振り切っていくと、むしろ圧倒的な生命力エネルギーの発露と表現したくなる。光と闇、喜びと悲しみと怒り、それらすべてがエレファントカシマシの音楽の中に詰まっている。彼らのステージには時間軸を凝縮していくような濃さが備わっていると思うのだ。一夜のステージを体験することによって、人生そのものの様々な局面が胸に去来して、人生そのものの機微に敏感になっていく。続いては「明日に向かって走れ」。このタイミングでのこの歌声にグッと来てしまった。
アンコールの3曲目は宮本が突然、その場で歌いたくなったと思われる「歩いてゆく」。最新アルバム『RAINBOW』のシークレット・トラックなのだが、リハーサルも一切やっていないらしく、ギターのコードがわからずに、石森に確認する場面もあった。「どこの街も素晴らしい曲をやったので、地元の歌を」とのことだが、歌いたい気分になったから歌う。その素朴な思いも含めて、ストレートに染みこんできた。宮本が歌う本能に忠実になるならば、こちらは聴く本能に忠実になればいい。「大好きな歌です」という言葉に続いてのラストナンバーは「四月の風」だった。希望の歌であると同時に、観客へのラヴソングのようにも響いてきた。バンドの温かなエネルギーに包まれていく幸せを感じた。演奏が終わると、熱烈な拍手と歓声。
最後に5人が一列に並んで、それぞれの背中に手をまわしてとびっきりの笑顔で挨拶した。「ストーンズの挨拶」と宮本が言っていたが、このストーンズ風のポーズがロックなステージの締めにふさわしい。ロックの歴史をバンドが具現化していくようなステージでもあった。60年代から現在までのロックを自分達の血肉として消化してきているからこそ、ここまで骨太なバンドサウンドを展開していくことが可能となったのだろう。と同時に、それぞれのメンバーが自分たちの音をむきだしにして、さらけだしていくような勇気と潔さと音楽に対する強い思いも伝わってきた。
アルバムやシングルに収録した時点が完成ではなくて、バンドが活動している限り、曲も一緒に育っていくのだということをはっきり示していくようなステージだった。もちろんこれまでのステージでもそうだったのだが、今回のツアーではバンドと曲の成長の度合いがこれまで以上に顕著になっていた。デビューしてまもない新人ならばともかく、この時期にこんな進化したステージを展開するところがすごい。エレファントカシマシというバンドの持っている底知れない可能性をまざまざと感じた。これは30周年に向けての彼らの宣戦布告でもあるのではないだろうか。闘う相手は己自身、そして音楽という名のとてつもない高い山だ。
取材・文=長谷川誠 撮影=岡田貴之
[第一部]
01.俺の道
02.ズレてる方がいい
03.未来の生命体
04.TEKUMAKUMAYAKON
05.星の砂
06.悲しみの果て
07.なからん
08.Destiny
09.愛すべき今日
10.デーデ
11.DJ in my life
12.おかみさん
13.リッスントゥザミュージック
14.世界伝統のマスター馬鹿
15.i am hungry
16.風に吹かれて
17.コール アンド レスポンス
18.RAINBOW
19.生命賛歌
20.笑顔の未来へ
21.夢を追う旅人
22.俺たちの明日
23.ガストロンジャー
24.ファイティングマン
25.悪魔メフィスト
26.明日に向かって走れ
27.歩いてゆく
28.四月の風
会場:日本武道館
※3歳以上
お問い合わせ:
DISK GARAGE 050-5533-0888 (月~金 12:00~19:00)
会場:大阪城ホール
※3歳以上
お問い合わせ:
キョードーインフォメーション 0570-200-888 (前日 10:00~18:00)
プレイガイド最速先行受付
抽選受付期間
受付期間:10月19日(水) 12:00 ~ 10月31日(月) 23:59
<受付URL>
http://eplus.jp/elephantkashimashi/