帝王・森川智之さんが語る! 「洋画には日本語吹き替えならではの面白さがある!」

インタビュー
2016.10.23
森川智之さんが語る! 「洋画には吹き替えならではの面白さがある」

森川智之さんが語る! 「洋画には吹き替えならではの面白さがある」

 CS映画専門チャンネル「ムービープラス」が昨年よりスタートした「吹替王国」は、特定の声優にスポットを当て、その声優が吹き替えた作品を集めて特集放送するという人気プログラムです。吹替60周年の企画のひとつとして、10月30日(日)に放送される第8弾は、映画やアニメで多くのキャラクターを演じる森川智之さんが登場。

 今回はトム・クルーズ主演作「ミッション:インポッシブル」シリーズ3作目『M:i:Ⅲ』、ブラッド・ピット主演作『ザ・メキシカン』、ユアン・マクレガー出演作『チャーリー・モルデカイ 華麗なる名画の秘密』、コリン・ファレル出演作『リクルート』といったバラエティーに富んだ4作品を放送します。

 本稿では「吹替王国」第8弾に選ばれた森川智之さんに行ったインタビューをお届け。吹き替え作品の魅力や収録の裏話など、語ってもらいました。

俳優が0ベースから作った役作りを一緒にたどっていくことがその役の声になる

━━「吹替王国」のオファーが来た時の心境をお聞かせください。

森川智之さん(以下、森川):「わぁ~! ついに来た!」と思いました(笑)。というのは、「吹替王国」のCMを家で偶然見たんです。小山力也さん(第4弾)が出てきて、熱く語っている姿を見て「こんな企画があるんだ。もしかしたら、そのうちオファーが来るかもしれない」と覚悟していたら、オファーが来ました。

実際にオファーが来た時には、嬉しさと「どういうふうになっちゃうんだろう?」と……。あまりにも力也さんのCMがすごかったので、「僕はそんなにはじけられないなぁ」と思っていました(笑)。ラインナップを見て、世代の近い力也さんとか東地宏樹くん(第6弾)が出ていたり、ベテランの方も登場されていたりと、そういった中で呼んでいただけるのは光栄なことです。驚きとともに、とても嬉しく思いましたね。

━━実際に収録を終えられた感想をお聞かせください。

森川:この収録にあたるまえに、10年以上前の作品になりますけど、『ザ・メキシカン』の自分の吹き替えを観て、「あぁ、いいんじゃない」と……(笑)。『ザ・メキシカン』はブラッド・ピット(愛称:ブラピ)の役どころとしては、ちょっと不思議なおバカな役どころだったんで、軽いノリのタッチが僕にキャスティングされたのかなと思いました。それで今回、吹替王国のCMで、ちょこっとブラピの声をあてることができたので、楽しかったですね。

━━『M:i:Ⅲ』バージョンのCMでは、歌っていましたね。なかなか歌う機会はないのではないでしょうか?

森川:歌といっても、別に歌詞はついてないんですけど……。こういう機会はなかなかじゃなくて、初めてでしたね。このCMをトム・クルーズ(愛称:トム)が観て、怒らないことを願います(笑)。

━━森川さんはトム・クルーズやブラッド・ピットなど、様々な俳優の声を演じられていますよね。彼らを演じる際、声の出し方に違いというのはありますか?

森川:基本的には、僕の中に声色を作る作業というのはなくて、台本読んで、作品を観て、その俳優さんが0ベースから作った役作りを一緒にたどっていく中で、出た声がその役の声だと思っています。たぶん声色を使っていたら、(自分の声色の)引き出しが足りなくなって、パターンが決まっちゃうので、毎回そのようにしていけば、声の出し方がかぶることはないんです。

━━「ミッション:インポッシブル」シリーズのトム・クルーズが演じるイーサン・ハントというキャラクターの声は、どのようにできたのでしょうか?

森川:シリーズを重ねるごとに、イーサン・ハントは結婚もして、キャリアも積んで、成長していくじゃないですか。それでも、TV放送で吹き替えをやらせてもらったシリーズ1作目での、どちらかといえば、チームプレイを重視していなかった彼のワンマンな我の強さ、パワフルさといった彼が根本に持つ部分を意識しています。

『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』(シリーズ4作目)でも、共感という立ち位置だけど、それを飛び越えて、突っ走ってしまうイーサンがいるのは、シリーズ1作目があるからこそだと思うんです。

吹き替え作品を演じるにあたって大切なこと

━━声優は様々なお仕事があると思いますが、アニメーションと吹き替えの違いはありますか?

森川:極論をいえば、できあがったものと0から作っていくものの違いです。吹き替えは僕らの声を入れてから、トム・クルーズが芝居をすることはありえません。彼らが作ったできあがった作品を吹き替えていくので、完成された作品ですよね。それをどうすれば声で体現できるか、形にしていく。日本語に置き換えた時に、原語や字幕で作品を観て受けた感動と同じものが与えられるかという作業です。

アニメーションの場合は、何もないところから作っていくので、平面的な部分を想像力で補わなければなりません。実生活で話すようなリアルな言葉で話しても、ギャップが出てしまう。説得力を持たせるために少しデフォルメしたお芝居をすると、うまくのってきたりします。俳優さんは声を入れなくても眉間に皺を寄せただけで、この人は腹に一物持ったキャラクターだなってわかるじゃないですか。でも、アニメのキャラクターはそれができないですよね。ですから、ふくらませていく作業がとても大切なのかなと思います。

━━収録前に準備はされますか?

森川:家で練習している時にある程度、役を作ります。収録の時にそれを出し、演出家さんにジャッジと軌道修正をしてもらう。スタジオへ行く時は、ニュートラルな状態にしておきますね。

━━準備期間はどのくらいですか?

森川:企業秘密ですね(笑)。作品によって違います。心情心理が難しいものもあるし、フランクなラブストーリーだったら、気楽に観てリハーサル準備できます。例えば、鬼才といわれたスタンリー・キューブリック監督の作品は、やっぱり脚本を読み込んで、全体も見ながら役を作っていきましたね。作品によっては、家で10時間以上の時間をかけて、朝寝ないでそのまま収録現場へ行くということもあります。

「ミッション:インポッシブル」シリーズの場合は、映画公開時に日本語吹替版もありますので、映像自体がファイナルバージョンじゃなかったり、直しが公開直前まであったりします。だから、僕らが収録している映像の中には、観ちゃいけないものも映っていたりしますね。例えば、時代劇の話なのに車が映っていたりとか、CGがまだ完成していなくて、背景がブルーバックで役者さんしか映っていないとか、そういうのもあるんですよ。

吹き替えを行う声優さんならではの映画の楽しみ方! 森川流・映画鑑賞法

━━吹き替え作品の魅力について教えてください。

森川:吹き替えの場合は、受け取れる情報量がすごく多いですね。昔の映画を観ると、テンポがゆっくりだったり、セリフ量が少なかったりするので、奥で誰かがしゃべっているセリフを拾う必要がなかったんだけど、今はCG、3D、4Dといった情報量がとても多いし、五感を全て使って観るじゃないですか。だから、吹き替えることによって、より情報量がリアルタイムに入ってくる。そして、今の作品は映像もすごく凝っているので、映像も隅々まで観ることができる。そういうところが今の吹き替え作品の魅力ですかね。

━━映画とドラマで吹き替えの違いはありますか?

森川:基本的にはやることは変わらないです。ただ、ドラマは尺が長かったりするので、ゆったりとれますよね。本国からすれば、ストーリーをじっくりと観せられるということです。映画はどうしても尺が決まっているので、後はカットしたり、短くして、展開的に早くなったりするんだけど、ドラマだと、どっしりと役を捉えられ、演じきれるというところがありますね。

━━映画はよくご覧になりますか?

森川:仕事柄、映画館へ観にいくことがなかなかできないので、なるべく家で観ています。吹き替え版と字幕版を観るのは半々ぐらいですね。自分の吹き替え作品を観ていて、字幕の訳し方に興味がわいてくることもあります。意外と吹き替え版と違ったりするんですよ。

それに、自分が出ているシーンだけを考えているわけではなくて、ひとつの作品として、流れを考えて観ています。「この映画の監督は、この作品で何を言いたかったのかな?」と考えた時に、「自分の役がそれを表現するために、どういう歯車なのかな?」とか考えたりするので、そういう意味では監督さんの気持ちに近いですね。

後は新作を字幕版で観ると、「ロボットに乗って戦って、専門用語を使って、ずっと声を張り上げているこのキャラクターはいったい誰がやっているんだろう?」とか、「収録が大変だったろうなぁ……」とか思ったりね(笑)。

━━それは吹き替えする声優さんならではの映画の見方ですね。作品によっては吹き替え版の方が面白かったりするものもありますよね。

森川:吹き替えも2種類あるんですよ。リアルに作り込むものと、作品によっては日本語吹き替え版ならではのものと。今はTVシリーズにしても全国同時配信みたいなものもあったりするので、なかなか難しいんですけど、昔の吹き替え作品は演じる側にお任せしちゃうものが多かったんです。例えば、コロラド州の田舎のおじさんがいきなりズーズー弁でしゃべりだしたりとか、登場人物が関西弁や東北弁をしゃべっていたりとかあるじゃないですか。そういう日本語の吹き替えならではの面白さみたいなものがあるんですよね。

声優の本業を大切にしたい

━━森川さんが初めて吹き替えのお仕事をされたのはいつ頃ですか?

森川:僕は吹き替えの仕事をやりたくて声優学校へ通っていたんですけど、生徒のほとんどはアニメの声優になりたい人でした。養成所ではアニメの実習はあっても、吹き替えの実習がなくて、やらないまま吹き替えの仕事をやることになったんです。

僕が初めて吹き替えをやったのは映画『キャノンボール3 新しき挑戦者たち』。ランボルギーニに乗るイケメンの役にキャスティングされて、まだ僕は20歳ぐらいだったんですけど、「こんな年上の人の声をやるんだ」と思いましたね。当時は吹き替えの練習の仕方もわからなくて、野沢雅子さん(愛称:マコさん)と仲良くしてもらっていたんで、マコさん家に台本を持って行きました。そしたら、マコさんの旦那さんの塚田正昭さんもいらして、僕を真ん中にして塚田さんと野沢さんと3人で練習したことが記憶に残っています。

マコさんはずっと第一線で主役を張られていて、ギネス級ですよね。『ドラゴンボール』でも何役もやられていて(孫悟空親子3人を好演)、「主役でもあんなにいっぱい役をやるんだ」とか、「山寺(宏一)さんが何役やった」とか、先輩たちから刺激をもらっています。

━━森川さんはアニメや吹き替えなどのお仕事の他にも、歌を唄われたり、バラエティー番組をお持ちだったり、様々なことに挑戦されていますが、お仕事についてどのようにお考えなのでしょうか?

森川:僕がいろいろな仕事をやれているのは、声優の本業がやれているからこそなんです。声優さんって、今はタレント的に扱われたり、歌を唄ったり、スポットライトを浴びることが多いんですけど、それは諸先輩方が今まで築き上げてきた中で、今やっとできてきているものなので、一概に自分たちが頑張っているからとかではないんです。

吹き替え放送が始まって60年。自分たちの力だけではなくて、インターネットの普及やグローバル化、アニメの力やサブカルチャーの発達といった時代の流れや、先輩方の築き上げてきたものなど、その脈々と積み重なってきている部分があるからだと思っています。

ですから、そういったものを忘れてしまうと、たぶん一瞬でなくなっていってしまうんですね。声優という本業に対して、みんな誇りを持ってやっている。だからこそ、いろんなことができるのかなと思っているし、そういう気持ちを持ち続けて、本業を大切にしないといけないと思いますね。



━━森川さんが声優というお仕事をするにあたって、大切にしていることやルーティーンはありますか?

森川:毎朝カレーを食べるというイチローみたいなものですか? そうですね……毎朝、発声練習をしていますね。

━━以前、何かのインタビューの記事で読んだのですが、声が出るように早朝にお風呂に入られるとか……。

森川:(その記事は)ずいぶん昔ですね。夜帰ると眠くなっちゃうんで、お風呂は朝に入っています。そんな情報まで……(笑)。

━━最後に、ファンのみなさんへメッセージをお願いします。

森川:「吹替王国」はすごく素敵な企画ですよね。ひとりの声優さんにスポットを当てて、その作品を楽しむ。プラス独占インタビューもあったりとか、面白おかしいCMも収録したりするので、お楽しみな部分がすごく多いです。

「吹替王国」のような企画に呼ばれたことは光栄ですし、この企画が続くことによって、メインキャストだけじゃなく、吹き替えの中でも、脇を固める人たちのプロフェッショナルなところにもスポットライトが当たったりすると、また吹き替えがより楽しめるかなと思います。これからも、ぜひ「吹替王国」を盛り上げてもらって、ずっと続くように応援してもらえると嬉しいです。もしかしたら、あなたが気になっていた声優さんが実際に顔を出してくれる可能性があるかもしれませんしね。ぜひ、楽しんでご覧いただければと思います。

[取材・文]宋 莉淑(ソン・リスク)

アニメイトタイムズ
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