金属恵比須のプログレッシヴ・エッセイ「イエス様の降臨! 本邦初、大問題アルバム再演」の巻

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2016.11.2


「神の啓示」「儀式」を「イエス」が日本で! 10,000円。クリア・ファイルもプレゼント!

――まるで、電信柱に貼られた新興宗教の教祖様がUFOを呼ぶイベントの広告を見ているようだが、そうではない。

その中心人物(スティーヴ・ハウ)が即身仏か妖怪の様相だろうが、宗教とは全く関係ない。

その証拠に、「イエス」というバンド名のつづりは「Yes」と書き、「Jesus」ではない。

日本語に訳せば、「はい」。

まったく間の抜けたバンド名である。そんな、ジーザス、じゃなかった、イエスが2年ぶりに来日を果たす。

『海洋地形学の物語』『イエスソングス』からのベスト・セレクションのセット・リストだそうだ。『海洋地形学の物語』からは「神の啓示」「儀式」(両曲とも本邦初演奏!)、『イエスソングス』からは「パペチュアル・チェンジ」が演奏されるとのこと(スティーヴ・ハウのインタヴューによる)。そして、10月25日には『ドラマ』からも数曲演奏されることが発表された。これは楽しみで仕方がない。

さて申し遅れたが、筆者は「金属恵比須」というプログレッシヴ・ロック・バンドのリーダーであり、活動は今年で20年目を迎える。

NHK-FM人気ラジオ番組『今日は一日プログレ三昧』では金属恵比須を「キング・クリムゾン直系」として紹介していただいた。しかし実は筆者、クリムゾン・ファン歴よりもイエス・ファン歴のほうが長い。小学校のころに最初にハマったプログレがイエスなのである。

「金属恵比須」のバンド名ロゴには何かを感じさせられる

「金属恵比須」のバンド名ロゴには何かを感じさせられる

小学5年生のレクリエーションの時間で椅子取りゲームをやったときには、あまりにイエスが大好きで、「チャンスも経験もいらない」を流し非難囂々だった記憶がある。サビの部分でブレイクをするのだが、そこでクラスメイトほとんどが間違えて座ってしまい、やる気のない座り遅れた人たちだけが最後まで残ってしまった。「チャンスも経験もいらない」児童たちが残ってしまったのである。

話が逸れた。

そんな小学5年だった筆者、当然英語が読めるわけでもなく、青いCD帯の背表紙に「イエス」と書かれて興味を持ってしまった。当然スペルが「Yes」だとも露知らず、てっきり「Jesus」と思い込んでいた。

家の教育方針上クラシックの知識はあったゆえ、最初に購入した『イエス/危機』はてっきりバッハ『マタイ受難曲』と同じ類のCDだと本気で信じ込んでいた。パイプ・オルガンが鳴り響きひたすら荘厳な音楽には感じたが、バッハとはだいぶ趣が違うということだけはわかった。もちろん、ロックとも一線は画しているということも容易に判別がついた。

そして、その1か月後、さらに『イエス/海洋地形学の物語』を購入。さすがにバッハの印象は拭えたものの、1曲20分の4曲入り、いきなりお経で始まる(作曲者ジョン・アンダーソンいわく「ラップ・ソング」らしいが)というとにかく「?」なアルバムだった。それでも買ってしまったからには聞かないわけにいかない。理解力が足りないだけだろうと必死に聞いた。まるで修行をしているかのようだった。なんとか「神の啓示」「古代文明」「儀式」は好きになってみた。「好きになった」ではない、あくまで「好きになって“みた”」。

1995年、スティーヴ・ハウのソロ・ライヴでは運よく「古代文明」を聞くことができた。そのライヴ後に、パソコン通信関係であろうオフ会仲間が集うドリンクコーナーから漏れ聞こえてきた、オバサンの言葉が今も忘れられない。

「ワタシ、『海洋地形学』が一番好きなアルバムっていうドヘンタイなんです!」

私はその時から『海洋地形学の物語』から距離を置くことにした。

オバサンが「ドヘンタイ」と自称していたように、このアルバムの評価はファンの間で真っ二つに割れる。そして、バンド・メンバーもしかり。

『海洋地形学の物語』

『海洋地形学の物語』

メンバーのインタヴューを振り返ってみよう。

●クリス・スクワイア(ベース、2015年逝去)

「あれは僕にとっては理解しがたいアルバムだね」

●リック・ウェイクマン(キーボード、2008年ごろ脱退)

「『海洋地形学の物語』は女のパッド付きブラみたいなもんだ。(中略)パッドを取ってしまうとそこには何もないってことだよ」

ご覧のとおり、現在のメンバーではない方々にはすこぶる不評だ。パッド付きブラときたもんだ。だから2枚組なのか――ってんなわけない。

1974年のツアーでは、リックはライヴにてまったくやる気を失ってしまい、ステージ上でカレーを食べたのは有名な話。

これには裏話があるらしく、当初よりカレーをステージ上で食べたかったわけではないらしい。リックがライヴ中にローディに、「ライヴが終わったらカレーを食べに行こう」と誘っただけだったそうだ。しかしローディには「カレー」という言葉しか聞こえなかったらしく、リックがステージ上で今食べたいのかと勘違いし、仕方なくオルガンの上に置きながら食べたとのこと。なお、運ばれたのはチキン・ビリヤニ(チキンの炊き込みご飯)、オニオン・バジ(玉ねぎの天ぷら)、パパダムだそうで(金属恵比須キーボーディスト兼カレー研究家・宮嶋健一より)。勘違いする方も「?」だが、それを食べる方も「??」である。

ちなみに、私が以前在籍していた「内核の波」というバンドで、キーボードを弾いていた際、「弁当」を食べるというパフォーマンスをしていた。無論、リックの影響である。

食べていたのは松屋の豚めしがほとんどだった。

「内核の波」高木大地の豚めしパフォーマンス↓
 

◆「カレー」→ルーとご飯を混ぜる手間があり食べきれなかった。

◆「コンビニ焼きそば」→喉に詰まり、噎せた。匂いも強くオーディエンスに迷惑をかけた。

◆「ざるそば」→ローディがざるを持たなくてはならず2人体制で非効率的だった。そして麺がくっつき、つゆに入れにくかった。かつ、つゆをこぼした。

と様々な実験の結果、豚めしに落ち着いたのだった。なお、つゆは切った方がいい。買ってきてからしばらく置いておくと米がつゆを吸ってしまい、膨張し食べにくくなってしまうのだ。

以上、ウェイクマン・フォロワーの今後の参考になればと。

話が逸れた。

対して、現在在籍するメンバーはどうだろう。

●アラン・ホワイト(ドラム)

「(『海洋地形学~』をライヴでやるのは)『そんなのできっこない』とね(悪口を言われた)。でも僕たちはできないなんて言ったことはないんだ。それにね、出て行った観客はただの1人もいなかったんだよ。どのコンサートでも全員その場に釘付けになっていたんだ」

●スティーヴ・ハウ(ギター、作曲者)

「(「儀式」のイントロのギター・ソロ)をステージでやると背筋がぞくぞくするほどで……プレイしていてものすごく気分がいいんだ」

ということで、現存するメンバーには思い出深いアルバムのようだ。今回のツアーはこのメンバーだからこそ実現できたと言える。

ちなみに、もう1人の作曲者であり、現在脱退中のジョン・アンダーソンはこのアルバムに対しどう臨んでいたのだろうか。当時のプロデューサーであるエディ・オフォードの発言。

「ある日、ジョンがやって来て、こう言ったんだ。『家でお風呂に入って歌うとすごくうまく聞こえるんで、スタジオでもそういう風にできないかな。そうだ、スタジオに風呂場を作ればいいんだ!』。それでローディを呼んで、スタジオの真ん中にバスタブをこしらえたんだけど、そんなもの何の足しにもならなかったよ」

――昭和のお父さんの鼻歌か。

なお、ジョンは他に脱退したイエス・メンバーとともにユニットを結成し(アンダーソン・ラヴィン・ウェイクマン)、ライヴ全曲イエスというカラオケ大会に勤しんでいる(来日の噂あり)。流石に風呂場は置いていないようだが。

最後に、昨年逝去したベーシストで実質的リーダーであったクリス・スクワイアの後任ビリー・シャーウッドに関して書いておかねばなるまい。

クリスの突然の死。

ショックなファンも多いことだろう。かくいう私も2014年の来日で、おなじみの大袈裟なパフォーマンスとブリブリのベース、そして破壊力抜群のベース・ペダル音にいつものごとく圧倒され、訃報が未だに信じられていない。

クリス亡きイエスはイエスに非ず――そう思っている方も多いかもしれない。

しかし、1990年のアンダーソン・ブラッフォード・ウェイクマン・ハウ(通称「実質イエス」)来日の時はどうだったろう。みんなこぞって「危機」を聞きにいったではないか。

リック・ウェイクマンはかつてインタヴューでこう答えている。

「イエスは将来的に楽団員は替わってもお得意のレパートリーを同じように演奏し続ける○○交響楽団みたいになるんだ」

リックが現在脱退中であるのも、この言葉で妙に納得させられてしまう。

誤解を恐れず言うならば、クリスがいなくたってイエスはイエスだ。

クリス本人の指名で代打として加入したビリー・シャーウッド。クリス・スクワイアと25年にわたり付き合い続け、89年にはヴォーカルで、94年、97年はキーボードで、99年にはギターでイエスに参加していたという、イエス史上最も多くのパートを担う人物。そして今回はベースでの加入。

ひょっとすると歴代メンバーの中で最もイエスを理解しているかもしれない。

その証拠にクリス亡きあとのステージは、各曲テンポがアップしリズムがタイトになり往年の活気を取り戻した観がある。もしかしたら楽曲をまとめるリーダーまでもを任されているとも予想できる。

もちろんベース・プレイもクリスそのまま。目を閉じて聞けば、そこにクリスがいるかのようだ。

クリスがいないからといて食わず嫌いはもったいない。

生まれ変わった新生イエス。

大問題アルバム『海洋地形学の物語』を引っ提げ、とうとう日本にやってくる。

この機会に、しばらく離れていたこのアルバムとの距離を戻したいと思っている。あくまで「ドヘンタイ」にならない程度の距離を保ちたいが、物販のグッズは何だろうと今から心待ちにしている自分がいたりもする。

やはりイエスは、私にとっての「Jesus」であって、ライヴは「儀式」に他ならず、「神の啓示」を受ける場所なのである。

いくらでもお布施しますよ。松屋のカレーとか。はい。

【参考文献】
『イエス・ストーリー 形而上学の物語』ティム・モーズ著、川原真理子訳、赤岩和美監修(バーン・コーポレーション、1998年)
『ストレンジ・デイズ』2011年8月号
 
公演情報
YES/イエス

『海洋地形学の物語』より「神の啓示」「儀式」完全再現。『イエスソングス』からのベスト・セレクション!
来日予定メンバー:スティーヴ・ハウ(G) ・アラン・ホワイト(Dr) ・ジェフ・ダウンズ(Key)・ジョン・デイヴィソン(Vo) ・ビリー・シャーウッド(B)

<東京>
Bunkamura オーチャードホール (東京都)
2016年11月21日(月)~11月29日(火)

<大阪>
オリックス劇場 (大阪府)
2016年11月24日(木)

<名古屋>
Zepp Nagoya (愛知県)
2016年11月25日(金)

 

「居酒屋ROUNDABOUT 3周年記念LIVEイベント CANDYTREE GARDEN」
 
■会場:横浜ベイジャングル http://www.alpha-japan.com/bayjungle.htm
■日時:2017年1月28日(土)18:00開演(17:00開場)
■出演:
金属恵比須
難波弘之 & 荒牧隆
塚田円 & 石嶺麻紀
WARM SOUND PROJECT
■料金:前売 4,500円 当日5,000円
発売予定日:
11/25(居酒屋ROUNDABOUT)
11/26(e+)
■公式サイト:http://ameblo.jp/roundaboutkannai/
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