ベテランと新鋭が取り組む難曲モノ・オペラ『人間の声』がみなとみらいホールに

2016.11.2
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クラシック

アロー、アロー(もしもし、もしもし)……舞台には自室の電話に向かって何度も叫ぶ女が一人。受話器の向こうには、別れたばかりの男がいる。千々に乱れる思いそのままに電話は混線し、女の精神も混乱していく。

『人間の声』は19世紀の華やかなオペラとは対照的に、孤独な現代人の生きざまを、滑稽なまでに赤裸々に描き出す。コクトーのトリッキーな台本を、プーランクが軽妙洒脱なセンスで音楽化した名作だが、歌手にとっては過酷だ。何せ40分の上演の全てを一人で演じなければならない。歌うだけではダメだ。見栄、懇願、怒り、切なさ——女の性(さが)を掘り下げつつ、電話口の向こうの男の姿までをも観客にイメージさせなければ成功と言えない。あらゆる感覚・感性をフル稼働して臨まなければならないのである。

今回のみなとみらいの企画は、さらに歌手泣かせ。マチネ(14:00)とソワレ(19:00)の1日2公演だが、若手とベテラン、それぞれ歌手が異なり、両方の聴き比べも可能なのだ。

この恐ろしい企画に登場する“猛者”をご紹介しよう。マチネの盛田麻央はパリの音楽院を優秀な成績で修了した若手で、二期会会員としても今後が期待される新星。フランス語も現地仕込みだ。ソワレの佐藤美枝子は藤原歌劇団の公演などでも重要な役を務める、いわずと知れたベテランだ。アプローチも対照的なものになるのではないか。

中村敬一の音楽を踏まえた演出が二人の個性をどう引き出し、作品の精神をどう表現するか。ピアノは歌手の呼吸を熟知する服部容子。

文:江藤光紀
(ぶらあぼ 2016年11月号から)

11/16(水)14:00 19:00 横浜みなとみらいホール(小)
問:横浜みなとみらいホールセンター045-682-2000
http://www.yaf.or.jp/mmh